今月の本棚・2001年版

旧・今月の本棚

8~12月号

 この本棚も,ちょっとご無沙汰していました。10月~12月にかけては,あまり本を読みませんでした。それよりも,学級通信を書くことがおもしろくて,暇さえあれば学級通信を書いていました。あと,11月の上旬にノートパソコンが変になって再インストールをし直したことと,新しくディスクトップ(VAIO)を買って,それにも夢中になっていたからです。
 そういうわけで,ここに紹介する本は,8月の夏休み中~9月にかけて読んだ本です。なお,「ビーグル」関連の本は,先にHPで8冊紹介してあります。犬に興味のある人は,そちらをご覧ください。

●柚木利博編著『語源を知れば日本語がわかる』(ふたばらいふ新書,2001,293p,857円)
 数年前から,日本語を見直そうブーム(ボクが勝手につけた名前)ですが,この本もそう言うながれの中で生まれた本です。新書版で読みやすかったです。
 たとえば,「土壇場で底力を発揮する」の「土壇場」の語源ってなんだと思いますか? その部分を引用します。
 じつはこれが恐ろしい場所なのである。「土壇場」とはもともと処刑場のことなのだ。打ち首の刑をするために盛り土をしたのが「土壇」。そうした用意をした場所のことを「土壇場」と呼んだ。
 日本語の語源ってホントにおもしろいです。でも,こういう本を読んでも,ほとんど頭に残らないのです。だから,いつでも新鮮に読み直しができるのだ。

●安斎育郎著『だからあなたは騙される!』(角川書店,2001,202p,571円)
 これも僕の好きな分野の本の一つ。人間はなぜ騙されるのか,騙されるとはどういうことなのかということは,とっても興味があります。
 安斎さんは,テレビなどにもでて超常現象を科学的・批判的に解明している科学者です。本書の第3章で,安斎さんは「騙されないための6ヶ条」と称して以下のことを揚げています。
・「そんなことできるんなら,どうしてこうしないのか」と考えよう
・「抽象的な話」は「具体的な話」に置き換えて,じっくり考えよう
・具体的事実をちりばめた本当らしい話も,もう一度疑ってみよう
・「分からないことはひきつづき調べればいい」という姿勢を大切に
・「人間は騙されやすい動物だ」ということをしっかり認識しよう
・「奇麗なバラにはトゲがある」という諺の意味を深く理解しよう
 こんだけでは,当たり前のようですが,誤謬や騙しは,知らないうちにマスコミなどを通して近づいてきているのです。
 第2章にも,こんな教訓が書かれています。
 700年前の親鸞,120年前の井上円了等,昔のことだと馬鹿にしてはいけない。学ぶべきことは沢山ある。「温故知新」の精神を実践しよう。
 井上円了については,板倉さんの『かわりだねの科学者たち』でよく知っているので,この言葉に深く頷いたのでありました。お薦めの本です。

●辻秀一著『スラムダンク勝利学』(集英社,2000,181p,1000円
 本屋で何度も目にした本ですが,何度もその前を通り過ぎていました。でもなぜか,8月頃に買ってしまいました。購入の理由を考えてみると,小・中学校のスポーツに自分も娘もクラスの子どもたちも関わっていることがあります。
 『スラムダンク』というマンガは,一時期すごく好きで,今でも全巻持っています。今は,中学校の娘の部屋に置いてありますが…。
 このマンガが好きなのは,ユーモアの中にも真剣になれるものがあり,しかも出てくるキャラクターの個性がすごくいいからです。
 さて,『スラムダンク勝利学』というのは,この『スラムダンク』というマンガの具体的な場面描写を通して,「勝利とは何か」「本物のチームワークとは何か」など,著者の思うところを説明してあります。著者は各種バスケットボール部のチームドクターやミニバスのアドバイザーを務めているそうです。
 また,結果を重要視した瞬間にも,あきらめの思考がやってきます。「もう,だめだ」とか「やっぱり勝てない」などと考えることは,変化よりも結果ばかりを追いかけている証拠です。変化を重要視し,そこから学ぼうと言うことを目標にしている選手は,あきらめるはずがありません。終わる瞬間まで変化はあるでしょうし,学ぶこともできるからです。あきらめの思考こそ,結果重視という並の発想,また,今に生きる,今するべきことをするという大原則に反するものであることが分かるでしょう。(本書109ぺ)

