「引砂の三右衛門」の創作劇

さいはての街・珠洲

 珠洲市三崎町引砂(ひきすな)には,とんちで有名な「引砂の三右衛門(さんにょもん)」と呼ばれる人が住んでいました(ということになっています)。いくつかのとんち話も伝わってきていて,保存会により絵本も作られています。
 その三崎町にある小学校に勤めていた頃,学芸会(懐かしいな)で,三右衛門を主人公にした台本をつくって劇をしたことがあります(1995年頃,6年生10名)。その台本を紹介します。地元の方,よろしければ自由に変更して再演してみてください。台本には,時代を表す登場人物もいます。皮肉やメッセージも入れたつもりです(でも,今,改めて読み返すと、被害に遭われた方への配慮が足りませんね。笑いって難しいです)。
 話し言葉は,主に珠洲地方の方言を使っています。本サイトには「珠洲地方の方言」のページもありますので,翻訳してみてください(^^;)

創作劇:地獄の三右衛門                

作:尾形正宏 

ナレーター 
昔、三崎の引砂に、身の丈6尺、体重22貫の大男が住んでいました。
名前を三右衛門といいます。三右衛門は文武に優れた人で、日本中を旅していましたが、一度も刀を抜いたことはなく、当時の社会に笑いを与えてくれていたそうです。しかし、その一方で…
「地獄の三右衛門」の始まり、始まり~。

  第1幕    畑

おみつ よいしょ、こらしょ。
嘉 造 えんやこらっと。
おたえ あついねえ。
亀 央 ご苦労さんです。精が出ますね(と言って通り過ぎようとする)。
おみつ もしもし亀さん、そんなに急いでどこいくが?
亀 央 サンニョモンにかかって、おやっさまもかんかんにおこってしまってね。
嘉 造 なに? サンニョモンがどうしたって?
おたえ また、サンニョモンか。
亀 央 サンニョモンが、おやっさまの家へ仕事の手伝いに行っとって、「おれにばち笠ほどの広さの地面を売ってくだし」と、おやっさまに頼んだんだって。
おみつ うん、ほんで…。
亀 央 ほしたら、おやっさまは、「そんなもんやったら、屋敷の隅の方やるさかい、好きなようにしたらいい。銭はいらん」と言ったげと。
嘉 造 おやっさまの屋敷。広いさかいなあ。
亀 央 ほしたら、サンニョモンは、地面にばち笠ほどの輪を書いて、毎日毎日、そこにうんこをこいて帰ったもんやさかい、おやっさまは「なして、毎日、うんこしてかえるんや。くそうてくそうておれんがいや」と言っておこったわけや。
おたえ そりゃあ、もっともや。
嘉 造 あいつどこにでも糞(くそ)すっさかいなあ。
おみつ あのサンニョモンには、あたしもこの前だまされたわいね。
おしげ わたしも、うちのヨモギ猫に糞つけられたし…。
嘉 造 サンニョモンの悪知恵に、村の衆は、みんなやっつけられっぱなしやからなあ。
亀 央 おやっさまは、もうかんかんにおこって「何とかしてサンニョモンをやっつけたい。村の衆に、サンニョモンの一番の弱点が何か、聞いて来い」と、あっしに言われたので、こうして急いで村へ行くところやってん。
おみつ ほんとうにくやしいねえ。
おしげ ほんと、なにかいい手がないかなあ。
嘉 造 そういえば、この前、サンニョモンが「ぼたもち恐い」と言っとったわ。
亀 央 なに、ぼたもちだって? それなら。すぐにこしらえるわ。おみつさん、おたえさん、いっしょにぼたもちをこしらえよう。
おみつ・おたえ あいよ。

ナレーター
さて、さんざんやられっぱなしのおみつたちは、サンニョモンの大嫌いな「ぼたもち」をたくさんつくって、サンニョモンの家へと向かいました。

  第2幕    三右衛門の家

嘉 造  こんばんわ。サンニョモン、おるか?
おたえ  サンニョモンさん、寝たったけ?
三右衛門 だれやきゃ? あんたらそろって、何かあったが?
おみつ  あたいは、おみつや。この前、あんたの「イカの話」に一杯食わされて、お客にイカの刺し身だされんがになって、恥じかいたげぞ。
三右衛門 ほんなこと言うたてて…。

