Kさんの実家から出てきた大量の古書

レポート綴

ダンボール1杯の古本

 ある朝,学校へ行くと,K先生が「実家の蔵にいっぱい古本があった」「だいぶん捨てたけど,もったいないし,尾形さんが好きそうなので持ってきた」といって,ダンボール一箱分の古本を持ってきてくれました。わたしはとても好奇心が刺激されたのですが,授業があったので,さすがにすぐに見ることはできませんでした。が,教室に向かいながらも,何か掘り出し物がありそうで,考えただけで気分はウキウキ。そして,放課後,そのダンボールを自分の席の近くに置いてじっくり見てみたのです。

『勅諭』…小さな手帳くらいの本

 まずは,これが目にとまりました。発行年と文章を読んで「これは『軍人勅諭』に違いないと思ってネットで調べてみました。はやり予想通り。『軍人勅諭』は古本屋で2000円くらいでした。
 その最初の文章は,こんなんからはじまります(句読点は適当に打ってある)。

我国の軍隊は世々天皇の統率し給ふ所にそある。昔,神武天皇躬(み)つから大伴物部の兵(つわもの)ともを率ゐ中国(なかつくに)のまつろはぬものともを討ち平け給ひ,高御座(たかみくら)に即(つ)かせられて天下(あめのした)しろしめし給ひしより二千五百有余年を経ぬ。此間世の様の移り換るに随ひて兵制の沿革も亦屡(しばしば)なりき。古は天皇躬つから軍隊を率ゐ給ふ御制(おんおきて)にて時ありては皇后皇太子の代らせ給ふこともありつれと大凡兵権を臣下に委ね給ふことはなかりき。

 原文や現代語訳は,ネットで検索すればすぐに読むことができます。日本軍人になったつもりで,一度,2700文字を読んでみませんか。

『町村教化指導者必携』…これも手帳くらいの本というか手帳

 中央教化団体連合会発行の手帳です。発行は昭和10年(1935年)となっています。
 内容はいろんな資料と,部落などの常会の記録が書き込めるようになっています(5年分ある)。 
 全く書き込まれていないので,必要に応じて買ったというよりも,ある立場(町村教化指導員?)になったから配布されたものではないかと思います。定価は30銭です。
 さて,ここにおさめられている資料がおもしろいです。こんなにたくさんあります。

・皇祖の神勅(日本書紀 巻第三)
・橿原遷都の詔(日本書紀 巻第三 神武天皇巳未三月七日)
・教化ヲ四方ニ布クノ詔(日本書紀 巻五 崇神天皇十年七月二十四日)
・五箇条の御誓文
・市政及び町村制上諭
・憲法発布勅語
・憲法上諭
・教育ニ関スル勅語
・戊申詔書
・国民精神作興ニ関スル詔書
・昭和三年十一月十日即位礼当日紫宸殿ノ御儀ニ於テ賜ハリタル勅語
・御大礼完了後ニ於ケル教育ニ関スル御沙汰
・教育ノ任ニ在ル者ニ対シ下シ給ヘル勅語
・国際連盟脱退ニ関スル詔書
・明治天皇御製
・教化振興章(中央教化団体連合会選)
・報徳訓,貧富訓
・二宮翁道歌
・日本精神作興歌
・国民歌
・御下賜金の恩命を拝す
・文部大臣諮問事項と答申
・教化町村指導要綱
・「教化指導者の心得べき国民作法一斑」抜粋
・国民年中行事一覧

 皇祖の神勅からはじまる手帳ってすごいです。「教化町村指導要綱」を読むと,地方の町村が教化指導者を格として「模範的郷土を建設し聖恩の萬一に奉答せんとする」方向で邁進しますとうたっております。その中心となっている中央教化団体連合会という組織について調べてみました。
 文部科学省のサイトに「学制百年史」というページがあります。ここでは,幕末維新期の教育から書かれています。この本は,明治五年の学制頒布から数えて百年目の昭和47年にまとめられたものだそうです。その中の
  第一編 近代教育制度の創始と拡充
   第四章 戦時下の教育(昭和十二年~昭和二十年)
    第八節 社会教育
     一 社会教化活動の強化
の一節より引用します。