●宮治誠著『カビ博士奮闘記』(講談社,2001,229p,1600円)
 「カビ研究の第一人者のおもしろ科学エッセイ」という腰巻き文句に引きつけられて買いました。「私カビの味方です」というのもおもしろいです。
 カビというとふつうは嫌われ者ですよね。それが,「味方です」っていうんですから,おもしろそうです。
 内容はボクの予想通りおもしろかったです。「カビの名前」の説明に,
これは「山田さんちの太郎くん」みたいなもので,属名のカンジダが苗字に,種名のアルビカンスが名前にあたるものと考えればいいでしょう。(本書96ぺ)
とあったり,リンパ球の説明のところでは,
食細胞のうちでもマクロファージは,形勢不利とみると,
「ここにカビがいるう~,助けてえええ~っっ!!」
と声を限りに叫びます(聞いたことないけど。)すると,その叫びが胸腺という…(以下省略,121ぺ)

なんて調子で,大変たのしく読むことができました。
「カビの病気は先進国の病気」という指摘にも,なるほどとうなづきました。著者がカビの研究を始めた理由などもおもしろくて,これまた,お薦めの本です。

●立川談志著『現代落語論』(三一親書,1965,280p,850円)
 ブックオフで100円だったので,買ってきました。発行は1965年ってんですから,もう35年も前です。談志が,5代目立川談志を襲名,真打ちになってからすぐに書かれたもので,若い頃の談志の姿が忍ばれて興味深かったです。ま,談志,昔からあのままだったんだなあというのが正直な感想。文章は決して読みやすいとはいえません。話がつながっていないんだよなあ。ま,荒削りな勢いは感じましたけど…。

●日高敏隆著『犬のことば』(青土社,1999,274p,1900円)
 動物と人間に関するエッセイを書かせたら,右に出るものはいない? 日高さんのエッセイ集です。1979年が初版で84年に新装版が出て,その後『全集 日本動物誌(全30巻)』にも丸ごと納められているそうで,大変人気のある本だと言うことが分かります。ボクの買ったのは,1999年版です。これには,前の内容に数編付け加わっています。
追記:上記商品リンクには新版(2012年版)をリンクしてあります。

●板倉聖宣・塚本浩司・宮地祐司共著『たのしい知の技術』(仮説社,2001,181p,1900円)
 この本の序に,塚本さんはこう書かれています。
この本は,科学史,科学教育,社会の科学などの幅広い分野にわたって次々と大きな研究成果をあげている板倉聖宣さんの「研究技術」-とくに科学史の研究技術-についてまとめた本です。
 研究の心構えから始まって,パソコンの使い方まで,手取り足取りの研究技術を知ることができます。ま,しかし,研究でいちばん大切なのは,特に値する問題意識なのですが…。

●斉藤政喜著『耕うん機オンザロード』(小学館,2001,333p,1200円)
 これはおもろいです。もうすごくおすすめです。楽しいです。こんな人が日本にいるのかと思います。なんせ,耕うん機で日本縦断をしようというのですから…。著者の斉藤-別名シェルパ斉藤-さんの旅のお話が,日常の疲れをとってくれます。
 途中,学校に関することも出てきます。斉藤さんをクラスに招こうとした担任の先生に,校長からストップがかかる場面です。その理由も「どこ馬の骨とも分からない…」というようなことで,まあ,事なかれ主義の最たるもんでしょう。しかし,そのあと,ちがう学校に招かれ教壇に立つ経験もします。旅は道連れで,けったいな女の人と一緒になったり,こんな人生もいいもんだなあ(でもボクにはできないけど)と,思いました。
 この本のことは『週刊金曜日』の本の紹介の欄で知りました。

●茂山千之丞著『狂言じゃ,狂言じゃ!』(晶文社,2000,222p,1800円)
 狂言役者による「狂言出門書」(作者の造語)です。狂言の歴史や登場人物について,わかりやすく楽しく書かれています。「狂言出門書」とはいっても,狂言について沢山知っていないと(入門していないと)全く分からないという本ではありません。ボクのような「狂言についてはほとんど知識のない人」にも,十分読める本となっています。
 狂言に興味を持ったのは,もちろん6年生の教科書に出ている「ぶす」からです。ボクは,まだ本物の狂言を一度も見たことがありません。一度見てみたいなあ。カバーの扉のコマーシャル文を紹介しておきます。
▼狂言は「古典」芸能ではありません。え?ものの本にはそう書いてあるって? ところが千之丞節に導かれ,狂言の世界をのぞいてみれば,しっかり女房に,気のいい婿どの,夫婦喧嘩に親子喧嘩,見栄の張り合い,助け合い。これってもしかしてうちの女房や旦那さんのこと?! そうです。狂言は「今」の芸能なのです。/さあ,ありきたりの入門書なんかほっておいて,この狂言「出門書」を手に永遠のエンターテイメント狂言の世界へご一緒に。
 どうです。読んでみたくなったでしょ。

