本「私的報告」内で“引用符の枠”で引用してあるのは『奥能登国際芸術祭2020+公式記録集』の文章です。
本書には,作品の写真や解説ばかりではなく,本芸術祭にいたるまでの裏話やスタッフの苦労話,ちょっとしたエッセイなども豊富に紹介されていて,読みごたえのある内容となっています。なお,わたしには必要ありませんが,ちゃんと英文もあります。
直地区
27.移住生活の交易場 村上 慧
この作品については『公式記録集』に語ってもらいましょう。
芸術祭会期中,のと鉄道旧珠洲駅のプラットホームで発泡スチロールでできた畳一畳の「家」に暮らしながら,金沢から珠洲まで歩いた際の記録映像と,村上に敷地を貸した人々に後日行ったインタビュー映像を展示するほか,駅の「キオスク」には「村上が移住しながら拾った物を生活費と交換するSHOP」が設置され,作品やグッズを作家自らが販売。その他,ソーラーパネルでの発電,白菜を育成するなどして「自給自足」の生活を行った。
『奥能登国際芸術祭2020+公式記録集』p.104
28.偏西風 対馬海流・リマン海流 磯辺行人
能登半島上空の「偏西風」を体感するため,市内小中学校の児童生徒約440名がそれぞれの校庭から942個の風船を放ちました。その風船には子どもたちが書いたメッセージと共に返信ハガキも付けてあり,何通か無事返信がきました。届いたハガキには次のように書かれていました。
今日は,朝から雨が降っていました。私の家では,2つの拾い物がありました。どちらも砂にまみれていました。それは,私の心のようでした。そんな心に届いたメッセージが風にのって,がんばれって言ってくれたみたい。
飯田地区
29.work with #8 今尾拓真
地元開催の芸術祭では,お世話になった建物がたくさん会場になっているので,本当に「私的」な報告になってしまうんですよね。
さて元図書館だったここも,本を借りるのはもちろん,議会議事録を調べたり,2Fの部屋では様々な会議や催し物で毎年何度も訪れました。職員さんともすっかり仲良しになって…。懐かしいな。今回利用されている空調設備も「なんか,あんまり涼しくないね」なんて言いながら利用していたことも思い出します。
空調から流れてくる空気で笛やハーモニカの音を出す。死んだはずの施設が音を出して,息をし始める。そんな感じでしょうか。それぞれの楽器が出す音の高さは,ちゃんと決まっています。右の写真では指の代わりに黒い栓がしてありますね。
30.いのりを漕ぐ 金沢美術工芸大学アートプロジェクトチーム[スズプロ]
元八木邸を舞台に作品を展開しているスズプロさんたち。前回の作品も引き続き見ることができました。
今回新たに巨大な彫刻がお目見えました。部屋一面に能登ヒバを素材にした作品で,波と手のひらをイメージしているそうです。この作品は見るだけでなく,靴を脱いで上に乗ることもできました。靴下をはいていたので滑って転びそうでした。
以前からの作品については「奥能登国際芸術祭2017見学記」をご覧ください。
2023年5月5日の珠洲を襲った最大震度6強の地震で,この八木邸は「危険」と判断されています。今後,この作品群がどうなっていくのか,心配です。
31.すくう,すくう,すくう 中谷ミチコ
「すくう」を3回繰り返しているのは…。
「水をすくって飲むことは生命を維持するために太古から人類が続けてきた行為だと思います」という中谷さんは,「掬う」「救う」「巣くう」など,いろいろな意味になりえる「すくう」というテーマに興味を持つ。(56ぺ)
会場の床には,右写真のような手型が20個置かれていました。いずれも飯田町に住む住民の手です(コロナのために写真から作らざるを得なかったらしいですが)。
この作品が不思議なのは,へこんでいるはずの形が,手の外側の形だということ。ふつうは,この型に石膏を流して初めて手の形になるんですがね。言ってること,わかりますか(^^;)
32.漂流記 力五山
ゆらゆらと揺れる天井から逆さに吊られた日本の島々。本州は珠洲を支点にしたやじろべえになっていました。北海道や本州・四国・九州以外にも小さなパーツがいっぱいありますが,これは日本にある有人の島らしいです。その数なんと425島。日本って,本当に島国なんですねえ。可愛い作品でした。
33.石の卓球台第3号 浅葉克己
今回,インフォメーションセンターとなっている「さいはてのキャバレー」横に現れたこの卓球台の材質は,愛媛県産の高級銘石として知られる「大島石」。花崗岩の中でも群を抜く硬さと青みを帯びた透明感のある石肌が特徴だ。(57ペ)
この卓球台を使って卓球もできました。わたしたちはやりませんでしたが…。
