金属が溶けた液体から出てきた固体の正体

理科・科学

 卒業前の6年生の授業を,進学先の中学校の先生方に公開するというイベント(小中連絡会の余興だね)。これ,よせばいいのに,誰が考えたのか…(失礼,m(_ _)m)。
 それでわたしの所にその授業公開のお役目が回ってきた。6年担任をしているわけではないのだが,「あ~,この子たちが中学生に来るのね~」と授業の様子を見てもらうだけなので,授業者は誰でもOKなのである。ついでに同じ中学校区の小学校の先生方も授業の参加している。わたしは「それならば少しくらいは,見に来る先生方も少しは学べる授業をしよう」ということを思い立ち,6年児童の雰囲気だけではなく,知識構成型ジグソー法の紹介も兼ねた授業をすることにした。
 単元は「水溶液の性質とはたらき」というところ。本時の課題は「金属がとけた液から出てきた固体は,もとの金属と同じものだろうか?」というもの。

以下の資料は,公開授業後に,本校職員に配布した「報告書&わたしの感想」である。


水溶液の性質とはたらき・授業振り返り(第8時)

直小学校 尾形正宏
2016/01/31

 先日の「小中連絡会」で公開した授業について,まとめておきます。今回の授業にも当然ながら反省すべき点がたくさんあります。授業をやりっ放しで放っておくと,忘れてしまって,また同じことをしでかしそうなので,自分のためにまとめておきます。まあ,どなたか一人でもこの「振り返り」がお役に立てれば幸いです。
 前時までに,
①塩化水素水溶液(教科書では塩酸という)にアルミニウム・マグネシウム・鉄を入れると,激しく泡を出して溶ける。
②その金属が溶けた液を蒸発させると,粉(固体)が出てきた。だから,金属は,あわになって出ていったわけではない。
③金属を溶かしたときに出てきたあわは,「水素」という気体である。
を確認してあります。
 なお,以下の文章の「○印」は事前に書いた私の「授業進行雑案」での言葉です。

課題提示

○前時までに,写真(上図)のような実験をしました。今日は,蒸発させて出てきた固体(粉)について,調べていこうと思います。
○今日の課題を書きますので,このプリントに書いてください。書いた人は,予想とそのわけを書きましょう。

金属がとけた液から出てきた固体は,もとの金属と同じものだろうか?

予想

○プリント(資料→p7~p8)に予想とその理由を書く。

発表(簡単に聞く)

○机間巡視をして,主な予想とその理由を数名に簡単に聞く。
○予想分布を確認しておく(正解が多数派となるだろう)。

 ここで,私の予想外のことが起きました。それは,「金属である」と予想する子の方が,多数派だったということです。
 結局,最終的には,
・金属である…10名
・金属ではない…1名
となり,圧倒的に「溶かす前の金属と同じものである」と予想する子が多かったのです。
 実はこの授業計画を考える時に,
「この進め方だと水溶液を蒸発させて出てきた粉を見ただけで,金属じゃないと分かってしまって,あんまり面白くない授業になるかもなあ」
と思っていました。だから,「蒸発乾固する(粉を取り出す)前に,予想させることはできないか」という可能性も考えてみたほどです。だって,出てきた粉は,どう見ても,金属光沢なんてないからです。
 ところが,子どもたちの予想は違っていました。「金属を入れた液から出てきたんだから金属なんだろう」って思ったんでしょう。「色が金属に似ているから」という子もいたので,金属というものについての理解がないのかも知れないと思いながら,授業を進めました。

実験方法を考える 今回は省略する(時間の関係で)

 実験方法は,元々考えるつもりはありませんでした。時間がかかるからです。
 でも,「予想外の子どもたちの予想分布」を知った私は,「このまま実験しても,金属かどうかの判断は,子どもたちにできないかも知れない」と思って,「金属って,どんな性質があるのか」と問うてみました。すると,やはり,すぐには答えられませんでした。せいぜい「磁石につく」くらいしか,出てこなかったのです。
 子どもたちには「金属」についての概念が殆どありませんでした。たぶん,それはこの学年特有ではなく,今のカリキュラムの問題だと思います。以前から,「教科書を教えているだけでは金属という概念は全く育たない」ということは言われていましたから。ま,それにしても,「電気をよく通す」くらいは,言ってほしかったです。
 わたしは,今年の3年生には,いろいろな金属(5種類以上)を見せて「金属の性質」について一般化して教えました。一応,金属の性質として「電気をよく通す」「熱をよく通す」「金ピカ銀ピカである」「いろいろな形に変えられるけど強い」などをあげておきました。が,しかし,これも,じっくりと取り組んだとは言えず,定着しているかどうかは疑問です。
 さて,本時では、以下のようなことを確認して板書し,実験に進みました。
  金属
  ・電気をよくとおす。
  ・磁石につく(ただし,鉄だけ)
  ・金ピカ・銀ピカである。