ビーグル特集→「ビーグル犬に関する本・映画」へ

7月号

 7月には参議院議員の選挙がありました。予想通り小泉人気で自民党の一人勝ちという感じでしたが…さて,これからどうなることやら。

●佐高信編著『日本国憲法の逆襲』(岩波書店,2001,262p,1400円)
 日本国憲法に対して,論憲どころか改憲が堂々と話される時代となったようです。「しかし,論憲・改憲・護憲と言う前に,私たちはどれくらい憲法のことを知っているのでしょうか?」というような論も新聞・雑誌に見受けられます。ボクは,こういう意見には与しません。というのも,憲法を改正しようと言う人たちは,基本的人権や戦争放棄などの部分を触りたいのであることは目に見えているからです。「おまえ,もっと憲法のことを勉強してから話せ」という意見は,一見最もらしいですが,普通の感覚の人たちを遠ざけ,専門家のみで議論するような感じがして好きじゃないです。
 佐高さんのこの本は,田原総一朗から喜納昌吉まで,いろいろな場面で活躍している人たちと憲法について語った対談集です。

●辻元清美著『総理,総理,総理!!』(第三書館,2001,270p,1500円)
 辻元さんというのは,1960年奈良県生まれ,社民党の衆議院議員です。今は,政策審議会長をやっているようです。
 辻元さんは,今回の選挙の時にも,よくテレビの各党との政策論争番組に出ていました。関西弁の女の人と言えば分かるかな?
 本の題名にもなっているのは,5月の国会中に,集団的自衛権についての辻元の質問に対して,小泉総理が答えようとせず,さらに辻元が「私は総理に答えてほしいのです,ソーリ,ソーリ」と12回も総理を連発したことによるそうです。このときの答弁は,「集団的自衛権」に対しての総理の無知ぶりを示すことになったことでも有名ですが,まあ,視聴率が13%にもなったとスポーツ新聞にも書かれるくらいの国会中継でした。
 小泉さんは純粋でそこが好かれているようですが,どうも「自分の思い」だけを優先してしまうところがあり,政治家としての資質と言われると,ほとんど無いような気もします。ゴーマニズム小林の言葉を借りると「純粋まっすぐ君」といったところでしょうか(もっとも,小林はこの言葉を左派に対して使うことが好きらしいが)。「靖国に参拝するけど,それは平和を願ってのことだよ」とさえ言っていれば,どうにかなると思っている単純さには,参ってしまいます。靖国神社には,歴史の重みがあるのです。
 とっても楽しい本でした。元気いっぱい女が日本を変えるみたいですね。期待します。

●佐藤愛子著『古川柳ひとりよがり』(集英社文庫,1987,340p,460円)
 女の目から見た江戸古川柳の解説書兼エッセイ。収録されている古川柳もおもしろいが,それを現代にあわせて解釈し,わかりやすく説明し,それを人生の教訓ともしているところが,おもしろかったです。
 もう一年以上も前に買ってあって,中途半端に読んでいた本ですが,今回,時間ができたので読んでみました。古川柳入門としても十分な一冊です。
以前紹介したかも知れませんが,女流作家の一人田辺聖子さんにも『川柳でんでん太鼓』(講談社)という本があります。これもおもしろいですよ。

●日高敏隆著『動物の言い分人間の言い分』(角川書店,2001,207p,571円)
 動物達に関するエッセイ。気楽に読めますが,ま,それだけです。でも,こういう,エッセイ集というか随筆集というのも,たまに読むといいものです。

●藤森良蔵・良夫共著『幼稚園から一二年・算数 母の心構え』(考え方研究社,1942,335p,1円50銭)
 大正・昭和時代のかわりだねの科学者・藤森良蔵の本です。新居信正さんが『正常化通信』で復刻してくれましたので,全文を読むことができました。
 さすがに戦時中だけあって,至る所に「祖国日本を思う心」が出てきます。
 一例を挙げると,
お母さんから庭をお掃きなさいと云いつけられて,一人で掃かずに
    一郎と協力したのであるから 1人と1人で2人
と云う2の構成をシッカリ呑み込ませて戴きたいのであります。そして,二人の協力によって,庭がきれいになった時の喜びをシミジミと味はせて
二人の協力,二人の兄弟の協力こそ三人の協力となり,3人の兄弟の協力は毛利元就の教訓を産み,一家の協力は隣から隣への協力となり,やがては,
            一億一心の協力
    に迄○化するに到る
事を思はなくてはならないであります。(本書26ぺ)

というかんじです。どうです,時代を感じるでしょ。こういうところに注目するのもおもしろいですが,やはり,反復練習を重視するところや,彼独特の言い回しなど,楽しく読めました。復刻してくれた新居さんに感謝です。藤森良蔵の古本はなかなか手にはいらないからなあ。

