地方独自の言語=方言は,日本語の豊かさの一部です。
地元を離れて生活した学生時代には,ちょっと恥ずかしかった言葉が,今ではとてもとても大切なもののように思われます。
標準語に言い換えても何かしっくりこない微妙な言葉の雰囲気が好きです。
(みつみからお土産をもらい…)
母 ありゃあ いいがにゃ~ こんなにたくさん
…
祖母 あんた帰ってくっさけ食べさしょー思って 赤飯
みつみ わざわざいいがにゃー
祖母 まあ ほんとは 理由つけてオラが食べたいだけよ 好物やさけ
…
みつみ 私タイマーかけて見とるよ(とスマホを取り出す)
祖母 そんなんもできるがきゃ
みつみ 便利よー
祖母 トマト見てくるわ
みつみ うん
祖母 あんなその足 蚊にくわれるよ
祖母 神様と仏様に先にとって あっち持ってかし
みつみ ん
以上の会話文は高松美咲著『スキップとローファー・第3巻』(講談社,2020年)に出てくる場面です。東京の高校に通っている鈴市(すずし)凧島町(いかじまちょう)出身の主人公・みつみが,はじめての夏休みに帰省したときの家族との会話の一部です。
方言一覧
ここには,珠洲市で使われている方言を取り上げましたが,珠洲だけで使われているかどうかは分かりません。同じ言葉が,能登地方全体,あるいは石川県,北陸でも使われているかも知れません。
方言 | 珠洲の方言で会話すると | 標準語で言い換えると |
---|---|---|
ちきない | A「風邪ひいて,何やらちきないわ」 B「ほんねんったら,はよ寝さし。寝て治すが一番やわ」 | A「風邪をひいたので,何だか苦しいわ」 B「それなら,早く寝なさい。寝て治すのが一番よ」 |
かやる・ なっとない | A「どこ行くが? そんなに急いだらかやるがいね」 B「なっとないわいね。こんながくらいでかやらんわいね」 | A「どこへ行くの。そんなに急いだら転ぶでしょ」 B「大丈夫。これくらいで転ばないわよ」 |
はんでく | A「あんた,この苗木,はよはんでってくだし」 B「ちょっと待たし。今,はんでくし」 | A「あなた,この苗木をはやく持って行ってください」 B「ちょっと待ってね。今,持って行くから」 |
けなるい | A「おやけなるい。まあそなイチゴや」 B「ほんなけなるがらんと,一緒に食べさしんかいね」 | A「あら,うらやましい。おいしそうなイチゴだこと」 B「そんなにうらやましがらないで,一緒に食べましょうよ」 |
ちびたい | A「ちびたいビール1本くだし」 B「はい,おまちどう。ちびたいビールね」 | A「冷たいビールを一本ください」 B「はい,お待ちどうさま。冷たいビールね」 |
ほかす | A「このゴミ,ちょっとほかしてきて」 B「だめやぞ,これ。不燃物が混じっとって分けんと捨てられないよ」 | A「このゴミを捨ててきて下さい」 B「だめよ,これ。不燃物が混じっていて分けないと捨てられないよ」 |
ほぞこく | A「母ちゃんゴメン。障子破ってしもた」 B「何やて。ほんなほぞこいとるさかいやがいね。まったくしょうがない子ね」 | A「お母さんゴメンナサイ。障子を破ってしまったの」 B「何ですって。そんなにふざけているからよ。まったく仕方のない子ね」 |
ぎょうさん | A「おやあ,ぎょうさん柿なっとるがいね」 B「ええ,ぎょうさんなっとるし,どったけでも取ってかし」 | A「あら,たくさん柿が実っているのね」 B「ええ,たくさん実っているからどれだけでも取っていって下さい」 |
おとしべ | A「おや珍しい。なんや,おとしべに行かなんだがか」 B「おおそうや。もう年やし,おとしべ行くがやめたわ」 | A「おや珍しい。なんだ,出稼ぎに行かなかったのか」 B「そうだよ。もう年だから出稼ぎに行くのはやめたよ |
