総合的な学習でこそ仮説実験授業を

仮説実験授業のミニ記録

 本ページで紹介する指導案による校内研究授業は,義務教育のカリキュラムに「総合的な学習の時間」が導入されようとしているころに,わたしからの総合的な学習の授業への1つの提案として行ったものである(「総合的な学習の時間」は,小学校で2002年4月に施行された学習指導要領により創設され,小学校3・4年生は年間105単位時間,5・6年生は110単位時間が設定された)。
 「総合的な学習の時間」が定着したかに見える今(2023年)でも,ここに書いた基本的な考え方は変える必要はないし,総合的な学習の時間の中でこそ,仮説実験授業の可能性が広がるのではないかと思うくらいだ。


第6学年 環境授業指導案

2000年2月2日(水)
授業者 尾形正宏

1.単元名 ゴミと環境(仮説実験授業《ゴミと環境》)

2.目 標
〇一つの一つのゴミとわたしたちが住んでいる地球とのつながりをイメージできる。
〇いろいろな物質は捨てたり燃やしたりしても,なくなるわけではなく,形を変えてこの地球に存在し続けることを知る。
〇今まで学んで来たことを総動員して,ゴミ問題について考えることができる。
〇深刻になりがちな環境問題について,楽しみながら学ぶことができる。

3.指導にあたって
〇教材について
・仮説実験授業とは
 この授業は,仮説実験授業研究会から出されている《ゴミと環境》という冊子(授業書と呼ぶ)を元にしている。仮説実験授業については,ここに多くを語るスペースがないのだが,一言だけ言うと「科学上の基礎的・基本的な概念や法則を,一連の<問題→予想→討論→実験>を通してつかませるための授業」である。わたしは,この仮説実験授業を教師になって以来,今までずっとやってきた。年によってこの授業にかける時間は様々だが,どの学年においても子ども達が圧倒的に支持をしてくれるので,やめられないで今まできたわけである。
 この《ゴミと環境》も仮説実験授業のひとつなのだが,もう少し詳しく言うと<イメージ検証授業>的でもある。これについても少し語るべきであろうが,まあ,それは口頭で質問があったらやります(何せ,指導案を早く仕上げねばならないので)。
・総合的な学習についての視点
 《ゴミと環境》は,いくつかの実験や読み物を通じて,今問題になっているゴミ問題を学びながら,環境について考えるきっかけにしようという教材である。といっても決して上っ面の勉強ではない。ゴミが環境を壊すというのは,単に臭いからとか捨てる場所がないからといったことに止まらない認識を子ども達が持たないと,解決しないのではないかと思う。
 では,環境問題について科学的に考えるための基礎・基本というのはなんだろう。わたしは,「物質不滅の法則」や「エントロピー保存の法則」だと思っている。日本に昔からある「水に流す」という言葉は,「目に見えなければないのと同じ」という発想からきている極めて常識的な考え方である。しかし事実はそうではない。形が変わってもなくならないのが原子であるし,それがいつかは,めぐりめぐって自分にかえってきたり子孫にかえってくるとういう考え方が環境を考える上での「科学的な思考」というものである。
 総合的な学習というのがあって,ちまたでは大騒ぎだが,僕は,それについての本を一冊も読んだことがない。それで,いまから言うことは的外れかもしれないが,ちょっと聞いていただきたい。
 僕は<総合的な学習>と言えども「基礎・基本を大切する」べきだと思う。いや,「<総合的な学習>だからこそ基礎・基本を大切にすべきなのだ」と思う。今のままだと,福祉や環境や国際理解を取り上げ,それを「自分でまとめたから」とか「取材をしたから」「体験をしたから」などということで終わってしまいそうな気がしてならない。もちろんそういうことも大切だが,<より幅の広い視野で物事をみよう>とすることが<総合的な学習の目的>ならば,基礎・基本の方が大切である。なぜなら,<総合的な学習>の内容が応用問題を扱う以上,それには数限りない<対象>があるが,基礎・基本は,それが基礎・基本であるがゆえに,数は限られており,それさえも使えない人は応用問題も解けないからである。こんな自明のことがどこかに追いやられて,ケナフだの英語だのと騒いでいるようじゃ,本当にこの先の義務教育が心配になるのである。
 まあ,今回の授業もそのあたりのことを意識して始めてみたものでもある。
 授業書《ゴミと環境》が狙う基礎・基本とは,以下のような考え方である。
  ①モノは燃えても捨ててもなくならない。それは形を変えただけである。
  ②この地球は,とてもちっぽけな宇宙船であるイメージを持つ。
 この2つのことを縦の柱として,いろいろなゴミ問題を横軸に,授業を進めることを目指したい。
 最後になったが,この授業は,理科の最終単元「人とかんきょう」を補充・充実させることを目的としている。
〇児童について
・教材との関係
 学級の子ども達は5年生からの持ち上がりである。この授業に先立つものとしては以下の授業書で学習を済ませている。
《もしも原子が見えたなら》…空気中の原子分子について
《燃焼》…ものが燃えるとは酸素と化合することである
《たべものとうんこ》…食べ物とうんこの関係で自然を見る
 そこで,僕が子ども達に期待したいのは,「原子分子の目でゴミ問題に切り込んでいく」ことである。もちろんすべての児童にそれを期待するのは無理であるが,意見の中にそう言う考えが出て来たら「なるほど」と納得してほしいのである。
・仮説実験授業との関係
 2年間で子ども達と授業した仮説実験授業の授業書は,上の3つに加えて,
《溶解》…とけるとはどういうことか
《ふりこと振動》…ふりこを例として振動という概念をつかむ
《2倍3倍の世界》…拡大縮小の授業の発展
である。例年より少ない数である。これは,僕に余裕がなかったことが大きい。また,あまり討論をしないクラスなので,ちょっと僕の方の気が抜けてたことも影響しているようだ(これについては最近すごく反省している)。よって,仮説実験授業の進め方には十分慣れている子ども建ちである。
・学級の個性と授業研究
 集団って独特の雰囲気を持っているようだ。
 学校によって,学級によって,これだけ集団の雰囲気が変わるものかと思うこともある。しかし,だからといって「この集団を発言させるようにしよう」とか「この子を変えよう」なんて思うことは僕にはあまりない(発言してほしいとは思いますよ)。情けない教師だがどうもそれが本音である。
 それより,僕の研究の楽しみは〈どんなクラスでもある程度成功するような授業をつくる〉ことにある。発言が活発なクラスでも,シーンとしたクラスでもある程度楽しく成果が上がる授業案の創造に参加したいと思うのだ。もっと言えば学年の枠を取っ払っても,「おもしろかった」「楽しかった」「よくわかった」「また学びたい」と言ってもらえるような授業案作りに興味があるのである。授業を科学的に研究するためには,どうしても「学級の個性に振り回されない指導案」が必要になる。それができれば,自分の研究が人様の役に立ったと言うことになる。まあ,僕の興味はこの辺にあるわけ(ただし「子ども達に発言をさせるための研究」というのもあることは認めます)。
 ということで,このクラスを昨年受け持ってから,ぼとぼちとやっているわけで,そんなに進んで発言しないクラスでありながらも,少しずつ自分の意見を言ってくれたり,何よりも授業自身を楽しんでくれているようなので,いいんじゃないかと思うのである。

