「奥能登国際芸術祭2020+」私的参加報告記

奥能登国際芸術祭2020+ さいはての街・珠洲

 コロナ禍のため,一年遅れで開催された「奥能登国際芸術祭2020+」(2021年9月4日~10月24日,11月まで延長に)。奥能登と銘打っていますが,作品展示会場はすべて珠洲市内です。『広報すず』(2022年5月号)によると,全期間の来場者数は4万8973名でした(コロナ禍のために前回よりは少なかったと思われる)。珠洲市の人口が1万3000人足らずであることを考えると,十分な入場者だったんだろうと思います。

 芸術の世界はよく分からないのですが,こういう現代アートっぽいものはもともと好き。わたしは(神さんと),のべ4日間ほどかけて,すべての作品を見て体験してきました。そこで,自分の備忘録を兼ねて,私的芸術祭報告を書いてみたいと思います。一応,わたしのお気に入り順で紹介しますね(お気に入りといっても,それはベスト10くらいまでです。それ以降は地区別に)。

なお下記報告記の中にある青色文字は,芸術祭後に発行された『地産地消文化情報誌・能登№45』(2021年秋号)より引用した文章です。

第1位 02.スズ・シアター・ミュージアム「光の方舟」

 主催者側が,今回の芸術祭で一番力を入れていた場所らしいです。何人もの芸術家や珠洲市民が関わっています。
珠洲市内の家々の蔵や納屋などで使われずにしまわれていた民具や日常生活の品々を「大蔵ざらえ」として収集(約1500点)。それらが今,8組のアーティストによって現代アートの作品として蘇り,…(中略)…「世界で初めての劇場型民俗博物館」として生まれ変わった。(p.10)
 第一回目(9月6日)の見学で真っ先に行きました。9月当初,石川県内でもマンボウが出されていたので,建物の中で見ることのできる作品は,この作品くらいでした。
 中では,定期的に光と音の映像が流れます。結構長い上映時間です。知らないで,これを見ないで出ていく人もいたらしいです。1時間くらい待っているとちゃんとやってくれるのでじっくりとご覧下さい。
 これは,今後,連休などの期間に公開するそうですので,珠洲市のHPで確認してください。
 とにかく,見所いっぱいで,いろんなことを考えさせられる展示でした。

中にある大川友希さんの作品
小さな部屋にも,素敵な作品が。

第2位 44.黒い雲の家  カルロス・アモラレス

 上黒丸地区にある古い大きなおうちの玄関に入った途端に,黒いチョウチョが一面に飛んでいて,とても迫力がありました。およそ3万匹のチョウチョが用意されたそうです。
 座敷には,お祭り用の輪島塗の赤御膳が並べられているのですが,なぜか床の間には「南無阿弥陀仏」の掛け軸が。
 戸を開け放つと,これだけ広い空間が取れるようにつくられた家のつくりも懐かしい。
作者のカルロス・アラモレスさんは,自分の祖母を亡くして以来,葬送として,この「黒い雲」と名付けたインスタレーションのシリーズを各地で展開してきた。(p.74)
 人の住まなくなったこの家の中の蝶。あなたは何を感じますか? (蝶は土間も4つの部屋も廊下にも飛んでいます。写真はその中の一部屋のみ) 

第3位 03.息づかい  キム・スージャ

 外浦海岸に設置された大きな鏡。とってもきれいな鏡なので,そこに映っている景色を見ていると「鏡像」だということを忘れそう。陸を見ながらも海の様子も見えるという不思議な体験ができる。
 駐車場からこの海岸に来るまでの間に,もうひとつ小屋を作品にしたものもあった(下左の写真)。
鏡を「存在を概念的にとらえるツール」とするキムスージャさんは,長年,鏡面を素材にしたインスタレーションを発表している。…中略…タイトルの「息づかい」は,海の,自然環境の,地球の,宇宙空間の「息づかい」か。(p.16)
 いろいろな角度から鏡を見てみたくなる作品。日没の時間に来てみるのもいいかもしれない。これって,芸術祭終了後も設置してあるのかな。

神さんとツーショット。後ろにもいるけど。

第4位 07.クジラ伝説遺跡  トゥ・ウェイチェン

 上で紹介したキムスージャさんの作品(№3の息づかい)の近くに「巨鯨魚介類慰霊碑」という変わった慰霊碑が立っています(下左の写真)。この碑は文字通りクジラを祀っているのですが,それくらい,この外浦のあたりには「クジラ伝説」が残っているということです(慰霊碑にも書いてあった)。
 その伝説にヒントを得て,台湾のトゥ・ウェイチェンさんは,元小学校の運動場にクジラの全体骨格の化石が出た!という発想で作品を作りました。個人的に,こういう発掘ものは好きなので,これを第5位にしました。外で展示してあるからこそのリアル感がよかったです。
作者は考古学的発掘と現代生活を融合する作品や現代的な道具をあしらった架空の遺物の作品などで,時間の概念を問う。(p.19)

