都々逸を楽しむ

短詩型(笑)文学を楽しむ

好きな「どどいつ(7・7・7・5)」を集めてみました

はじめに

「都々逸」ってご存じですか? 川柳や狂歌に興味のあったボクは,ついに「都々逸」の楽しさにも気付くことになりました。
それは「ボクの尊敬する某研究家の封筒」からはじまりました。その先生は,いつも封筒に何かの詩歌を引用して書いてきます。それがまた味のある物ばかりです。それを読んでみると,その内容は川柳や狂歌のよう。でも,5/7/5/7/7のリズムではありません。
 「これはいったい何だろう?」
 「もしや<都々逸>というものではないだろうか?」
 その封筒には,こんな都々逸が書かれていたのです。

・可愛ゆけりゃこそ七里もかよへ 憎くて七里が通わりょか
・親の意見とナスビの花は 千に一つの無駄もない
・いやな座敷に居る夜の長さ なぜか今宵の短さは
・枕出せとはつれない言葉 そばにある膝知りながら
・顔見りゃ苦労を忘れるような 人がありゃこそ苦労する
・宵に時計を進めた罪に けさは別れが早くなる

 いかがです? 味わい深いでしょ。「都々逸」にとりつかれたボクは,ホームページから「都々逸」に関する情報を得ようと思いました(こんな時,インターネットは大変便利です)。

都々逸とは

 まずは,「都々逸とは何か」を調べてみました。
 平凡社の『CD-ROM世界大百科事典』によると以下のような説明がしてあります。

俗曲の一種。度々逸,都々一などとも書く。《名古屋節》の囃し詞〈ドドイツドイドイ〉から名付けられた名称という。
 1800年(寛政12)名古屋の熱田神宮の門前,神戸(ごうど)町の宿屋に私娼を置くことが許され,女たちを〈おかめ〉と呼んだ。遊客の間で歌われたのが〈おかめ買う奴あたまで知れる 油つけずの二つ折り〉〈そいつはどいつだ ドドイツドイドイ 浮世はサクサク〉と調子のよい囃し詞がつけられた歌で,《神戸節(ごうどぶし)》と呼ばれた。この歌は明和(1764‐72)ころから江戸で流行していた《潮来節(いたこぶし)》に似た曲調で,まもなく地元ではすたれたが,江戸や上方に流れて《名古屋節》と称された。
 1838年(天保9)江戸の寄席音曲師だった都々逸坊扇歌(?‐1852)が,同じ《潮来節》を母体とした《よしこの節》の曲調を変化させ,名古屋節の囃し詞を加えて〈どどいつ節〉を大成し,旗揚げしてから〈どどいつ〉の名称でもてはやされるようになった。
 七・七・七・五調4句26文字の詞型を基本とするが,〈どどいつ形式〉などと呼ばれて,歌詞を新作するなどのことが行われた。人情の機微にふれる庶民感情を表現する内容が多いことから,庶民に愛好され大きな支持を受けた。酒席での座興に歌われることが多い。本調子が正形で,二上りで歌うこともあり,〈字あまり〉〈文句入り〉などの種類がある。
舘野 善二(c) 1998 Hitachi Digital Heibonsha, All rights reserved.

