ノーミソが動き始めるとき

仮説実験授業のミニ記録

仮説実験授業の一場面を紹介します。
本レポートは,ある年の5年生と行った仮説実験授業《花と実(たね)》の3時間目の様子を「学級通信」で紹介したものです。

理科では《花と実》という授業をしています。その3時間目
これまでに,「アサガオ・ウメ・モモ・タンポポなどの花は,その花が散ったあと子房という部分がふくらんで実(タネ)ができる」ということを学習してきました。
そして,今日の問題は,ずばり「チューリップも花びらが散ったあとには実(タネ)ができるのかどうか」です。チューリップの球根は,あくまで球根です。球根は実とかタネとか言いません。

<予想>を立てる

まずは,自分の頭で考えて予想を立ててもらいます。
「予想を立てる」ことは,科学の授業だけでなく,どんな教科でも大切なことだと思っています。予想を立てるということは自分の頭を使っているということです。だから,社会科でも算数でも,なるべく予想を立ててもらうようにしています。
さて今回のクラスのメンバーたちの予想は,

ア 花の咲いたあとに実(タネ)ができる    8人
イ 花の咲いたあとに実は(タネ)はできない  15人

となりました。
次に,「もし理由があったら」ということで言ってもらいました。

<理由>

レコーダーの調子が悪くて,途中からしか録音されていませんでした(^^ゞ かろうじてア,イ,ひとつずつの意見ですが,紹介します。

かずま(ア) タネができんかったら,そのうちチューリップがなくなってしまうと思う。
ふうた(イ) タネだったら,あんなに大きくなれんと思う。球根みたいに大きかったら,そこに栄養分がたくさん入っているから大きくなれる。アの人が「毎年できんかったら,チューリップがなくなる」って言うけど,毎年咲くんだから,球根はあるし,大丈夫だと思う。

理由が出そろいました。次に,お互いの意見に対して言いたいことを言いたい人がぶつけていく時間です。討論です。

<討論>

ふうた(イ)「タネができなかったらチューリップが減ってくる」に反論します。タネがなくても球根があるから大丈夫じゃないんですか? 球根はいっぱいふくらむし,中に栄養がいっぱいあるから,あんなにふえていると思うし,大きくなれると思うし…。アの人が「毎年タネができなかったら全滅する」っていうけど,毎年咲きんったら,球根でもいいと思う。
かずま(ア) う~~ん~,じゃあ,その球根,どこにあったん?
まさひ(イ) 昔っからチューリップはありそうやから,昔のなんかの木の実が球根になったんじゃないが? 今じゃ,その植物はないけど…。
ひびき(ア) 球根って食べれる?

ひびきくんは,「実=食べれる物」と考えて,この質問をしたのだと思います。チューリップの球根がなにかの実だとしたら,それは食べれるのかというわけです。

食べようと思えば食べれるだろ~  (^^) ←叫ぶ,やすたか

とんし(ア) ふつう,それって自然の物だし,球根ができとって,だから,それって,最初からあったんじゃないが。
かずき(ア) チューリップの球根がはじめてできたのは,チューリップのタネからできたんだと思う。

タネが球根になる? 

かずま(ア) たぶん,タネが球根になる。タネを植えておくと,それが球根になってチューリップが出てくる。
ななみ(イ) それだったら,育てるときにタネで育てると思うから,球根なんかを植えないと思う。
とんし(ア) ななみさんに言うけど,でも,タネから育てると時間がかかるから,球根にしておいて売っているんだと思う。
やすた(イ) 付け足し。店に球根が売っているけど,もしタネから球根ができるのなら,タネから球根がいっぱいできるわけだから,球根を売らないでタネを売ると思う。でもタネは売っていない。
かずま(ア) タネだったら,腐るかもしれないから,店の人が球根に育てて売っている。 
かつや(イ) タネが腐るんなら,なんで球根は腐らんが?
とんし(ア) 球根は,大きくなったから…腐らない。タネは,イチゴの実からタネをとったときみたいに,実が少しでもついていると腐りやすいけど,それを土の中で育てれば,それは土の中に消えて,球根は腐らんげ。

「消える~ 消えるって~」 (^^)  (^^) (^^) ←とんしさんの「消える」に大騒ぎするみなさん

とんしさんがここで出してきた意見は,前の授業で学んだことを使っています。ミニ授業書《タネと発芽》の実験のときに,レモンやイチゴ,カボチャなどからとってきたタネには果肉がついていることがあり,そういうタネはうまく芽を出さないでカビが生えてきていることを見た経験が,このような理由を思いついたのだと思います。カシコイナー

かつや(イ) タネが,またタネになるのはおかしい。

はぁ…? (・_・) ←目が点になるみなさん

ふうた(イ) とんしのさっきの意見に反論があります。とんしは「タネは腐る」とかいっていたけど,普通にチューリップを育てていると,茎とかだんだん枯れていくんですけど,なんで球根だけ枯れないんですか? 教えてください。
かずま(ア) なんか,周りが皮で包まれているから…。

チューリップはカブトムシと同じ? 

