第8位 22.静かな海流をめぐって 金沢美術大学「スズプロ」
大学の先生と学生がチームを組んで作った作品です。
会場の古民家は,八木さんという方のお屋敷で,母屋も土蔵も大変大きな建物です。その建物と中庭を舞台に,いろいろな作品を見ることができました。
〈奥能登巨大曼荼羅〉…これはとっても可愛い絵で,ずっと見ていられます。イラストマップです。鵜島のまつりが描かれていなかったのがさびしい。
〈いえの木〉…古民家に残っていた膨大なモノを網でぶら下げた作品。
〈家に潜る〉…漁網を藍染めた暖簾。
〈こめのにわ〉…文字通り小さな中庭に稲作していました。日々変わる植物の姿。
追伸:なお,本会場は2023年5月5日の珠洲地震で大きな被害を受けました。今後どのように保全していくのかが課題です。「2022+」の際にも公開されました(作品はさらに追加されていました)。
奥能登巨大曼荼羅
なにせ,一つひとつの絵が鮮やかでユニークなので,何時間でも見ていられそうでした。一番,自分たちに近い(学校で習った図工に近い)作品ですね。
いえの木・家に潜る・こめのにわ
第9位 正院町 旧銭湯「恵比寿湯」が舞台
続いての作品は,正院町にあった旧銭湯「恵比寿湯」さんを舞台にしたものです。麻生さんは男湯を,井上さんは女湯を舞台に作品を制作していますが,その共通点と相違点がとても興味深かったです(写真は恵比寿湯)。
17.in to rain 井上唯
女湯に展開されたのが布の作品。この下を潜って湯船の所まで行くことができます。淡い色のピンと張った布は,柔らかい中にも緊張感も感じさせてくれました。
「観客は,水面のような波紋が広がる布の下に潜り込み,かつての銭湯で全身に水が染み込んでいく感覚を楽しんだ。」(051ぺ)
16.信心のかたち 麻生祥子
天井からつぎつぎと泡が落ちてきて,お風呂の中を満たしていきます。泡がまるで生きもののように,刻々とその姿を変えていく,迫力満点の動く作品でした。
「信心のかたちを,絶え間なく溢れ,消え,また溢れ出る泡によって表現した。」(050ぺ)
ぼあぼあ。上から出てくるあわ。たきのようなあわ。足のふみばもないほどの大量のあわ。作品のタイトルは「信心のかたち」。…(中略)…
D.H 「16.信心のかたち」
ここは銭湯。銭湯は,よごれを落としてきれいになる場所なので,不安などのものを洗い流すと考えられる。水洗いよりも,あわで洗ったあとに流すことでよりきれいになる。信心とは,信じる心があれば大丈夫ということだと思う。
作品を作った人は,最初は気持ちがバラバラでも,信じる心があれば,そのうち一つになっていくことや,銭湯で不安を洗い流すことを伝えたかったのだと思う。
ぽつぽつと降っている雨。まるで小さな木を育てているようだ。
O.Y「17.into the rain」
色はあわく水でとかしたよう。やさしくて自然と落ち着けそう。緑は里山,青は里海,黄色とピンクは植物を表しているのだろう。色で珠洲の里山里海を表現するとは,素晴らしい。円すいの形から色の輪がつながっているのもよく考えられている。…(中略)…
この作品では珠洲の里山里海や植物が,雨でつながっている。タイトルを日本語にすると「雨の中に入る」になる。タイトル通り,雨の中へ入って珠洲の里山里海がつながっているのを見てほしいと伝えているようだ。作者は,温かい自然愛にあふれているのだろう。
第10位 18.スズズカ ひびのこづえ
これを第1位にあげる人もたくさんいるのではないかと思います。
元飯塚保育所が舞台です。作品が飾りつけられている舞台で,定期的に催された一連のパフォーマンスは圧巻だったようです。あいにく,わたしは見ることはできませんでしたが,これを見た子どもたちの中には,「2020+」の際に,このパフォーマンスに参加した女の子もいたくらいです。
こういう発表の仕方があるというのは,素直な驚きでした。
イベントの度に転々と移動する「作品38 炙りBar」といい,動きのある展示には心が強く動かされます。いやー,芸術祭は面白いですねえ。
「作家は珠洲の海に潜った時の感動を,「重力と無重力の間」と題されたインスタレーションと一連のパフォーマンスで表現した。」(052ぺ)
水玉もようとしまもよう。部屋の中でたくさんの水玉もようやしまもようの衣装たちがおどっているようだ。くらげなどの海の生き物たちが衣しょうになっている。かべにかけているのに今にも動きだしそうだ。部屋の中に入ると,珠洲の静かで優しい海の世界に入ったような感じがする。…(中略)…
T.A
ひびのこづえさんの衣しょうを使ったパフォーマンスは見ただろうか。人が表現しているのに,海の中の生き物たちが生き生きと動いているようだ。…(中略)…
