0:と き 西暦1996年(大化1352年・平成8年)3月2日
1:ところ 石川県珠洲郡内浦町・松波小学校
2:児 童 松波小学校5年 菅原学級(男14, 女12)
3:授業者 新居信正(徳島市千松小学校名誉教論,徳島仮説実験授業研究会)
4:題 材 最初にあった〈単位量1〉の見事なる変身
5:教材観 ズバリ一発【個別単位を軽視すれば,罰なしは,すまされない】
以上,新居先生の指導案より転載
授業記録
テープ起こし 菅原美津子
導入…新居ワールド
え~,徳島から来た新居です。私のことは菅原先生から聞いて知っとるから自己紹介はしません。これから,45分間,1時間,算数の授業に付き合ってください。いいですか。
【子ども】 はい。(チャイムがなる)
このチャイムはいいチャイムだね。徳島もね,このチャイムなんだよ。(笑)
このチャイムはいいって言うのはね、このチャイムを聞くと,日本の子どもは,賢くなる。だからたいていこのチャイムでしょ。このチャイムというのは頭のよくなるチャイム。このチャイムを聞きながらね。「賢くなるぞ」って思ってください。
それでね,プリントを作ってきましたから渡します。それからこういう風にね。机を向けなさい。(教卓へ放射状になるように指示)
へそに力を入れて,背中をのばしなさい。机の上,黒鉛筆と赤鉛筆,消しゴムを出しなさい。(子どもたち指示に従う)
それでは、プリントを配りますから出てきなさい。プリント? あれ,取りにこないの? 前の子がね,自分の列を勘定してな,取りに来たらええな。はい,取りにこい。
(子ども前に出てくる)
お前な,スーパーマーケットの安売りしてんのと違うねんからな。ちゃんと1列に並べ。
(子ども取りにくる)
なんぼ?・・・(以下プリント配布) 腹に力入れてもの言えよ。欠席何人?
【子ども】 0人。
(前列の女の子に)お前な,髪いじっとらんと,「その余ったのを参観の先生方にあげましょか?」って言わんかい。「その余ったのを参観の先生方にあげましょか?」って言いなさい。
【子ども】 その余ったのを参観の先生方にあげましょか。
お~,じゃあそうしてください。(子ども,後ろの先生方に配る)
それではね,これね,横にやったら手切るよ。手切らないようにね。まず,何年何組,はい,書け。(子ども作業)
第1部,最初にあった〈単位量1〉の見事なる変身
読みますからね,ここは大切やなと思った所は,線引いといてね。あのね,徳島でね,こういう授業するでしょ。「大切な所は線ひいといて下さいね」とね。そうすると,これ全部大切だから全部引いたりするからね。全部引いたらいけないよ。
(プリントの読みすすめをしながら)風呂敷というのはね,風呂に敷くから風呂敷という。昔はね,こう風呂敷があってね(板書しながら)偉い人がね,肩がね,これにつかえたら、けがれるからね,ここに風呂敷をひいてね,そして風呂に入ったんだって。そして時代が下がってきて庶民が風呂にいく時に,こうやってしいてね,自分の着物を包んで。だから,風呂敷という。常識だからね。一生使える。そんなん,覚えんでもいいけどね。ただ君たちが家に帰ってね,風呂に入る時,風呂敷ひいて入らんでもいいけどね。
(またプリントを読みすすめる)
「えーっ」って言わんかい。
【子ども】 え一つ。
あのな,感動的に言わんかい。
【子ども】 (より大きな声で)えーっ。
単位が変身しても〈量そのものの大きさは変わらない〉のです。そこ,ちょっと赤引いといてください。君たちは知っとると思うけど,1年生2年生の低学年の子やったらね,100センチメートルになったら百ってつくでしょ。それに惑わされてね,長さが大きくなって,物の。君たちはそれはないけどね。
【質問1】 1テープという単位
【質問1】今ここに5分の4メートルのテープがあります。
分数習ったよね。
【子ども】 はい。
習ったよね。
【子ども】 はい。
腹に力入れて返事せいよ。空気ぬくな。習ったよね。
【子ども】 はい。
その5分の4メートルを[ひとつにまとめてカンヅメにして]1テープという〈新しい単位〉を作りました。
はい,1テープ,線を引け,1テープって書いてあるだろ。新しい単位に線を引け。
さて,そうすると「はじめにあった単位量1メートル」は「何テープ」に変身するでしょう?
こういう問題です。
問題をぱっと読んで,今読んでですね。あ~これはこういうもんだって,君たちに分かるわけないんです。なんのこっちゃって思たもん手あげ。正直に。(何人か挙手) こんな問題,なんのこっちゃって思たもん手あげ。(さっきより多くの子どもが挙手)
(ひとりの子に)お前,思わなんだか,思たやろ。なんのこっちゃって?