ボクのお気に入り都々逸

以下の「都々逸」の殆どが,中村風迅洞著『どどいつ万葉集』(徳間書店)からの引用です。ほんの一部,ホームページなどで見つけたものもあります。

<あ行>

・赤い顔してお酒を飲んで 今朝の勘定で青くなる

・あきらめましたよどう諦めた あきらめられぬとあきらめた

・朝寝朝酒朝湯に入れて あとはタンスにある保険

・朝顔につるべとられずわしゃ密男(まおとこ)に かかをとられてもらい乳

・熱いしるこに口とがらせて 吹けばそこだけちと凹む

・あついあついと言われた仲も 三月せぬ間に秋が来る

・あの人のどこがいいかと尋ねる人に どこが悪いと問い返す

・雨の降るほど噂はあれど ただの一度も濡れはせぬ

・意見するのは親身の人と 思いながらも恨めしい

・異(意)見きく時ゃ頭(つむり)を下げな 下げりゃ異見が上を越す

・嫌なお方の親切よりも 好いたお方の無理が良い

・いやな座敷にいる夜の長さ なぜか今宵の短さは

・色はよけれど深山の紅葉 あきという字が気にかかる

・磯のあわびを九つ集め ほんに苦界(九貝)の片思い

・いやなお方の来るその朝は 三日前から熱が出る

・いやな座敷のつとめが更けりゃ 撥(バチ)であくびのふたをする

・井戸の蛙が空うち眺め 四角なものだと議論する

・今はサシスセ昔はいろは すたらぬはずだよ色の道

・今さら苦労で痩せたと言えぬ 命までもと言った口

・入れてもらえば気持ちはいいが ほんに気がねなもらい風呂

・入れておくれよかゆくてならぬ 私ひとりが蚊帳の外

・梅もきらいよ 桜もいやよ ももとももとの間(あい)が良い

・うちの亭主とこたつの柱 なくてならぬがあって邪魔

・浮気うぐいす梅をばじらし わざととなりの桃に鳴く

・うどんな私にお前の辛み ながくそばにはおかれまい

・上を思えば限りがないと 下を見て咲く百合の花

・嬉しい首尾したそのあくる日は 仕事出しても手につかぬ

・浮き名高砂むかしとなりて 今じゃ互いに共白髪

・お前死んでも寺へはやらぬ 焼いて粉にして酒で飲む

・帯も出来たし箪笥もできた そろそろ旦那と別れよか

・およそ世間にせつないものは 惚れた三字に 義理の二字

・お酒飲む人しんから可愛い 飲んでくだまきゃなお可愛い

・遅い帰りをかれこれ言わぬ 女房の笑顔の気味悪さ

・陸(おか)に蒸気の出来たるせいか 主(ぬし)は私をステーション

・おろすわさびと恋路の意見 きけばきくほど涙出る

・お前正宗わしゃ錆び刀 おまえ切れてもわしゃ切れぬ

・重い体を身にひきうけて 抜くに抜かれぬ腕枕

・逢うたその日の心になって 逢わぬその日も暮らしたい

・折々亭主がお世話になると 遠火で焦がさぬ焼き上手

・面白いときゃお前とふたり 苦労するときゃわしゃひとり

・おまはんの心ひとつでこの剃刀が 喉へ行くやら眉へやら

・岡惚れしたのは私が先よ 手出ししたのは主が先

・重くなるとも持つ手は二人 傘に降れ降れ夜の雪

・鬼が餅つきゃ閻魔がこねる そばで御地蔵がなめたがる

<か行>

・可哀そうだよズボンのおなら 右と左に泣きわかれ

・可愛いお方に謎かけられて 解かざなるまいしゅすの帯

・顔見りゃ苦労を忘れるような 人がありゃこそ苦労する

・帰しともないお方は帰り 散らしともない花は散る

・傘を忘れて戻った若さ 帰りにカバンを置いてくる(春木仙十)

・可愛ゆけりゃこそ七里もかよへ 憎くて七里が通わりょか

・君と寝やろか五千石とろか ままよ五千石君と寝よ

・君は吉野の千本桜 色香よけれどきが多い

・君は野に咲くあざみの花よ 見ればやさしや寄れば刺す

・切れてくれなら切れてもやろう 逢わぬ昔にして返せ

・気障(きざ)なお客と井に沸く水は 金気(かねけ)なくなりゃ茶にされる

・金の屏風に墨絵の牡丹 中に二人の狂い獅子

・義理も人情ももうこの頃は 捨てて逢いたい欲ばかり

・義理や人情が守れるならば 恋は思案の外じゃない

・口でけなして心で褒めて 人目しのんで見る写真

・くじも当たらす出世もなくて 今日を生きてる運のよさ(春木仙十)