ひびのさんは,きっと「これからも優しい心や明るい心をもっていきたい」という思いと「珠洲の海のよさを伝えたい」という思いで「スズズカ」をつくったと思う。
これ以降は,今までに紹介していない作品を,地区別に紹介していきます。
大谷地区
02.サザエハウス 村尾かずこ
「ちょっと休憩①」で紹介したように,この作品は学校の子どもたちと一緒に見てきました。
海のすぐ近くにある小屋の周りが全てサザエの殻に覆われています。それだけではなく,小屋の中もサザエのようにぐるぐる・つるつるです。
子どもたちは,大きなサザエの穴から外を見たり,中でおしゃべりをしたりしていました。
芸術祭が終わった後,このサザエハウスの壁の一部が学校に来ました。一応,1F廊下にある生きものコーナーの端っこに飾っておきましたが(^^;)
「地元住民と共に2万個を超える殻を集め,海辺の小屋の外壁に貼り付けた。」(028ぺ)
(前略)…
S.M
サザエの数。私には,数えられないほどのサザエがあった。このサザエはすべて珠洲でとれたものなのだそうだ。…中略…
サザエハウスの中。よく見るとサザエの形になっていることに気がついた。一番奥には小さなハウスがある。サザエハウスの中にある小さなハウス・よく作られていると思った。
サザエハウスは,作品のどこを見てもサザエだけあり,これだけのサザエをだれが食べたのか気になった。3年後のサザエハウスは中身も入っていて,一人三個まで食べられるようにすると,もっと楽しい思い出になると思う。三年後が楽しみだ。
日置地区
04.海上のさいはて茶屋 よしだきょうこ+KIMOURA MEETING
場所は,木ノ浦海岸。この建物は,映画『さいはてにて』で珈琲の焙煎に使っていた建物です。芸術祭後,取り壊されてしまい,現在はありません。
窓の向こうには,すぐそばに海が見える小屋です。「すべての茶道具をオリジナル作品として制作し,茶会そのものを中心に置いた。」(030ぺ)とあるように,実際に茶会も催していました。
また,小屋の外には,何やら妖しいオブジェも並んでいて,おそらくこれも,この作品の一部なのだそうですが,それぞれが何を表しているのか,凡人のわたしには理解できませんでしたが(^^;)
「お茶をお持ちしました。」
O.K
「お菓子をお持ちしました。」
静かな茶室の中から聞こえてくる。ザブーン。ザブーン。外では,人の声だけでなく,波の音,風の音も聞こえる。
茶室の中に入ってみる。すごく静かだ。そして,落ちつく。こんなに落ちついて心がすっきりする場所は,他にない。目をつぶってごらん。波と風の音しか聞こえなくなるよ。目を開け窓を見てみて。山と海。山は緑で,海は青色,キラキラ光ってる。気がつくとお菓子がでてきた。お菓子の名前は波の花。四角い,青と白のお菓子。目の前の海を茶室の中でも感じられそうだ。おいしそう。一口,口に入れてみる。もちふわ。こんなお菓子ははじめてだ。…(中略)…
山と海と茶室。こんなにもそろって美しく魅力のある良い場所は,他にない。…(中略)…忘れられない珠洲市の茶室だ。
05.船首方位と航路 アローラ&カルサディージャ
本作品も作品04と同じ木ノ浦海岸に展示されていました。
この金色の船首像のある舟は,固定されているわけではなく,海や陸からの風によって,風見鶏のように方向を変えます。ゆったりと方向を変えるさまは,海上の船が「面舵いっぱい!」と進行方向を変えるような姿にも見えます。
「風や重力で上下,左右にバランスをとりながら,やじろべえのように動くボートは,植民地戦争の不合理を揶揄するようであり,政治的な緊張をはらんだ日本海の不安定な状態を表すかのようでもある。」(031ぺ)
06.陸にあがる 鴻池朋子
「能登半島最北端,私が選んだ設置場所は,こんなところまで人間なんか見にくるもんか,という最果ての最も美しいシャク崎断崖と,崖下の海の二箇所だ。」(鴻池朋子「不自由な徒歩と,生まれ消え去る『語り』」033ぺ)と制作者が書いているように,この二つの作品は,とんでもない不便な場所にありました。上下する道を数分歩いて初めて見えるのです。しかも,見えるだけで近寄ることもできません。なんと不便な…。
「私は観光バスで名所見物をする点と点の移動から,観客を不自由な徒歩にさせ,グラデーションで地球を踏みしめさせたいと思った。」(同上)
要するに,制作者はあえて,ここに設置したのでした。
このような作品展示の方法を巡っては「車椅子でも作品を見れるような配慮を…」なんて話題も聞こえてきたのですが…。それも作者にとっては織り込み済みのことだったんですね。
写真下の作品は,台風21号で持ち去られました。そのときのことを作者は,次のように語ります。