6月号

 夜寝るときに本とおつきあいしようと思うのですが,のめり込むような本がないのか,自分の体に疲れがたまっているのか,すぐに寝てしまいます。体力のなさを感じる今日この頃なのですが…。

●永六輔著『あなたに伝えたい』(大和書房,2000,205p,1400円)
 NHK教育テレビ『手話ニュース845』で1994年から1999年に放送された番組「手話放談」の中から選んで編集された本です。
 永さんが,お話をし,それを丸山さんが当時通訳で手話にするわけです。で,多分こういうときは,手話通訳の人にもわかりやすいように話をするのが普通なのでしょう。
 ところが永さんは,とてもいじわるなので,手話通訳者の丸山さんが困るようなことを話題にします。「ズキズキ痛むとヒリヒリ痛む」「アナログとデジタル」などの違いをどう表すかで楽しんだり,「駄洒落」「都々逸」などをどんな風に表現するのか,お手並み拝見したりしています。本を読んでいると,手話通訳者の苦悩が目に浮かんできます。そして,ビデオがあれば是非みたいものだなあと思いました。

●盛田栄一他著『空想法律読本』(メディアファクトリー,2001,253ぺ,1200円)
 ほほ~,遂に出ましたね。空想科学の世界を,日本の法律で裁くとどんな罪が待っているのかを,まじめな弁護士達が『ウルトラマン図鑑』を手に取りまとめた本です。
 空想科学シリーズは,マンガになったりもしていますが,最近,購入することはありませんでした(飽きてきたのだ)。でも,この本は,久しぶりに気合いが入っていて面白いです。
追記:上記商品リンクは,2012年発行の新装版です。

●杉原残華著『都々逸読本』(芳賀書店,1967,240p,340円[古書で1000円])
 著者の杉原残華は,都々逸作家です。この本は,都々逸の入門書として,前半の六分の一くらいを[都々逸の生い立ち」にあて,後の部分は「どどいつ名吟集」として,新旧織り交ぜてさまざまな都々逸を紹介しています。
 この本のさし絵が,ちょっと粋です。「カラー版」なんて表紙に書いてありますが,さし絵にちょちょっと紅をさしたような感じなのです。これで「カラー版」とは笑わせるねえ。でも,本文とは関係なく挿入したという「さし絵」は,なかなかいい味だしています。ネットの古本やさんから手に入れました。
・わたしの人では ないひとなれど よそのひとにも したくない (平山廬江)

●吉川潮著『浮かれ三亀松』(新潮社,2000,370p,1800円)
 柳家三亀松って,ご存じですか? 大正末から戦後まで一世を風靡した(らしい)天才芸人です。主に都々逸を唄って,それに声帯模写なども取り入れていたそうです。
 この本は,その三亀松の「一代記」と言えます。いろいろな資料から,その波瀾万丈な人生が綴られていて「伝記」として,面白く読みました。
 で,読んでいるうちに三亀松の声と都々逸の歌い方が聞きたくなりました。当時は,結構レコードにもなり,それなりに売れたそうなので,「どっかにSP盤でもないかなあ」なんて思っていたら,ちゃんとCDになっている事を知り,早速ネットで注文。手に入れました。
『コロンビア邦楽 都々逸 柳家三亀松』(COCF-11666)
『風流いろくらべ いろ笑粋談 柳家三亀松』(KICH-3189)

の2枚です。タイトルが分かっていなくても「三亀松」で検索すると出て来るこのネットの便利さ。趣味が一気に広がります。

●永六輔・永千絵・永麻理著『読めば読むほど』(くもん出版,2001,254p,1300円)
 永さんと,その娘たちがいっしょに書いた「本」に関する本です。ただし,どの原稿も本ができあがるまではお互いに読んでいないのだそうで,そのあたりの緊張感が伝わってきておもしろかったです。
「研究者が,その研究のための本を読むのは,これは当たり前の話です。(中略)子どもが,知識を獲得するために本を読む。国語の勉強のために本を読む。こういう読書も,当然あるでしょう。しかし,読書がすべて,何かしらの見返りを求めておこなわれるとしたら,とても残念です。とくに子どもの読書は,目先の「成長」や「成績」といったものが目的で,おこなわれてはならないと思います。」
 ボクの読書は,研究のためが多いのかなあ。ちょっと考えてみようと思います。
「その人が,ふっと気になったこと,あるいは,好奇心の湧いてきたことを,とりあえず読んでおく。すると,何かの拍子に,かつてその本を読んだことが,まるで宝くじが当たったように,「読んでおいてよかった」という形で,その人に返ってくるんだろうと思います。それは,見返りとは別の喜びです。」
 そのとおりだなあ。ボクの読書の方法も,「好奇心のおもむくまま」という感じです。研究のために読む本もありますが,それはその研究内容が,そもそも「好奇心から出てきたもの」なのですから…。いやなことは研究しようとは思いませんのでね。
 ほのぼのとあったかい,本好きの人たちの書いた本でした。