【子ども】 分かった。
正直でよろしい。人間は正直にします。それでですね,こんな分からん問題をするために徳島から来たんと違うんです。だから,説明します。君たちは目で見てくださいよ。
今ここに5分の4メートルのテープがあります。これは,5分の4メートルの前に,単位量1メートルがあります。1メートルがなかったら,5分の4メートルはできない。
それで,いくよ。(1メートルのテープを板書する)。こうね。1メートルがあります。
はい,右手で書いて。(子どもたちも空書きする)これが, 1メートル。
で,5分の4メートルね。だから,5等分するといいわけね。これ,うまいことできるかな。(板書)いち,に,さん,し,ご,できたよ。そうするとこれだけが,5分の4メートルですね。5分の4メートルな。これは下に書いてあったかな。(と,板書を続ける)
そうすると,このコビッチョ,このこれ。これが何メートルかな。
【子ども】 5分の…
はい,言うたらだめ。あのね,みんなこれ考えて書くでしょ。友だちが考える楽しみをうばってはいけない。ぱって言うたらね。他の子,考えてる子が,ぱっと考えるのをやめるんです。だから(「おとなはだまって,ファミリービール」と板書する)読んでみなさい。
【子ども】 おとなはだまって、ファミリービール。
(また続けて「子どもはだまって考える」と板書する)
【子ども】 子どもはだまって考える。
友だちの考える楽しみを,じゃましては,うばってはいけない。だから,だまっとる。頭の中で話していなさいね。じゃあ,このコビッチョ。これ分かっとる人,手あげ。(子どもにむかって)自信ある? 自信あるか? 自信あるもんは,大きな声で「はい」と返事せんかい。
【子ども】 はい。
自信あるか? 「ぼくに言わしてください。」って言わんかい。
【子ども】 ぼくに言わしてください。5分の1です。
【子ども】 つけたし。
はい,その女の子。
【子ども】 はい。5分の1メートルです。
よし,これは,単位をつけなければ分からない。お話にあったでしょ。数字と単位とで表すとね。組になって。はい,じゃあ,書いてください。これだぞ。(といって,冊子の箇所をさし,黒板にテープ図を書く)
問題を読んでください。(いっしょに読む)
こいつを(と言って,5分の4メートルを指す)ですね,カンヅメにして,1テープとしたんですね。(と言って,5分の4メートルを包む)
そうすると,(先のページをみている子を見つけて)お前,先読むなよ。
このコビッチョは,いくらになるかっていう問題。(子どもの様子を見回りながら)じゃあね,このコビッチョを書いてもらいましたけれども。これね,自信のある人,手あげ。(ひとりが挙手)ひとり。
まあまあ自信のある人,ちょっぴりやな。
じゃあな,たよんない,自信ない人。(数人の挙手)
じゃあね,たくさんの参観の先生がいらっしゃってるね。まちごうたら恥かくな。けれども,勇気を出して,このコビッチョがいくらか,言える人? 発表できる人?
【子ども】 はい。(数名挙手)
じゃあ,立ちなさい。起立。(立った子に対して)いいか,まちごうたら恥かくぞ。ええか?
【子ども】 うん。
「うん」やない。「はい」言わんか。
【子ども】 はい。
できましたか。できたか。女の子ひとりか。じゃあ、言うてください。
【子ども】 4分の1テープです。
君は?
【子ども】 同じです。
君は?
【子ども】同じです。
じゃあね。座っている人で,尾谷さんと同じ4分の1テープの人,起立。(バタバタと数名立つ)あのな,そういう時に起立する時ってな,非常に,あのあれやね,これが正しい答えやったら,みんなおうとるから,ばあって立てるね。先生が正しいとか言わんから,あれおうとるかなどうかなって,ぞろぞろって立ったでしょ。だいたい君たちの気持ちわかるんですよ。あいつら立っとるけどぼくはおうたかも分からんって思とるでしょ。(みんなを見て)ほんでいいんですよ。ほんでいいんですよ。まっ座れ。
はい,それではね,君たちは目でこれだけが1テープを1,2,3,4等分しとるな。1テープね。はい,間違えた人,直してください。
これは,1テープをね,言わんかい。「1テープを」って言わんかい。
1/5m |
1/4テープ |
【子ども】1テープを…
4等分した1つ分の長さ。だから,この5分の4メートルを1テープとやったんですね。そうすると,この最初にあった1メートルは,何テープに変身したんですか。
1/4テープ |
ヒントは,こっちに目をやったらあかんで。ちらちらするからね。こっちだけ見なさい。(と言って下をさす)何テープか。そうして,ここへ書いて…(と書き方の指示を何度か言う)3と2分の1メートルとかね,こういうような帯分数に表すとうっとうしいから,仮分数で書きなさい。
書けたらな,かわいらしい顔をこちらむけ。してな,自信があったら,にこって笑え。自信がなかったらな,いやな顔せ。それでは,これから聞きます。このクラスの中でね、ほとんど正答になるか,半分ぐらいできるか,さっぱりできないか,予想して下さいよ。今その問題ね,やったな。この「1メートルが何テープに変身したか」って問題ね。この問題が,このクラスでほとんどできると思う人手あげ。(少しだけ手が挙がる)
まあまあできるだろって人,手あげ。(ぽつぽつ)
じゃあ,これは難しいもんな,ちょっぴししかできんと思う人,ほとんどできんと思う人?