「現場に直行すると,すっきりと美しく何もなくなっている。腹の奥底から大笑いがこみ上げてくる。生きているのだからずっと途中,常に変容していく。その生々しい動的なものを捕まえることなど誰にもできない。」(同上)
やっぱり,芸術家と言われる人たちは凡人とはひと味もふた味も違いますね。だから,こんな作品に触れるのは面白いんですけど。
作品までの道のり①(最後の写真は望遠で撮っています)
作品までの道のり②(最後の写真は望遠で撮っています)
不気味。作品の下半身が人間の足,上半身は動物の角。どうして角なのだろう。…(中略)…
N.K
さらにもう一つ。海の中にも作品がある。王冠のような角。山にある角よりも短く,たくさんついている。この角の数のちがいはなんだろう。
夢中になってじっと見てると,気がついた。山の作品は人間と動物を合わせたものなのだ。人間と動物は別々なのではなくて,いっしょに陸に上がってきた。そしてどちらも陸に住み着いたのだ。…(中略)…
不気味だけど,海から陸へ,そして山の上まで上がってきたことを表す表現がおもしろい作品だ。
07.魚話 さわひらき
元公民館を舞台に繰り広げられる,光と映像と音,そして彫刻などで構成された作品。ここへも,学校の子どもたちと一緒に見学したのですが,彼らはこれまであまり経験したことない芸術に触れたことでしょう。というか,わたしも同じです。
08.海と山のスズびらき キジマ真紀
舞台となったのは,旧日置小中学校の中庭。飾られていたのは120枚の手作りフラッグ。キジマさんが,地元の人たちとワークショップで制作したものだそうです。
この小中学校に通っていた子どもたちは,統合されたあと,それぞれ市内の直小学校,緑丘中学校へスクールバスで通っています。フラッグには,その子どもたちの作品もありました。下左写真は,炭づくりをしている家庭の娘さんの作品です(当時小学6年)。
三崎地区
10.小海の半島の旧家の大海 岩崎貴宏
圧巻とはこういうことを言うのでしょうね。古民家に約2トンもの塩を運びこみ,塩を海に見立てて,その上に船などを浮かばせていました。右の写真の向こうにある屏風を見てもらうと,塩の厚みが創造できると思います。岩崎さんは「木,土,紙など構成されている奥能登の民家には,自然が内在している」と語っているそうです。現地で調達した刺身のトレーなどで作った船などはとても精巧にできていました。
きらきらと輝く塩。家の下半分は,全て塩でうまっている。この作品にはとてつもない量の塩と,たくさんの人の苦労がつまっている。…(中略)…
M.J
もう少しくわしく作品を見てみよう。塩になみなみの線があるだろう。これはたぶん海を表しているんだ。そしてペットボトルや何かの容器で町を表している。さらに塩が盛り上がっているところがあるだろう。たぶんこれは山を表しているんだ。この作品では,物や塩の積み方を工夫して,自分たちが住んでいるような街を表しているんだ。…(中略)…
ぼくはこの作品を細かくみて,「ふだん捨てるような物でも工夫すれば芸術作品になる」ということを作者は伝えたいんじゃないかなと思う。
11.奥能登口伝資料館 Ongoing Collective
元小泊保育所で展開された作品です。10名の作家が,地元の住民から聞き書きして材料を集め,それを映像や絵画,彫刻,写真などで表した作品群となっています。
面白かったのが30分ほどの映像作品「村にUFOを誘致する」。知っている顔が,つぎつぎ銀幕に現れて演技をするので笑ってしまいます。内容もUFOだしね。わたしは,この保育所を卒園した子どもたちが通学する小学校に5年間勤務していましたので,地区の人をけっこう知っているのです。
芸術祭開催期間中は,校内の1F廊下に特設掲示板を…勝手に…用意しました。
そこには,わたしが芸術祭を回って撮った写真だけではなく,Facebookの友達が撮った写真(もちろん許可をもらっています)を掲示しました。
また,写真好き+星空好きな人たちが撮影した「星空と芸術祭作品」とのコラボ写真を,理科室前の掲示板に飾ったりもしました(下の写真では,そのよさは充分には分からないと思いますが…)。
蛸島地区
12.みんなの遊び場 バスラマ・コレクティブ
娘たちが大好きだった遊び場,珠洲ビーチホテル前の「鉢ヶ崎わくわく夢らんど」を舞台に,さらに,遊びを付け加えたような作品。
「地元住民やサポーターの協力のもと,漁網,ブイ,縄といった古い道具や廃品等の材料が結ばれ,繋がれ,組み立てられ」(044ぺ)た遊び場となりました。
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