まい・ こっしゃえる | A「この煮しめ,まいがにこっしゃえてあるがいね」 B「おやそうけ。今朝,あわててこっしゃえたがやけど」 | A「この煮しめ,おいしいのに作ってあるのね」 B「あらそう。今朝あわてて作ったんだけど」 |
へしない | A「母ちゃん,ぜんざいまだけ」 B「もうちょっと待たし。モチやわらこうなったらね」 A「へしないなあ」 | A「お母さん,ぜんざいはまだなの」 B「もう少し待ってね。モチがやわらかくなったらね」 A「待ち遠しいなあ」 |
びっちゃ | A「オラ大阪の子ども,ことし中学卒業でないがか」 B「びっちゃぞきゃ。高校やがいね」 A「ほうやったか…」 | A「うちの大阪の子ども,ことし中学卒業じゃないのか」 B「違うわよ。高校卒業よ」 A「そうだったか」 |
こっすい | 弟「あ,兄ちゃんの持ってったケーキのほうがでかい。こっすいなあ」 兄「何言うとる。早いもん勝ちや」 | 弟「あ,兄ちゃんの持って行ったケーキのほうが大きい。ずるいよ」 兄「何を言うんだ。早い者勝ちさ」 |
きずい | A「肉もすかん,魚もすかんてて,きずいやなあ」 B「だって私,菜食主義者やし,野菜しか食べんげ」 | A「肉も嫌い,魚も嫌いだなんて,わがままだなあ」 B「だって私,菜食主義だから,野菜しか食べないのよ」 |
じらこねる | 子「ねえ,これこうてま。ねえ,こうて」 親「だめだめ,いつまでもじらこねとらんと,はよ行くぞ」 | 子「ねえ,これ買ってよ。ねえ,買って」 親「だめだめ,いつまでも駄々をこねていないで,早く行くわよ」 |
いじくらしい・ ちょっこし | A「この暑いがにギャーギャーとこの子どもらいじくらしい」 B「ほんとに。ちょっこし静かにしっとってくれりゃいいがに」 | A「こんなに暑いのにギャーギャーとこの子どもたちうるさいわね」 B「本当に。少し静かにしてくれればいいのに」 |
てんごする | A「テーブルの上に置いといた書類,知らんか?」 B「子ども,てんごするさかいによせといたわ」 | A「テーブルの上に置いてあった書類を知らないか?」 B「子どもがいたずらするから,しまっておいたわ」 |
がる | A「あんた,なんでほんなに息切らしとるが?」 B「あんたんとこ来るがに,犬にがられてしもて…」 | A「あなた,なぜそんなに息を切らしているの?」 B「あなたの所へ来るのに,犬に追われてしまったの」 |
しゃわしきない・ ちんと | A「ほんとうにうちの子どもはしゃわしきない。なんもちんとしとらんわ」 B「男の子やもんの。ほんなもんやわ」 | A「本当にうちの子ども落ち着きがないの。少しもじっとしていないわ」 B「男の子だもの。そんなものよ」 |
かやる・ ほこ | A「なしてん。かやったんか。血イでとるぞ」 B「おいや,さっきほこの坂でかやってん。何か薬ないか」 | A「どうした。転んだのか。血が出てるぞ」 B「おう,さっきそこの坂で転んだんだ。何か薬はないか」 |
かしま | A「ちょっとあんた,ほのセーター,かしまでないけ」 B「ほんとや。かしまてがに何も,気イつかなんだわ」 | A「ねえ,あなたのそのセーター,裏返しじゃないの」 B「本当だわ。裏返しということに全く気付かなかったわ」 |
かんでく | A「あんた,ほんなに荷物かんで,どこ行くが」 B「東京の息子んとこまで,もちでも持って行こうかと思うて」 | A「あなた,そんなに荷物をかついで,どこへ行くの」 B「東京の息子の所へ,もちでも持って行こうかと思って」 |
ねまる | A「あんた,ほんなとこに立っとらんと,ここにねまらしけ」 B「足痛とうて,ねまっとられんげんわ」 | A「あなた,そんな所に立っていないで,ここに座りなさいよ」 B「足が痛くて,座っていられないのよ」 |
