20代の頃から影響を受けて育った先生がいます。わたしの大好きな先生です。もうお亡くなりになりました。
その先生が毎月発行していた私家版の「月刊誌」がありました。その本の内容は,教育エッセイ,学習指導案,昔の教科書の復刻,いろいろな論文記事,新聞記事など,それこそ多岐にわたっていました。全てを読むことはありませんでしたが,拾い読みするだけでも,教育者の端くれとしての教養を深めてくれたように思います。
その先生から直接・間接にお習いしたことの一つが,「都々逸」でした。
今回紹介するのは,その先生が集めた都々逸集です。ご自分のことを,新居房信正(しんきょぼうしんしょう)と名づけて,お気に入りの都々逸を集め編集した小さな冊子を送って下さいました。
すでにこのサイトに上げてある「都々逸を楽しむ」「続・都々逸を楽しむ」に紹介した都々逸もあるかもしれませんが,「新居房信正」が推薦したものとして,重複をいとわず掲載しておきました。それでは,ごゆっくり都々逸の世界をご堪能ください。
表紙に書かれていた「参考・採集文献」を下に記載しておきます。
・中道風迅洞著『どどいつ入門』(徳間書店)
・中道風迅洞編著『風迅洞私選・どどいつ万葉集』(徳間書店)
・玉川スミ編著『おスミの艶歌記念日・The Dodoitsu』(博美館出版)
・柳生四郎編『都々一坊扇歌』(筑波書林)
・町田佳声監修『はうた俗曲集・第二集』(邦楽社)
自家製本(ガリ本)
「増補版:私好みの都々逸」

新居坊信正(しんきょぼうしんしょう)推薦の都々逸一覧
- 外に涙は見せないつもり きいたわさびのそれよりも
- 独り寝るのは寝るのじゃないよ 枕かかえて縦に寝る
- 逢いたかないかと聞かれるたびに 逢いたかないよというつらさ
- 今逢っちゃ 為にならぬと言うその人に 礼を言うたりうらんだり
- 思い疲れてついうとうとと 眠りゃまた見る主の夢
- 腹を立てさせ又笑わせて うれしがらせて泣かすのか
- 帰しともない苦労をやめて 遅い帰りを案じたい
- 咲いた桜になぜ駒つなぐ 駒が勇めば花が散る
- 朝顔が 頼りにし竹にも振り放されて うつむきゃ涙の露が散る
- 大海の 水はのんでもイワシはイワシ どろ水のんでもコイはコイ
- あの人の どこがいいかと尋ねる人に どこが悪いと問い返す
- あきらめましたよどう諦めた あきらめられぬとあきらめた
- 枕出せとはつれない言葉 そばにある膝知りながら
- いやなお客の親切よりも 好いたお方の無理がよい
- 愚痴も言うまいりん気もせまい 人の好く人もつ果報
- わたしゃとうから承知でいるに あなた勝手にまだ口説く
- 顔見りゃ苦労を忘れるような 人がありゃこそ苦労する
- 十日も逢わねば死ぬかもしれぬ こんなにやせてもまだ三日
- 今別れ ものの半町も行かないうちに 何にも言わずに目に涙
- ほれちゃいるけど言いだしにくい 先の手出しを待つばかり
- 色の恋のとさてやかましい 人のせぬことするじゃなし
- いやな座敷に居る夜の長さ なぜか今宵の短かさは
- 酒はもとより好きでは飲まぬ 逢えぬ辛らさにやけで飲む
- 止(と)めた想いが天まで届き 居つづけさすよに今朝の雨
- 丸い玉子も切りよで四角 ものも言いよで角がたつ
- 悪(わ)る止(ど)めせずともそこ放せ 明日の月日が無いじゃなし
- 止めるそなたの心より 帰るこの身はなおつらい
- 意見されればただうつむいて 聞いていながら思い出す
- 信州信濃の新そばよりも わたしゃお前のそばがよい
- 笑うて悲しい座敷をぬけて 泣いてうれしいぬしのそば
- 恋にこがれて鳴くせみよりも なかぬほたるが身をこがす