知識構成型ジグソー法で進める

エキスパート活動(→後掲資料)

○実験し,結果をまとめる。班のメンバーの「1はマグネシウム」「2は鉄」「3はアルミニウム」がとけた液を調べてもらいます。プリントにそって実験をして下さい。移動,準備,プリント配布。

 <金属が溶けた水溶液を蒸発させる実験>と同じグループで実験をしてもらいました。実験方法はこちらで準備したものです。3種類の金属とも3つの実験をしてもらいました。指示書には,同じ実験もあるし,ちがう実験もあります。
 予定通り10分ぐらいでできました。
 ただ,「水にとけるかどうか」の実験で,結果に「とけない」と書いているグループがあってビックリしました。試験管を軽く振ることで溶けることは分かると思うのですが,どんなふうに実験したからそう書いたのか,よくわかりませんでした。
 結論は,いずれのグループも「もとの金属ではない」となったので,よかったです。
 「電気を通すか通さないかという実験」も1グループだけさせましたが,実は,この実験には,少しまやかしがあります。というのも,鉄粉でもうまく電気を通さないからです。粉になっていること自体,すでに電気を通しにくいんです。ま,確信犯です(^^;;)

ジグソー活動

○元の班にもどって,さっきの実験で分かったことを出し合いましょう。そして,今日の課題に対する班の考えをまとめて,ホワイトボードに書いてください。

 ジグソー活動では,3つの実験結果を持ち寄って,課題に対するまとめを考えてもらいました。ここでは,個別の実験で出てきた結論を一つの言葉にまとめることを期待しました。
 結果,4班の内,2つの班で「金属の性質をしめさなかったので…」「金属の特徴がなかったので…」という言葉を使ってまとめていました。時間がなくて,うまくまとめられなかった班も1班ありました。
 ジグソー活動では,班の子どもたちの会話が,なるべく,<普通の会話>になるように指導したい(というか,指導さえもいらないくらいに…)のですが,彼らには,これまでの話型が身についていて,「順番に実験結果を一つ一つ話していく」という班ばかりでした。「知識構成型ジグソー法」本来のあり方としては,もっともっと自由に交流し,言葉をはさみ合いながら,一つのことを作っていくような感じにもっていきたいんですがね。要するに,話し合いの中に,<休み時間に何をして遊ぶか,昨日のテレビ番組を見てどう思ったかなどについて,仲のいい者同士が話しているような雰囲気>が出てくるといいんです。そのためにはこれまでの「型から入る」という指導が,かえって足かせになっているとも言えますが…どうなんでしょうかね。

クロストーク

 クロストークはやっぱり難しいです。
 今回も,4つの班が発表して終わり…でした。
 ここでは,もう一度,クラスで何かを作り上げていくダイナミックさが欲しい。そのためには,課題がもっと難しくないといけないのかも知れません。今の私の指導のままでは,「どの班がよりよい表現だと思いますか?」くらいしかないからなあ。これは,私の大きな課題です。
 このクロストークを有効に動かすためには,半(はん)分(わ)かりの状態でも自由に意見を言える雰囲気が集団に必要になります。日ごろから,そういう授業が大切なんだと改めて思いました。

まとめ

○自分の言葉でまとめを書いください。
○時間があれば,書いた子に発表してもらう。

 今回も,自分で「まとめ」を書いてもらいました。授業によっては「振り返りを書いてね」「わかったことを書いてね」ということもあります。
 中には,なかなかかけない子どももいるので,書けた人から,数名に読んでもらいます。書けなかった人は,出てきた言葉を使ってマネして書けばいいんです。
 全体でのまとめをしないのは,授業者であるわたしが,子どもたち一人一人の<その授業での分かり具合>を知りたいからです。子どもたちがノートに書いた「まとめやわかったこと」が,私の思ったとおりじゃなかったら,それは,私の指導法などに問題があるわけです。あまりにも高度なことを要求していたのかもしれないとか…。
 先生がまとめて板書し,それをノートに写すという行為は,単なる知識の押しつけになります。わかったことやまとめは,子どもたち一人一人の中にあると思います。子どもたちは,教師が教えようと思ったことを学習するのではなく,学習したいと思うことを学習しているからです。それらに齟齬があるときには,指導法や教材を見直す必要があるわけです。
 子どもたちがプリントに書いたまとめを見ると,「金属の性質や特徴」という言葉を使っている子が,10名。そうじゃない子が1名でした。概ね,今日の学習は理解できたといえるでしょう。