こわい | A「今日の飯,なんやこわないか」 B「うん,いつもよりこわいわ」 C「水ちょっこし足りなんだがでないけ」 | A「今日のご飯,何だか固くないか」 B「うん,いつもより固いわ」 C「水が少し足りんかったんじゃない」 |
感謝:上記の方言および例文は,珠洲市が発行している『広報すず』(第440号~第463号)を元に作成しました。 |
上記以外の方言(随時追加)
方言 | 珠洲の言葉で会話すると | 標準語で言い換えると |
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おっさま わやくそ | A:おっさまの部屋,わやくそになっとるがいや。そうじへーていわにゃあ。 B:あんさまは,ちゃんとしとったんになあ。やっぱりどすおじやわい。 | A:弟の部屋,雑然としているよ。掃除しなさいって言わないと。 B:兄は,きれいにしていたのに。やっぱりダメな弟だな。 |
こけ 気の毒な このといに | A:これ,こけたくさん採れたし,食べてくだし~。 B:おや~,気の毒な~,このといにたくさん! | A:これ,キノコたくさん採れたので,食べてください。 B:おや~,申し訳ない。ありがとうございます。こんなにたくさん。 |
よんべ | A:よんべの地震,ビックリしたのきゃあ。 B:いつまで続くげろねえ。 | A:昨日の夜の地震,ビックリしたねえ。 B:いつまで続くんでしょうね。 |
ごっつお あんま | A:きょう,えらいごっつお作っとるがいや。 B:だって,おらあんまかえってくるもんの。 | A:今日は,たくさんのおいしそうな料理を作っているね。 B:だって,うちの長男が帰ってくるから。 |
しょむ | A:このシイタケ,えらい味しょんどるなあ。 B:ほりゃあ,ながいことたいたもんの。 | A:このシイタケ,たいへん味がしみているな。 B:それは,長い時間煮込んだからだよ。 |
つるつる | A:なんじゃきゃあ,コップにつるつるいっぱい酒入れて。こぼれるやろが。 B:こうやって酒飲むが,まいげんや。 | A:なんですか,コップにたっぷりと酒を入れて。こぼれますよ。 B:こうして酒を飲むのが,うまいんですよ。 |
けんけん | A:この鉛筆,けんけんに削ってくだし。 | A:この鉛筆を尖るように削ってください。 |
なっとない・ だいない | A:なしてん? 腹,痛いがか。なっとないか。 B:だいない,だいない。 | A:どうしたの? お腹痛いの? 大丈夫? B:大丈夫だよ。 |
まんこ | A:あんたらっちゃ,まんこやのきゃあ。 | A:あなたたち,かしこい(ちゃんとしている)ですねえ。 |
はがやしい・どんならん | A:なんべんいうたらわかるげや。はがやしいやっちゃな。どんならんな。 B:ほんなこといわれても,できんもんな,できんげわいや。 | A:何度言ったら分かるの? 腹立たしい人だね。どうにもならないな。 B:そんなこと言われても,できないものはできないんだよ。 |
ほしたら やーや | A:ほしたら,ほれ,われ,やっといてくれま。 B:やーやわよ。オレやて,時間ないもんの。 | A:それじゃあ,それ,あなたやっておいてくれない。 B:嫌や。オレだって,時間ないから。 |
かちゃかちゃ ほやさけ | A:ありゃ,こぼして,かちゃかちゃになった。 B:ほりゃみてみ,ほやさけ言うがやろがいや。 | A:ああ~,こぼしてちらかってしまった。 B:そらみてごらん。だから言っただろう。 |
たーする | A:えらい,ナス,なっとるがいや。 B:できてならんさかい,どんだけでもたーするぞ。 | A:たくさんのナスが,できているな。 B:たくさん実るので,どれだけでもあげるぞ。 |
