はじめに
あなたは,体育の授業をどうしていますか。子どもたちはドッチボールなどが好きなのですが,そればかりしているわけにはいきません。「向山式」で跳び箱もとばさにゃならんし,「出来る出来ない」がはっきりしているモノもやらなくちゃあなりません。
大方の子は「体育が好き」と答えますが,そんな中で,勝ち負けがはっきりしていて,割といやがるモノに「短距離走」があります。すでに中学年くらいで,速い子は速い,遅い子は遅い,というのがほとんど定着しています。めったに順位は変化しません。ですから,遅い子は「短距離走は嫌い」ということになります。
それで,ともすると「短距離走」の授業なんて組めないようにも思いますが,結構,いい方法を考えてくれた人がいます(誰が考え出したかは手元に資料がないので分かりません)。
8秒間走との出会い
ここで紹介する「8秒間走」とは「どこから出発すれば8秒間でゴールできるか」という方法で短距離走をすることです。詳しいことは後に回しますが,ボクがこの方法を知ったのは教員1年目のK小学校時代(1983~84)でした。そのころのK小は,例年,体育の研究が熱心で,業間には「東京マラソン」というのもやっていました。この「8秒間走」もそのとき覚えたものです。
で,自分で授業に取り入れたのはK小時代に2度だったかな。となると今回が3度目ということになります。
今回,ボクが15年も前に習ったことを紹介しようと思ったのは,この8秒間走の準備をした運動場を見た何人もの先生から「あれは,どんな授業に使うのか」と聞かれたからです。説明したところ,「初めて聞いた」という人ばかりだったので,この珠洲では,まだそんなに知られていないのかも知れないと思い,レポートすることにしました。
8秒間走とは
8秒間走のやり方は,ちょっとだけ時間を割いて本屋へ行き,体育教育関係の本を覗けば出ています(たとえば,法則化体育授業研究会編『15.短距離走・リレー・障害走』明治図書)。
この方法が画期的なのは,通常の短距離走(50m走)が同じスタート位置から出発するのに対して,子どもの希望によってスタート位置をずらして走るという点です。つまり,こういう手立てを取ります。
① 50m走のタイムを計る。(これは,8秒間走だけではなく,自分の記録の進歩を見るためにも,リレーのチームを作るためにも,走り幅跳びの目標記録を作るためにも必要となる)。 ② 教員は,事前に1mおきにライン(これがスタートラインになる)を書いておく。大体20m分くらいあればいいだろう(子どもの50m走の記録を見て決めればよい。ゴール前30m~53mくらいに白線を引く)。 ③ 子どもたちは「自分が8秒間で走れると思う距離」を選びスタート位置を決める。ゴール位置は,全員50m走のゴールである。 ④ 合図で一斉にスタートする。8秒経ったら教員が合図をする。そのとき,ゴールに達していたかどうかの判定は,バディーの友だちがする。 ⑤ 目標を達成したら,スタートラインを少し下げる。8秒以内にゴールできなかったら,スタートラインを近づけるかもう一度挑戦するか決める。
以上のことをくり返しながら授業は進みます。
ただ,8秒間走ばかりをやるというよりも,途中に,いくつかの練習メニューを入れながら,やっていくことが大切です。短距離走の練習については,いろんな本が出ていますので,参考にしてください。(わたしが使った学習カードはページ下につけておきました。これも本を参考にしてパソコンで作ったものです)。
8秒間走の授業の結果
今回の授業の後で,子どもたちにアンケートと感想を書いてもらいました。その結果から,子どもたちの「短距離走」に関する意識がどの程度変化したのかを見ることにします。
●質問1 あなたは「短距離走」が好きでしたか?
ア.大好き 0人
イ.どちらかというと好き 3人
ウ.ふつう 14人
エ.どちらかというと嫌い 5人
オ.大嫌い 1人
この分布はどうなんでしょうか。うちのクラスは男6人,女17人の大変偏ったクラスです。
●質問2 「8秒間走」の授業はどうでしたか?
ア.大変楽しかった 2人
イ.楽しかった 13人
ウ.ふつう 7人
エ.あまり楽しくなかった 1人
オ.全くだめ 0人
エが1人いるのが気になりますが,感想に「たいいくはぜんぶきらい」とでっかく書いてあったので,まあ,仕方ないかなと思います。
短距離走について「どちらかというと好き」と答えた子が3人しかいない中にあって「大変楽しかった」と「楽しかった」と書いてくれた子が15人もいたのは,この授業がまずまずの成功だと判断してよいでしょう。
●質問3 今,「短距離走」について思っていることは?
ア.前よりだいぶん好きになった 3人
イ.前よりちょっと好きになった 12人
ウ.前と 変わらない 8人
エ.前より少し嫌いになった 0人
オ.前よりだいぶん嫌いになった 0人
「質問1」で「嫌い」「どちらかというと嫌い」と答えた6名が,「質問3」でどんな回答をしたか見てみると
・「前よりちょっと好きになった」…4人
・「前と 変わらない」………………2人
という結果でした。これもどう判断するか難しいところですが,授業の結果,「短距離走が以前より好きになった」という子が半数以上いるということは,まずまずというところでしょうか。
子どもたちの感想
子どもたちの感想を紹介します。最後の(,,)の中の数字は,「質問1」から「質問3」までの各自の回答です。
・短距離走はきらいだったけど,べんきょうをして,前よりすきになったし,こ れからもやりたいと思う。(エ,イ,イ)
・8秒間走は,1回落ちたけど,あとはあがったから,うれしかった。はしるのは, あんまりすきじゃなかったけど,少し,よかった。(ウ,イ,イ)
・ちょっとじしんがもてたか。すこしはやくなったように思える。(ウ,イ,ア)
・12級の時,1回目は×だったけど,2回目のときは○だった。うれしかった。(ウ,ウ,ウ)
・8秒間走で9級からできたからすごく楽しかった。前よりもたのしい。(ウ,ア,ア)
・8秒間走はたのしかった。自分の記録がわかったから。(ウ,イ,ア)
・まえよりはやくなりそう。楽しかった。おもったよりたいへんそうじゃない。(ウ,イ,イ)
・15級しかいかなかったけど,おもしろかったので,べつに…。よかったと思う。にゃははは。(エ,イ,イ)
記録が伸びた子は楽しく感じるとは思いますが,そうじゃない子も,このやり方を受け入れてくれています。この授業のポイントは,次の点にあると思います。
★その1 ゴールでみんなが競り合うことができる。
★その2 自分のレベルに合わせていけるし,少しずつ進歩が見える。
★その3 何人か一斉に走れるので,運動量が多くなる。
★その4 個人走である「短距離走」が,記録を取ったり判定したりする中でグループ活動にもなる。
あなたもいかがですか,この8秒間走。
ただ問題は,準備が面倒なのです。白線を1mおきに20本ほど引かなきゃなりませんので…。しかも,単元の途中に雨なんか降るとその白線が消えてしまって泣きたくなっちゃいます。
尾形正宏(1998年記)
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