珠洲たの通信・2022年11月号

2022年度

 今月号の「研究会ニュース」を見ていたら,1964年に書かれた板倉先生の手紙が紹介されていました。それを読んで,先生の,たのしい授業の普及に対する思いの熱さに改めて驚きました。板倉先生は,××校の○○さんから,「ぜひ検討して欲しい」と送られてきた指導プランに対して,きっぱりと,次のように述べています。
率直にいって私はこの指導案に全面的に反対です。それはこの指導案には普遍的な概念や法則を教えようという観点が見られないからです。そしてたのしい授業ができるとは思えないからです。
 そして,板倉先生は,送られてきた指導案の対案として,今の授業書《溶解》につながる「授業テキスト」を作っています。そういう対案を示しながらも,板倉先生は,さらにこう述べるのです。
失礼な言い方かもしれませんが私は○○さん個人や××校のために力をおかしするわけには行きません。○○さんなり××なりが日本や世界の教育のために大きなものを寄与しようとするときのみ協力させていただきたく思っているのです。ですから,だれでもがかんたんに出来るような形で指導案をつくっていただきたいと思います。
 どうです,この勢い! 明日の指導案で四苦八苦しているわたしたちとは,あまりにも違いすぎて…。でも,わたしは,自分が公開する授業の指導案くらいは,それくらいの勢いがあってもいいのではないか,「どうぞよかったらわたしのマネをしてください」という勢いで書いて欲しいなあって思うのです。

例会の参加者(4名)  N.T  W.T  S.Mi  O.M

今月の写真

久田船長の新聞
『北陸中日新聞』の記事
いろんな話題,お菓子
フラスコで虹の実験
カードゲーム ONO99

今月の本棚

今月の資料の紹介

1.「子どもたちが変わった!」 B5 4ぺ    S.Mi   
 先月のレポートのタイトルは「子どもたちが変わっていく?」と疑問形でしたが,今回は「変わった!」と言い切りになっています。では,どのように変わったのか?
 まずはトモ君(仮名)のお話。
 変わったのはトモ君なんだけど,どうもそのトモ君は担任のようすが変わったと指摘してきたとか。トモ君曰く。
「最近の先生は冷たくなったというか,あまり勢いがなくなってきたというか」
「前はうるさかったのに,最近はあまり言わなくなった」

これに答えて,Sさん,曰く。
「分かるんだあ」
と。
 最近の子どもたちは,とても落ち着いて来たので,担任が強く出る場面がどんどん減ってきたのだとSさんは感じています。
 もうひとり,学校否定のマサヤ君(仮名)も柔らかくなってきたようです。それどころか,うるさいくらいに担任に話しかけるようになったそうです。自分と担任との共通の話題を見つけては近寄ってくるそうです。可愛いですね。もう少年日記の続編を書く必要がないくらいに「ふつう」になったそうです。
 他にも,4月当初は自分たちだけでは遊べず,我が我がと担任にまとわりついていた子どもたちが,今では,子ども同士で絡んで遊べるようになったそうです。ちゃんと少しずつ自立しているんですね。
なんだかなあということは,毎日あるにはあるんですが,全体的に落ち着いています。これは間違いないことです。このままで行くとは思っていませんが,穏やかに過ごせるのは気分がいいものですね。
 この〈担任としての自覚〉には,ベテランとしての頼もしさを感じます。「すべてよし!」ではない状態であることを認めながら(そんな状態はないのだが),それが子どもの世界(人間関係)の当たり前の姿であることも分かっている。だからこそ,今後も,またなにが起きるか(なにを起こすか)わかんないけど,「ちゃんとあなたたちを見守っているからね」という担任の姿勢・心持ちは,子どもたちを精神的に安定させることになっていると思います。
 意識にのぼらなくても「自分をそのまま受け止めてくれる大人がいたのだ」ということを体感した子どもたちは,ちゃんと自分を出せるようになっていきます。
 あ~,ほんと,担任っていいなあ。教師っていいなあ。授業できるのもうらやましいけれども,こうして,教師としての自分の存在を認めてくれる子どもたちとの生活は,なににも変えられないものだよ。そのよさをたっぷり味わってくださいな。
 二つ目の話題は「なんでもそつなくこなす若者」について。まさに最近の職員室の雰囲気を感じさせる話題でした。
 端から見たら大変そうに見えるのだけれども(そしてたぶん本人も大変だと感じているのだろうけれども),人からの助けには乗ろうとしないという話でした。
 でも,もしかしたら,これ,乗ろうとしないのではなく,乗れないのかもしれないとも思いました。その助け(と思われるもの)に乗ると,これまでの(一人前になろうとしていた,あるいはなっていると思っていた)自分が否定されたように感じるのではないか…ということまで,わたしは考えてしまいました。
 大きな挫折を感じていても,それをまわりに見せない。こういう人が多いからこそ,それ以上先に進めなくなって(やめて)しまう人があとを絶たないのでしょう。こっちとしては,そうなる前に手を差し伸べているのですが,なかなかわたしたちのようなサークルに顔を見せようとする若者は増えません。
 教育月刊誌や教育図書が売れない時代になって,もうずいぶん時間が経ちました。教育図書(実践本,理論本)を読む時間は,わたしのたのしい時間のひとつだったのですが,そんな若者教師はもういないのでしょうか。
 「教職員の超勤多忙解消」ばかりを強調したために,教員の生活そのものを「学校勤務と自宅生活」で分断することになったのではないかと,最近,ちょっと危惧しています。「すべての時間が〈教材づくり〉につながっている」と思って生活してきたわたしには,さみしいことです。
 今一度,自分はなにを求めて教員になったのか,考えてみて欲しいな。「舞いあがれ」の舞ちゃんのように…。
 もし,彼らの求めていたものが〈生活費獲得〉だけでしかなかったのなら,それこそ,そんな彼らに「力をお貸しする」必要も時間もない。もったいない。