ナレーター
イカを数えるときは、一匹、二匹と言わずに、一杯、二杯と数えます。三右衛門は、おみつに「イカを一杯やる」といって「一匹」しかやらなかったというわけです。

おしげ  サンニョモンさん、おしげや。あんた、うちの大事なヨモギ猫のタマで尻をふくとはもってのほかや。何べんあろても、糞のにおい、なかなかとれんかってんぞ。
三右衛門 みんな、ヨモギでしりふくがいね。
おしげ  ヨモギとヨモギ猫と一緒にするもんなどこにおる!
亀 央  おやっさまも、お前が屋敷にうんここいたので、かんかんにおこっとるげぞ。
三右衛門 香ばし~い、田舎の香水をつけてやったがになあ。
亀 央  なに言うとる。これを食らえ~!
三右衛門 うわ~、何をする!(後ろへのけぞり、部屋の隅へ逃げ出す)
嘉 造  おまえの一番恐がる、ぼたもちだ~。(ぼたもちを投げる)
三右衛門 うわ~、助けて~~。
おみつ  もう、許せん! これでもくらえ!!(ぼたもちを投げる)
三右衛門 おお~こわ。こんなこわいもんはない。
村人たち ぼたもちだ~、ぼたもちくらへ!(次々とぼたもち投げる)
三右衛門 うわ~(と言って倒れ込む)

  村の衆が帰ったあと、三右衛門、拾い集めて食う。

三右衛門 ああ、うめえ。この娑婆に、ぼたもちほどうまいもんはない。うめえ。     うめえ。ただで、こんなうまいぼたもちが手に入った。

  三右衛門,ぼたもちを,5、6個食べる。
  そして、急に喉にぼたもちをのどに詰めて苦しがって倒れる。
  幕が閉まる。

  第3幕    あの世への道[幕前にて]

三右衛門 ここどこやろ。あ~、おれ死んでしもたんや。ぼたもち、喉につまったんやった。えらいことになってしもたわ。この道、どこへ行くのやろ。(遠くを見て)あ、ずっと先を行く人が見える。お~い。心ぼそうなって来たなあ。

  下手客席へ方へ降りて行く。
  客席の後部から、彰子と五右衛門と筋肉マンが来る。

三右衛門 ありゃ、あんたら、なにもんかいな? おれは、サンニョモンやが。
彰 子  私は、ウグイス教の教祖、彰子で~す。
五右衛門 わしは、侍の五右衛門と申す。よろしゅう。
筋肉マン おいらは、筋肉マンです。
三右衛門 お~、ありがたい。心細いところだった。旅は道連れと申す。一緒に参りましょう。

  4人は、客席下手側の通路を通り、三途の川岸にやって来る。

鬼 A  さあ、船に乗れ。さっさとせんかい。
鬼 B  お前ら、この三途の川を渡ったら、向こう岸はいよいよ地獄の入り口や。
鬼 A  そうや、閻魔様がかわいがってくれるで。
三右衛門 ごちゃごちゃうるさい鬼やのう。

