尾形正宏
1990年記
はじめに
僕は,本屋へ行くのが好きです。これは,大学生の頃からです。それまでは,余り本を(マンガも含めて)読まない子でした。音楽が好きで,レコード屋さんへの出入りは良くありましたが・・・。
学生の頃は,科学,哲学,心理学関係の本やその他小説なんかもよく読みました(今じゃ,ほとんど小説は読まないが)。大学の授業で得た知識・考え方より,そうゆう本で得たもののほうが圧倒的に多いと自分では思っています。
しかし,本が趣味?の僕も全く寄ったことのないコーナーがありました。それは「子供向け」の<絵本コーナー>です。教育学部を出た人達にしてみれば「教師になるのに子供の本に興味がなかったなんて」と思われるでしょうが,本当なのだから仕方ありません。あくまで「子供向け」であり,自分とは関係の無い世界だと思っていたのです。
1.絵本コーナー
しかし,板倉聖宣氏の認識論や「科学読物」について文章を読んだり,『たのしい授業』(仮説社)に紹介される絵本を手に入れて読んだりしているうちに,「絵本の中には十分大人でも楽しめるものがある」ことに気付きました。それは,僕に新しい見方・考え方を教えてくれる教科書でもありました。(まあ,ここら辺りのことは,また,改めてまとめてみたいと思いますので,今回は先へ急ぎます)
そこで,最近は時々絵本コーナーに立ち寄ることになりました。そこにいるお客さんは,断然女の人が多数であり,しかも子連れが多いのは当たり前でしょうか?
今回は,柳生弦一郎さく『おしっこの研究』(たくさんのふしぎ傑作集・福音館)を手に入れ,それを使って簡単に授業をしてみたことを報告します。副題にも書いたように「中学2年生に<絵本の読み聞かせ>はできるか」という問題意識のもとでやってみました。
結論は「教材さえよけれは,大変楽しい授業になる」ということです
2.どの単元でやったのか
中学2年の理科の教科書に「多細胞生物の体」というのがあります。そこでは,細胞を勉強した後で,特に動物の体の<器官>を学習して行くことになります。僕は,今回,どんな順で<器官>の授業をしたかというと,
感覚器→神経系→消化器→呼吸器→循環器→排出
という順です。そこで,この『おしっこの研究』を,最後の「排出」のところで入れてみたのです。でも今は,最初の導入にこの本で授業を組めるのではないかとまで思っています。それが,実現するかどうかは分かりませんが・・・。
3.絵本の内容
授業では,すべてを読んだ訳ではありません。読んだ所にアンダーラインを引いておきました(ネットでは省略)。
おしっこをちょっとなめてみる?/ぼくたちのからだからでてくるものは/おしっことうんこは同じようなもの──かな?/うんこはこうしてつくられる/おしっこはじんぞうでつくられる/おしっこは,血えきのなかからでてきたものなのだ!/ぼうこう/1日にどれくらいでるの?/おしっこはきたないもの?/おねしょ/みみずにおしっこをかけると──
4.予想をしながら読む
では,実際の授業です。本文をすべて載せる訳には行きませんので,あしからず。なお,絵本の本文は緑色の枠の文字のものです。僕の質問は【 】の所です。生徒の反応は水色の枠と=で示してあります。
タイトルを読む
『おしっこの研究』,柳生弦一郎さく,
「おしっこ」はいったいなんなの? うんこのきょうだいなの? (表紙)
もうこれだけで大騒ぎになるクラスもあります。
いまから「おしっこの研究」というのをやります。
おしっこというのは,小便とか尿とかいう,あのおしっこのことです。研究というのは,ものをしらべて考えて,もうこれ以上さきのないところまでしろうということです。(2ぺ)
【質問0】 あなたが「おしっこ」を研究するとすれば,どんなことをして調べますか。
= 色を見る。
= 匂いを嗅ぐ。
= 手に付ける。
= 飲む! (と叫ぶのがどのクラスにも一人や二人はいる)
では,おしっこをしらべてみよう。
この「しらべる」ということについても,これもたいろんなやりかたがあるわけで,たとえば,ぼくがいまから宇宙人をしらべるというときは,ぼくのばあいそばに宇宙人がいないから,宇宙人をみた
り,宇宙人にさわったりできないので,宇宙人について書いてある本を読んだり,
…(中略)…
おしっこをしらべるのは宇宙人をしらべるのとちがって,すぐ,みたりさわったりしてしらべることができるわけです。あ~よかった。(2~3ぺ)
まず,おしっこをみてみよう。
ぼくたちは,おしっこをじ~~~~っとよくみたことがない。
…(中略)…
そこで,よくみるために自分のおしっこをすこしとってみよう。
…(中略)…
あ~~~,おしっこのニオイがする。
色は,うす~~~い黄色。その──いわゆる,おしっこ色。
おしっこにさわってみると──ああ~~あたたかい。
では,ちょっと,おしっこを,な・め・て・み・る・か・な?
