段駄羅…輪島に伝わる言葉遊び

短詩型(笑)文学を楽しむ

NHK「にほんごであそぼ」という番組を見ていたら,輪島に伝わる「段駄羅(だんだら)」と呼ばれる言葉遊びを紹介していました。俳句と同じ,5・7・5のリズムで作るのですが,真ん中の7文字は,上の句からの関連の意味と,下の句への関連の意味を持つように作るという縛りがあります。
たとえば…あるHPから引用してみます。

 段駄羅の作品の例を一つ上げて説明します。

   あぶり餅 こがしゃかとなる 摩耶夫人

というのがあります。この句の中の七文字(こがしゃかとなる)は、上の句としては、あぶり餅、焦がしゃ固となるとつながっていて、下の句では、子が釈迦となる摩耶夫人と全く意味の違った句として、意味の転換の妙のある句に仕上がっています。

 このように中の七文字を二つの意味にとれるように考え出して、それに上の五文字と下の五文字をつけてゆく遊びが、段駄羅というものです。

シニアの遊び図鑑(http://seniorage.web.fc2.com/index.html)

蛇足ですが「焦がしゃ固となる」というのは,「焦がせば固くなる」の能登弁的な表現です。また,「摩耶夫人」というのは「釈迦の母親の名前」です。
そういうわけで,上の引用句の場合は,
  あぶり餅 焦がしゃ固となる
       子が釈迦となる 摩耶夫人
という2重の意味を持つことになるわけです。
どうです,面白いでしょ。
Wikipediaには「石川県能登半島の輪島で、漆塗り職人の仕事場を中心に、かつて大流行した五七五の短詩型文芸で、言葉の二重構造を楽しむ言葉遊びのこと」という解説が載っていました。「にほんごであそぼ」でも,輪島塗の職人さんの中で流行っていた言葉遊びだという説明がありました。
段駄羅は,2009(平成21)年6月12日付で,輪島市の無形民俗文化財に指定されたそうです。お隣の輪島の文化なのに,知らなかったなんて,たいへん申し訳ありませんでしたm(_ _)m

段駄羅について

そんなわけで,好奇心の赴くまま,まずはネットサーフィンをして段駄羅作品を集めてみました。
わたしがいいなと思う段駄羅句は,どちらの七音を取っても「5・7・5」で俳句(あるいは川柳)として成り立っている段駄羅です。このパターンの段駄羅を作るのはなかなか大変です。だからこそ,できた作品に感心してしまうのです。
ところが…段駄羅の決まりごとを知れば知るほど,どうも段駄羅とはそういうものじゃないようです。たとえば,珠洲市民図書館からお借りした木村功著『不思議な日本語段駄羅ー言葉を変身させる楽しさ』(踏青社,2003)には次のようなことが書かれていました。

段駄羅の前半の五七と後半の七五とは,それぞれ独立しており前後の関連は求めません。一句の中に異なる二景を詠むという考え方を徹底する段駄羅では,むしろ相互の関連が無いことを佳句の条件とする考え方もあります。(「はしがき」p.3)

段駄羅の基本は,中七を異なる二景に読み分けることです。そして,これに伴う言葉の二重構造の面白さ,すなわち中七の転換の妙や日本語の不思議な魅力を再発見することが段駄羅の醍醐味であるといえます。(「第12章 段駄羅考」p.178)

『不思議な日本語 段駄羅』より

ですから,わたしが好きだなと思った段駄羅は,正統派段駄羅的には,ちょっと亜流や傍流と呼ぶべきなのかも知れません。わたしが好きな「どちらの七音を取っても5・7・5として意味が成り立っている句」については,別に段駄羅である必要はないようです。江戸狂歌でも次のようなものがありますしね。
  世の中にかほどうるさきものはなし ぶんぶといふて夜も眠られず(蜀山人)
かほどは「蚊ほど」と「これほど」,ぶんぶは「文武」と蚊の羽音の「ぶんぶん」の2つの意味を持たせています。これはこれで,面白い言葉遊びだと思いますし,好きですねえ。
しかし正統であろうがなかろうが,やっぱり好きなものは好きなので,まずはそういうタイプの段駄羅を集めたり,自分で作ったりしています。もちろん,正統派の段駄羅の面白みも段々分かってきましたが。 