●高木仁三郎著『人間の顔をした科学』(七つ森書館,2001,154p,1200円)
 市民科学ブックスの1冊目として刊行された本です。高木さんがなくなってから編集された本です。
 Ⅰ 人間の顔をした科学…NHK教育テレビの講座の元原稿
 Ⅱ 高木学校とその志…高木学校特別講演をもとにしたもの
 Ⅲ プルトニウムと市民…高木学校連続講座の第1日目のもの
 Ⅳ 原子力神話とJCO臨界事故…高木学校の特別講義
 第Ⅳ章の内容については,先にいつぞや紹介した高木さんの本の方がくわしくてわかりやすいです。
 「市民科学ブックス」シリーズがこれから続いて刊行されるようなので,手に入れて読んでみたいと思います。
「人びとの心の奥底にあるのは,単純な技術への選択の問題ではなく,もう少しちがう科学技術への期待があるのではないかと思われます。つまり,人びとが安心して暮らせるような科学のあり方を望んでいるということです。」


5月号

 さて連休も終わり,いよいよ本格的に授業をするはずなのですが,修学旅行の準備や後始末などで,なかなか日常のリズムに戻りません。まあ,6年生というのは,こんな調子で1年が終わるのかなあと言う気もしています。

●谷岡一郎著『「社会調査」のウソ』(文春新書,2000,222p,690円)
 母集団がはっきりしない調査,抽出した集団に偏りがあるデータ,質問事項が有る方向に答えを誘導しているような調査,そもそも選択肢が変な調査など,この世の中にはびこる世論調査というものに鋭くメスを入れて,それにだまされない方法を素人にもわかりやすく書いてあります。と言っても,「やはりだまされるだろうなあ」という気もします。自信がないのだ…トホホホホ。
 右のデーターも左の調査も,変なものは変と言っているところは,小気味よい。
 この本の最終・第5章で,著者は「リサーチ・リテラシーのすすめ」と題して,「その社会調査が本物かどうかを見分ける力を身につけてほしい」と書いています。本書の目的も,「そこにある」と言うことです。
 今回の小泉内閣の支持率にしても,新聞紙上で「8割から9割の支持率」とテレビで報じていましたが,「なんで新聞の調査によって1割も差があるのかなあ」と思いました。「選択肢や調査対象がちがうのかな」「朝日新聞が一番低かったのには,何かあるのか」なんて,ちょっとだけ気になったのです(ただ,今回の場合は,そんな違いより,前の森内閣との違いの方が大きいので,たいして問題にはならないけどね)。
 これから,ますます「改憲に賛成する人・しない人」とか,「自衛隊に賛成する人・しない人」などという世論調査がたくさん出てきそうです。だまされないようにしないと,未来の方向を誤ってしまいます。くわばらくわばら。

●福島瑞穂・佐高信著『「憲法大好き」宣言』(社会思想社,2000,200ぺ,1400円)
 自民党の再生が優先したのかは知らないが,改憲を公然と言ってはばからない小泉氏が総理となってしまいました。国民の支持はすごいのですが,みんな本質はわかっているのでしょうか? まさに「不景気や政治不信が高まってくると,国民は<はっきりものを言う人>をほしがる」という形が出てきているようで不気味です。
 改憲論が蔓延る中で,佐高さんや福島さんは護憲の立場から元気に発言しています。本書は,2人の対談と,それぞれの講演会をもとに編集されています。
 改憲派は「現実にあわせて憲法を変えろ」と言うけど,そんなことをしていると「泥棒にあわせて法律を変えろ」「差別という現実にあわせて,<法の下の平等>を変えろ」ということになって変な論理だと言うことがいっぺんにわかります。なぜか自衛隊だけ「現実にあわせて変えろ」というのでしょうか。それは改憲論のめざすものが別なところに有るからでしょう。
 とにかく,元気が出る本です。