- まとまるものならまとめておくれ 誰も恋路は同じこと(西郷隆盛)
- 親の意見とナスビの花は 千に一つの無駄もない
- 親の意見と冷酒は あとからじ~んと効いてくる
- 土方殺すにゃ刃物はいらぬ 雨の三日も降ればよい
- 出世するには学問いらぬ 毎日ごまさえすればよい
- なん度逢うても嫌いは嫌い 一度逢うても好きは好き
- 一目惚れでも好きは好き 七年待っても好きは好き
- 二十三年そりゃ大馬鹿よ 善は急げと書いてある
- 夢に見るよじゃ惚れよがうすい 真に惚れたら眠られぬ
【教師のための実践的課題】
あなたの身近に居る「花街の母」や「色街の芸者衆」「置屋の女将」などから「都都逸(どどいつ)」を聞き出して下さい。つまり「都都逸を採集」してほしいわけです。ひょっとすると「ガリ刷りの都都逸集」が手に入るかもしれません。そうなったら,しめたものです。成功を祈ります。(本書より)
- 義理も人情も今日この頃は 捨てて逢いたいことばかり
- ちょこで受けてるお座敷よりも 二人で飲みたい茶わん酒
- 人もほめます私も惚れた 女房持ちだけ玉にきず
- 髪のもつれは枕のとがよ 今朝の疲れは主のとが
- すねて片寄るふとんのはずれ 惚れた方から機嫌とる
- 惚れさせ上手なあなたのくせに あきらめさせるの下手な方
- おまえ百までわしゃ九十九まで ともに白髪の生えるまで
- 逢うた初会に好いたが因果 みんなそなたがあるゆえに
- 帰しともないお方は帰り 散らしともない花は散る
- 誠さえ あればいつかは通じるなどと ことわざなんかはみんなうそ(須田栄)
- 惚れた証拠にゃお前のくせが みんなわたしのくせとなる
- あわぬ果報を寝て待つよりも 起きて働け我が手足〈引用者註:これは現代的,もしかしたら…〉
- 仁義道徳くそでもくらえ こじきしながら青表紙〈引用者註:青表紙とは戦前の算術の教科書であるのだが…〉
- 破れ障子とわたしの権利 張らざなるまい秋の風〈引用者註:これもやっぱり,新居坊作か〉
- 民の権利がたたかいならば 死んで自由の鬼となれ〈引用者註:現代風ですなあ〉
- 女房あるのも子のあることも 承知しながら腹がたつ
- 逢うた夢みて笑うてさめる あたり見まわし涙ぐむ
- 可愛ゆけりゃこそ七里もかよへ 憎くて七里が通わりょか
- 思い棄つるな叶わぬとても 縁と浮世は末を待て
- 名残り惜しさを口へは出せず じっとくわえた帯のはし
- 遠く離れて逢いたいときは 月が鏡になればよい
- 昔なじみとつまづく石は 憎いながらもあとを見る
- おろすわさびと恋路の意見 聞けば聞くほど涙出る
- お名は申さぬ一座の中に いのちあげたい方がある
- 女庭訓(ていきん)読んでもみたが 男もつなと書いちゃない
- 主はいまごろさめてか寝てか 思い出してか忘れてか
- 楽は苦のたね苦は楽のたね 二人してする人のたね
- 庭の松虫音(ね)をとめてさえ もしや来たかと胸さわぎ
- 花も紅葉ももうあきらめた 主のたよりを待つばかり
- わしが胸では火をたくけれど けむり出さねばむぬしゃ知らぬ
- からかさの 骨の数ほど男はあれど ひろげてさせるは主ひとり
- これでお主と添えないならば わたしゃ出雲へあばれこむ
- きっとだきしめ顔うちながめ かうもかわゆいものかいな
- ぬしとわたしは玉子の仲よ わたしや白味できみを抱く
- まさかそれとも言い出しかねて 娘伏し目で赤い顔
- およそ世間にせつないものよ 惚れた三文字に義理の二字
- このひざは あなたに貸すひざあなたのひざは わたしが泣くとき借りるひざ
- おまはんの 心ひとつでこのかみそりが のどへ行くやら眉へやら
- 松の並木がなにこわかろう 惚れりゃ三途の川も越す
