動物のからだのはたらき

理科・科学

 たのしい授業は仮説実験授業に任せておくとして,ここでは,教科書の内容をより分かりやすくするためのタネを紹介します。
 「動物のからだのはたらき」という単元は,教科書通りだと「唾液のはたらき」と「呼吸」くらいしか実験がなくて,あまりたのしくなりません。そのくせ,新しい臓器とそのはたらきの知識の定着ばかり優先されているのが現状です。少しでも子どもたちが活動できるようなもの,演示できるようなものを準備して授業をしてきました。以下に紹介したもの全てを毎年やったわけではありません。手を変え品を変えながら,学習を進めてきました。なにか参考になることがあったら,あなたの授業にも取り入れてみてください。
 なお,参考図書は本ページの一番下に紹介してあります。

1 肺のはたらき…呼吸

肺の模型…ペットボトルで

 当時の勤務校には,右写真のような肺の模型があります。この器具はかわいい顔をしているので子どもたちにも割と人気の模型です。
 ただ,この模型は本校には1台しかなく,みんなで体験するには力不足。
 そこで,ペットボトルの登場です。
 ペットボトルと風船とストローで簡単に肺模型を作ることができます。
 今回は班に一つずつ渡るように作りました。
「この底の風船を引っ張る時に,自分も息を吸ってみてください。そして風船を戻す時に息を吐いてご覧」
と言って渡しました。子どもたちは,模型を触りながら一緒に呼吸をしていました。自分の横隔膜を動かしている気分になったようです。
 私はこれを何も見ないで作りましたが,ネットにはいろいろなものが紹介されていますので検索してみてください。
 ただ,この肺模型を作る時には,炭酸飲料の円柱形の強くてしっかりしたペットボトルがいいんですよね。だってまわりがしっかりしていないと,風船での空気の調節がうまくいきませんから…。でも最近のペットボトルは,とても弱くて心許ないのが多いのが難点だと思っていました。

 がしかし,たのしい授業学派が,もっと簡単なモデルを作ってくれていました。
 究極のモデルです。発想の転換です。そのペットボトルの弱さを逆に利用して新しいモデルを考えたのが「ごんごんの科学の部屋」で紹介されていた模型です。
・ペットボトルの加工が必要ない簡易肺模型(http://www5e.biglobe.ne.jp/~gongons/zikken/haimokei.pdf
 これってすごいでしょ。これならみんなに行き渡ります。
 実はわたしが10年以上前から利用していたモデルは,実はこれと同じ風船を使わないものでした。ただしそのころはペットボトルが堅かったので,側面の周りをグチャ,バキって押していましたが…。

肺胞の意義を教える(表面積について)

 狭いからだの中で,如何に効率よくガス交換をするか…それが肺胞の役目です。しかし,これまでは,小さな袋が集まることでガス交換の効率が上がることをなかなか納得いくように(ハタト膝を立ていて合点がいくように)説明できませんでした。「なんとなくそうなのかなあ…」と思わせる程度だったと思っています。
 本①には,以下のような実践記録が載っていました。

やかんと湯沸かし器,効率がよいのはどちらか?

湯沸かし器の内部に金属のヒダがたくさんある写真を見せる

 ガスの「湯沸かし器」というものを知らない子が多くてびっくりしました。幸い勤務校の職員室には湯沸かし器が置いてあるので,その全体像(写真上)と上から覗いた写真(写真下)を撮って見せました。
 湯沸かし器の写真(写真上)を見せると,これなら知っているという子が数名いました。
 しかし,湯沸かし器からすぐに熱いお湯が出てくるのは「はじめから中にお湯が入っているからだ」と思っている子が多いことが分かりました。最近は,夜間電力を利用した電気温水器やエコキュートというものもあるので,これからの授業ではいろいろな配慮が必要になるかもしれません。
 湯沸かし器の内部(写真下)を見せました。が,小学生は,この写真を見たくらいで「表面積が広いから熱効率がいい」とつながる子はあまりいません。
 本①にも,このあとに,普通のやかんと,下に凸凹を作ったやかんの絵をかいて説明する例が出ています。わたしも同じように説明をしました。