ひびき(ア) チューリップの育ち方は,カブトムシとかと一緒だ。

(*_*)(*_*) ←何を言い出すのかと,目が点になるみなさん

ひびき(ア) 最初は幼虫だから,最初はタネで(最初は卵や世),そして,次にさなぎになって,それはチューリップでいったら球根になって,そして成虫になったら,大人になる。

反論! 反論! 意見! 意見! と叫ぶ。イの人の支持者たち

ひとし(イ) 球根だって…成虫になるって言うけど…根っこがなかったら困るんじゃないが。球根になる前にタネに根が生えるんじゃないが。
ふうた(イ) 植物と動物は違うんじゃないですか? なぜ同じと言い切れるんですか?
ひびき(ア) えっと,なんていうか…。
かずき(ア) 虫も植物も,生きとることで関係している。
たんにん   生きていることでは,両方とも同じようなものだと考えていいっていうんですね。
まさひ(イ) 生きているっていうけど,花ってどうやって生きているって分かるんですか?
ふうた(イ) 生きているといったけど,人間はさなぎになりませんが,どうしてですか?
かずき(ア) 人間はほ乳類だから。だって,「関連している」っていっただけやぞ。「そうなる」って言っていないぞ。
とんし(ア) あの,タネになるってこと,それってプリントに「球根とタネはちがう」って書いてある。だから,タネからタネになるわけない。
たんにん   前の意見の反論だね。時ちゃん,タネからタネにならないってどういうこと?
かつや(イ) 普通はタネからだと発芽するけど,またタネからタネになるのはおかしい。タネから,タネ(球根もタネの仲間みたいなもの)になるのはおかしい。タネから発芽するんだから。
ひびき(ア) タネからタネではなくて,最初のちっちゃいところのタネが,だんだん大きくなって,一緒のタネが成長しただけ。1年生が5年生になったみたいなものだ。球根もタネのようなものだ。
ひとし(イ) タネがでかくなるということは,タネに必要な栄養分が入っていて発芽できる状態だと思うので,そんなわざわざ球根になる必要はないと思う。
ひびき(ア) 最初は,まだ力がない。だから大きくなれない。
たんにん   そろそろ終わるかな。あと二人くらい,最後にどうですか?
ふうた(イ) チューリップは,よく見ても子葉とか双葉とかないから,ふつうのタネとかとちがうと思う。タネから出たら発芽っていうと思う。
かずき(ア) チューリップが,ほかの植物とちがう種類ということもあり得るかも知れんけど,ちがう種類やったら,世界のどこかに,チューリップと同じようなものがあると思う。

クロッカス  クロユリ  スイセン
(^^)(^^)(^^) 次々,球根の候補を挙げるイの人たち

予想変更

やすたか(イ→ア) 変わる。植物だから…。
まさひろ(イ→ア) 変わります。みんなの意見を聞いて。

結果

大きな記録写真を見て,この問題の決着をつけます。
実は…タネはできるんです。

いえーい(^^)(^^) ←勝利の雄叫びを上げるアの皆さん
せんせー,タネ植えたら,チューリップになる? なるん,センセー(^_^)b ← どんどん質問をするやすたか

お話を読む

【チューリップの実(タネ)と球根】という「お話」を,かみこ君,きじさん,おりさかくんが読んでくれました。

今日の感想

友達の意見をどう聞いていたのか?

今日はたった1問で,たいへん討論が盛り上がりました。しかし,討論に参加していた人は10人くらいで,クラスの半分ぐらいです。では,聞き役に回っていた人たちは,この討論をどう見ていたのでしょうか? こんな授業は「意見を発表していた人たちだけが参加している」と言えるのでしょうか? 感想を見てみましょう。

○友達の意見を聞いて,私の心の中では,「それもそうだね」「でもあれはちがう」とかいろいろ思っていました。(ほのか)
○今日の授業は,みんながたくさんの意見を出していて楽しかったです。私は「きゅうこん」ってなんだろう?と思いました。私はチューリップをたねから育ててみたいです。(せれな)
○あまりしゃべっていないけど,みんなの意見を聞いていたけど,いろいろなことが分かりました。虫と比べる人もいるし,むずかしいことを言う人もいました。予想とあっていてよかったです!(みずき)
○たねで育てようとすると,6年かかるなんて,めんどくさいなと思った。ひびきくんの意見で,カブトムシと植物は考えてみると,おんなじだんだなと思った。(きょうすけ)

ほのかさんは,みんなの意見を聞いて,自分の頭の中で相づちを打ったり,反論をしたりしていたようです。せれなさんは,いろんないけんの言い合いを聞いているだけでも楽しかったといっています。みずきさんも,意見の内容を思い出して,意見を出していた人たちの良さに気づいているようです。きょうすけくんは,ひびきくんの意見に感心しています。

○残念でした。変えようと思ったけど,変えなかった。反論がいっぱいでました。答えはアだったので,すごかったです。(しゅん)