- 妻と思うている身が主に 文を変え名で書くつらさ
どどーいつ【都々逸・都々一】流行俗謡の一。雅語を用いず,主に男女相愛の情を口語をもって作り,ふつう七・七・七・五の四句を重ねる。「潮来(いたこ)節」「よしこの節」より転化したという。天保(1830ー1844)年間,江戸の寄席でうたいはやらせた一人が都々逸坊扇歌。(『広辞苑・第5版』より)
- 目から火が出る世帯をしても 火事を出さなきゃ水入らず
- 逢えば笑うて別れにゃ泣いて うわさ聞いてははらが立つ
- 逢えばうらみの言葉もにぶる 惚れた因果かこの弱さ
- 客に嘘をばつくその罰か 誠あかせど疑ぐられ
- 別れ別れに歩いていれど いつか重なる影法師
- 異(意)見聞くときゃ頭(つむり)を下げな 下げりゃ異(意)見が上を越す
- 一寸も 離れまいぞと思うた仲は 主も五分ならわしも五分
- 及ばぬ恋よと捨ててはみたが 岩に立つ矢もあるならい
- さした柳がついたじゃないか 思うてとどかぬ事はない
- 川竹ながらも節あるわたし 金で操(みさお)を買えはせぬ
- 千両万両の金には惚れぬ お前一人にわしゃ惚れた
- 星の数ほど男はあれど 月と見るのはぬしばかり
- 大小差したる旦那さんよりも 似合うた百姓の殿が好い
- 富士の高嶺に降るのも雪よ 賎(しず)が軒端の雪も雪
- 楽をふり捨て苦労を求め 人に笑われぬしのそば
- 先は浮気であろうとままよ わたしゃ実意をどこまでも
- 白だ黒だとけんかはおよし 白という字も墨で書く
- 反古にゃせぬ気さ縁起をとって 主から来た文鶴に折る
- そんなおどしでアイ切れようと いうよな度胸で惚れはせぬ
- 切れてみやがれ女が違う 浮気するならいのちがけ
- 親も大切この身も大事 けれどたれかにゃかえられぬ
- 苦労する身は何いとわねど 苦労し甲斐のあるように
- 一人笑うて暮らそうよりも 二人涙で暮らしたい
- 切れてくれなら切れてもやろう 逢わぬむかしにして返せ
- 川という字はそりゃ後のこと せめてりの字に寝てみたい
- 泣いたひょうしに覚めたが惜しい 夢と知ったら泣かぬのに
- 惚れてこがれた甲斐ない今宵 逢えばくだらぬことばかり
- 惚れられようとは過ぎたる願い きらわれまいとのこの苦労
- 殿御(とのご)もつなら二十四か五六 十九(つづ)や二十(はたち)はうわの空
- 何の因果で他人がいとし 育てられたる親よりも
- 逢うて嬉しや別れの辛さ 逢うて別れがなけりゃよい
- 花は咲いてもわしゃ山吹よ ほんに実になる人がない
- 逢えばさほどの話もないが 逢わなきゃ言いたいことばかり
- 逢うたその日の心になって 逢わぬその日も暮らしたい
- たとえ姑が鬼でも蛇(じゃ)でも ぬしを育てた親じゃもの
- もてたその時ゃ嬉しいけれど もてりゃもてるで身がもてぬ
- 船底一枚こわくはないが 舌の二枚がこわくなる
- 主の口先ゃ八重山吹の 花にまされど実にならぬ
- 酒の毒だと言わんすけれど 酒が主をばのみやせぬ
- 色じゃないぞえただ何となく 逢ってみたいは惚れたのか
どどいつぼうーせんか【都々逸坊扇歌】(初代)江戸後期の芸人。常陸の人。江戸へ出て船遊亭扇橋に入門。「どどいつ」などの音曲や謎ときで一世を風靡した。(1804?-1852) (『広辞苑・第5版』より)
- 情ごころの種さえ蒔けば いつかまことの花が咲く
- 舌を切れられた昔にこりず 夢の邪魔する朝雀
- 惚れて悪けりゃ見せずにおくれ ぬしのやさしい心意気
- 惚れたわいなの少しのことが なぜにこのよに言いにくい
- 意見するのは親身の人と 思いながらもうらめしい