二つのナイロン袋を比べる

 大きな同じナイロン袋を2つ用意し,一つはそのまま,もう一つにはそのナイロン袋の中にさらに小さなナイロン袋を膨らませて入れておきます(写真左)。大きなナイロン袋から小さなナイロン袋を取り出して二つのナイロン袋をひらき(ひらいたものを準備しておく,写真右),表面積を比べます。

ナイロン袋で比べる
ナイロン袋で比べる2

 これは分かりやすかったです。でも何か魔法にかけられているようなかおをしている子もいました。やはり,中に入っている空気の量が同じなのに,開いてみると広さが違うってことに対して,感覚的には納得できないのでしょうね。
 これまで,こんなに難しい表面積の概念を,教師からの言葉と絵だけで説明していたことを反省しました。
 小腸の柔突起などにもつながる概念ですので,しっかり体験させておきたいです。

「エラ」を見せる…なるべく実物

 教科書では,ほかの動物たちの呼吸器としては「エラ」が出てきます。この「エラ」については,本物の魚を準備すればそれでOKでしょう。当時の勤務校には,生まれつきエラブタが奇形の金魚が何匹かいたので,それを見てもらいました。じっくり見たければ,魚をさばけばいいのですが,やりたければ,単元の最後にまとめてやればいいでしょう。
 本単元では,実物が見せられれば,それに越したことはありません。ただ,教師側と児童側の心の準備(生命の尊厳)が必要です。

2 消化・吸収

 『理科教室・2003年10月号』に,「だ液のはたらき」を目で見ることができそうな,以下のような例が載っていました。

デンプンのりの実験

① 固めのデンプンのりを作ります(40度以下にならないようにしておきます)。できれば乳鉢で行うとよいでしょう。
・あらかじめかき混ぜて,固いことを実感させておきます。ヨウ素液を加えておくとよりわかりやすいでしょう。
② 「ジアスターゼ」を小さじ1杯ほど①に加えてかきまぜます。
 まもなくデンプンのりは分解され,どろどろからさらさらになることが実感できるでしょう。同時に青紫色が消えることも発見できるでしょう。

 最近,田舎でもドラックストアなどで簡単に「ジアスターゼ」を手に入れることができます。ジアスターでの働きで,濾過できなかったデンプンのりが,さらさらになって濾過できるようになるのを見せることもできるようになりました。小腸での吸収にイメージにもつながるかも(ただし,吸収はもっと小さな粒のイメージを持つべきですが…)。
 この実験は,5年生の《溶解》(ものの溶け方)の応用編でもあります。面白いですよ。
 教科書では,唾液のはたらきが終わった後でヨウ素液を加えますが,ここでは,最初からヨウ素液を加えておきます。すると,青紫色が消えていくので,「お~,酵素が働いている!」と感動できることでしょう。

3 血液のはたらき

 心臓の授業では,いつも階段を走らせて,自分の拍動を実感させるところからやっていました。
 まずは,以前まとめたレポートから,その流れを紹介します。

醤油ちゅるちゅるは心臓ポンプだ

 「心臓のしくみと血液の流れ」を学習するときの教材に「灯油ポンプ=醤油ちゅるちゅる」が使えます。今回は,その授業の様子を紹介します。時間は3時間(うち醤油ちゅるちゅるの登場は2時間)です。
 この授業の運び方及び醤油ちゅるちゅるを使った方法は法則化のwebサイト「TOSSLAND」に紹介されているいくつかの実践を参考にしました。詳しいことは後書きで紹介します。

自分の心臓の場所を知る…聴診器で

 まずは導入です。
「今日は心臓と血液の流れの勉強をします。心臓ってどこにあるか分かる?」
 子どもたちは,心臓の部分を手のひらで押さえてみるがよく分からなさそう。心臓って,静かにしているときはわりと動きが分かりません。そこで聴診器を出して,友達の音を聞いてみようと提案。しかし,服の上からじゃ,やっぱりなかなか心泊音は分からない様子。直接肌にあててもいいんだけど,男女のペアもいるしなあ。そこで「じゃあ,階段を2往復してきてね」と呼びかけ,ドキドキを感じてもらいました。こうすると聴診器をとおして,動いている心臓を感じることができます。