・苦労する身は何いとわねど 苦労し甲斐のあるように

・愚痴もいうまいりん気もせまい 人の好く人持つ苦労

・けんかしたときこの子をごらん 仲のよいとき出来た子だ

・恋に焦がれて鳴く蝉よりも 鳴かぬ蛍が身を焦がす

・戀(こい)という字を分析すれば 糸し糸しと言う心

・こうしてこうすりゃこうなるものと 知りつつこうしてこうなった

・これほど惚れたる素振りをするに あんな悟りの悪い人

・小唄どどいつなんでもできて お約束だけ出来ぬ人

・小指切らせてまだ間もないに 手まで切れとは情けない

・米の高い時双子を生んで お米(よね)お高と名をつけた

・この雪によく来たものと互いに積もる 思いの深さを差してみる

・拒む気はない一言馬鹿と 肩へ廻した手を叱る

<さ行>

・酒の肴に新聞出され 見れば世間のアラばかり

・三千世界のカラスを殺し 主と朝寝がしてみたい

・廓(さと)で苦労を積んだる夜具に まさる世帯の薄布団

・察しておくれよ花ならつぼみ 咲かぬところに味がある

・咲いた花なら散らねばならぬ 恨むまいぞえ小夜嵐

・寒さしのげぬあばら屋なれど 酔うて眠れば玉の床

・ざんぎり頭を叩いてみれば 文明開花の音がする

・信州信濃の新ソバよりも わたしゃお前のそばが良い

・白だ黒だとけんかはおよし 白という字も墨で書く

・末はたもとを絞ると知らで 濡れてみたさの 春の雨

・すねてかたよる布団のはずれ 惚れた方から機嫌とる

・好きと嫌いが一度に来れば ほうき立てたり倒したり

・船頭殺すに刃物はいらぬ 雨の十日も降ればよい

・添うて苦労は覚悟だけれど 添わぬ先からこの苦労

<た行>

・高砂祝って誓った初夜が 婆と爺とになる門出

・たった一度の注射が効いて こうも逢いたくなるものか

・立てば芍薬座れば牡丹 歩く姿は百合の花 

・たとえ姑が鬼でも蛇でも ぬしを育てた親じゃもの

・たったふたつのえくぼにはまり いまじゃ諸方に穴だらけ

・たとえ泥田の芹にもさんせ こころ洗えば根は白い

・たんと売れても売れない日でも 同じ機嫌の風車

・玉子酒した報いか今朝は はやく別れの鶏が鳴く

・便りあるかと聞かれる度に 別れましたと言うつらさ

・玉の輿より味噌漉し持って つとめ嬉しい共稼ぎ

・旦那の忘れた煙管で下女の 部屋から火の手が燃え上がる

・大小差したる旦那さんよりも 似合うた百姓の殿が良い

・猪口々々(チョクチョク)逢う夜をひとつにまとめ 徳利(トックリ)話がしてみたい

・丁と張らんせもし半 出たら わしを売らんせ吉原へ

・ちらりちらりと降る雪さえも 積もり積もりて深くなる

・積もる話が仰山おすえ  それに今夜は雪どすえ

・つとめする身とお庭の灯篭 晩にゃ誰(た)が来てとぼすやら

・積もる思いにいつしか門の 雪が隠した下駄の跡

・つねりゃ紫喰いつきゃ紅よ 色で固めたこの体

・面の憎さよあのきりぎりす 思い切れ切れ切れと鳴く

・欄干(てすり)にもたれて化粧の水を どこに捨てよか虫の声

・出来たようだと心で察し 尻に手をやる燗徳利

・どこで借りたと心も蛇の目 傘の出どこをきいてみる

・どうせ互いの身は錆び刀 切るに切られぬくされ縁

<な行>

・泣かざなるまい野に住む蛙 みずにあわずにいられよか

・泣いた拍子に覚めたが悔しい 夢と知ったら泣かぬのに

・ながい話をつづめていへば 光源氏が生きて死ぬ

・なんの因果で他人がいとし 育てられたる親よりも

・何度拭いてもおんなじガラス 曇りは自分の顔にある(田山アサ子)