- 二世も三世も添おうと言わぬ この世で添えさえすればいい
- 逢うた初手から身にしみじみと こらえ性なくなつかしい
- 今日はとりわけ逢いとうてならぬ 日々におろかはなけれども
- 恋し恋しと書いては丸め ほかに書く字のないなやみ
- 論はないぞえ惚れたが負けよ どんな無理でも言わしゃんせ
- 思い疲れてついうとうとと 眠れゃまた見るぬしの夢
- 思いつめてはただぼんやりと 夢の浮世に夢を見る
- 末に逢うのはそりゃ縁づくよ 当座逢わずにいられよか
- 惚れて惚れられなお惚れ増して これより惚れよがあるものか
- 去年の今夜は知らない同士 今年の今宵はこちらの人
- 嬉しい首尾したそのあくる日は 仕事出しても手につかぬ
- ふてて背中をあわしてみたが 主にゃかなわぬ根くらべ
- 澄んで聞こえる待つ夜の鐘は こんと鳴るのが憎らしい
- つなを離れてただよう舟も こがれがお方に逢えばよい
- 恋の衣(ころも)のほころび口を 母の異見のしつけぶり
- 降るかふるかと気にした空も 主が来たので晴れた胸
- ひとりで差したるから傘ならば 片袖ぬれよう筈がない
- 人の口には戸をたてながら 門を細めにあけて待つ
- 一度笑顔で送ってみたい いつも涙のわかれぎわ
- もしやこのままこがれて死ねば こわくないよに化けて出る
- 苦労しながら待つ夜の長さ あくびしてさえ出る涙
- わしが思いと空とぶ鳥は どこのいずくに止まるやら
- 炭をつぎつぎ火ばしを筆に 熱い男のかしら文字
- 逢わぬうらみを責めない先に 待つ夜寒さが身をせめる
- 墨も硯も減るほど書いて 送るなさけのこもる文(ふみ)
- 舟じゃ寒かろこれ来てござれ わしが部屋着のこの小袖
- 切れはせぬかと鼻緒をしらべ そっと揃えるぬしの下駄
- はじめなければ終わりもないが 終始かわらず二世までも
- 思いおもわれ積もりし果ては もとめた苦労とあきらめる
- おまえの心と氷室(ひむろ)の雪は いつか世に出てとけるだろ
- 切れた切れたは世間の手前 水に浮き草根はたえぬ
- 嬉しく別れりゃ未練がのこる おこりゃ逢うまで気にかかる
- 星も星だがお前もお前 今朝まで未練に残るとは
- 義理にせかれて今宵の月を 別れ別れに見るつらさ
- 宵の口説きに無理言いすぎて 今朝の別れが気にかかる
中にはこんな都々逸もあった。教員のことを言っているのであろう。おそらく新居坊信正さんの作だと思われる。
・作問上手なあなたのくせに 授業はとくと下手な方
・授業は上手なあなたのくせに 問題づくりの下手な方
- 捨てる神ありゃ助ける神が なまじあるゆえ気がもめる
- 親はこの手で切れ文(ふみ)書けと いうて手習いさせはせぬ
- 客は世辞もの女郎は手どり 嘘と手管の鉢合わせ
- 知らぬそぶりも一座の手前 思い差しとは受けにくい
- 右の人目や左の義理で 猪口を思案の外へ差す
- ためになる客また惚れた客 二人来た夜のそのつらさ
- 団扇づかいもお客によりて あおり出すのと招くのと
- 二世と交わせし妻さえかわる ましてつとめの身じゃものを
- 誠あかせば主ゃ疑ぐるし 勤めは苦界(くがい)じゃ許さんせ
- 胸のおもいを三筋にこめて 主の心をひいてみる
- 知らぬふりして一座を兼ねて 歌でさとらす仇文句
- 別れが辛いと小声でいえば しめる博多の帯がなく
- あけて言われぬとなりの座敷 歌でたがいの心意気
- 小指切らせてまだ間もないに 手まで切れとは情ない
- 小指切るとは当座のことよ 金がなくなりゃ手まで切る
- 主の浮気をうらんじゃみたが わたしも浮気で出来た仲
- 主がじゃけんに抜け出た朝は あとでふくれている布団
- 重いからだを身にひきうけて 抜くにぬかれぬ腕まくら