●福島瑞穂著『福島瑞穂の新世紀対談』(明石書店,2001,250p,1600円)
 福島瑞穂は社民党の議員です。弁護士でもあります。この本は,福島瑞穂と各界の著名人との対談集です。対談相手は以下のとおり。
 辛淑玉,佐高信,テリー伊藤,吉永みち子,木村伸介,上原公子,天野祐吉,海渡雄一(瑞穂の夫),鶴見俊輔,道浦母都子,湯川れい子,内橋克人,宮崎学,金子勝,辺見庸,石川好,浅田彰
 これらは,『月刊社会民主』に連載されたものだそうです。社民党に対しての厳しい意見もあったりして,おもしろい本です。この本もやっぱり元気が出ます。 社民党の,福島,辻元,原さんたちは,なかなか元気でおもしろい人達ですね。これからの時代,女の人も元気でないとね。政党はちがっても,扇さんも田中真紀子さんも元気だよなあ。

●菊間千乃著『私がアナウンサー』(文藝春秋,2001,263p,1238円)
 本書の腰巻きには次のように書いてあります。
表「実況生中継中,5階建てのビルから転落,地上に激突。胸椎,腰椎,肋骨,仙骨を骨折。3日以内に痺れがくれば,下半身不随…1年間にわたる闘病とリハビリ,そして再びテレビに復帰するまでの感動の手記」
裏「瀕死の重傷から,再びテレビに復帰するまで…1998年9月2日,フジテレビの報道番組『めざましテレビ』を見ていた視聴者は,菊間千乃アナが,5階建てのビルから転落,地上に激突する様をまのあたりにする。本書は,その後長期の闘病生活とリハビリのすえに再びテレビに復帰した菊間アナが,約2年の沈黙を破って,転落から復帰にいたるまでの全てを記した手記である。両親の献身的な愛情。ICUで隣り合わせた自殺未遂の妊婦との交流。週刊誌の盗撮。天翔かる恋。テレビの仕事に対する絶望の後の希望。」

 最近,この種の本がよく出ていて「苦境から立ち上がった」ってのが読まれているようですが,これもそれと同じかなあとも思うし,ちがうような気もするし…。
 ボクもカミさんも,この日の朝の番組をちょうど見ていました。この日だけでなく,毎日「めざましテレビ」を見るのが日課だったので,彼女のその後がとても気になっていました。
 自分の主治医や事故当時の様子を知っている人達にも聞き取り調査をして,自分の事故を客観的に書いている部分も有れば主観そのままの部分もありますが,それが,かえって興味深い内容となっています。

●中道風迅洞著『26字詩・どどいつ入門』(徳間書店,1986,280p,1800円)
 いやー,この本を手に入れるのはムリだと思っていました。以前,書店に注文したときには「品切れです」って言われていたから…。それが,先日,なにげなく「本やタウン」HP上に「都々逸」で検索をかけたら,ちゃんと出てくるではありませんか。早速注文しましたよ。もちろんです。で,ついでなので「都々逸」で引っかかった他の文庫本や単行本も注文してみました。しめてちょうど1万円ほど支払いました。あはははは…。でも,これがボクの本(ホン)の楽しみなのだ
 中道風迅洞さんのことは,5年ほど前の新居信正さんの『正常化通信』に転載されていた新聞記事で知りました。そこには風迅洞グループ自家製版の都々逸本が紹介されていたのですが,その本をfaxで注文したところ「もうない」と言われました。ただ,「新しいのがもうすぐ出るから,それが出来たら送ってあげるね」と,ていねいな返事も戴きました。そのとき「私の本は,書店で2冊手にはいるはずだ」と教えていただき,風迅洞さんの本を注文したわけです(たぶん,クロネコで)。でも,出版社にはもうなくて,2冊持っているという新居さんから,風迅洞著『どどいつ万葉集』(徳間書店)を譲り受けました。で,もう1冊は,あきらめていたのです。
 それが今回,手に入ったので,もう喜んで一気に読んでしまいました。
 こちらの方は,「どどいつ」の生誕から,江戸,明治,大正,昭和と,都々逸がたどってきた道筋が,わかりやすくまとめています。「文明開化都々逸」や「翻訳された都々逸」なんて初めて見ました。
・開化する程恋には便利 遠けりゃ蒸気や電信機
・写真ばかりじゃ実地が知れぬ ならば心もうつしたい

なんて,都々逸は楽しいよなあ。
 自分でつくるなら折り込み都々逸からどうぞ…とも言っています。アクロスティックの遊びから,都々逸に入門するってのもおもしろそうですね(アクロスティック[折句]という言葉もちゃんとこの本に出てきます)。
 とにかく,欲しかった本が手に入って興奮気味です。ボクの持っているのは,1999年7月10日で第5刷です。
追記:いま(2022年)じゃあ,普通にAmazonの商品で古本が扱われていています。便利な時代になったものです。