あとかたづけ

 当初は,この時間もとってありましたが,今回は、次の発展問題について振ってみました。
 最後に,発展問題として、
「塩化水素水溶液(塩酸)にアルミニウムを入れたら,あわになって水素が出ていきました。その液体を温めると水だけが蒸発して,固体が出てきました。さて,この固体に名前をつけるとすると,何という名前でしょうか?」
と聞いてみました。約1分くらい,班で話し合っていましたが,何人かの子から,「塩化アルミニウム」という言葉が聞こえてきました。でも,手を挙げてまでそれを発表してくれませんでしたが,なかなかスリリングでおもしろかったです。
 あとで,モデル図を使って,教えてあげたいです。

整理会(わたしのノーミソテープから)

 なんと,授業について整理会があるということでちょっとビックリ。それなら,少しくらい資料を用意しておけば良かったです。

授業者(わたし)より

 「知識構成型ジグソー法」を使ってやってみた。
 「金属は…」などと,一般化する場合は,せめて3種類の物質を取り上げて見せる必要がると思っている。1種類の実験だけ見せて「金属は…」などとまとめるのは,押しつけでしかない。たとえば,4年生の教材に「あたためると金属も体積が大きくなる」というのがあるが,真鍮の球の実験だけで結論づけるのは,乱暴すぎるし,押しつけだと思う。
 しかし,3種類の実験をするだけでも時間がかかる。そんなとき,今回のような取り上げ方もあるということだ。そのあたりは,知識構成型ジグソー法とは,目的がちょっと違うと思う。
 金属の概念があやしかったので,ちょっと聞いてみたら,やはり…だった。小学校では,金属について十分学んでいないことが問題だ。これはカリキュラムが悪い。

質疑応答

参 こんな授業パターンははじめて見た。エキスパート活動では,それぞれのグループがやっていることが違うので,元の班にもどったときに説明せざるを得ない。そこが,この方法のいいところだ。(若山小)
参 この方法の教材が,HPにも出ている。私たちも,研修で学んだ。埼玉県など,県をあげて取り組んでいるところもあるらしい。クロストークが難しい。(飯田小)

尾 この方法を提唱し,研究を進めて来たのは…昨年亡くなったんですが…東京大学の三宅なほみさんです。CoREFというふうに検索すると,先ほどのサイトが出てきますので,是非見てください。これをやると,お客さんがいなくなるというので,高校で盛んに取り入れているようです。

参 3つの班で違ったことをやっているので,一つ一つの実験結果がうまく伝わらずに,「知識」として定着しないのではないかという面もあると思いますが…。

尾 何を大切にするかで,違うでしょう。ジグソー法の実践記録や解説書にも,「知識」はやや落ちるかも…と書かれていました。ただ,今求められている力はなんなのかと考えると,一つ一つの実験結果を覚えていることは,殆ど必要ないと思います。むしろ,新たに「塩酸に亜鉛を入れると…」と聞かれて,「亜鉛については実験していないので分かりません」と答えるのではなく,獲得した概念で予想を言える方が,よほどいいと思います。それは,知識を測るテストとは,違う力でしょう。メダカの雄雌をやったからといって,タイの雄雌はわかりません。そんな知識を教えて,何になるのか…というんです。それをテストして何をしたいのか。

参 実験のやり方を見ていましたが,ピペットの扱い方など,とても慣れているなあ,安全にやっているなあと思いました。よく実験をさせているんだなあと思いました。中学校でも,金属は磁石につくと思っている子がいっぱいいます。金属についての概念ができていないのは同じです。(緑丘中)

今後の課題(やりたいこと)

「金属」という概念をしっかり教えることが必要。そのためには,3年生の電気の単元の前に,思い切って時間を取り,金属についての授業を組むことが大切。
塩化水素水溶液(塩酸)という呼び方をすることで,残った物質が何なのかが,ある程度予想できる。最初に,水素が出ることをやっておいてから,残っているのはなにかを考えさせる授業プランも考えてみたい。
③知識構成型ジグソー法的アプローチは,3つの実験を同時にできる良さがある。授業時間を有効に使いながら,科学の一般的な法則をつかませるためにも,どんな単元でこういうパターンが可能かを追究していきたい。
④日頃から「言いながら考える」「みんなで徐々に正解に近づく」ような授業をしてみたい。

  ちなみに,上に書いたことは,わたしの〈やりたいこと〉であり,決してみなさんが〈やらなければいけないこと〉ではありません。強制からは,何も生まれません。

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