尾形正宏
2011/10/15
以下の文章は,実際,Aさんが経験したできごとです。というわけで,ノンフィクションです。
あなたの隣には,Bさん,Cさんのどのタイプがいますか?
【質問1】
Aさんは或る時,B先輩から
「お前はもっと大人になれ」
と言われました。
でも,Aさんはすでに20歳をすぎており,それどころかもうすぐ50歳にもなろうとしています。なのに「大人になれ」とはおかしいことをいうものです。おそらくB先輩の<大人>という言葉には「20歳をすぎている」とは違った意味があるのだと思います。
それでは,大人同士で「もっと大人になれ」と言うときの,<大人>とは,どんなことを指しているのでしょうか?
みんなで話し合ってみましょう。
〈サークルで出された考え〉
あきらめろ(無理なことはするな),だまって言うことを聞いておけ,落ち着いて,心を広く持て
【「おとな」とは?】
「大人」を『広辞苑・第五版』(岩波書店)で調べてみると(実際は電子辞書)次のようなことが書かれていました。
おとな【大人】
『広辞苑・第五版』(岩波書店)
①十分に成長した人。(元服または裳着(もぎ)が済み)一人前になった人。成人。源氏物語(桐壺)「―になり給ひて後は、…御簾(みす)の内にも入れ給はず」。「体だけは―なみだ」⇔子供
②考え方・態度が老成しているさま。分別のあるさま。源氏物語(若紫)「そもそも女は人にもてなされて―にもなり給ふものなれば」。「あの青年はなかなか―だ」
③女房などの頭(かしら)に立つ人。更級日記「我はいと若人にあるべきにもあらず、また―にせらるべきおぼえもなく」
④子供がだだをこねたりせず、おとなしいさま。「いい子だから―になさい」
⑤天然痘の異称。〈日葡〉
実は,B先輩(校長)は,教諭のAさんが組合活動していたり,学力調査に反対している姿を見て「もっと大人になれ」と言ったのでした。
だから,このときのB先輩の<大人>の使い方は,
②自分の考え方に分別を持て
④子どものようにだだをこねないで大人しくしろ
ということを意味していたのだと考えられます。
一般に,われわれの社会では,<大人になる>という言葉を,
・あまり波風立てないで行動する態度
・回りの環境に合わせて生きていく態度
・自分の主張をしないという姿勢
・長いものに巻かれることをよしとする姿勢
ができた人に対して使っているようです。
しかし,これが本当に人間として「分別」を持った姿なのでしょうか?
疑問に感じるのはわたしだけでしょうか?
【質問2】
Aさんは,ある人から次のような短い手紙をもらいました。
A先生
いろいろありがとうございました。
祭礼時にはおいしい料理,ビール…お礼がおくれました。(申し訳ありません)
地層の見学,学習,本日無事終了しました。
これまでの学習の中でトップクラスの指導だったと自負しています。
今後ともご指導ご支援願います。
この差出人はどんな人だと思いますか? A先生との関係を想像してみてください。
〈サークルで出された考え〉
同僚,研究会仲間,Aさんより若い人
【本当の<おとな>とは】
先の手紙は,ちゃんとした用紙に書かれたものではなく,そこら辺にあったわら半紙にマジックで殴り書きしてあり,その紙がAさんの机に置かれていました。
この手紙の差出人は,Aさんの元上司(C校長)です。C元校長は,Aさんと直接話をしようと思って旧勤務校によったのですが,Aさんが出張でいなかったために,そこら辺にあった紙とマジックで「お礼」を書いたのでした。
さて,あなたの考えは,あたりましたか?
Aさんは,現在再任用で働いておられるC元校長の求めに応じて,C氏の勤務先近くの地層見学の場所を紹介したり,Aさんが以前授業用に作成したプレゼン資料などを渡したのでした。C元校長は,Aさんからもらった情報や資料を料理して地層の学習を終えたことを,こうして手紙で伝えてきたのです。しかも,自分の現役時代を振り返り「これまでの学習の中でトップクラスの指導だったと自負して」いると感想まで述べています。
Aさんは,これを読んで,つくづく思ったのでした。
このC元校長の姿こそ<大人>ではないか。
元上司であることを威張ることなく,常に学ぶ姿勢を失わずに子どもたちと接し,上下関係なく,感謝する心を忘れていない―そういう姿こそ<大人>だと思ったのでした。
Aさんは,C元校長と一緒に勤めていたころも「もっと大人になれ」と言われたことはありませんでした。管理職や○○主事への誘いは何度もありましたが,Aさんが断ると「仕方ない。そんな生き方もあるな」という感じでした。
当時のAさんは,C校長の全面的な信頼を得て,のびのびと職場で働くことができたのです。
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