心臓のしくみー弁に注目させる

 心臓の絵をかいた右のプリントを子どもたちに渡し,気づいたことを言ってもらいます。
子 「血管みたいのがたくさんでている」
子 「みぎしんしつ,ひだいりしんしつがある」
教 「これは右(う)心室,左(さ)心室って呼びます」   
といって漢字に読みがなをつける
子 「じゃあ,その<ふさ>みたいのはなんていうの」
教 「ボウといいます。左心房,右心房ね」
   といって漢字に読みがなを付ける
子 「4つにわかれている」
子 「左心房からはたくさんの血管がでている」
子 「矢印みたいのがある」
子 「それは,反対に流れんようにしているんや」
子 「左心室のかべというか,そこが右心室よりもあつくなっとる」
 これらは,次の血液の流れを判断してもらうときに必要な知識となります。
 次に,黒板貼ってある心臓の絵に,右図下のように血液に流れの矢印を書き込みます。実際の血液の流れは,赤の矢印の流れなのか,青の矢印の流れなのかを聞いてみました。
教 「血液は,赤,青,どちらの矢印の向きに流れるのでしょう」
子 「さっきも言ったけど,矢印みたいものがあるやろ。それは逆流せんようになっとりん。だから赤の流れになる」
子 「わたしも同じで,青なら,なんか引っかかりそうだから」
 このあと,ボクが正解を言って,醤油ちゅるちゅるを紹介しました。

弁を見る-醤油ちゅるちゅるの紹介

教 「この心臓の弁のはたらきを見るのに便利な道具があります。それはこれです」「これ,何に使うか知っていますか?」
子 「灯油を入れるときに使う」
子 「石油ストーブの時に使う」
子 「うちにある」
教「これ,なんて名前か知っている?」
子 「ポンプ!」
子 「…」
 で,しばし「醤油ちゅるちゅる発明記」とドクター中松のことについて脱線話をしました。どの子も「どうも嘘くさい話だ」と思っていたようです。将来疑われそうで心配です。
 ホームセンターから買ってきた「醤油ちゅるちゅる」をなんとひとりに1本ずつ配ります。大サービスです。100円/本以下ですから惜しくはありません。
 最初は,弁の動きを見てもらいました。
 子どもたちは,上の部分を握ったり開いたりすると,弁が開いたり閉じたりするのを見るだけで楽しそうです。
 次に水槽に水をくんで,となりの空の水槽に移してもらいました。思わず「お前ら6年生か!」と言いたくなるくらい,夢中になってやっていました。ここでのポイントは,サイフォンの原理を使わせないようにすることです。醤油ちゅるちゅるは,サイフォンの原理を使えるように,出口の方が長くなっています。それをやってしまうと,心臓がバクバクと動く必要が無くなりますのでね。配布する前に,蛇腹の方(出口の方)を少し切っておく必要があります。
 今まで心臓の説明をするときには,このポンプの話をしてきましたが,特に本物を持ち込むと言うことをしませんでした。しかし,子どもたちの反応を見て「やっぱりこういうものであっても本物は大切だなあ」と思いました。最後に,「先生ーこれちょうだい!!」といっていたのには参りました。4年生に10円のスポイトをあげたときにも大喜びしていたけど,こういうものをほしがるなんて,おもしろいですねえ。遊んでいたら1時間目が終わっちゃいました。 

蛇腹になっている長いほうのパイプを切っておかないと,サイフォンの原理でずっと流れ続けてしまう。もったいないけど。

心臓の部屋の役目とは-「合体ちゅるちゅる」で

 心臓・血液の2時間目。
 右の図を示して発問します。
教 「心臓からは,からだ全体と肺の二つに分かれて血液が送られています。さて,からだ全体には,赤矢印,青矢印のどちらから出ていくのでしょうか」
 予想は半々ぐらいに分かれました。理由を聞いてみると
赤い矢印の人たち
子 「赤い矢印は,左右に分かれていっているので,からだ全体に行くんだと思う」
青い矢印の人たち
子 「赤の方は,右心室をでてから二つに分かれている。肺は二つあるから赤い方が肺に行く。だから青の方がからだ全体へ行くと思う」
 うちのクラスではこれ以上意見は出まてきませんでした。残念ながら,1時間目にでた「左心室の壁があつい」という意見をここで使う子はいませんでした。
 正解は,教科書で調べてもらいます。からだ全体に血液を送るため,左心室の壁の筋肉が厚くなっているということも付け加えました。