  三途の川を船に乗って渡り、ステージ上手に上ると同時に幕が開く。

  第4幕    閻魔女王庁

三右衛門 おっ、あれがあこがれの地獄か。わくわくしてきたなあ。

  鬼たちを従え、亡者を前に並べて座っている閻魔女王が見えて来る。

五右衛門 あれが、閻魔大王かあ。
三右衛門 いや、最近は女が強くなって、地獄の支配者も閻魔大王ではなく、女     王らしいぞ。
彰 子  えらい、ぶさいくな顔しとるのう。化粧もあついし。
筋肉マン すげーなあ。
三右衛門 見ろ。閻魔さんの後ろに、大きな鏡がある。
五右衛門 あの鏡、「浄玻離の鏡」とゆうて、今までにやってきた悪いことが全部映ってしまうんや。
筋肉マン あんな鏡ぶっつぶしてやる。(といって筋肉ポーズをとる)
三右衛門 ウソ言うたら、舌抜かれるぞ。
彰 子  生きている間に、もうちょっといいことしときゃ良かったなあ。
五右衛門 やばいなあ。
閻魔女王 今日は、死んで来たもんの数が多いわね。わたしも少し疲れて来たわ。(気を取り直して。男らしく)え~と、これから呼ぶ者は、前に出い。まずは、五右衛門。
五右衛門 はは~(とひれ伏す)。
閻魔女王 きさまは、生前、大勢の人から金や財産を盗み、時には人殺しまでしよったによって、地獄ゆきは当然じゃ。
五右衛門 え~。でも、ゴキブリやナメクジは殺しませんでしたよ。
閻魔女王 黙れ黙れ! 悪あがきはやめろ。次、ウグイス教の教祖、彰子。お前は、あやしげなまじないで貧しい人から金を巻き上げ、私腹をこらしたばかりではなく、瓦版屋親子をポアし、江戸にサリンをまいて、罪もない人々をたくさん殺した。間違いなく、地獄行きじゃ。
彰 子  そんな殺生な。わたしは、死人には必ず焼香をたむけ、ホーホケキョと唱えて、お参りして来たのですぞ。
閻魔女王 ウソを言うな。浄玻離の鏡によると、お前が、焼香を上げた記録はない。次、筋肉マン。きさまはプロレスラーでありながらドーピングをして筋力を高めたことは、スポーツマンシップに反し、プロレスを愛する子どもたちの心を踏みにじった。また、相手選手の血を流し、死に追いやったことが度々であった。よって、地獄行きじゃ。
筋肉マン ドーピングなら、オリンピックの選手だってやってるじゃないですか。
閻魔女王 いや、やつらは、生きて入るうちにちゃんと反省をしている。お前とは違う。次、三右衛門。きさまは、生前、悪知恵を働かせて村の衆をだまし、いたずらを繰り返し、みんなを怒らせ、命を縮めた罪は重い。三崎村からは、「三右衛門が来たら地獄にやってくれ」というファックスが何通も届いておる。よって、地獄行きじゃ。
三右衛門 とんでもない。これでも結構みんなを笑わせ、楽しませたんですよ。おれは、三崎の名誉村民になっていい男なんです。
閻魔女王 うぬぼれるな。お前たち4人は、地獄へ落としてやる。あとの者は、極楽行きじゃ。
老人2人 ありがとうございますだ(と言って「地獄」の方向へ行こうとする)。
鬼 A  おい、そっちは、地獄だぞ。
老人1  おうおう、これはあぶないところじゃった。
老人2  はて、留吉さん、ここには去年も来たような気がするが…。気のせいかのう。
老人1  じいさんもだいぶボケがひどくなったようじゃのう。わしらは、今、死んだばかりじゃないか。ここへ来るのは初めてに決まっとるじゃろ。
鬼 A  さあ、極楽はこっちだぞ、いくぞ。
老人2人 (閻魔の前を通るとき)ありがとうございますだ。ありがとうございますだ。(といいながら、上手に消える前に、いきなり腰を伸ばして歩きだす)
鬼 B  ところで、閻魔様。この4人、地獄の何コースへほうり込みましょうか。
閻魔女王 そうじゃなあ。じわじわ苦しむやつがいいな。うん、熱湯地獄にたたきこめ。
鬼 C  へ~い。さあ、さっさと歩け。
彰 子  痛いなあ。ほんな大きなフォークで、おけつ,つかしなま。
三右衛門 やばくなってきたなあ。
筋肉マン かあちゃーん。
五右衛門 わしは、生前、釜ゆでの刑にあって殺されたから、熱湯は苦手なんだ。
彰 子  みんな、心配しないで、呪文を唱えれば大丈夫。熱くないぞ熱くないぞ熱くないぞ熱くないぞ。そうれ、いくよ~(4人が次々に熱湯に飛び込む)。
三右衛門 あれ~、いい湯だなあ。
筋肉マン ちょっと、そこの鬼さん。セッケンと手ぬぐいとってちょうだい。シャンプーも用意しておいてね。柔らかい髪用よ。
鬼 B  あちゃー。何ということじゃ。おい、もっとたきぎを燃やそう。
鬼 C  うん、たきぎだ。たきぎだ(鬼Aも戻って来て、たきぎを燃やす)。
彰 子  よーし、次の呪文だ! チチンプイプイテクマクマヤコン! 空中浮遊だ。
筋肉マン お~、浮いた浮いた!!
三右衛門 脱出成功だ!
筋肉マン あれ、五右衛門がいない。
彰 子  かわいそうに。よほど熱湯が苦手だったんだ。わたしの呪文もとどかなかった。
鬼 B  ようし、五右衛門は殺したぞ。
鬼 A  しかし、あとの3人は手ごわそうだなあ。どうします。閻魔女王。
閻魔女王 う~ん。熱湯地獄でもだめか。空中浮遊ができるとあっちゃ、「針ムシロの刑」も効き目がなかろう。畜生! まあ、サンニョモンはじっくりと地獄の刑に合わせてやるとしよう。ところで、サンニョモン。お前ほど娑婆で人をだましたもんもおらん。「浄玻離の鏡」にかけたら、悪いことだらけじゃ。どうじゃ、地獄への土産に、わしをだましてみる気はないか?
三右衛門 いやいや、とてもとても…。
閻魔女王 どうじゃ、わしをひとつだましてみい。
三右衛門 そうなやあ、とても閻魔様をだます自信はないけど、(鬼たちを見て)ちょっと2人だけにしてくれるかな。
閻魔女王 (鬼たちに向かって)しばらくあちらの部屋で待っておれ。さあ、2人になったぞ。この閻魔をだましてみい。
三右衛門 閻魔様をだますには、まず、その服をかしてもろて、閻魔の気分になってからじゃないとなあ。ちょっと、服を替えてもらいますか。
閻魔女王 おお~、そうか。それなら貸してやるから、だましてみい。(サンニョモンの服と交換する)えらい、よむない服やな。貫録つかんがや。
三右衛門 (閻魔女王のいすに腰掛けて,いきなり鬼を呼び出す)お前なんぞ、地獄へ行け。鬼ども、こういうやつはもう調べなんかいらねえ。引砂のサンニョモンをただちに地獄へ連れて行けえ!。どんな刑でも与えろ!!