しゅんくんは友達の意見を聞いて予想変更しようと思ったようですが,結局は迷ったまま,「結果」を聞くことになったみたいですね。これも,ちゃんとノーミソが動いていたからこそ,「変わろうか,変わらないでおこうか」と思ったのでしょう。

討論参加者たちは

さて,では,討論に参加して,侃々諤々(かんかんがくがく)と意見交流をした人たちは,今回の授業をどう思ったのでしょうか?
まずは,アを選んだ正解した人たちの感想から見てみましょう。

○ぼくの予想は,あっていたのでうれしかったです。はんろんもいっぱいされたけど,けっかはあっていたので,うれしかったです。イの人たちには,ふうた君とかかずま君がいたので,「やべ」っと思いました。(ひびき)

「イ」には,クラスでも物知り屋のふうたくんやひとしくんたちがいました。しかも人数も圧倒的にイが多数派です。そこで,最初「ア」の人たちはビビッテいたようです。でもそれにひるまずに討論に参加したみなさんはエライ!

○いろいろな意見が出たのでちょっと面白かったです。ぼくの最後の意見の時,自分でも何を言っているのか分かりませんでした。(かずき)

そうなんですよね。頭に浮かんだことをまとめて話すって,なかなかむずかしいんです。でも,「聞いてあげよう」としてくれる人がいるから,なんとか伝わることもあります。かずきくんの意見,ちゃんと伝わっていますよ。

○ぼくはきょう,チューリップにたねがあるとは,わかりませんでした。たねをかくと6年もたつのはながすぎと思いました。(かずま)
○ぼくは,チューリップは最初,たねなんか出さないと思いました。でもできると聞いてびっくりしました。(まさひろ)

アを選んで正解したかずまくんは,自分の予想があっていたのに結果にビックリしています。予想変更して結果的に正解したまさひろくんもやはり同じくビックリしています。このように「たねができる」を選んだ人たちも,決して100%自信を持ってそう思っているわけではないのでしょうね。「もしかしたらできないのかも知れない」という思いも持っているから,結果にビックリするのです。それは次のみはるさんの感想にもよく表れています。彼女はほとんど発言しませんでしたが,頭はしっかり動いています。

○今日,チューリップの勉強をして,チューリップにもタネができると思ったけど,本当にたねができるとは初めて知りました。タネをまいて,花がさくのに6年かかるとは,たいへんだなあと思いました。予想があっていたので,よかったと思いました。(みはる)

「ア」の意見を言っていたとんしさんも,イの人の反論を受けて,その心は揺れていたようです。

○最初「ア」にして,「イ」の意見を言われたので変わろうとしたけど,やめました。先生が出した写真で,あのかれたみたいなものをみたことがあったからです。(とんし)

まちがっても楽しい,分からないから楽しい

さて,それじゃあ,討論の末,見事マチガエた「イの人」たちはどう思っているのでしょうか? 「マチガエタから,その授業は楽しくなかった」と感じているのでしょうか? それとも…

○ぼくは,今日の意見の言いあい大会は,楽しかったです。でもとんしさんの意見は少し分かりづらかったです。ぼくは分かりやすくいったつもりです。アの方が少なかったのに,答えがアだったのがおどろきました。また次の授業が楽しみになりました。(ふうた)
○今まで,たまにチューリップのことを考えたけど,球根がどうやってできたなんて考えたこともなかったので,全然分からなかったけど,とてもおもしろかったです。(ひとし)
○チューリップの球根で,実がなりそのなかにタネができるのは知りませんでした。人の意見を聞いても変わろうと思いませんでした。でも初めて知りました。(かつや)

彼らは,一生懸命意見を言ったのに結果的に間違えたのです。なのに,「間違えても楽しかった」とはどういうことでしょう。「全然分からなかったけどおもしろかった」とはどういうことでしょう。そんなことってあるんでしょうか?
今まで,授業というのは「すぐに答えが分かったり,問題に正解したりすることが楽しい」と思っていたかも知れません。もちろん,そういう授業もあるでしょう。
しかし「すぐには分からない問題をみんなで考え,まちがっていても,あっていても,そんなことは気にせずに意見を出し合うことが楽しい」ということだってあるのです。いや,たぶんこちらの方が「すぐに分かってスイスイ問題を解いていく授業より数倍楽しい」と思います。
実は,マチガエル問題,間違えそうな問題というのは,答えを知らない問題です。これは当たり前ですね。この「答えを知らない問題」を予想することで,初めて自分の頭で考えるようになるのです。そして,自分の頭で考えたからこそ,その答えを知りたくなるし,いろんな意見が浮かんでくるのです。みんなに向かって話せる人は話せばいいし,となりの人に意見を言える人は言えばいい。とにかく,人の頭ではなく自分の頭で考えるクセをつける(言いかえれば,まちがうことを恐れなくなること)が,ノーミソをカシコクする一番の近道です。

自分のノーミソを使って考えているからマチガエルのです!
授業の感想は,小さな紙に書いてもらっています

以上,ある時間の仮説実験授業の様子を紹介しました。《授業書》を使って授業をするだけで,あなたのクラスでもきっとたのしい授業ができることでしょう。

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