 このあと,醤油ちゅるちゅるを二つ合体して,心臓の模型を作ってみました。
 二人一組になり,2つの醤油ちゅるちゅるを右図のように合体させます。図でのポンプの部分がはなれていますが,実際にはくっつけてしまいます。絵の具(わたしは食紅でやった)で色を付けた水槽を用意します。
 赤色の水槽は,肺青色の水槽は全身の血液です(わたしは無色でやった)。
 醤油ちゅるちゅるのポンプ部分を2つ同時に押すと,一方のパイプには真っ赤な水が流れ,もう一方のパイプには青い水が流れることがよくわかります。
 二つの水は混ざり合って,だんだん同じような感じになります。そこでストップさせて…
教 「からだから心臓にもどってきて肺へ行く血液に赤い色を加えるのが肺の役目ですが,このモデルでは,赤い色を加えないのでだんだんと薄くなってしまいます。肺は,赤い色を血液に加える役目をします」
と説明しました。
 この模型は,心臓の部分が大きく二つに分かれている意味を理解するにはとてもいい模型だと思います。しかし,何度かシュポシュポとやっているうちに色が混ざり合ってしまうので,もう少しいい工夫はできないものかなと思います。

ビデオ映像で確認

 このあと,15分間の教育テレビ(今なら,NHK for Schoolかな)の録画ビデオを見てもらいました。心臓の動きなどは映像を見るに限ります。また,血液の流れる様子もビデオが役立ちます。教科書にはメダカの観察が出てきますが,生きたまま脱脂綿に包んで…というのがどうもかわいそうでできません。なんでもかんでも「自分の目でみることが大切だ」とは思いませんので。そのくせブタの心臓を見たりはするんですが(^^;)
 最後に,理科の学習を心臓と血液の流れの絵に色を付けてもらいました。ただし,6年生といえども机の上は水びたしです。いくつかの机は,この作業に使わずに残しておくのが無難です。ビデオを見ている間に乾きますがね。

参考にした実践(2023年4月現在,リンクが切れています)
○6年・人体『血液の流れ』(小林幸雄)
http://www1.harenet.ne.jp/~kobayuki/rika6nenketueki.htm
○給油ポンプで作る人の心臓(島根県大田市立波多小学校/木色泰樹氏)
http://www.izumo.ne.jp/~kiiro/rika/tosshito2.htm


以上が,長い間の定番でしたが,ときどき流れを変えて授業をしたこともあります。これは本②「V.6年編」で紹介されていた実践例です(この実践例では2時間分ありました)。

アナログ体重計を使った実験

 その1時間目「体重計の針は,なぜ止まらないかのか」です。詳しくは別紙の指導案をご覧下さい。
 この授業をしようと決めて予備実験をするために体重計を借りに保健室に行ったら「もうデジタル計しかありません」とのお答え。そういえば,本校に来て仮説実験授業《ものとその重さ》をやったとき,わざわざ家からヘルスメーターを持ってきたんだったっけ。
 しかし,うちのヘルスメーターはすでに壊れていてもう使えないし…そういえば…今年統合したM小の保健室にあったような…さっそく事務室で備品を確認(今年の事務の先生は昨年までM小で勤務していた)。するとまだM小の保健室にあることが分かったので,さっそく次の日に体重計と冷蔵庫(これも理科室用)を持ってきてもらいました。ありがたい,ありがたい。理科室の備品,充実!
 アナログ体重計で予備実験をすると,ちゃんと心臓のリズムと一緒にはかりの針が動きます。
 これで「心臓と血液」の楽しい授業の導入ができました。
 本②によると,この実践は近藤真庸著『わくわく保健指導一年間』(日本書籍)の追試だそうです。