まるで本当の化石発掘現場

第5位 12.記憶への回廊  山本 基

 前回の芸術祭でも使われた元小泊保育所の壁や天井や廊下を青色で下地を塗り,そこに白色で迷路を作っています。異空間に迷い込んだ気分になります。突き当たりの部屋には,塩でできた天国への階段のようなものが作られていて,途中,なにかの影響でその階段は壊れています。この塩の階段は,厚さ30センチの塩のブロックで作られているそうです。
頂上部分には,今年9歳になった娘さんが珠洲の塩田で体験制作した塩が盛られている。…(中略)…(山本さんは)若くして亡くなった妹さんの葬式で,浄めの塩を目にし,塩を用いたインスタレーションを思いついたという。(p.29)

使用された塩は7トン

後日談:2023年5月5日,珠洲市を震源とする最大震度6強の地震がありましたが,本作品は崩れませんでした。

第6位 43.チームKAMIKURO  

 前回も会場となった旧上黒丸小中学校の体育館と横にある運動場(校庭?)には,いろいろな作品が展示されていました。ユニークなビデオも流れていましたが,全部を見ることはできませんでした。
前回の奥能登国際芸術祭(2017年)でそれぞれ作品を制作した中瀬康志さん(美術家),竹川大介さん(文化人類学者),坂巻正美さん(彫刻家)が今回はメンバーを増やし,「チームKAMIKURO」として参加した。彼らは2012年から珠洲市若山エリアで最も山手に位置する上黒丸地域に注目し,ここを拠点に継続的に活動している。/地域に埋もれている「人」や「モノ」,「コト」を美術的な視点で掘り起こし,近代化によって希薄になってしまった里山と里海の不可欠な関係を,山から再考することを試みてきた。(p.71)

学校に眠っていたいろいろなモノ

第7位① 39.作品名はないみたい  ディラン・カク

 子どもたちにも,若い女性にも人気のあった作品です。中に空気の入った透明な置物のサルのような動物が,一生懸命タブレットの画面を見つめています。座っているのは,昔,鉄道のホームだったところ。差し詰め,スマホに夢中の新人類か。
 実際に行ってみて分かりましたが,60を超えたおっさんをして,確かに横で記念写真を撮りたくなる作品でした。

パンデミックの影響で来日が困難となった作家は,芸術祭の会期中,「いろは唄」の1文字が書かれたポストカードを会場に毎日送りつづけ,駅舎内にはそのカードも展示された。

『奥能登国際芸術祭2020+公式記録集』p.139

第7位② 40.珠洲のドリームキンダーガーデン  チェン・シー

 作品39番と同じ宝立地区の作品を挙げます。
 会場は,上の元鵜飼駅から車で5分くらい山の方へ行ったところにある旧柏原保育所です。
 ここには,保育所らしい,可愛い置物がいっぱい飾られていました。とってもほのぼのとします。
 わたしが見学に行った時,ちょうどバスツアーのお客さんも見えられていましたが,みなさん,なんとなく頬が緩んでおりました。
 作品の中には,地元の宝立小学校七尾養護学校珠洲分校の子どもたちが書いた絵をもとにして作家が立体にした作品群もありました。元の絵と作品のマッチングをしてみるのも面白かったです。

第8位① 13.私たちの乗りもの  フェルナンド・フォグリノ

 夏になると海水浴客で賑わう鉢ヶ崎海岸に,突如現れた巨大な木製の作品。これらは,巨大スタンプマシーンです。
 見学者参加型のこのような作品は,子どもたちにも人気です。そしてやっぱり,子どもに戻ってしまう大人たちにも人気なのでした。
 わたしが訪れた時刻(午後3時30分頃)は,木の枠に囲まれていました。残念!

3種類のスタンプマシーンを押し動かすと,奇妙な模様が砂浜に刻まれる。これは中世の珠洲と日本海交易を象徴する産品である筋役に刻まれていた紋様である。浜辺に捺された珠洲焼の紋様は風ですぐに消えてしまうが,マシーンがあって動かす人がいれば,それは限りなく再生されるだろう。

『奥能登国際芸術祭2020+公式記録集』p.68
「みなみ」さんでも来たのかな。せめて消しておいて欲しいですね。

第8位② 37.月うさぎ:ルナクルーザー  シモン・ヴェガ

 これも参観者参加型の作品。こちらは,小さなお子さまも喜びそうです。わたしも孫が来ていたら連れて行きたいなと思うような作品でした。月面探査機だそうです。
 この乗りものは木でできているので,とても温かみがあります。車の中にも,いろいろと触れる部分があったり,映像が流れていたりしました。
 制作には地元の工務店が協力したそうです。