段駄羅の決まりごと

段駄羅(先に述べた「上五+中七」「中七+下五」という意味のまとまり)を作る際には,いくつかの決めごとがあります。それを,上掲書より引用します。

《作句原則》

基本音数は俳句と同じだが,上句・下句は1音のみ増減可。

A(大原則)中七の平仮名字数に,過不足は絶対許されない。
B(1)使用文字を清音として用いるか濁音として用いるか,
 (2)使用清音を促音,拗音として用いるかは作者の自由。
 (3)「~を」と「お」,「~-」と「~あ,い,う,え,お」,「~は」と「わ」,「~へ」と「え」,「じ」と「ぢ」,「ず」と「づ」,「いう」と「ゆう」,又,新・旧仮名遣いの「ひ」と「い」,「む」と「ん」,「ふ」と「う」等々の両用も可。
C 上・下両句には意味のつながり無し。句中,方言・俗言の使用も可。

上掲書 P.33より

上記Cにあるように,基本的には,5・7・5(全体)の意味のつながりを求めてはいけないようです。でも,以下にわたしが紹介した句は,意味のつながりのあるのものも多いです。ご容赦を。

いろいろな段駄羅

能登っぽい段駄羅

  • 魚なら 儂,真鯛好き(輪島大好き) 日本一        高間絋治
  • 夕陽背に 窓岩を撮る(纏は躍る) 出初式         徳野喜一郎
  • また潜る 海女息吸って(甘いキスって)  恋の味
  • 能登地震 予期しなかった(良き品買った) 朝市で
  • 海の中 静寂世界(聖者癖かい) 首を振る
  • 子の笑顔 撮って憩える(突堤越える) 波頭
  • 段駄羅は 輪島で盛ん(わしまで左官) 壁を塗り
  • 実力は 前頭なみ(前が白波) 露天風呂
  • 鯔の稚魚 水面の黒さ(皆モノクロさ) 雪景色
  • 海鮮丼 イクラとウニも(「いくら?」問うにも) 答えなし 
  • 過疎の町 少子高齢(省施行令) 公布され 
  • メーカーの 耕運機買い(好運機会) 逃がさない 
  • 釣れました 以外、鯛です(胃が痛いです) 食べ過ぎて 
  • 花菖蒲 今が盛りで(今傘借りて) 出かけます
  • お祝いの 赤飯炊いて(席反対で) 向かい合い
  • 輪島塗 塗れば良くなる(濡場よくなる) この芝居     船本勝信
  • 輪島塗 商い,足だ(飽きない味だ) 玉ゆべし       谷内勝彦
  • 輪島塗 腕に蒔絵で(湾に撒き餌で) 魚釣る        沢田正秀
  • 輪島塗 堅牢,優美(険路を夕陽) 朱く染め        木村 功
  • よき友を 得る幸せに(漆合わせに) 档(あて)のヘラ   木村 功
  • 遭難者 海女救い出し(余す!食いたし) ダイエット    尾坂 茂
  • 親切な 田舎のバスよ(胃中延ばすよ) カメラ管      牧野武次
  • 奉納句 菅公慕い(観光したい) 能登輪島         足立公夫
  • 桜花 能登路満開(のど自慢会) 鐘鳴らす         沖崎幸三
  • 冴えてきた 喉はいよいよ(能登は居良いよ) 住み良いよ  中村 裕
  • 夏祭り キリコが音色(霧,黄金色) 豊作田        尾坂 茂

《本もじり・棒もじり》
個々の段駄羅作品を評価する基準の一つです。
 疑問点 この・際・に・問う(子・の・犀・二頭) 草を食む … 本もじりの句
 故郷で 鮭・も・産卵(酒・も・散乱) 宴会後       … 棒もじりの句
説明するまでもないでしょうが…。本もじりの方が中七の読点や息継ぎの位置が,前意と後意でまったく違います。本もじりの方が作りにくい分,転換の妙が鮮やかに現れることが多いので,佳句とされています。

社会風刺っぽい段駄羅

  • スキャンダル 響く落選(日々苦楽せん) 人の世は
  • 瓦屋根 葺くと腐らぬ(福徳去らぬ) 長者の家
  • お年寄り 超高齢化(兆候,冷夏) エルニーニョ
  • 瓦屋根 葺くと腐らぬ(福徳去らぬ) 長者の家
  • さあ戦 兜をかぶり(株十日ぶり) 高騰し
  • 預けても 最低の利子(咲いて祈りし) 彼岸花
  • 夜学生 両立苦労(料理作ろう) 君のため
  • 役人は 職権利用(食券利用) 昼の飯 
  • 永田町 官庁街の(干潮、貝の) 潮干狩り
  • 合格は 数パーセント(スーパー前途) 多難です 
  • リストラで 日陰の身です(日陰のみです) 安家賃 
  • 信号も 見ず無視の人(水虫の人) 嫌われる 
  • 互例会 名刺交換(名士、高官) 紳士録 
  • 党首選 菅さんとする(閑散とする) 商店街 
  • 勝ち組の You,成功者(郵政公社) 民営化 
  • 市長選 棒に振ったの(坊に仏陀の) 像かざる       中村 裕
  • 浜茶屋で 焼く貝つつき(薬害続き) 問う倫理       徳野喜一郎
  • 世事疎く 科学者ミスる(蚊がくしゃみする) 冷房機    坂本信夫
  • 日の本の 佐渡に朱鷺おり(里に時折り) 黄砂降る     田中善勝
  • 焼却炉 ダイオキシンだ(鯛を寄進だ) 恵比寿祭      中村 裕

