「タローラ」による〈分業〉の授業

社会

2008年10月 記

 何か面白いネタはないかなあと探していたら,TOSSの実践に「紙自動車を作る」というものがありました。その車の名前も「タローラ」とついています。紙自動車の組み立ては昔からやってみたいと思っていたことですが,なんだ,ちゃんとあるんですね。しかし,出典は書いてない…。ここがTOSSのだめな所です。
 そこで「タローラ」と検索すると,ちゃんと論文が引っかかってきました。
 この「タローラ」による実践を開発したのは西川満という人です。彼のHPの自己紹介を読むと以下のように出ていました。
小学校の社会科授業や総合的な学習の時間について研究してきました。さらに、仮説的推論(abduction)に基づく認知や認識についても研究しています。
 この「仮説的推論」という言葉の意味は分かりませんが,社会科の授業を作るときにポイントとしているようです(ここでは,これ以上つっこみません。興味がある人はHPをどうぞ)。
 西川氏が初めて「タローラ」による実践を紹介したのが『歴史地理教育・449号』(1989年11月)だったようです。このあと『新たのしくわかる社会科5年の授業』(あゆみ出版,1992)などにもまとまった実践記録が取り上げられて全国的に広まりました。今,もしかしたら…と思って,本棚にある『新小学社会の授業』(民衆社,1993)を見てみたら,やっぱりちゃんと「タローラ」実践が載っていました。どうりでわたしの頭にあったわけです。でもこの本にも西川氏への言及が全くない…これでいいのかなあ。
 ま,とにかく,この「タローラ」を作る授業はおもしろいです。これは,3段階に分かれます。
 ①まず,一人でタローラを組み立てる。
 ②次に,流れ作業で「工場内分業」をする。(部品は前もって切っておく)
 ③最後に,部品を切る作業も分担してやる。これが「関連工場」へとつながる。
 子どもたちの感想(別紙「学級通信」)を読んでもらえば分かりますが,なかなか楽しんで授業をやっています。まだ③はやっていません(このためには,同じ部品を集めたシートを作る必要がある)が,ぜひやってみたいと思います。
 「タローラ」に関する西川満氏については,本ページ下に説明しておきます。

「5の2学級通信第93号」(2008/10/17)より

 今,社会科では「工業」の勉強をしています。その工業の学習の代表として教科書に取り上げられているのが「自動車工業」です。自動車工業を元にして「日本の工業のしくみ」を見ていこうというわけです。

1時間目 紙自動車「タローラ」を個人で組み立てる

 まず,家にある車の車種を聞いてみました。すると…な,なんと,ほとんどの子が「自分ちの車の名前を知らない」というではありませんか。思わず目がテンになりました。わたしが子どものころには家に車はなかったけれども,ライトの形で車種が分かったりしたんですけどね。車があるのが普通になると,余計に興味・関心がなくなるんでしょう。だから車がなかった<けれど>ではなく車がなかった<から>車種を知っていたんだと思います。
 そのあと,車を作っている会社を聞いてみました。さすがに会社名は知っていました。

 そして,最後に「紙自動車・タローラ」を作ってもらいました。
 1人に1枚ずつ部品とボディを印刷した紙を配布します。10個の部品を切り抜き,ボディに貼っていきます。さて,23台できるまでに何分かかったでしょうか?
 実際にかかった時間は,早い子で15分,おそい子は25分たってもまだできていませんでした(右の図は,下記レポートよりデジタル化)。

2時間目 分担して「タローラ」を組み立てる

 さて次の時間。
「前の時間にタローラを組み立ててもらったけれども,もう少し早く23台つくる方法はないかな」と問いかけました。子どもたちからは,「自分のが終わったら友だちのを手伝う」「はじめに全部切ってから貼り付ける」「仕事を分担してやる」などという意見が出ました。
 そこでクラスを3つに分け,8人で8台の車を作ってもらうことにしました。仕事をどのように分担するのかは,そのチームで考えてもらいました。
 すると,早いチームで5分30秒,おそいチームでも8分ぐらいで8台を組み立てることができました。切り抜いた時間がおそい子で10分だったので,約18分で23台のタローラができました。

