「そんなクラスがだいすきです」

仮説実験授業のミニ記録

 2009.7.28記
尾形正宏

ちょっと難しいと思っていた《自由電子が見えたなら》 

「4年生との出会いの授業は何にしようかな」と思って教科書をパラパラ見てみると「電気」の単元が…。
 3年生の時にも教科書で「電気を通すもの通さないもの」をやっているようですが,ま,これで身に付いているハズはありません。教科書のように上っ面の現象を少し取り上げただけでは,「金属はよく電気を通す」ということも身に付かないのです。その証拠に,大人になっても金属に関する概念ができていないことは数々の教育実験結果で明らかになっています。
 さて,それでは…ということで《自由電子が見えたなら》をやろうと思ったのですが,これがちょっと大変でした。
 というものこの授業書で取り上げる<自由電子>という言葉は,原子の中にある電子の話です。でも,子どもたちはまだ原子を習っていません。先に《もしも原子が見えたなら》(仮説実験授業の授業書)をやればよかったかなと思ったりもしたのですが…。とにかく,その原子さえも習っていない子どもたちが<自由電子>というものをイメージできるのだろうか。また,ある程度イメージできるとしても,この授業書の中にあるいくつかの「お話」はちょっと難しすぎるのではないか…などなど,授業を始めてからもいろいろと考える場面がありました。
 4年生での授業とはいえ,まだまだ4月。生活態度なんてまったくの3年生の姿。そんなわけで,少し工夫をしないと,特に「お話」の部分はしんどいのではないかと思ったのです。

手書き版・授業書

 最初は,市販の授業書どおり《自由電子が見えたなら》を始めたのですが(授業書の最初の部分は「問題」の文章だけなので,どっちでも大差ないのです),途中で,渡辺みゆき編著『Qちゃんの手書き・カット入り書き直し授業書シリーズ1《自由電子が見えたなら》』に変更しました。
 この「手書きシリーズ」は、もともと渡辺さんが特殊学級を担任することになったときに,授業書を自分用に書き直して使っていたものだそうです。その「手書き授業書」がサークルのメンバーの目にとまり,「これは特殊学級・低学年にはいい」ということで,研究会から発行されることになったものです。
 わたしは,たまたまそれを手に入れていたというわけです。

 仮説実験授業の授業書中の「お話」は,子どもたちがいくつかの問題に対して,予想・実験を繰り返してきたあとで読む「お話」なので,少しくらい難しい言い回しがあっても,子どもたちは何とかついてきてくれます。
 しかし,同じ「お話」でも,カットがあったり,紙芝居を準備したり,という工夫をするだけで,その内容への抵抗はずいぶん減ることでしょう。さらに,そのカットなどが子どもにピッタリなものであれば,お話の内容がより深く理解されることにもつながると思います。
 仮説実験授業の授業書は,あまり学年(年齢)を意識しないで作られています。しかし,それは授業書が扱っている概念がそうであるだけであって,授業書の中の文字の表記や文章表現などは,「これは主に低学年」「これは高学年」というふうに考えて作られているようです。

 ひらがなが多い授業書もあるし,使っている言葉が難しい授業書もあるからで
 だから,高学年~大人向けに書いてある授業書を低学年でやるときには,それなりの配慮が必要だし,逆に低学年向けに書かれている授業書を高学年や中学校でやるときにも,「ひらがなを漢字に直して書いた授業書を使う」などの配慮も必要だと思います。
 そんな意味でも,渡辺さんの「手書きシリーズ」は低学年への授業書のはばを広げてくれるものの一つだと思います。

「カット」を拡大したり,色を塗ったり

 この「手書き・カット入り」には,もう一つ良さがあります。
 それは「色塗り」ができることです。
 特に今回は〈自由電子〉のイメージを膨らませるために授業書のカットに色を塗ってもらいました。銀色の色鉛筆を児童数分買っておいて,自由電子の絵が出てくるたびに,その自由電子たちに色を塗ってもらったのです。これはなかなかいい感じでした。
 自由電子が一斉に動いていく様子の図を塗っているとき,だれからともなく「自由電子の歌」が聞こえてきたのはおもしろかったです。もしかして,渡辺さんはそこまで考えてこの♪(おんぷ)を書いてあるのでしょうか…。
 さらに,授業書のカットを拡大したものも掲示用として用意し,「銀色」で塗っておきました。