・庭の松虫音(ね)をとめてさえ もしや来たかと胸さわぎ

・ぬしと私は玉子の仲よ わたしゃ白身できみを抱く

・主は二十一わしゃ十九 四十仲良く暮らしたい

・主がじゃけんに抜け出た朝は あとでふくれている布団

・猫にゃだまされ狐にゃふられ ニャンでコンなにへまだろう

・寝ればつんつん座れば無心 立てば後ろで舌を出す

・軒に吊られたわしゃ風鈴よ なるも鳴らぬも風次第

・野辺の若草 摘み捨てられて 土に思いの根を残す

<は行>

・花もどうやら紐とく頃は とかく人目につくわいな

・恥ずかしいぞえ牡丹の花を 見に行く私は鼻が獅子

・裸で寝たとて惚れたじゃないよ お前のしらみがうつるから

・春のひと日をつい飲みたおれ 花とふたり寝して戻る

・花は咲いても身は山吹よ ほんに実になる人がない

・撥(ばち)を持つ手に今日火吹き竹 なれぬ勝手の忙しさ

・腹の立つときゃこの子を見やれ 仲のよいとき出来た子じゃ

・一人笑うて暮らそうよりも 二人涙で暮らしたい

・火のし片手に羽織のしわを それといわずに当てこすり

・ひとりで差したるから傘なれば 片袖濡れよう筈がない

・久しぶりだよ一番やろう 早く出しなよ将棋板

・人の口には戸は立てながら 門を細めに開けて待つ

・不二の雪さえとけるというに 心ひとつがとけぬとは

・下手な易者とわたしの恋は あわでこの世を過ごしてる

・惚れた数からふられた数を 引けば女房が残るだけ

・ほれた証拠はお前の癖が いつか私のくせになる

・惚れて通えば千里も一里 逢わで帰ればまた千里

・惚れて悪けりゃ見せずにおくれ ぬしのやさしい心意気

・ほんにうれしい目の正月よ 年始の途中で主に遭う

・惚れさせ上手なあなたのくせに あきらめさせるの下手な方

<ま行>

・枕出せとはつれない言葉 そばにある膝知りながら

・まさかそれとも言いだしかねて 娘伏し目で赤い顔

・ままにならぬとおひつを投げた あたり近所がままだらけ

・ままよままよと半年暮らす あとの半年寝て暮らす

・丸い玉子も切りよで四角 ものも言いようで角がたつ

・昔馴染みとつまずく石は 憎いながらもあとを見る

・胸にあるだけ言わせておくれ 主の言いわけあとで聞く

・妾という字を分析すれば 家に波風立つ女

・もしもこのままこがれて死ねば こわくないよに化けて出る

<や行>

・山のあけびは何見てひらく 下の松茸見てひらく

・昨夜(ゆうべ)玉子をつぶした報い きみをかえせと鶏がなく

・ゆうべしたのが今朝まで痛い 二度とするまい箱枕

・雪がつもれば思ひもつもる きみの足跡待つほどに

・横に寝かせて枕をさせて 指で楽しむ琴の糸

・よその夢見る浮気な主に 貸してくやしい膝まくら

<ら行・わ行>

・雷(らい)の光で逃げ込む蚊帳の 中でとらるるへその下

・楽は苦の種苦は楽の種 二人してする人の種

・わけりゃ二つの朝顔なれど 一つにからんで花が咲く

・わしとおまえは羽織の紐よ 固く結んで胸に置く

・わたしゃお前に火事場のまとい 振られながらも熱くなる

・割れたとたんに愛着わいた 湯飲み手のひらしばし置く(春木仙十)


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