  鬼どもが閻魔女王を引き立てる。

閻魔女王 な…、なにをするんだ。離せ、 離せ。鬼ども。わしは女王じゃ。閻魔女王じゃ。忘れたのか。
鬼 C  お前は「とんま」というんじゃ。閻魔様は、あちらだ。ずべこべぬかすな。

  鬼どもがうむを言わせず閻魔女王を地獄の方へ連れて行く

三右衛門 筋肉マンと彰子は、極楽へ通してやれ!
鬼AB  わかりました!!
三右衛門 (一段高いところに上がって、娑婆〈客席〉の方に向かい、叫ぶ)じいさま~、ばあさま~、若い衆~。引砂のサンニョモンが閻魔大王になったぞー。これで、お前さまらがいつ死んでも心配いらんぞ~。特に、三崎のもんは、死んだらみんな極楽行き、間違いないげぞ~。年寄りも若い衆も、みんな、娑婆でしっかり生きてから、ここに来いよ~。いじめられても簡単に死ぬなよ~。死に急ぐなよ~。

  幕閉まる

参考資料など

能登弁で聞く民話「さんにょもん」(YouTube:2分25秒)

珠洲のおはなし 引砂の三右衛門 稲荷聴一の耳(YouTube:約8分14秒)

「引砂のさんにょもん」というバス停

 珠洲市三崎町には,なんと「引砂のさんにょもん」というバス停があります。本ページのタイトルには珠洲市出身の「能登宇治」(Twitter名)さんが撮ったバス停の写真を頂きました。なお2023年現在,北鉄奥能登バスの本路線は廃止され「すずバス」のバス停となっています。看板の色も少し変わりましたが,バス停自体はしっかり存在しています。

2023.06.24撮影

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