てこの原理で脈の動きを見る

 次に,脈泊を見る実験です。脈泊を見るこの実験のことは,養護の先生と話をしていて教えてもらいました。
 押しピンに楊子をさして,手首の脈の部分に乗せると脈の動きが見えると養護教諭は言います。また本②にも,先の体重計の実験のあとで「小さな紙の上にマッチ棒を貼り付けて,その紙を手首の脈の部分に糊で貼り付ける」という例が載っていました。
 私はこの実践を合体して,押しピンに赤い頭のマッチ棒を刺し,手首の脈の部分に両面テープで貼るというようにしてみました。
 すると,これがなかなかいいのです。

 私のオリジナルかな…と思ってネットを探すと,すでに誰かが考えて実践していました。「なんだすでに知られている方法だったのか…」。ただ,この人は,マッチ棒を押しピンに刺すのではなく,セロハンテープで貼っていました。
「ちょこっとした理科の小道具」 (写真もこのブログから)

豚の心臓を見せる

 学校の近くの肉屋さんと仲よくなると,豚の心臓を用意することもできます。
 本物の心臓は迫力があります。メダカの血液と心臓の動きを実体顕微鏡で見るというのもいいですが,やはり,哺乳類に勝るものはありません。
 この心臓は,授業後,「持って帰って食べる」という職員に分けてあげました。本来は,こういうふうに心臓の形のママ売ってはいけないようです。詳しいことは知りませんが…。
 蛇足ですが…心臓肉は自分でカットすることができません。保健所か何かのきまりで,あっちの方でカットしてから出荷しなくてはいけないようです。だから,教科書に出ているような図の通りにカットしてあるかどうかは来てみないと分からないのです。まあ,小学生だから,「筋肉の塊だ!」てことが分かればいいかなと思います。

これぞ心臓。肉だということが一目瞭然

心臓を切り開くと壁に厚みがあるのが分かる

太い血管

太い血管もついている

血管と心臓の接続部分には弁がある

心臓から出る血液の量

 人のからだには,体重の約8%(女性は7%)の血液があります。体重50㎏の人は,約4Lの血液があることになります。
 まずはこれをペットボトルで示します。ペットボトルには赤い絵の具を溶かしておきます。
 そして,それと同じペットボトルに水を入れて,2本分のペットボトルの水を全部流す実験をするのです。全員が体験できればいいのですが,2Lを20本以上集めるのはちょっと大変ですね。1年間かけて,計画的に集めないと無理かな。
 では,ペットボトル4Lをすべて流すにはどれくらいかかると思いますか? 
 やってみると1本が約25秒。だから,2本分で約1分。
 心臓は,このペットボトル水と同じくらいのスピード(1分間約4L)の血液を出しているそうです。

画像は「理科の教材をつくろう」より

 この授業のタネもまたネットに出ていて,いろんな方が実践しています。上掲ペットボトルの写真は,下記のHPより転載しました。
・血液の量と心臓のパワー(http://rika-kyouzai.sakura.ne.jp/kyouzai10.html

心臓のデータ

・心筋…100mL/収縮
・押し出す血液の量…4~6L/分 , 8000~9000L/日
・8000L/日÷4L/回=2000回/日
 つまり,血液は1日に2000回ほど体内を巡っている計算になります。

血液のデータ

血液の生産速度
・赤血球の寿命は100~120日
・2100億個/日 作られる。これは,240万個/秒にあたる。
・血管の長さ…10万㎞(地球2周半)

4 腎臓のはたらき

 新指導要領で,肝臓と腎臓を教えることになりました。もちろん,今までも教えていたのですが,これからは,教科書に太文字で記述されることになったのです。
 腎臓については,これまで,濾紙とロートで説明していただけです。ま,これとあまり変わりませんが,面白いものを見つけたので紹介します。

腎臓と膀胱の模型

 本③に出ていた模型です。プラコップ2つとマヨネーズの空き容器をシリコンチューブ(内径1mm)でつなぎます。で,このプラコップの中にコーヒーフィルターを入れて,赤い水を注ぐと,ちょっと色のついた水だけが出てくる…という仕組みです。そして,マヨネーズのキャップを開けて容器を押すと,おしっこのような水が勢いよく出てくる…おもしろいでしょ(写真上)。
 ここでは注ぐ水に注目します。これが面白い。何を入れてあるのだと思いますか。ここで映画を止めて,話し合いましょう。なんてね。
 実は,このペットボトルの水の中身は「薄く作ったお茶と細かく切った赤い毛糸」が入っているんです。どうです,おもしろいでしょ。これで,「おしっこは血から作られるけど,赤くない」ということが目に見えるというわけです。だから,この模型は,コップとマヨネーズ容器が大切なのではなく,この水が大切だと言うことになります。
 わたしが作った最終的なモデル(写真下)は,500mLペットボトルの2/3ほどを切りとり(底は捨てる),穴を開けたキャップにシリコンチューブを突っ込んで,マヨネーズにつなげました。