《中七をひらがなのみで示すとなぞ解きとなる》
このサイトでは,中七が持つ「2種類の言葉」をしっかり示してありますが,これを隠して,言葉謎時あそびにする方法もあります。
 国会は かいさんとして 螺鈿棚
 人のこと もういわすなや 海の底
 天満宮 すがわらかみの 鼠穴
などとかいて,読者に中七を考えるさせるわけです。これはこれで面白い。 

やっぱり此の世は男と女(ジェンダーフリーからフリー)っぽい段駄羅

  • 荒波に 機雷流れし(嫌いな彼氏) ひじ鉄砲
  • 時は行く 隙間も無くに(好き,間もなくに) 惚れた仲
  • 市役所が 助成金出す(女性キン出す) 筈がない
  • 初デート 花咲く古都で(花咲く事で) 季節識る 
  • 結婚は よう考えて(羊羹が得手) 甘味党
  • 朝早く 父が出かけて(乳が出かけて) ミルクやめ 
  • 付き合えぬ 着飾る娘とは(聞かざる事は) 判らない 
  • 結婚の 固い約束(堅い役、即) リーチする 
  • チョコレート 義理にもやった(霧に靄った) 冬の朝
  • お品書き 鯵たたき,鯛(明日抱きたい) 両の手で     田中千秋
  • 完走し 息なお肩に(粋なお方に) 魅せられて       島谷吾六
  • ます思い 打ち明けようか(家あけ八日) 永出張      大場康一
  • 居酒屋に 演歌は似合い(縁側に愛) 妻と猫        梶美恵子
  • 落雷で 枯れし良い杉(彼氏酔い過ぎ) 役立たず      牧野武次
  • 腹立てて 小石蹴れども(恋しけれども) 片想い      山崎 豊
  • 爽やかに 抱いて,今すぐ(たいてい,マスク) 花粉症   北浜保良
  • 生い茂る 良い落葉松の(宵から待つの) 忍び会い     地崎 稔
  • 魚売り 雨囲して(尼が恋して) 還俗す          沖崎幸三
  • 好物は 栄螺つぼ焼き(ささえつ,ぼやき) 夫婦仲     徳野君子
  • 身代わりで 主犯を秘匿(襦袢・帯解く) 四畳半      地崎 稔
  • 不倫とは 大胆ですね(抱いたんですね) 他人の妻     坂本信夫
  • キスだけじゃ 中途半端で(チュウと飯場で) 鼠鳴く    織田道代
  • 冬景色 雪吊りの園(行きずりの縁) 恋ごころ       田中善勝

《段駄羅が輪島に根付いたわけ・1》
輪島塗の仕事は座職であり,手仕事であって,仕事中に頭を働かせる余裕が十分あり,むしろ沈思黙考して作句に耽った方が長時間の座職に耐え得るのである(中村裕)。

これはいい…段駄羅

  • 求職は リクルートです(陸ルートです) 絹の道
  • 強行軍 10日移動の(東海道の) 宿場町 
  • 鹿児島は 西郷どんで(最後うどんで) 締めくくる 
  • 社内での 上下関係(上下巻、計) 2冊有る 
  • 信号も 見ず無視の人(水虫の人) 嫌われる 
  • カラオケは 夕食の後(憂色の跡) 古戦場 
  • 注射針 但し、医師用(正しい使用) 心がけ 
  • 100メートル 走、新記録(送信記録) 残ってる 
  • このジュース みかん製です(未完成です) 第7番 
  • 下駄買わぬ 但し、靴買う(正しく使う) 使用法 
  • うちの子は よく役に立つ(よく焼く、煮立つ) 台所 
  • 認知する 前頭葉の(禅、東洋の) 文化です 
  • この果実 よく熟れてます(よく売れてます) 新製品 
  • 浅野家の 播州赤穂(晩秋赤う) 紅葉映え
  • 曽我入鹿 斑鳩の人(怒る、我の人) 自己中心 
  • 焼け出され 着のみ着のまま(木の幹のまま) 活用す 
  • 嵯峨野の地 京、大覚寺(兄弟各自) 出世する 
  • 荒廃地 悪しく咲く花(足臭く、鼻) 曲がりそう(なんとピッタリ)
  • 伝統を 絶えず継ぐ道(田へ続く道) 道祖神 
  • 鶯が 梅に来て鳴く(埋めに来て泣く) 仔猫の死      織田道代
  • 爽やかに 自転車走る(次点じゃ恥じる) 負け嫌い     谷内文佳
  • 小学校 児童賑やか(自動にギヤか) オートマは      加藤延郎
  • 馬に乗り 空の雲よし(曽良の句もよし) 文字見事     島谷吾六
  • 宮普請 氏子の力(宇治,この地から) 産む銘茶      牧野武次
  • 壬生寺に 沖田総司も(起きた掃除も) せにゃならん    島谷吾六
  • 見た目には オットセイだが(夫,背高) 妻,太め     徳野喜一郎
  • 倒幕は 西郷どんや(最後,うどん屋) 梯子酒       坂本信夫
  • 聖地にて 釈迦牟尼仏と(しゃがむにプッと) 恥ずかしく  尾坂 茂
  • 一の次 二,三,四で(兄さん呼んで!) 夕飯よ      尾形 彰
  • 現れる 刃物男よ(鱧の尾どこよ?) 難しい        風車眞市
  • 陳列に 和菓子夏菓子(我が師なつかし) 便り書く     島谷吾六