第9位 01.時を運ぶ船(2017)  塩田千春

 この塩田千春さんの作品は,前回の奥能登国際芸術祭2017の時のものの再公開です。前回でも,自分のなかでは上位に挙げた作品です。今回,実は,もう寄らなくていいかなと思ったのですが(何せ,同じ市内でも家から一番遠い),パスポートもあることなので一番最後(11月1日)にやっぱり行ってみることにしました。それくらい惹きつけられる作品です。
 この船は塩田用の砂を運んでいた船です。作家の方のお名前が「しおだ」さんで「塩田」と書くんですよね。
珠洲を象徴する「揚浜式塩田」に自らのルーツとの関わりを感じた塩田千春さんは,戦争中も塩づくりを続け,戦後,塩づくりを守り続けることを決意した角花菊太郎さん(1919-2004)のエピソードをもとに,この作品を制作したという。(p.9)

血管を表すような無数の赤い糸が圧巻

第10位 04.私のこと考えて  スボード・グプタ

 外浦の海のすぐ近くの丘に,巨大なバケツから落ちている漂流ゴミが…。テーマがすぐにうかんじゃいますね,これ。
 このきれいな青空と銀色に輝く大きなバケツ。山もりに積まれた色鮮やかなプラスチック類のゴミたち。
 車で走っていてもすぐに見えるので,たいへんインパクトのある作品でした。

第11位 11.海をのぞむ製材所  Noto Aemono Project

 三崎町小泊地区にある新出製材所さんを舞台にした,木工作品。製材所さんの建物が海に面しているので海側の戸を開け放つと水平線が見えます。また,建物の手前(道路側)には,たくさんの机や丸太を削ったやつや椅子があるのですが,目線を下げていくと,あら不思議,全て水平線とピッタリと一致するように作ってあるのです。イヤー,ステキでした。
 実は,この製材所の新出さんは旧知の方で,制作上のお話や息子さんたちの近況なんかもお聞きしました。水平を作るために,夜間にレーザー光線を張り,木材の角度を調整したそうです。
 製材所の2階には,その新出さんのインタビューの映像が映し出されていました。わたしは,当の新出さんとその映像を見ながら,「これは字幕が必要ですね」と笑っておりましたとさ。


こんな風景も①

「2020+」では,うちの近くの「のと鉄道最寄り駅(廃線になっている南黒丸駅)」も作品会場となりました。近くにあると,なんとなくうれしいものですね。犬の散歩がてら,準備ができていく様子を写真に撮ってみました。


番外編 41.軌間  サイモン・スターリング

 というわけで,番外編。この旧南黒丸駅には旧線路上に設置されている数枚の看板作品だけではなく,駅舎内にも何やら映像が流れていました(右写真)。解説書によると,この作品は,「金継ぎ」と「銀塩フィルム」と「イタリアの伝統的看板製作技法」を融合させたものだそうです。そう,奥は深いんです(^^;) ここ,桜の名所ですよ~。

映像の内容を理解するには,ちゃんと「解説書」なんかを見ておいた方がいいです。

第12位 26.水平線のナミコ  尾花賢一

 右の写真が「水平線のナミコ」なのでしょうか。この会場のなかでも,とても印象的な彫刻作品です。
 そのそもこの会場には,作家が準備したのか元からこの倉庫にあったのかが分からないものが雑然と置かれています。しかし,そこには一応物語性もあるらしく,それは入り口にある「嫁礁(よめぐり)悲話」がメインとなっているようです。この「嫁礁悲話」は,珠洲に伝わる民話だそうですが,わたしは聞いたことがあるようなないような…。珠洲と同様に過疎化が進む秋田生まれの尾花さんは「さよならという言葉の先を突き詰めていくと,悲しさとか別れとかではないものに出会えるんじゃないか,という僕なりの希望と救いを求めて,この作品を展開しました」と話した。(46ぺ)

『民話の部屋』というサイトに「嫁礁」というお話が紹介されています(朗読付き)。


次ページ以降,未紹介の作品を開催地区別に紹介します。大谷地区はすべて紹介済みです。

コメント

  1. すごく充実したサイトですね。
    反原発の記録も貴重ですね。「今」はどうなのかな。小宮山さんを思い出しました。
     ( 今日『たの授』11月号の最終校正の日です。「サークル案内」の校正ついでにアクセスしちゃいました)
    奥能登国際芸術祭,とても見ごたえがありました。
    このように,「好み」で対象をしぼって紹介してくださると,とても見やすく,興味を持てます。

     「山岳渓流釣師」とは誰のことだろう。興味あり。だいたい, 「奥能登」は憧れの地です。死ぬまでに行ってみたいところです。あっ,じゃ,いそがないと! と気が付きました。
     

    • なんとまあ,竹内会長さんからコメントを頂くなんて,喜ばしい限りです。
      細々と続けてきたサークルも,若い子が来てくれるようになって,こちらも気合いが入ります。
      サイトの内容についても,感想を述べてくださり,ありがとうございました。

      奥能登へは,ぜひ来てください。
      全国大会の時の会場だった和倉温泉は,中能登あたりですからね。ちなみに,金沢に近い部分を口能登と言ったりもします。

      お待ちしています!!

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