 本来の腎臓の働きは,もっと複雑です。
 それは次のデータを見ても分かります。
 まずデータ①を見てください。

これが最初に作った腎臓モデル
最終的には,こんなモデルに

腎臓のデータ

腎臓のデータ①
・重さ120g/大人
・浄化される血液の量
  100~200L/日(1升ビン100本分・ドラム缶)
  成人の血液の量は,4~5Lなので。20~40回/日,腎臓を通過する。

 腎臓はこんなにたくさんの血液を処理しているのです。しかし浄化された血液がそのまま尿になったとすれば,人はドラム缶1本分の尿をしなければならないことになります。水分もそれだけとらないとなりませんが,実際はそんなことはありませんよね。
 そこで,次のデータ②です。

腎臓のデータ②
・尿は1~2リットル,血液の1%
  水分,養分,塩分はもう一度,血管に戻る
・腎臓の構造単位=ネフロンの数は約100万コ
・尿細管の長さは,「全長255㎞×2腎臓」

 腎臓の構造単位であるネフロンは右図のような形をしています。ネフロンにある糸球体でこし出された原尿は、糸球体につながる尿細管を流れていくうちに,多量の水分と共に体に必要なもの(アミノ酸・ブドウ糖・ホルモン・ビタミン・無機質分)が再吸収して血液に戻します。
 浄化される血液の量と尿の量が違うのは,以上のような理由があるからです。

「一般社団法人内臓トレーニング協会」のHPより

まとめに…

 単元の最後には,ヒトの体全体のまとめと,ほかの動物との類似点や差異点をまとめる…という内容があります。要は,どのように習ったことをまとめるか。

カードを持って,体内(教室)を回る! 

 研究会仲間のKさんが,ブログで「こんなんおもろいんじゃないか」というのを提案してくれました。以下,そのブログを引用します。

Kさんの記事…動物の体のはたらき(2015年6月24日)
 この単元は結構難しいようで、これまでテストの点数的にはあまりよくなかったです。それというのもこの単元では新しい言葉がたくさん出てくること、血液のはたらきが難しいことなどが考えられると思います。とくに血液が酸素や二酸化炭素、養分やいらなくなったもの(老廃物)を運ぶわけですが、肺に行ったり小腸に行ったり腎臓、肝臓、体の各部分に行ったりします。そこでいろいろして来るのですが、そこが難しいようなのです。
 それで今年は血液のはたらきのところで新しい試みをしました。それは、子ども達自身が血液になり、いろんなところにいろんなものを運ぶということをやったのです。
 まず、理科室の6つの机(なるべくばらばらにした)に「心臓」「肺」「小腸」「かん臓」「体の各部分」「じん臓」と書いた紙を貼ったてこ実験器を置きました(べつにてこ実験器でなくてもいいのですが)。そして「酸素」「二酸化炭素」「養分」「いらなくなったもの」と書いたカードをあちこちに置き(酸素は肺に、二酸化炭素といらなくなったものは体の各部分に、養分は小腸に置きました)、血液の旅を始めました。
 まずは二酸化炭素を持って、心臓の机から肺の机に行き、そこで酸素と二酸化炭素のカードを交換します。そして心臓に戻ります。次に小腸の机に行き、養分のカードを2枚取ります。そして肝臓の机に行き、養分カードを1枚置きます。次に体の各部分の机に行き、酸素と二酸化炭素、養分といらなくなったもののカードを交換します。そして腎臓の机に行きいらなくなったものを置き、二酸化炭素カードを持って心臓に戻るのです。 これで最初に戻ったわけで、もう一度同じことをしました。