指につけて──チュッ!──あっ,アセみたいにしおからい。 …(後略) (4~5ぺ)
ぼくたちのからだからでてくるものは
ぼくたちは水をのみ,空気をすいこみ,えいよう分のたくさんはいったたべものをたべている。そして,そんなふうに,水をのんだりたべものをたべたりすると,ぼくたちのからだからは,おしっこやうんこなどがでてくる。
ぼくたちのからだからでてくるものは──おしっこ,うんこ,あとどんなものがでてくるだろう? さあ,考えてみよう。 (6ペ)
【質問1】 ぼくたちの体から,どんなものが出て来るでしょうか。
(かんぱつを入れずに前から順番に聞いていきます。ハイ,次、ハイ、次…と)
= はなみず
= 汗
= はなくそ
= みみくそ
= めくそ
= 涙
= 唾液
まあ,ここらあたりまでは我が中学生もスッーとでてきますが,それからがなかなか続きません。少し待つと,
= 血!
= 精液! (と叫ぶクラスも)
だいたいはこれくらいですが,変わったところとしては,
= 赤ちゃん!
というのもありました。
以降は、絵本の文章は省略します。著作権の問題もありますので…。
【質問2】 うんことおしっこの似ているところをあげて下さい。
= くさい
= トイレでする
= いらないもの
『絵本』(10ペ)
【質問3】 それでは,うんことおしっこの違うところはどこですか。
= うんこは固体で,おしっこは液体 (「そうじゃないのもあるぞ~」との声も)
= 出てくる穴が違う
= 色が違う
= においが違う
『絵本』(11~17ペ)
腎臓の説明
このあと絵本では
「おしっこはじんぞうでつくられる」(18~19ペ)
「おしっこは,血えきのなかからでてきたものなのだ!」(20~25ぺ)
「ぼうこう」(26~27ぺ)
と続きます。
図で説明しながら,この絵本を読むだけでも,教科書を教えているよりはマシだと思います。
【質問4】 おしっこは1日にどれくらい出ると思いますか。
予想の選択肢も作らなかったので,勝手に叫んでました。
『絵本』(28ペ)
5.中途半端だったけど
この1時間で腎臓のことをしっかりと教えなければいけないということもあり,じっくりとこの本を読んでやることはできませんでした。欲張り過ぎたなあと思います。生徒さんたちには,感想を聞きませんでしたが,僕の見た限りでは,とても楽しそうに聞いていました(教師の感覚というのは当てにならないのですが)。
今回は,「うんことおしっこは,ちがうものである(うんこのできる過程をみてもおしっこはでてこない)」ということを知ってもらうために,その導入としてこの『おしっこの研究』を授業に取り入れた訳ですが,その目的は,十分達せられたと思います。
ただ,そんだけで終わらせるにはもったいない本のような気もします。特に「排泄物から見た体」という視点はとてもおもしろいし,ぜひ一読して欲しい本です。
柳生弦一郎さんは,このほかにも体に関してのおもしろい本をたくさん書いています。「きゅうきゅうばこ」の授業は,『たのしい授業』にも載っていました。
楽しい絵本がありましたら,また紹介します。皆さんも,教えて下さい。
6.最近の授業では(2022年追記)
わたしは,その後,小学校に異動してからは,「ペットボトルと濾紙」を使った「腎臓の模型」を作って授業をしています(養護の先生に借りた本に作り方が載ってました)。この腎臓模型を含む6年生との「人体の授業」に関しては,別にページを作成しましたので,興味のある方はご覧ください。
コメント
おもしろいですね。
自分のおしっこはなめても害にならないけど,他人のおしっこは害になるらしいです。
だからトイレに行ったあとに手を洗わなくてもだいじょうぶだとか。しかし,他人がさわると害になるとのこと。やっぱり手を洗うほうが正解ですね。
むかし,おしっこ健康法なんていうのがありました。害にはならないけど健康には関係ないと。うんこはどうなんでしょうね。
鼻くそをなめている小学生はたくさんいました。いまもいるかも。
コメントありがとうございます。
へ~,人様のおしっこは害になるんですか? まるで血液のようですね。
はなくそは,塩味がしたような…。
わたしも,むかしむかし,なめていたような…(^^;)
おしっこの方が抵抗ありそうです。