(少し手が挙がる)
じゃあ,今度自分に聞くぞ。「わたしは,ぼくは,この考えに絶対自信がある」もん,手あげ。(3人ほど挙手)
まあまあ自信ある人と手あげ。
じゃあ君。
【子ども】 4分の5テープ。
それではね,4分の5テープの人起立。(ぞろぞろ立ち上がる)よし,それではね,発表します。これだけが1テープね。1テープって言うてください。
【子ども】 1テープ
目で書けよ。目で書く。これだけが1テープね。1テープを1,2,3,4だから,これだけはなんぼ?
【子ども】 4分の1テーブ。
そう,この4分の1テープが5こあるから4分の5テープです。はい,直せ。じゃあ,外れた人,なんて書いたのかな。4分の5テープで答えが合たっと人手あげ。(12人が挙手)まっええわ。他の人これなんて書いとったんかな?
1,2,3,4,5やから、5分の5テープとか…この単位をメートルとした人手あげ。あっこれはおらんか。いないな。これ徳島でやるとね,やっぱりメートルやろ。単位が変身しとるのにね,メートルを使うんだよ。君たちはいなかったね。正しい答えは「4分の5テープ」。書いといてください。
【質問2】 1竹という単位
じゃあ,質問2。
【質問2】こんどは,ここに3分の2メートルの竹があります。この3分の2メートルをひとつにまとめて,「1竹」…
「1竹」って言ってごらん。
【子ども】 1竹。
「1竹」という新しい単位を作りました。そうすると, はじめにあった「単位量1メートル」は,「何竹」に変身するでしょう?
(板書しながら)こんだけは、
【子ども】 1メートル。
はい,手出せ。(と言って空書き)これだけが,何?
【子ども】 1メートル。
1メートルを3等分したね。ここね,こんだけが3分の2メートルね。このコビッチョね、はい書け。ほら書け。書いたか? ほら君は? ほら君。
【子ども】 3分の2メートル。
はい,3分の1のもん手あげ。(子どもたち挙手)これはできるな。1メートルを,いっしょに言ってごらん。「1メートルを3等分した一つ分の長さ」やから,3分の1メートルや。
そうすると,今度は,これを(3分の2メートルを囲んで)カンヅメにして,何にしましたか?
【子ども】 1竹
お前な,12時が近づいたけん腹へったんとちゃうやろな。大きな声で言え。
これだけは,
【子ども】 1竹。
はい,そうすると,このコビッチョは,はい書け。はい,じゃあ,いこうかな。自信あるか?
【子ども】だいたい。
だいたいか。自信あるか? あるか,自信?。それでは,発表します。これな…(何人かが「4分の…」)あ〜言うな。まず単位は「竹」です。見てください。
単位は「竹」になっとるか。「メートル」にしてないか?「竹」か?
これは「1竹」を何等分?
【子ども】 2等分。
そう2等分した一つ分だから,2分の1竹。よし,おうた人,手あげ。(何人か挙手)はい,おろせ。そうすると,もとあった1メートルは「何竹」に変身したか? 自信あるもん手あげ。はい。
【子ども】 2分の3竹です。
いくら?
【子ども】 2分の3竹。
はい,2分の3竹のもん手あげ。じゃあこれな,はい,いくよ。これだけの中に,2分の1竹が3つだから、2分の3竹な。正しい答え,書いときなさいよ。
じゃあ、次,質問4
【子ども】 質問3です。
あ,はい質問3ね。
【質問3】 1マキという単位
【質問3】ここに、4分の3メートルのハチマキがあります。この4分の3メートルをカンヅメにして,「1マキ」という新しい単位を作りました。そうすると、はじめにあった「単位量1メートル」は「何マキ」に変身するでしょう?
うれしそうに考えてみなさい。じゃあ、うれしそうに考えてみなさい。はずかしいか?
まず,切れ端をつくるね。4分の3メートルを1マキとしたら,1メートルは何マキに変身したか。はい,書きなさい。(子ども作業しているのを見ながら)うれしそうに考えなさい。数字だけでなく単位をつけとけよ。
それではな,今これ説明しなかったけどね。自信ある人?(少し)
まあまあ自信ある人?