4.指導計画
第1部 ゴミと環境……………………4時間
第2部 ゴミとリサイクル……………5時間(本時2/5)
第3部 ゴミのゆくえ…………………2時間
まとめ …………………………………1時間

5.本時の授業(第2部の2/5時)
(1)ねらい
・二酸化炭素と酸素のサイクルを再確認する
・紙の節約と木材の量関係について知る
(2)展開
□[問題3]を配布する
 10㎏(新聞紙1カ月半分)の紙を燃やすと,どれくらいの量の二酸化炭素が出ると思いますか?

●予想を立てる
 ア.10kgよりも少ない。
 イ.10kgくらい。
 ウ.10kgよりも多い。

※指導上の留意点
・問題がイメージしやすいように新聞紙をもう一度燃やして見せてから予想を立てる。
・10㎏の新聞紙も用意する

●予想を聞き集計する
●理由を発表する
<予想される理由>
・燃えるとなんでも軽くなるから
・新聞紙は軽くなるんだけど,その分気体になるから,あまりかわらない。
・二酸化炭素は気体だから軽い。

※指導上の留意点
・予想の理由は,なんとなくでも認める。
・ へりくつでも理屈のうちと心得よ。
・教師は正当に持って行かない。
・分子模型を使ってくれるとありがたいのだが

●予想の変更を聞く
●お話で決着をつける

□[問題4]を配る
木材(直径14cm×高さ8m)1本を節約するためには,どのくらいの古紙が必要になると思いますか?

●予想を立てる
 ア.1~2束で1本分
 イ.4~6束で1本分
 ウ.10~15束で1本分
 エ.もっとたくさん

※指導上の留意点
・問題がイメージしやすいように実物大の立ち木ビニル模型を見せてから予想を立てる。想像より大きく見えると思う。
・10㎏の新聞紙も用意する。

●予想を聞き集計する
●理由を発表する

※指導上の留意点
・これはなかなか理由を言えないかもしれない。

<予想される理由>
・全部が紙になるとして大体体積が同じ
・そんなに多くいるのなら,木はすぐになくなる

●予想の変更を聞く
●これもお話で決着をつける

〇以下,もし時間があれば[問題5]を進める。

●今日の感想を書く

※指導上の留意点 
・時間があれば,授業の感想を何人か読んであげる

(3)準備するもの
授業書(7ぺ~13ぺ)/新聞紙10kg/ライター/ピンセット/新聞紙少々/アルミホイル/立ち木ビニル模型/クリーナー/2-8の拡大図

(4)授業の評価と視点について
・いわゆる1時間1時間の授業の「まとめ」というのはしない。まとめが押し付けになることを恐れるからである。これも仮説実験授業の進め方の一つである。この授業の部分では,次の授業で再生紙までいくので,そのときに感想を取って評価したい。
・子ども達がこの授業を楽しんでくれてたかどうかは,子どもの発言の量や作業の量,あるいは教師の板書の仕方,まして研究責任者の鶴の一言できまるのではない。それは,子どもに聞いてみなければならないのである。授業を受けた子どもが「今日の授業はつまらなかった」と言えば,それを反省すべきは教師なのである。ああ無情の世界である。徹底した(うわべだけでない)子ども中心主義も仮説実験授業の研究姿勢である。
・てなわけで,今回の授業を見ていただきたい。なお,今回の授業は「総合的な学習」についての僕からの問題提起として考えてください。


 以上,今,HPに掲載するに際して改めて読んでみると,随分と挑戦的な指導案だと思うと同時に,20年前(ということは40才頃)と,わたしの授業に対する考え方がほとんど変わっていないことに我ながら感心してしまった。

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