ある年の「6年生学級通信」から
尾形正宏
このページでは,授業書《生物と種》第1部の2~3時間目の授業(主に子どもたちの<予想分布><討論>)の様子を紹介します。
授業書《生物と種》は,『第Ⅲ期仮説実験授業研究6』(仮説社,1995)に掲載されています。本書には,授業書作成者による「授業書〈生物と種〉研究物語」「生物学的〈種〉概念の形成と教育史」も併せて掲載されています。授業書共々,読み応え充分ですよ。
けっこう大事と思ったのは,同じ種類の生物は似た形をしているだけでなく「同じ種類の生物の間だけで子どもをつくる」性質があるというのは,実に大事。トンボの問題は感心感心。しかし,簡単な問いばかりだ。もっとどんとこ~い,どんと。
(R央)[《生物と種》第1部を終えての感想より]
似ているけど他人,違うのに夫婦
第2時間目は,まず「種類と種(しゅ)」「生物の名前と種の分類」「生物の設計図=遺伝子」という話を読みました。
「カイモンコウモクカゾクシュ」とトイレで10回となえてね
◆お話「種類と種」
◆お話「生物の名前と種の分類」
ボクが,ゆっくり読みながら説明していきます。
ボク 「トンボ」はいろいろあるやろ。
R央 ライオンもいろいろあるやろ。
ボク ライオンにはないやろ。
N 哉 えっ,「おおかみライオン」とか,ないが?
ボク ライオンはライオンなんです。で,トンボにはいろいろおるやろ。「トンボ」というのは<種>ではないんですね。赤トンボ 青トンボ 鬼ヤンマとか
ボク 「トンボ」というときと「ライオン」というときで,そんなに違いはないみたいけど,トンボは〈種〉じゃなくて,ライオンは〈種〉なんですね。
ボク コレね,なんか知りたそうだから言うけど…,まあ,別に覚えなくていいよ。生物(生き物ね)を,2つに分けると,「動物」と「植物」ね。で,動物を2つに分けると,「背骨のある動物」と「背骨のない動物」に分かれるね。「背骨のない動物」というと,貝とかミミズとかアメーバーとか。で,背骨のあるほうをさらに分けるといくつかあって,そのうちの一つが哺乳類=おっぱいで子供を育てる動物ね。で,ほか,なんという仲間がいるか知ってる?
児童たち オタマジャクシ かめ,カモノハシ,モモンガ,魚! 両生類 爬虫類
ボク ね,それで,さらに分かれるわけや。魚なら,マスとかサケとかイワシとかね。そんで,そのマスも,サクラマスとかニジマスとかに分かれていくわけや。それが,生き物や動物の分類の仕方なわけ。生きものの分類の仕方は決まっていて,どんどん枝分かれてしていきます。で,種(シュ)にたどり着くまでに,次のような分類があります。覚えておくと便利だよ。
界(かい)→門(もん)→綱(こう)→目(もく)→科(か)→属(ぞく)→種(しゅ)
◆お話「生物の設計図=遺伝子」
◆【練習問題1】ヤギとヒツジ[N哉が読んでくれました](記録は省略)
テントウムシは種かどうか-やばい内容の討論
【問題3】です。テントウムシの問題(背中の模様が違う2種類のナミテントウムシ,著作権のため問題文は掲載しません,以下同じ)です。M代が読んでくれました。
予想分布
ア 子どもがふつうにできる。 … 4人
イ 子どもはあまりできない。 … 2人
ウ 子どもはぜんぜんできない。… 4人
理由
M代(イ) えっと,いろいろながおるがいねん。ナナホシテントウとか。だから,いつもできるんだったら,もっといろんながいっぱいおってもいいけど,そんなにいっぱい種類はないから「たまにできて」いろんなやるがおるげ。
T司(イ) 違う種類のテントウムシでも,テントウムシはテントウムシねん。
T子(ア) ニホシテントウとかナナホシテントウとかあるがいねん。あれってね,テントウムシは,テントウムシねん。
R央(ア) このまえね,夏休みの草むしり大会かなんかあったがいね。そのとき,おれとよっしーとゆうぞーとてっつでなんか,むしっとってん。そんで,おれ,手を洗ってくるわていってんね。で,その帰り道に,桜の木のところ見たら,テントウムシが交尾しとってん。あ~あれだ,とおもってん。
「やっとったん!」 叫ぶY朗
R央(ア) それから,練習問題が終わったのに,また同じ答えになるのはおかしい。なんか答えが違うはずだ。でも,イみたいな中途半端はおかしい!
U郎(ア) にしたら,いつの日か必ずにくるなあーと思って。おれは信じて,おれもアにしたんだ~。
C美(ウ) なんとなく。
討論
Y子(イ) 交尾できても,幼虫はできないかもしれないだろ。
R央(ア) あのね,テントウムシでも,神様のつくりで,子供のときから,ちゃんと交尾したら,赤ちゃんできるてがしっとるがいねん。赤ちゃんもできんがに,なんでそんな一むぼうなことするが。
Y子(イ) やるだけやってみればいいがいねん!