2.「サークル資料」 A4 4ぺ  W.T 
 今月は幾つもの話題を報告してくれました。

夏井いつき 句会ライブ
 10月22日(土),「ラポルトすず」で,あのプレバトの夏井さんの講演会「夏井いつき句会ライブ」が開かれました。これにはわたしも参加していました。ついでにいうと,昔のサークルメンバーであるK.Yさんもいました。
 その句会ライブでは,参加者も俳句を作ったのですが,その中で,Wさんの俳句は,最終7句に選ばれました(K.Yさんの句も入っていました)。その句は,
  秋惜しむ 1.5軍の シューズたち
というものでした。「玄関に散らばっているスニーカーや革靴」の写真を見ての一句です。
 夏井さんの指導法はとても分かりやすくて応用範囲も広そうでした。これまで俳句を作ったことのない人にも「自分でもできそう」と思わせる内容でした。あれ,どっかで聞いた言葉ですね。「自分もできそう」と思わせる指導法って,どんな場面でも大切なんですね。
 さて,ここからのWさんはすごいです。「俳句のチーム裾野」と言われたことを受けて,毎日,俳句を作っているというのです。大した人ですねえ(いっしょに講演を聴いていたわたしは,まったくやっていません)。今では,「歳時記」まで購入したというのですから,その嵌まり方は半端じゃないですね。
 そうそう,このライブで,わたしは夏井さんに茶々を入れられる一般人として指名を受け,会場のさらし者になったのですが,それもまた楽しい想い出です。私の作った句は,
  玄関に 集うスニーカー 夏休み
でして,これも,いちおう,「擬人化ですね」といわれながら,読み上げて貰いました(^^;)

抱え込み跳び
 峯岸さんのプランでとび箱を指導しているのですが,その指導法の威力を確信したできごとがあったそうです。
ワザができなくても,友達の姿を見て,なんかできそうだなと思う。そしてそれがエネルギーになって実際にやってみる。峯岸さん3部作に書いてあることが目の前で起こっていくことに,改めて感動しました。
 とってもいい話ですね。だから教師はやめられない。
 このように,目の前で,子どもたちが変化する姿を見ることができたのは,
・子どもたちにとっていい実践はないかと自分でさがし
・それに関する教育書を読み
・それを実際に取り入れてみる
という「教師自身の判断」があったからこそです。
 「授業の中でこそ,子どもたちの笑顔が見たい」「子どもたちの笑顔と共に生活をしていきたい」という願いをもっている教師だからこそ,その判断を選びとるのでしょう。そして,そのような教師には,ちゃんと「子どもたちの笑顔」が贈られるんじゃないかな。

日記でつながる
 Sさんから学んで実践してきた「交換日記」には,そこに書かれている内容に変化が起きてきたそうです(自分自身のことをしっかり語りだしたMさん)。これもまた,教師が自分でこの「交換日記」という指導法を選んだからこそ味わえた子どもの素敵な変化ですね。これらの実践は,峯岸さんの追試同様,これからのWさんの教師生活の大切な財産となることでしょう。

道徳「サルも人も愛した写真家」
 先月来,相談を受けていた道徳の授業です。結局,わたしの手元にあったはずのビデオやポスターは発見できませんでした。そこで新しくDVDを購入して授業をしたそうです。お金をかけてでも授業を作ってみたい(追試をしたい)という姿勢もうれしいです。自分で資料などを持っていれば,いつもでも授業ができますからね。
 この授業がどういうものかは,珠洲たののHPをご覧下さい。わたしの指導案と実践記録を載せてあります。
 Wさんは,この授業を取り上げた学級通信も発行し,現物を持ってきてくれました。これも,あとで珠洲たののHPに掲載したいと思います。載せたら,また連絡しますね(「追試」として掲載済み,2022/12/13現在)。