 これをよんだ私は,すぐに反応し,何度かKさんとコメントのやりとりをして,追試+アルファしてみました。

わたしのコメント
 面白いです。Kさんは,三態変化の説明のときにも,子どもたちを前に出して,分子運動をさせていましたよね。
子どもたちの体を使ったまとめは,おもしろいです。
 まだ,終わっていないので,マネします。
 そしたら,また,報告します。

その1 「食べもの」となる

 右のようなカードを準備します。
 一番左は,臓器の名前カードです。これを理科室の机に配置します。
 真ん中のカードは,子どもが自分たちで持ったり,臓器のところに置いておくカードです。このカードを交換しながら,肛門から出ていきます。
 袋に入っているのは,消化液のカードです。円筒形になっています。これを口や胃に待機している人たちが,投げつけます。

 理科室の机の上に,口,食道,胃,小腸(+血管)これは5枚,大腸,肛門と書いた札を立てる。口の机には「だ液の筒」,胃の机には「胃液の筒」を大量に置いておく。
 子どもたちは,食物になって,ポケットには「養分カード5枚」「水分カード3枚」を持って口に入っていく(机に近づいていく)。
 口にいる友だちから,「だ液の筒」をぶつけられ,自分のからだにあたったと思ったら,ポケットから「養分カード」を出して手に持つ。胃でも同様に「胃液カード」をぶつけられる。そして,養分カードや水分カードを小腸(血管)や大腸のカードの上に置いて,肛門から出ていく。
 ぶつけられるのを嫌がってよけた子は,「養分のカード」をポケットに入れたまま出てくる子もいて,「それじゃあ,やせちゃうよ~」と言ったりして,楽しかったです。

口や胃を通るときに,唾液や胃液を投げつる,投げつけられるみなさんです。これにあたったら,ポケットから養分カードを取り出して持つことができます。
小腸で養分カードを置きます。大腸では,水分カードを置きます。

 以下,子どもたちの感想です。
「自分がやってみると,改めて分かった。前は,だいたい分かっていたけど,今日,自分がやってみたことで,食べものの流れが改めて分かった。」
「自分で食べものの体験ができて,すごくわかりやすかったし,覚えられそうだった。」
「自分が食物になりきって,だ液や胃液を投げられました。なりきったので,分かりやすく,覚えやすいと思います。」
 これらは,いずれも女の子の感想です。一方,男子は,
「だ液をみんなにあてられて,とってもすっきりした。」
なんて感じです。
 どちらにせよ,とてもたのしい体験となりました。
 これ,お薦めです。

その2 「空気」となる

 肺の方も単純な方法ですが,同時にやってみました。
①酸素カードを5枚持って,口から入る。
②気管→気管支を通って,どちらかの肺へ行く。
③肺胞の血管の中にある「二酸化炭素カード」と「酸素カード」を交換する。
 このとき,たった1まいしか交換しない…というのが,ミソです。せっかく,酸素を持っていったのに…ほとんど持って帰るのか~という気分になります。
・「窒素カード」を20枚持っていく。
・肺からもどるときに「水蒸気カード」も持ってくる。
 これらは,いずれもテスト対策っぽいですが,より,事実に近くするための工夫です。ただ,あまりにも定量的なモデルにすると,面倒くさくなるかも知れないので,授業の楽しさのためにはバランスが必要になります。

こちらは肺呼吸のイメージづくり。酸素と二酸化炭素を交換して出てきます。がしかし,すべての酸素を置いてきてはいけないよ。

 子どもたちの感想です。
「酸素や二酸化炭素や養分や水分が,どこに行くのかが分かって,とても楽しかった」
「だいたい分かっていたけど,今日,自分でやってみたことで,空気の流れが改めて分かった」

その3 「血液」となる

 これは,Kさんも詳しく書いてくれているので,紹介するまでもないでしょう。これまで,付け足しでしかなかった「腎臓」への理解が高まりました。
 最後に,Kさんとの授業後のやりとりを紹介します。

