すべてのものには電気がある

仮説実験授業のミニ記録

当時H中 尾形正宏

 この記録は、1998年度(授業は中学2年生2学期の終わりごろ)のものです。ボクがいつも生徒向けに書いている授業通信をそのまま綴ったものです(ネットでは省略)。
 仮説実験授業に興味のある人、電気に興味のある人、電気と聞いただけで鳥肌が立つ人に読んでもらえたらと思います。

1.電気と仲良くなりたい

 電気と仲良くなれたらなあーというのが、ボクの希望でした。だいたい<電気>には、これだけお世話になっているにもかかわらず、中学の理科では,電気の単元はだんとつの嫌われものです。何でこんなに嫌われるのか。そういうボクも得意じゃないほうです。
 いったい電気っていうものは、何なのでしょうか。明かりを点けたり、光を出したり、レコードをまわしたり・・・その実態はなんなのか? 子供ならずとも、ただでさえ賢い頭がますますこんがらがってしまいます。
 さきほど「これだけお世話になっているにもかかわらず」と書きましたが、実は「これだけお世話になっているからこそ」、電気というのがわけのわからない、実態の良くつかめないものになっているのではないかとも思われます。<電気>と聞いて思い浮かぶことが、様々なのも、それを物語っているようです。
 「電気と仲良くなりたい」。そんな思いの人には、「すべてのものには電気がある」ことがすうっーとノーミソの中へ入っていく授業書《ものとその電気》をお勧めします。

2.授業書《ものとその電気》のねらい

 この授業書の作者・塩野広次さんの文を抜き出しておきます。

 「すべてのものは電気引力に引き寄せられる・・・それはすべてのものが原子からできているから」という法則を理解することをねらいにしたこの授業書は、理科室や実験室にある品物にとどまらず「世の中にあるすべてのものについて」思いをめぐらせるように問題を配列しています。食品の長ネギはその最たるものです。この問題では多くの子どもたちが正しい結果を予想しています。それなのにみな同じように「ウワーッ」という驚きの声を上げるのです。理屈から導き出される結論というものが、人間にとってただちに直観的な判断にとって代わるものではないという、いい実例です。仮説実験授業が意識的に科学の論理と子どもたちの常識的な直観とを対立させるように仕組まれているのは、このためなのです。

塩野広次「授業書〈ものとその電気〉のねらいと補足」 『授業書研究双書 ものとその電気』 仮説社 p.33(下線は引用者)

 こんな授業がおもしろくならないわけがない。長ネギの問題は引用文のとおりでした。 もう、 教室中「おおー」てな感じです。 もう最後のほうは、 何でもかんでもぶら下げては・・・もうほとんど大騒ぎ。
 というわけで(どういうわけなんだ!)、次は、生徒たちの感想をいくつか紹介しましょう。

3.授業の感想

◎「すべてのものには電気がある」といってしめくくった先生は、すごいと思った。このひとことで、この実験のやろうとしてしたことがわかった。(T.Y)
◎ねぎや魚なども電気の力でひっぱられるということが、びっくりした。 「原子に+と-のものがあるのでひっぱられる」ということが知らなかったので、それを知ってからは、問題がかんたんだった。 (S.I)
◎全部電気によってひきつけられるということは、と中でわかった。そのわかったあとのもんだいはぜんぶわかった。竹やねぎのときは少しまよったけど、いちおうあった。このじゅぎょうで、のうみそのしわがふえた。 (M.S)
◎はじめは「引き付けられるわけがない」と思ったものも引き付けられた。おっどろいた。今じゃ、もうわかっちゃった。(D.K)
◎理科の実験とか討論が、すごく楽しかった。Hさんとか、みんなの討論がおもしろかった。「HさんとかTさんとかは、自分の意見が言えていいなあー」と思いました。でも、聞いているほうもたのしいです。(Y.M)
◎HさんとSさんのあらそいは、おもしろい。どうしてあんなにあらそえるのかわからん。カシコクなった。 (U.T)

 さて,そのHさんとSさんの感想です。まずはSさん。

◎プリントの授業は、やっぱり楽しいと思う。私は、前まで「ノーミソ度はふつう」と書いてたけど、やっぱ今回は少しカシコクなったなあーと思う。また、M(H)ちゃんと戦いたい! (S.K)

 一方「戦いたい」と言われた方のM(H)さんは、

◎すっごく楽しかった。思ったこともズバズバいえて、すっきりした。討論はやっぱり面白いと思う。今日、二学期最後の理科の授業をしたけど、口は動きっぱなし(?!)だったので、よかったよかった。 私は、この授業でたいへんKashikokuなったと思う。3学期も Let’ senjoy!(H.M)

 ではあと2人くらい。ちゃんと教師をほめてくれます。

◎電気をおこすのが、たくさんあることが、よくわかりました。しんじられないものでも、ひきひけるから、ほんとうにいいべんきょうになりました。来年もよろしく。 (K.F)
◎今回の「電気」のお勉強も、とてもおもしろかった。「すべてのものに電気がある!!」ってときは、とても”びっくり”しました。そんで、2学期のりかのお勉強もおわったことだし、先生に「はなまる」をあげましょー (Y.F)

 なかなかいい評価でしょう。
 こういうと「電気嫌いは抵抗やら電圧やらがでてきてからだ」とおっしゃる方もいますでしょうが、まあまああわてずに。オームの法則をいかに感動的に教えるか、というのも今がその研究中ですので・・・。確実に一歩一歩積み重ねていきましょうや(その後,授業書《電流》授業書案《電流とエネルギー》というものも完成しています)。
 仮説実験授業の提唱者・板倉聖宣氏も言っております。
「教材の精選とか言われるけれども、教えるに値するような教材がほとん どないのにそれはおかしい。これからは、子供達が学びがいのある教材 をひとつずつ積み重ねることが大切です」と。
 10数年毎にころころ変わる学習指導要領にあわせていたんじゃいつまでたっても埓があきまへん。
 だって、みなさん。「科学の基礎的・基本的な法則や概念を教える」のが科学教育なんでしょう。科学の基礎的・基本的な法則や概念が、10年かそこらで,そう変わるはずがないじゃーありませんか。

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