2時間の授業の感想

●とても難しそうだったけど,自分のところはけっこうかんたんだった。(Hito)
○今日は,タローラを役割分担してやりました。ぼくはタイヤがよかったけど,ライト役でした。役割分担はやってよかったと思いました。ぼくの班はライトをなくしたりしてちょっとおそくなったけど,ぼくが作るときより早かったのでいいと思いました。(Ky)
●みんなでやっていくと一番速いっていってたけど,ほんとうに速くできました。タイヤの部分の時,のりが少なくなって大変でした。(Yu)
○分担してやっていくと,一人ずつするより楽だし時間もかからないことがわかった。⑦の部品の人は,すごく時間がかかった。でも5分くらいちぢめられたのでほとんどの仕事(工場の人)もこうした分担方法で仕事の時間を短くしてやっているんだなあと思いました。(Mi)
●タローラを作って,私は⑦をはる係でした。私のところでけっこう時間がかかってみんなが「いそいで~。」といっていたのでたいへんでした。(Yu)
○タローラを仕事分担してやったら前より速くなった。いすをやってたらすごくたまった。(Ya)
●ぼくは車を作ったら「みんなでつくったら」はやくできてびっくりした。(Ka)
○分担してやると,2,3分は早く終わったけど,7番の人と9番10番の人があせって(たまっていくから)のりでべたべたになっていた。でも早く終わったのでよかったです。(Yu)
●ぼくは7番の係で,一番むずかしい係でした。だから,一番自動車がたまっていて,次の人にもめいわくになりました。急いでいたから,たたいてくっつけていたら今での机がべとべとになりました,大変でした。(Hibi)
●私はイス④の係でした,前の瞬は少したまっていたけど,私はすぐにチーコのところにわたしました。よかったです。ライトがひとつなくなってあまったから,紙にまねをして書きました。いそいでいるとめちゃくちゃの車になってしまいました。あらら…。(Hona)
●みんなで仕事を分けるとすごく早くなったのでビックリしました。でも私は少しおそかったけど,みんなはすごく早かったです。(Se)
○ぼくは,作るときに「①エンジン」と「⑧ライト」をはる係でした。最初はエンジンの所にのりをつけてやっていたけど本体の方につけてやった方がやりやすかったです。何事も効率的にやったほうがいいんだなあと思いました。(Fu)
●ぼくたちのグループはタローラをつくる仕事を分担してしっかりできたので,一番最初に終わりました。うれしかったです。今度はみんなで分担して23台を作りたいです。(Kazu)
○私は⑦をしました。やっと1枚おわったと思ったらつくえの上に2,3枚たまっていました。私はあわててしました。⑦はとってもいそがしかったです。でもみんなと協力してタローラを組み立てるのはとても楽しかったです。(Hono)
●前にやった時間は30分くらいでおそかったけど,2回目にしたときは15分くらいでできたので,すごく速くなったのでビックリしました。分担してやったのと一人でやったのは,やっている時間が全然ちがうんだなと思いました。(Chi)

 以上の実践は,第2時まででしたが,その後,第3時まで実践してくれたメンバーが出てきたので,そのときの記録を紹介します。


追試実践記録(2022/11月,例会提出レポートより,W.T)

  自動車工場と関連工場の役割を自分たちでやってみようというダイナミックでたのしそうな教材を教えてもらったのでやってみました。結果、子どもたちもとても楽しんでいました。
 レポートや上述の授業記録どおりに、早く作り終わって待っている子にはタイムを書かせ、車体に色を塗らせました。(←参照したサイト:教育考現学 大阪教育サークルはやし(代表)荒井賢を参考にしました。)
 マネをして楽しいことをした後で、急につまらなくなるのが自分の授業です。もっと教材を上手に調理したいと思い、今回の分業や流れ作業での実体験が、工場で働いている人員や作業工程、その工夫や苦労につながるようにと計画を立てました。