●内館牧子著『小粋な失恋』(講談社文庫,2000,213p,467円)
 古典都々逸から,著者が50首ばかり選りすぐり,その都々逸を解説しながら現代の「男と女の心の機微」についてエッセイを書いています。この本のことも,上の本と同様に知りました。内館という著者については,この本を読むまでは全く知りませんでしたが,あとから,NHKの朝の連続小説「ひらり」の脚本家であり,『義務と演技』の著者であることをしりました。
「どどいつ」について,「ちょっとくだけた本から読んでみたいなあ」というかたに,おすすめの本です。もともとは「With」という雑誌に連載したものを文庫本化したのですから,読みやすいのもわかります。
・雨の降るほど噂はあれど ただの一度も濡れはせぬ
・あなた恋しと鳴く蝉よりも 鳴かぬ蛍が身を焦がす

 これ,ほんと簡単に読めるので,お薦めですよ。安いし手軽だしね。
 蛇足だけど,後ろに付いてる解説の中尾彬さんの文章もおもしろかったです。

●木原健太郎編著『キーワードで綴る戦後授業研究論争史』(明治図書,1992,296p,2370円)
 本書は,昭和20年代はじめから,昭和50年代前半あたりまでの授業研究の歴史を「論争」の視点でまとめたものだそうです。
 ときあたかも法則化が席巻していたころ出版された本だけあって,対象とする読者は20代後半から30代にかけての先生方ーらしいです。
 しかし,ボクが買ったこの本は,なぜかまだ初版です。不思議だなあ。そんなに売れなかったのでしょうか?「月2万円の本代」がプロ教師への必要条件の一つと言われていた割には,こんな本も読まなかったの? 法則化の人達は?
 ただ,この本の内容はとても興味深いもので,それこそ日本の戦後の教育研究史の一端をかいま見せてくれますが,どうも文体が読みにくいのです。木原さんが編集しているというのですが,どうも取り上げる話題の統一がとれていないのです。す~っと過ぎる話題も有れば,なんかいきなりくわしく取り上げたりして,とても読みにくかったです。それに(これは本質的なことではありませんが)誤字が多くて困りました。今までの読んだ本の中で一番誤字が多かったと思います。だから,売れなかったのかなあ。
「ごっご学習」「地域プラン(本郷プラン)」[問題解決学習」「コアカリキュラム」[生活単元学習」「水道方式」「科教協」「生活綴方」「仮説実験授業」「島小の教育」「バズ学習」「出口論争」「全生研」などなど,いろいろと知りたい方は,読んでみてください。
 読みにくいとは言ったものの,こうしたタイプの本は他にないので,戦後の教育研究を一通り見ておこうという人は,読んで損はしない本です。

4月号

 4月は,新しい出会いの季節です。うちの学校にも新しい先生が来て,今までとはちょっとちがう雰囲気の職員室になりました…てなわけないか。
 持ち上がりの6年生で,やや緊張感もないのですが,6年担任というのは,それなりに仕事も回ってくるので,じっくり本を読んでいる暇がありません。5月の連休くらいには,たくさん読めるかなあと楽しみにしています。

●小田光雄著『ブックオフと出版業界』(ぱる出版,2000,1800円)
 大きな出版社が倒産したり,吸収合併される一方で,新しい形の古本屋が,繁盛しているようです。このことについて,「本の再販制度」や「買い取り制度」など,出版業界に絡む手枷足枷が,結果的に新古本産業を育てた様子が語られています。
 ブックオフというと,金沢にも何件かあります。黄色い看板のお店です。ぼくも,ブックオフで購入したこともあるし,一度だけですが古本を買ってもらったこともあります。そのとき思ったのは,ちょっとでも汚れている本は,取り扱わない(買ってくれない)ということです。確かに,あの店に並んでいるのは,今までの古本屋に並んでいるのとは違い,まるで新品です。汚い古本は,買い取ってもくれませんでしたからねえ。ベストセラーが,一週間後には古本屋に半額で売られているという状況をどう考えたらいいのでしょうか。
 昔からの古本屋さんが「たいして影響はない。客層がちがう」と言う話も分かります。ボクも今までの古本屋から,少しくらい高くても汚くても,欲しい本は買っていますから,そういう客も他にもいるでしょう。でも,ちょっと前の本が,けっこう安く手に入るとわかれば,まずはそっちの方を覗いてみようと思うのも確かです。
 ブックオフのような状況がいつまで続くのか。一過性のものという意見もありますが,さてさて…。
 ボクのことで言えば,5,6回行ったものの,今じゃあ,あまり寄りません。欲しい本がないのです。