Kさんのコメント
 ありがとうございますー。
 嬉しいなぁ。なんか嬉しいです。これは自分の予想が当たった、という嬉しさかなぁ。
 私も若い人達に教えようと思います。ありがとうございました。
わたしのコメント
 体を使った体の授業。実験などがなかなかできない単元なので,これはいいです。
 ブログにも紹介しました。
 肺の話も,後ほど紹介します。
Kさんのコメント
 ブログ見ました。
 だ液と胃液を筒にしてあるのがいいですね。確かにカードのままでは飛びません。また養分カードなどのきれいさはさすがですね。私のは字が真ん中になかったり全部白だったりと、まささんの仕事の丁寧さが分かります。
 ありがとうございました。
 どちらも,たのしい体験となりました。
 これ,お薦めです。

 こんなわけで,研究仲間がいるというのは,なかなか刺激的なことなんですよね。

まとめにピッタリ! 内臓エプロン

内臓の大きさ説明エプロン

 そこで,人体模型人体模型エプロンの出番です。
 理科室にある人体模型は,小学生よりも相当小柄なからだです。また,最近理振で入ってきた人体模型はさらにコンパクトすぎて実物の大きさは分かりません。位置を見るためのパズルのようなものです。
 ここはぜひ,仮説社で販売されている「内臓の大きさ説明エプロン」(写真上)を着用して教室へ行きましょう。これはなんといっても実物大なので,その大きさを実感することができます。小腸なんて伸ばしたらまた元に戻すのが大変です。が,そこはいろんな子がいます。休み時間になってもしっかりと収めてくれる子がいることでしょう(写真は仮説社のHPから)。

手書き内臓エプロン

 さらに時間がある場合は,簡単な内臓の絵がプリントされているビニル製のエプロンに,書き込んでみましょう。
 このエプロンはとてもうすくて,値段も約150円。一人一人に買ってあげられる値段です。わたしは,100人分がロールになっている1万円のものを購入しました(使い捨てのポリエチレン手袋みたいにつながっている)。
 ただ,食道がわかりにくいのと,腎臓が書かれていないので,それは書き足しました。
 授業をしてみて,「まとめの時ではなく,はじめからこのエプロンをノート代わりに使ってもおもしろいかも…」と思いました。最近の教科書の後ろには,紙製の人体模型がついているので,それをまとめにしてもいいから…です。
 まだできてないのに,すぐにエプロンしたがるのはなぜか男の子に多いのでした(^^;) 

油性マジックで臓器の名前やはたらきを書き入れる

まとめには 煮干しの解剖を

煮干しの解剖

 そして締めは「煮干しの解剖」です。タモリ倶楽部ですっかり有名になったわけですが,ネットにもたくさんの実践記録が載るようになりました。
 本⑤さえ手に入れればすぐにできます。台紙もネット上で手に入ります。子どもたちは大喜びですので…。みんなでできるのがいいです(写真は,2011年度の子どもたち)。

参考サイト煮干しの解剖資料室(https://www.niboshinokaibou.com/)
 このサイトには,子どもたちに配布する貼り付け台紙や,解剖のための手引きなどが,無料でダウンロードできるようになっています。

煮干しの胃の中を調べる

 さらに,もし時間に余裕があれば,胃の中のものも見て見ましょう。
 手順は次の通りです。
①胃を取り出します
②胃の内容物を掻き出します。
③少量をスライドガラスにのせ,水を1滴垂らしてふやけるのを待ちます。
④カバーガラスをかけて,顕微鏡で見てみましょう。

(写真はいずれも150倍)
以上,写真はhttp://rika-kyouzai.sakura.ne.jp/kyouzai2802.htmlより。
本実践は本⑥を参照のこと。

 どうです,やってみる価値ありでしょ。
 からだの単元でこれができなったら,次の「生き物のつながり」の単元のまとめに2時間とってやるといいでしょう。

参考にした本

①小林幸雄著『「教えて考えさせる」理科授業の改革』(明治図書,2009)
②小林幸雄編著『理科の授業はこう変わる』(明治図書,2008)
③全養サ書籍編集委員会編『からだといのちを感じる保健教材・教具集』(農文協,2009)
④数見隆生著『授業書的発想による保健指導の教材づくり』(ぎょうせい,1988)
⑤小林真理子著『煮干しの解剖教室』(仮説社,2010)
⑥エコ実験研究会編『環境問題を考える自由研究ガイド』(東京書籍,2008)
⑦科学教育研究協議会編『理科教室』(バックナンバー)

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