国民精神総動員運動の展開
戦時下の社会教育の体制については大要二つの傾向を指摘することができる。一つは戦時態勢に即応した社会教化活動の強化であり、今一つは社会教育の体系的整備である。前者は日華事変勃発直後の国民精神総動員運動の展開から、隣組常会指導に連なる線であり、後者は教育審議会の答申を中軸として青年学校制度や映画法等に見られる制度的整備の方向である。
文部省は、すでに、大正期の十年代以降、国民に対する教化活動を社会教育上重要な施策と認めて、教化団体の育成を図ってきた。特に、昭和四年九月教化総動員運動の開始によって、文部省はいっそう教化活動を推進する方策をとった。三年には、財団法人中央教化団体連合会が設立されていた。
しかし、日華事変の勃発によって、国民に対する教化活動をさらに拡大強化する必要が生じてきた。そこで政府は十二年八月二十四日の閣議で「国民精神総動員実施要綱」を決定し、挙国一致、尽忠報国、堅忍持久をスローガンとして、日本精神の昂揚を期する国民運動とするとともに、国策遂行の基盤たらしめようとした。すなわち、実践事項としては、日本精神の昂揚、社会風潮の一新、銃後後援の強化・持続、非常時財政・経済政策への協力、資源の愛護等を取り上げて、内閣・文部省・内務省が計画主務庁となり、攻府総がかりでこれが実行に当たるとともに、外郭団体としては国民精神総動員中央連盟を結成して、民間の協力体制を整備した。文部省では事務局を社会教育局に置き、運動の全般を掌握するとともに、特に教化面の積極活動を推進した。-引用終わり-

 「社会教化活動」とは「隣組常会指導に連なる」ものであり,反面,それは「お互いに,お隣の見はりをする」「非国民を見つけ出す」ということにもつながったのかも知れません。「教化」という言葉を今はあまり使いませんが,その意味をみると「人を教え、よい影響を与えて善に導くこと」(岩波国語辞典)とあります。「よい影響を与えて善に導」いた結果があれだったのですから,きれいな言葉には十分注意をする必要があります。
 教育基本法の「改正」も間近に迫りましたが,ここでも「きれいな言葉」が飛び交っています。国民の皆さんが,歴史をしっかり学ばないと,本当に昔進んだ道を行きそうでこわくなります。
 世界史も日本史もしっかり教えましょうね。
「きれいなバラには棘がある」ということわざも…。

『日本之少年』という雑誌…たくさんありました

 発行所が「博文館」。ここに持っている第六巻第十四号は,明治27年7月15日発行とあります。そんなわけで,私ではちょっと読み切れません。というか,目的意識をもって「何かを調べるために読む」ことをしないとね。
 この『日本之少年』について,ネットで見つけたのはせいぜい『大衆少年雑誌の成立と展開―明治期「小国民」から大正期「日本少年」まで―国文学」第46巻6号 2001年5月号』(2001.5.10学燈社)の記事を見つけたくらいです。残念ながら,『日本之少年』については,『少年世界』という雑誌に統合されていった一雑誌ということしか分かりませんでした。

まだあるらしい

 まだまだたくさんの本があります。これらを全部読んでいるヒマもないし,上で書いたように,ある「目的意識」をもって調べないと,旧仮名遣いや昔の漢字などにつき合っていられません。でも,捨てるのは絶対もったいないので,興味のある人は,どんどん読んでみてください。まだ蔵にあるそうなので,それも持ってきてもらいます。
 明治・大正・昭和初期の時代を考察したい人。これらの古本にどんな使い道があるか考えてみてはいかが。

2006.12.03 記

後日談…8年後,古書は大学で再利用することに

 その後,このネットでこの記事を読まれた大学の先生方(斉藤利彦先生と梅野正信先生)がメールを下さり,なんと,古書を引き取りに珠洲まで来ていただくことになりました。わたしたち珠洲たのメンバーと一緒に,Kさんの実家の納屋に入り,そこにあった大量の古書を段ボールにつめて,大学で再利用してくださることになったのです。ダンバール箱は,20箱以上はあったでしょうか。
 こうして,ネットで発言することで,いろんなつながりができてビックリします。
 ちなみに,梅野先生は,わたしがこのサイトの記事で梅野先生の書かれた『実践 ハンセン病の授業』(エイデル研究所)を取り上げていることもご存知でした。その後,先生とは,ハンセン病に関する資料をいただいたりしていました。

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