だれか 「やりにげか!」
Y郎 「やりにげっていうな~」
R央(ア) そしたら,先生がでっかいシェパードの雌にするがといっしょなことねんぞ。先生がそんなことすると思うか。
だいぶんヤバイ話になっていますが,まあ,このまま授業記録を続けましょう。コレを読んだおうちの方々,決して表現に文句を言わないように-。子どもたちは,とても真剣に議論をしているのですから…。
M代(イ) でも,人間は頭いいげもんの。
R央(ア) テントウムシだって,それくらいの知能は持ってるんだよ。
Y子(イ) でも,とってもやりたくて,だから,もうだれでも捕まえて,クッててやったんかもしれん。
R央(ア) そんなんやったら,同じ仲間のメスをつかまえてやりゃいいげん!
Y子(イ) でもおらんかったら…
M代(イ) てっちゃんに。「テントウムシはテントウムシ」ねんたら,「ネコはネコ」で,ライオンとネコで,子供ができるってことになるじゃない。
R央(ア) テントウムシだけ特別できるっていっとるんや
T司(ア) でも,「ネコとライオン」とは,いっとらんもん。
Y郎(ア) このまえも言ったように,米は米どうしでできるから,テントウムシはテントウムシでできるんだ。
Y子(イ) テントウムシは,テントウムシ科のテントウムシ属で,<種>は違う。ニホシテントウ種とか,ナナホシテントウ種とかいろいろある。
T子(ア) あのね,これ,大人になったら,どんどんでてくるげ。はじめは2つでも,だんだん,増えてくるげん。と,おもうげ。
ここでチャイム♫がなりました。
でもまだまだ「おれにいわせろ~」と興奮するみなさんです。
ボク もう時間きたから,二人だけね。じゃあ,Y子。
Y子(イ) T子ちゃんに! じゃあ,色が違うのはどうなるんですか。
T子(ア) 大人になったら,色もかわるげんがいね。
ボク 予想を変えたい人いないか。答えは,来週…!!(実際には,翌日の授業通信紙上で伝えた)
だれか 先生,変わる,変わる! ← M代が叫ぶが教師には聞こえていない(録音テープを聞いてわかった)。
結果
◆お話「生物の種の決め方」
「2匹の背中の模様はずいぶん違います。ですから,これらは別の種のようにも思えますが,たいていの場合子どもがたくさん生まれます」
この授業では,少数派のイの二人が,多数派のアに対して,しっかりと意見を言ってくれたので,みんなのノーミソも動いたようです。そのイの一人・M代は,最後に予想変更を叫んでいました。
シオカラトンボとムギワラトンボの関係は?
第3時間目は,前時の正解を言った後,【問題4】に挑戦。問題を読んでくれたのはこの日もM代です。「シオカラトンボとムギワラトンボの問題」です。
ボク シオカラトンボって一番普通にいるやろ。ムギワラトンボは,なかなか見ないかな。
といってシオカラトンボ・ムギワラトンボの写真を見せます。
予想分布
ア 多くのペアで,子どもができる。 … 3人
イ ペアによっては,たまには子どもができる。 … 2人
ウ 子どもはできない。 … 5人
理由
N哉(イ) なんとなく。
T子(イ) たまにできるかなあと思って。
だれか それって,なんとなくじゃないがあ。
A奈(ア) なんとなく。
R央(ア) 生物と種が始まって,最初は2問連続ウやったし,今度は,さっきアやったし,これもアねん。
Y郎(ア) えっとー。あれ,なんてげったっけ。さっき,形とか色とか関係なくて「個性」とか言っとったやろ。だから,次もそうかなあと思ってん。
ボク じゃあ,最後はウの人。
M代(ウ) けっこうおるげんたら,シオカラトンボとシオカラトンボが交尾してシオカラトンボの子どもが生まれていくと思う。
T司(ウ) なんとなく。
Y子(ウ) シオカラトンボとムギワラトンボって,まあ,青と黄色やろ。そしたら緑色のトンボとかできてくる。もし生まれたとすればね。でも,今はシオがいっぱいおるさかいに,シオ+シオでシオができる。
Y郎(ア) じゃあテントウムシはどうなるげ。
ボク じゃあ,他に意見がないようなので,正解をいいます。
結果
正解はプリントに書いてあるように,「できる」です。なんとシオカラトンボと呼ばれているのはオスのことで,ムギワラトンボは,シオカラトンボのメスの姿だったのです。不思議だけど本当ですから仕方ないですね。
右の写真は,2009年9月10日に撮影したムギワラトンボの産卵の様子。ムギワラトンボの上に見張っている?のがシオカラトンボ。このシオは,守っているのか,それとも次のチャンスを狙っているのか。
続いて【練習問題2】-白人のヒトと黒人のヒトとは,同じ種の動物でしょうか-について軽くやったあと,【研究問題1】ヒトとゴリラについて考えてもらいました。
以前,「オリバーくん」っていうのが日本にやって来たことがありました。もうだいぶん前のことです。このオリバーくんは,「ゴリラとヒトのあいの子」ということで,だいぶん話題になりました。しかし,実は,真っ赤なウソだったようです。
次の第4時間目は,お話「生物の社会と種」を読み,第1部の感想を書いてもらったあと,ジャガイモを植えました。
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