社会「分業でタローラづくり」
 ついつい講義調になってしまいがちな5年生社会科の授業。現役の時には,なにか子どもたちが動ける課題を準備したいなと思っていました。わたしの中のお薦めの一つが,このタローラの授業です。
 今回,Wさんが追試してくれたおかげで,わたしも自分のパソコンの中から実践記録をさがしたり,関連データを探したりして,HPにまとめることができました。今後,やってみたいという人がいたら,そのデータを簡単に活用することができます。
 さて授業は,しっかりと3時間とって行ったそうです。わたしのときよりも深ーい実践になったようで,うれしいです。子どもたちの感想を紹介します。
・みんなで作るとだれかがたまったりして協力しないとダメだと思った。本当に作ると大変だろうなあと思いました。
・流れ作業の方が,1人のふたんはないということが分かりました。1人が1つの部品の作り方,つけ方さえ知っていれば,何この部品のことを覚えていなくてもいいから,私は楽でした。

 最後に,Wさんの感想です。
実際にやってみないと出てこない感想もあって,やってよかったなあと思いました。
 この実践についても,珠洲たのHPに掲載しておきました。

いろいろなものを抱えて生きている
 ほかにも,個人面談の取り組みで見えてきたことや,楽器のオーディションでの不満など,いろいろな話題を出してくれました。いずれも,わたし自身が1度は経験したことのあるような話題でした。そのときは,どうやって解決したのかまったく覚えていないので,参考になることは言えません。
 が,どんなことであっても,聞いてあげるときにはしっかり聞いてあげるってことが一番だと思います。自ずと解決策はあっちからやってくる。話を聞いてくれるだけで落ち着いてくる子どもや保護者もいますからね。焦らず,誠実に,向かい合いたいものです。「なんじゃこいつは」という大人もいるにはいるんですが…そこはプロとしてしっかり対応ですね。カウンセラーのつもりで(^^;)

3.「喃々レポ・2022年11月号」 A5 8ぺ  O.M
 珠洲たののサイトに「いろいろにじいろ」というページを作り始めました。そこでそれにちなんだ話題を持ってきました。ついでに,虹ができる原因を探る実験を紹介しました。これは授業書《虹と光》にも出てくる実験です。水入りのフラスコを空気中の水滴と考えて実験するんですが,フラスコと太陽の位置をうまく調節すると見事にフラスコにの下方から虹色が現れるのを見ることができます(今月の写真)。
 二つ目の話題は「久田佐助船長」についてです。能登町鵜川生まれの久田佐助という人は,戦前の『小學國語読本』にも掲載されるほど有名でした。その人について,宇出津小時代にまとめたものがあったので,それを紹介しました。
 この話題は,珠洲たのサイトにも新たに掲載しましたので,興味のある方はご覧下さい。そして,いつか授業に取り上げたら,報告して頂ければと思います。

今月の体験コーナー

予想問題集〈自然と人間の思想史〉  M.O
 数年前から読みたいなあと思っていたクライブ・ポンティング著/石弘之訳『緑の世界史(2巻本)』(朝日選書,1994)がやっと手に入ったので読んでみました。
 この本で,わたしが是非紹介したいと思った内容を「予想問題形式」にして準備しました。
 当時の思想家や哲学者,科学者は,自然と人間との関係をどのように捉え,どのように表現していたのか,というのを見ていくだけのものですが,予想を立てていくだけで,最後まで興味を持ってくれたようです。
 ただ,今回取り上げたのは,本書の内容のみだった「西洋の思想」しかありませんでした。今後,仏教圏ではどのような捉え方があったのかも調べてみたいと思っています。いつになるのか分からないので,期待しないでお待ちください。

カードゲーム「ONO99」       紹介 S.Mi 
 このカードゲームは「UNO」シリーズの1つです。
 常に4枚になるように持っている手持ちカードを,既に出ている場のカードに足し算しながら順番に出し,手持ちのカードのどれを出しても場のカードの合計数が99以上になるプレイヤーから脱落」というゲームです。
 1度に4枚のカードをトレードできる「オーノーカード」や他のプレイヤーに強制的にカードを2枚出させる「プレイ2カード」,数字の合計が「-10」になる「マイナス10カード」などの4種類のスペシャルカードがあります。足し算の暗算と現在の数字を覚えておく必要があります。
 どうです。小学校中学年以上+大人が集まったときのお正月の余興にいかがでしょうか。
 お値段は,1000円/個(税抜き)です。このページ上に商品リンク(Amazon)があります。

 他にも,わたしが鑑賞してきた「世界を変えた書物展」(金沢21世紀美術館)や「バンクシーって誰?展」(高岡市美術館)の話や本(今月の本棚↑)・パンフレットの紹介などもありました。この展覧会は,いずれも写真撮影自由でした。ステキですねえ!

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