- 逢うはたまたま通うは夜毎 逢わで帰るはいくたびか
- 今日は顔をば見に来たばかり 愚痴や口説(くぜつ)は明日の晩
- 雨もいとわず来て見る花は 初手から覚悟のぬれ仕度(じたく)
- 岡惚れしたのはわたしが先よ 手出ししたのはぬしが先
- 寝ればつんつん座れば無心 立てば後ろで舌を出す
- 添うて苦労は覚悟だけれど 添わぬ先からこの苦労
- 末の別れを思えばほんに 深くなるのもよしわるし
- 逢うたその夜は誓いもかたく 立てし屏風に鶴と亀
- 花もよく聞け性(しょう)あるならば わしがふさぐになぜひらく
- わけをきくのも聞かぬも男 散るが花なら咲くも花
- 遠くに海山へだてていても かわらぬ心に春が来る
- 君は野に咲くあざみの花よ 見ればやさしや寄れば刺す
- 招く蛍は手元に寄らず 払う蚊が来て身を責める
- 嘘は言わさぬ今宵は月が 蚊帳をのぞいて聞いている
- 首尾も宵からこもしり蚊帳は 月よりほかには知らぬ仲
- 闇をぬい行く蛍も昼は 草にかくれてただの虫
- 軒端つとうて来る蛍さえ 月のかくれたすきに来る
- あとを慕うて追いゆくものを 知らぬ顔してとぶ蛍
- 昼は人目を忍んでおれど 暮れりゃひそかに来る蛍
- 色はよけれど深山の紅葉 あきという字が気にかかる
- 積もる思いにいつしか門の 雪がかくした下駄のあと
- 雪の庭口誰が踏み分けて 二の字くずしの下駄の跡
さらには,こんな質問形式のものまで書かれていた。
・( ) 屋根のもるのとあほと借金
さて,( )の中には,どんな,七・七が入るのか? みんなで考えてみよう。
- 逢えば別れとさて知りながら 帰しともなや雪の朝
- ちらりちらりと降る雪さえも 積もりつもりて深くなる
- 不二の雪さえとけるというに 心ひとつがとけぬとは
- みぞれ降る夜はたださびしさの 底がぬけたと思うよう
- とめりゃ帰ると言う意地悪に 振ったたもとに積もる雪
- にらみて合うてはいる門松も 掘れば互いに根はもたぬ
- ぬしの名前を今日書き初めに 嬉しき心のかるい筆
- 並の年始も主のはほかに 意味があるかと読みかえす
- 苦労しとげた嬉しい息を 火吹竹から吹いて出す
- 内の亭主とこたつの柱 なくてならぬがあって邪魔
- 遅い帰りをかれこれ言わぬ 女房の笑顔の気味わるさ
- 好きと嫌いが一緒に来れば ほうき立てたり倒したり
- あとのつくほどつねっておくれ それをのろけのたねにする
- いやなお方の来るその朝は 三日前から熱が出る
- 文明開化で規則はかわる かわらないのは恋の道
- 恋の山路にトンネル開き 人目知れずに通いたい
- 恋の重荷を車にのせて 胸で火をたく陸蒸気(おかじょうき)
- 思いがけなく見合わす顔を 煙にしていく汽車の窓
- 写真ばかりじゃ実地がしれぬ ならば心もうつしたい
- 口でけなして心で賞めて 人目忍んで見る写真
- ままになるなら写真に撮って 主に見せたい胸のうち
- 宵に時計を進めた罰で 今朝は別れが早くなる
- 気障(きざ)なお客と乗合馬車の 半区が千里もある思い
- 浮気ぐらいでざわざわするな 一夫多妻の国もある(安重心季朗)
- 酔ってくずれた女の膝が 白く露わにかける謎(池田枝江)
- つぎの逢瀬を手帳に○と 書いても通じる二人仲(池田美彦)
- 下駄の歯形に未練を残す つらい別れの雪の朝
- お前正宗わしゃさび刀 お前切れてもわしゃ切れぬ
- 富士の雪かやわたしの思い 積もるばかりで消えやせぬ
以上でした。じっくり味わって下さいな。
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