この作品は,ここにずっと設置されています。
本作品は,2023年5月5日に珠洲を襲った地震で台座がずれてしまいました。
34.小さい忘れもの美術館(2017) 河口龍夫
奥能登国際芸術祭2017からの作品です。駅構内に設置されている貨車の中の黒板は,もちろん,新しくなっています。そして,そこには,白いチョークでステキな言葉が書かれていました。「すずにすみたい」「4年ぶりのすず。ひとりでも大丈夫」なんてね。
作品の紹介は「奥能登国際芸術祭2017」見学記に掲載してあります。
上戸地区
35.奥能登半島/珠洲全景 石川直樹
石川さんの写真展です。珠洲のいろいろな場面を切り取って展示してありました。さすがプロですねえ。知っている人が被写体になってたくさん! 石川さんは,今回の芸術祭のポスターも手がけています(写真左)
36.うつしみ(2017) ラックス・メディア・コレクティブ
奥能登国際芸術祭2017以来,いつも見ているので,この風景が日常になってしまっています。最初見た時のインパクトを忘れそうです。右の写真では,作品の様子がうまく伝わらないと思います(あえて,前回とは違う時刻違う角度から撮影しました)ので,ぜひ,前回まとめた「奥能登国際芸術祭2017」見学記をご覧ください。
なお,この作品は,夜,見てくださいね~。まるで,幽体離脱ですから。
宝立地区
38.網の小屋 佐藤 貢
もともと酒屋の土蔵だった場所を,そこにあった漁網で囲った作品。作者は,世の中では役目の終えた不用品や廃棄物(これらを「漂流物」と呼んでいる)を使って作品を作っているそうです。
内部の漁網は大黒柱のようでもあります。この駐車場からこの土蔵までの道には,漁網が敷かれていました。
若山地区
42.Gravityーこの地を見つめる- 四方謙一
旧大坊小学校のグラウンドとその横にあるかつての牛小屋?を会場に,銀色に光るステンレス板がたくさん吊り下げられていました。吹く風に身を任せ,ゆがんだ鏡のようにゆがんだ景色を映し出すのが面白かったです。
この作品名の「Gravity」というのは「重力」という意味だそうです。そういえば重力加速度をgで表した自由落下運動の公式がありましたね。例えば,L=1/2gt2なんて式です。覚えてないか。
ここには牛小屋に37枚,グラウンドに3枚吊り下げられていましたが,それぞれの板に入っている切れ込みが違うので,重力によってたわむ形もそれぞれです。そのあたりの個性が面白い作品だと思いました。
市内広域
45.tower(SUZU) 金氏徹平
高屋漁港にあるう建物の壁と何かのタンクの壁,そして飯田町にあるショッピングセンター・シーサイドの2Fの大きな壁を舞台に,作品が作られました。丸くて黒い大きな穴のようなものから,何かが飛び出ているように見えます。だからどうした…といわれても困ります(^^;)
この作品,本当は,各地にあるキリコ収納庫で展開したかったそうですが,地元との調整がつかずに今回は見送ったそうです。住民にとってキリコは特別ですからねえ。
46.珠洲海道五十三次(2017) アレクサンドル・コンスタンチーノフ
本作品は,市内4箇所のバス停に展開されており,この作品は奥能登国際芸術祭2017以来ずっとそのままになってバス停として利用されています。珠洲市民にもすっかり馴染んでいるはず。何も知らないで本市を訪れた人は,「なんだ,このけったいなバス停は」って思うでしょうね。
以上『「奥能登国際芸術祭2020+」私的参加報告記』でした!
コメント
すごく充実したサイトですね。
反原発の記録も貴重ですね。「今」はどうなのかな。小宮山さんを思い出しました。
( 今日『たの授』11月号の最終校正の日です。「サークル案内」の校正ついでにアクセスしちゃいました)
奥能登国際芸術祭,とても見ごたえがありました。
このように,「好み」で対象をしぼって紹介してくださると,とても見やすく,興味を持てます。
「山岳渓流釣師」とは誰のことだろう。興味あり。だいたい, 「奥能登」は憧れの地です。死ぬまでに行ってみたいところです。あっ,じゃ,いそがないと! と気が付きました。
なんとまあ,竹内会長さんからコメントを頂くなんて,喜ばしい限りです。
細々と続けてきたサークルも,若い子が来てくれるようになって,こちらも気合いが入ります。
サイトの内容についても,感想を述べてくださり,ありがとうございました。
奥能登へは,ぜひ来てください。
全国大会の時の会場だった和倉温泉は,中能登あたりですからね。ちなみに,金沢に近い部分を口能登と言ったりもします。
お待ちしています!!