べんこちびる | A:これって,○○じゃないが~。 B:べんこちびっとらんと,はよしごとせーま。 | A:これって,○○だと思うよ。 B:理屈ばかり言っていないで,やりなさい! |
管理人
ほかにも「こんながもあるがいや,ちゃんと調べて書いとけま~」という方言があったら,教えてくだしきゃ。たのんこっちゃわきゃ。
「スズ弁クッキー」
「道の駅すずなり」で販売しています。本物の「スズ弁」という弁当も,不定期で販売されることもありますので,併せてご利用ください。
「道の駅すずなり」公式サイトはこちら。
コメント
方言一覧ありがとうございます。方言は普段なかなか使いませんが,アニメに後押しされて意識的に使っていこうと思います。ほんでも,いざとなったら〜方言の言葉ぁ出てこんくて、いわったわいね。方言カルタ見て思い出すわきゃ。
方言は,言葉そのものよりも、イントネーションの違いが大切なんだと思います。方言はいいねえ。
穴水町ですが 珠洲が好きで良く通っています。銭湯での地元の方々の3人くらいのやり取りは半分くらいしか分からないのですが わざわざ語尾が長くてきゃーになるのが 温かくてにんまりしています。輪島だと ね!とか短く切る 強くあたりますが
珠洲は粘っこい印象 お寿司屋さんの丁寧な珠洲弁も したったてきゃーみたいなニュアンスも 良いですね
穴水町って,ほんのお隣なのに,やはり,ニュアンスが違うんですね。「珠洲地方の方言」なんて,特定して書いてみましたが,ほとんどの言葉は奥能登で同じだと思っていました。言葉そのものの違いよりも,語尾の「きゃ~」などに,独特の雰囲気があるようですね。「きゃ~」は丁寧語でもありますからね。
このページへのアクセスがとても多くなっているのは,4月から始まったアニメ『スキップとローファー』のお陰ではないか…と,数日前のFacebookでつぶやいたところ,ここ1週間でのアクセスがなんと180近くになりました。すげ~,ネットの力。
地震お見舞い申し上げます.大丈夫だったでしょうか?
アニメ「スキップとローファー」第7話に美津未が云ってた『のきゃ』に触発されてこのサイトに.そうそう珠洲の衆(し)は『のきゃ』って云うよな~.当方,穴水町出身ですが『のきゃ』は珠洲の漁師さんが使う (荒っぽい) 言葉だと認識してました.丁寧語のニュアンスがあったのですね~.まんで勉強になるげん!
珠洲はウルトラマラソンで毎年訪れていましたが大会がなくなって残念です.今クールでは他にも「君は放課後インソムニア」の舞台が七尾だったり能登推しなのがいいですね.地震に負けずに頑張ってください.
A.F.A.Pさん,コメントありがとうございます。
同じの奥能登でも,言葉が違うということが不思議で,素敵なことです。
ウルトラマラソン,また,参加してくださいね。
勤務していたころ,担当していた相撲部のコーチが出場すると言うことで,
ちびっ子相撲取りたちを連れて,鉢ヶ崎まで応援に行ったことを思い出します。
珠洲地震は収束が見通せないのですが,なんとか乗り切りたいと思います。
この方言のページが注目されていることに,みなさんの暖かさを感じています。
このサイトでは,注目度№1になってしまいましたからね。
みんなして「なっとなかったか?」っていいあっとるげ。なっとないはずないけど。
友達も親戚も,A.F.A.Pさんも,いろいろ心配してくれて「ひっどありがたないなあ」って思もっとるげわきゃ。
この方言のページには,この1週間で361件のアクセスがあったようです。『スキップとローファー』と珠洲地震の相乗効果ですね。
言葉にできない状況が続いています.
命だけは大丈夫であって欲しい.
私も実家の穴水町で帰省中に被災しました.
実家はなんとか倒壊を免れましたが穴水中心部は壊滅状態.
それでも珠洲や輪島に比べればまだいくぶんマシなのかも知れません.
どうか命を守ってください.