説明しよか? テープ図で説明してほしい人?(一人挙手)ひとりか。一人でもおったら説明してあげるね。
これだけが1メートルでしょ。これだけが1メートルだから,これだけが4分の3メートルな。このコビッチョは、4分の1メートルな。これ分かるな。1,2,3,4だから。これを,これだけを「1マキ」にしたわけだね。そうすると,このコビッチョは「1マキを3等分した1つ分」だから「3分の1マキ」ね。じゃあ,このもとあった「単位量1メートル」は「何マキ」になるか,という話。
自信あるか。
【子ども】 まあまあ。
まあまあか。いくよ。発表します。これは,まず単位は「マキ」です。おうとったもん,手あげ (多数挙手) 「マキ」単位ついとるな。単位ついとらなあかんよこれだけの中に「3分の1マキ」が,1,2,3,4あるから「3分の4マキ」。おうとった人もまちがとった人も正しい答え書け。
じゃあ、今度はね,質問4。
【質問4】 1ヒモという単位
【質問4】ここに,7分の3メートルの白いヒモがあります。この7分の3メートルをひとつにまとめて [1ヒモ]という新しい単位を作りました。そうすると,はじめにあった[単位量1メートル]は[何ヒモ]に変身するでしょう?
はい,こちら向け。(ここで,チャイム)
それではね,頭のよくなるチャイムがなったからね,書かんでいいから,この答え言える人。答えを発表できる人,起立。
(書いている子を見つけて) もう書かんでいいね。頭のよくなるチャイムなったからね。はい,君。
【子ども】 3分の6ヒモ。
えっ,3分の〜
【子ども】(小さい声で) 3分の7ヒモ。~分からん。
えっ,君は?
【子ども】 3分の7ヒモ。
「3分の7ヒモ」の人,手あげ。よし,じゃあ言います「3分の7ヒモ」です。
目だけこちらを向け(板書しながら)。
5分の4メートルを「1テープ」に変身すると,もとあったのは,はい読んで。
【子ども】 4分の5テープ。
3分の2メートルを「1竹」に変身さすと,1メートルは?
【子ども】 2分の3竹。
4分の3メートルを「1マキ」とすると,1メートルは?
【子ども】 3分の4マキ。
だまっとれよ。子どもはだまって考える。7分の3メートルを「1ヒモ」に変身させると,もとあった単位量1メートルは?
【子ども】 3分の7ヒモ。
- 4/5m を1テープに変身すると 1mは 5/4テープ
- 2/3m を1竹 に変身すると 1mは 3/2竹
- 3/4m を1マキ に変身すると 1mは 4/3マキ
- 3/7m を1ヒモ に変身すると 1mは 7/3ヒモ
もう一回言うよ。(上の板書を繰り返し読む)
「10分の3クチャ」を「1ムニャ」に変身させると…
じゃあ,「10分の3クチャ」を「1ムニャ」に変身させると,はじめにあった「1クチャ」は,「何ムニャ」に変身できたか。分かった人,起立(何人か起立)。
じゃあ,もう一回いくぞ。本当は頭のよくなるチャイムがなると,のばしたらいかんけどね。これおもしろいからね。いっしょにいくぞ。あと1分30秒じゃ。はい,5分の4メートルを「1テープ」。1メートルは?
【子ども】 4分の5テープ。
3分の2メートルを「1竹」。1メートルは?
【子ども】 2分の3竹。
4分の3メートルを「1マキ」にしたら,1メートルは?
【子ども】 3分の4マキ。
7分の3メートルを「1ヒモ」にしたら, 1メートルは?
【子ども】 3分の7ヒモ。
じゃあ,「10分の3クチャ」を「1ムニャ」にしたら,もとあった「1クチャ」は(何人かの子が言おうとしたら) ああ,子どもはだまって考える。
じゃあ,君言ってみて。
【子ども】 3分の10ムニャ。
これは,「3分の10ムニャ」です。
変身の規則性に気づいたか
最後,10秒でいきますから。変身の規則性に気が付いた者,手あげ。(数名が挙手)言うなよ。言うなよってのはね,友だちの考える楽しさをうばってはいけない。変身分かった?
それではね,それあげますからね。これ君たちにあげるからね。あとは、菅原先生にね教えてもらいなさい。これはね、持って帰らんようにね。先読なよ。先読むと答えはいってあるからね。先読まないように。
それでは,この勉強を終わります。1時間どうもありがとう。級長。級長いないの? 日直か?
【子ども】ありがとうございました。
新居さんのテクニック満載の授業でした。まさに名人芸。話芸も超一流ですが,それも子どもを惹きつける教材があってこそ。とても刺激的な授業を見せてくださいました。名人芸の中にも,わたしたちが真似できる要素がいっぱいあります。
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