第1時

[進め方]
1.家の人が乗っている車の名前を聞く。
2.知っている自動車メーカーの名前を聞く。
3.1人1台のタローラづくりをする。(15名だから全部で15台)
4.15台ができるのにかかった時間を確認する。

 自分で紙を切って作ってみると、6分だったので、遅い子でも15分くらいだろうと思っていたら、なんと27分もかかりました。
 同僚のSさんとも話したのですが、鋏を使って切ったり貼ったりということをいかにやってきていないのかとびっくりしました。でも遅い方が全員で流れ作業を行った時の早さに驚くだろうと思い、しめしめと思っていました。とても早い子もいたので、全員が作り終わって完成するまでに27分かかったのだということを強調して終わりました。

第2時

[進め方]
1.全員が作り終わるのにかかった時間(27分)と、1人の平均作業時間(18分)を確認する。
2.<もっと早く15台作るにはどうしたらよいか>を聞く。
3.2つのグループに分かれて、仕事の分担を相談する。
4.決めた役割でタローラを作る。

もっと早く作るにはどうしたらいいのかと聞くと,
「貼ることが得意な人と切ることが得意な人に分かれる」
「部品をあらかじめ切っておく」
「人を増やす」
などいう意見が出ました。そこからグループで役割分担をし,先に部品を切っておくことで,タイムはどうなるかやってみようということになりました。
 先に部品を切って組み立てるだけになると,わずか4分で完成しました。「みんなが今やったような作業の仕方を〈流れ作業〉というんだ」と話し,次は部品を切り取ることも役割分担して,本当の自動車工場のように作るよと伝え、感想を書いてもらって終わりました。

第3時

[進め方]
1.第1時で作ったときにかかった時間等を確認する。
2.<自動車工場のやり方でやってみよう> 部品を切る人と貼る人に分かれてやってみる。
3.簡単な用語を説明する。
4.感想を書く。

 15台を14分で作れました。
「やっぱりはや~い」「つかれた~」と言いながらみんな満足そうでした。
「みんなは今14分だけだったけど,本当の自動車工場では8時間は働いているんだよ」というと,
「大変だなあとかそりゃあお金いっぱいもらわないとなあ」などと話していました。
 この後で,感想と,もっと調べたいことを書いてもらい終了しました。
 次の時間からは、ロボットの活用ジャスト・イン・タイム方式のこと、それでも人の手に頼っているところあるということの2点を中心に進めていきました。

感想ピックアップ

・タローラづくりは少し大変だけど,本当のはもっと大変なのかなと思いました。でも早く終われてよかったです。 
・みんなで作るとだれかがたまったりして協力しないとダメだと思ったし,本当に作ると大変だろうなぁと思いました。
・流れ作業のほうが、1人のふたんはないということが分かりました。1人が1つの部品の作り方、つけ方さえ知っていれば、何こもの部品のことを覚えていなくていいから私は楽でした。 

実際にやってみないと出てこない感想もあって、やってよかったなあと思いました。おしまい。


「タローラ」について

本実践の元になった情報は,次のような雑誌・研究誌に紹介されていました。

●西川満「疑似体験をとりいれた社会科授業の構成原理ー小5工業学習「タローラづくり」実践を例にしてー」『社会認識教育学研究 第9号 1994年』(鳴門社会科教育学会,PDF)
●西川満「分業でタローラづくり」『歴史地理教育・449号』(1989年11月),「工場外分業をタローラ2で(上)」「働く人のようすをタローラ3で」(PDFファイル)
●西川満「大量生産と分業のしくみ」(社会科の実践誌の記事・PDF)

 これらの資料をわたしはネットからPDF形式で手に入れたのですが,残念ながら現在(2022/10/05)は,ネット上で読むことができないようです。著作権の関係でもあったのでしょうか? ぜひ,新しい実践者にも読めるようにしてほしいものです。西川先生,お願いします。 

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