《段駄羅が輪島に根付いたわけ・2》
輪島塗は家内工業であって,一軒の親方家を中心にして,数人から数十人の職人・徒弟が一つ屋根の下で終日仕事に明け暮れる。それらの仕事場そのものが段駄羅の作句に最大の機能を発揮してきたものと考えたい(中村裕)。

段駄羅関連句

  • ジャム造り 無花果にする(一字苦にする) 段駄羅句    谷口昭守
  • 神の使者? 尾も白い象(面白いぞぉ) 段駄羅は      木村 功
  • 塗師の余技 上手い句作る(馬,幾つ来る) 競りの市    木村 功
  • 昼下がり 遠くで誰か(投句,手だれが) 入選し      織田道代
  • 面白い 輪島段駄羅(鷲また産だら) 子沢山        池上昌宏
  • 気配りが 行き届くなり(粋と解くなり) 段駄羅句     梶美恵子
  • 段駄羅や 思い惑いの(重い纏の) 勇み肌         池田実吉
  • もじり句や 厳寒能登に(玄関の戸に) 日の光       鈴木超世志
  • 愛弟子は 師匠が期待(詩情描きたい) ダンダラ句     地崎 稔
  • 段駄羅は 社会学にも(釈迦,医学にも) 精通し      船本勝信
  • 同じ句が 重なっている(傘鳴っている) 能登時雨     船本勝信

《段駄羅が輪島に根付いたわけ・3》
一時期には,傑作・秀作が出来ると回覧板で町内を回覧したり,他の職場と作品交換をしたりもしたようだ。各親方衆も挙って奨励し,時には懸賞付きで兼題を出してコンクールを催したりしたそうで,一大「段駄羅ブーム」が出現した時期もあった(中村裕)。

出典先

  • Wikipedia「段駄羅」
  • 言葉のもじり段駄羅…たくさんの新作段駄羅が載っています。必見ですぞ。ほとんどの段駄羅はここから拝借しました。また,段駄羅の作り方も書かれていて、大変参考になります。
  • 木村功著『不思議な日本語段駄羅ー言葉を変身させる楽しさ』(踏青社,2003)…段駄羅入門書としては,いい本だと思います。段駄羅を,他の日本の短詩文と比較しながら説明されているし,段駄羅の作品もたくさん載っています。歴史もよく分かるので,お薦めです。本サイトで作者名があるのは,本書からの引用句です。

恥ずかしながら…自作段駄羅

自分でも段駄羅づくりに挑戦してみました。これ,わりと面白いです。作っているときに,いろいろな言葉を組み合わせたり,違う助詞を使ってみたり…と,頭がすごく動きます。できたときは,ちょうちむどんどんします。

  • 芦ノ湖に 富士山映えて(無事,産婆得て) 初出産     … 伊豆箱根にて
  • 大室山 単成火山(男性加算) まいどあり         … 伊豆箱根にて
  • 子ら集い 祝う還暦(岩,右岸・礫) ジオパーク      … 伊豆箱根にて
  • 我が体 Black現場(フラつく肩は) もう限界        … 学校現場を憂う
  • 飛び込んだ あなたの胸へ(あ!灘,飲むねえ) 夢の中   … 灘の生一本
  • ゼロからの 大逆転へ(退却 天へ) のぼりゆく      … プロジェクトX
  • 宝物が シルクロードで(知る玄人で) 運ばれる      … 自宅のDVDで
  • 密猟で ゲンゴロウの世(源吾 牢の夜) あと幾日     … 自然保護

コメント

タイトルとURLをコピーしました