初めての仮説実験授業の感想

 今回は,時間の関係で授業書の「第2部」までしか行いませんでした。
 それでは,最後に授業後の感想を紹介します。名前の横の数字は授業評価です。私が担当しているのは2クラスですが,1クラス分を取り上げて紹介します。
 まず,仮説実験授業には「自分の予想があっているかどうか」と,ドキドキして実験を見つめるというたのしさがあります。なお,感想の最後にある( )の中の数字は,授業のたのしさ度(5段階個人評価)です。

○私が5にしたのは,はじめは金ぞくはそんなにいっぱいしゅ類がないと思ったけど,この勉強をして金ぞくはいっぱいしゅ類があることが分かったし,予想を立ててあっているかまちがっているか分からなくてドキドキしておもしろかったから,5にまるをつけました。(評価5)
○プリントは問題だらけで楽しかったです。(5)
○えんぴつのしんがさいしょつかないと思っていたけど,ついたのですごかったです。(4)
○アラザンは,おかしだから電気を通さないと思っていたけど,実験してみたらついたからびっくりしました。(5)

 また,自由電子をはじめとして,「新しい言葉やものを教えてもらって,かしこくなった気がする」という「たのしさ」もあります。
○自由電子があるなんてしらなかったので,おもしろかったです。(4)
○自由電子の勉強が一番心にのこった。ふつうの原子の勉強もこんなふうに動いていることとかが分かりました。(4)
○ぼくはさいごらへんのナマリの勉強だけはおぼえておきたいです。ナマリは光ったようには見えないけど,まめでんきゅうがついたのでびっくりしました。(3)
○お金は1000さつ以外全部ついたからお金はつくと初めて分かりました。危ないものもあるんだなあと思いました。(5)
○光っているものは,ほとんどついたりつかなかったりして,楽しかったです。(4)
○自由電子がせいれつして,今,初めて明るくつくとかでまちがえたけど,これからおぼえていけばいいんだからいいと思いました。(4)
○問題や絵や勉強になることがいっぱいで分かりやすかった。(4)

 小学生のうちから,科学や理科に対して人一番興味を持っていて<もの知りな子>というのも学年に一人や二人はいるものです。そんな子どもであるTくんの感想を読んでみましょう。
○水銀が見れた。いろいろな元素が出ている元素周き表が見れた。金色おり紙のこうぞうが分かった。金,チタン,スズなどが見れた。銅板がキレイだった。(5)
と,その博識ぶりを披露しています。「今まで話にしか聞いたことのなかったものを見た」満足感でいっぱいです。それもそのはず。仮説実験授業では,大人でも知らない「お話」がいっぱいなんですから。

 また「仮説実験授業の醍醐味は討論にある」という人もいます。討論が起きるかどうかはその集団に任されていますが,このクラスでは度々討論が起きてあつい言いあいになることがありました。そこで,そのことについて感想を書いてきてくれた子もいます。「意見を言い合う楽しさ」「聞きあう楽しさ」というものに気づく子どもたちも出てきたというわけです。
○りゅうせい君のキラキラざいと言ったのがおもしろかった。お金はほとんどつくとおぼえておきたいです。(4)
○いろんな金ぞくを電気で通しました。つくかつかないか,みんなでいけんをいいあったりして,この勉強はとても楽しかったと思います。いろんなお金をしらべたりしてとても楽しかったので,またこんな勉強があればもっといろんな物を調べたいです。(5)
○私は,じっけんで,つく,つかないの言いあらそいになったのが心にのこりました!(5)
○いままでの自由電気の勉強で,たけいち君とあゆむ君とりゅうせい君とりゅうが君のいけんのあらそいで「だれだれのいけんでかえました」と人をひきよせるいけんがすごいなと思いました。(4)
○いろんな人のいけんをきいて,つくか,つかないか,どっちなのかわかりませんでした。つくか,つかないかのべんきょうは楽しかったです。自由電子の色をぬったり,どれがつくかつかないかもよくわかりました。(4)
○楽しかったです。ドキドキするのでよかったです。よそうはあたらない方が多かったです。が,みんなのいけんがだんだんケンカになっておもしろかったです。(4)
○ちょっとうるさかったけど,ちいさなことばのせんそうは,あっていなくても,みんな話しあっていたし,電気がつくとかのよそうが楽しかったです。(4)

 そして,究極の感想文がこれです。
○楽しかったです。でもうるさくてケンカになったときもありました。そんなクラスが大好きです。(4)
 大好きなクラスでみんなと授業ができる。それが一番ですね。
 さすが仮説実験授業。
 教科書の授業をはやく終えて,第2弾をやりたいなあ。

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