●大野晋・上野健爾著『学力があぶない』(岩波新書,2001,241p,740円)
 腰巻きの言葉がすごい。
いま,日本の教育は水や空気が汚染されたのと同じ状況にあります。しかし,残念なことに,文部省は二一世紀の主人公である子どもたちに十分な教育の行おうとはしていません。2002年から実施される学習指導要領は,五千円札を出したときに電卓を使わないとおつりの計算ができない大人を作ろうとしています。
 著者の大野氏はご存じベストセラー『日本語練習帳』(岩波新書)の著者でもあります。上野氏の方は,初めて聞いたのですが,上野氏ご自身のバイオリンの先生の話がおもしろくて,「学校の教育に生かせる話がたくさんあるなあ」と思いました。
 二人の対談を読んでいると,決して全く同じ考えというわけではありません。学級崩壊に関する考え方もちょっとちがうようです。しかし,それだけに,本音で教育のことを語っているように感じられて,なかなか迫力のある話になっています。
 「総合的な学習」は,残念ながら,必ず失敗します。次の指導要領が出るまでの十年間,地に足のついた仕事をして,子どもたちに責任をとれることをしていきたいものです。でも,「モンブショウが…」とは言いたくありません。子どもたちに実際授業をしているのは,我々現場の教師なのですから。
 今の教育の状況について,何か変だ,まとまった意見を読みたいと思っておられる方は,まず,この本を読むことをお薦めします。

●松本キミ子著『キミ子方式魅力事典』(ほるぷ教育開発研究所,1988,177p,1800円)
 扉に「○○様,キミ子 1994.7.31」とサインがしてあります。このころに何があったのか忘れたのですが,たぶん,仮説の全国大会でサインをしてもらったのではないかなあと思います。
 キミ子さんの本は,単なる絵の描き方を飛び越えた教育観・児童観・指導観などが,語られています。ですから,読み始めると一気に読んでしまいます。
 今回,この本を読もうと思ったのは,三年ぶりに図工の授業を担当することになったからです。今,「久しぶりにキミ子方式ができる」と,けっこう気合いが入っています。最近の図工の本をみると,がらくたを使ってがらくたを作っているだけのような気がします。「こんなこと学校の授業で取り上げる必要はあるのだろうか」と思ってしまうような教材ばかりが並んでいます。あまりにも上っ滑りの個性を生かすという雰囲気が濃厚で,ボクはついていけません。今年一年は,キミ子方式を中心にしながらも,工作やものづくりを取り入れながら,楽しく図工をしていきたいなあと思っています。
 この本は,キミ子方式の本の中でも,基礎・基本がよく分かって『仮説実験授業のABC』のような本に近いかも知れません。

●小谷野敦著『バカのための読書術』(ちくま新書,2001,189p,680円)
 あはははは…,題名につられて思わず買っちゃいました。
 カバーには,次のように書かれています。
▼現在「知」は混迷状態に陥っている。インテリたちはかつてないほど熱心に西洋の新理論の輸入に血道をあげ,難解な言葉と言い回しに身をやつしている。 その一方で,有名大学の学生がフランス革命の存在を知らなかったりする。では,この両極の中間に位置する人は,何をどう読めばよいのか。学校は出たけれ,もっと勉強したい人,抽象的な議論がどうも苦手だという人。そういう「バカ」たちのために,本書はひたすら「事実」に就くことを指針とし,インチキ現代思想やオカルト学問,一時の流行に惑わされず,本を読み勉強するための羅針盤となるべき一冊である。本邦初「読んではいけない」リスト付き。
 まあ,しかし,ぼくを含めて,こんな本を買おうと思う人は,自分をそんなに馬鹿だとは思っていないだろう。むしろ,活字中毒者が多いのではないだろうか? いろいろと読みたいけれども,どうもベストセラーなどには触手が動かないーというボクみたいな人が多いと思う。
 本自体は,とてもおもしろくて,一気に読んでしまった。しかし,ほとんど頭に残っていない。まあ,ボクが考えているのと,あんまり変わらなかったなあというのが印象である。
 ただ,「時代のあらすじさえも知らない者が,司馬史観とか民衆史観などといってみても始まらないのだ」というような意見に,なるほどと頷きました。

2月号

 今回は,中谷宇吉郎の本を主に紹介したいと思います。

中谷宇吉郎雪の科学館から購入できます。

●中谷宇吉郎雪の科学館編著『天から送られた手紙[写真集 雪の結晶]』(1999,48p,1000円)
 これは,珠洲市郡の理科研究会で片山津の「雪の科学館」へ行ったときに購入した本です。次に紹介する2冊もそのときいっしょに買いました。ここへは,何度か行ったことがあるのですが,昨年,中谷宇吉郎生誕100年ということもあり,それを機会に編集された本が数冊ありました。
 実は,ここ1年くらい前から,ボクは中谷宇吉郎の随筆を集めています。古書店で直接購入したり,インターネットで探して購入したりしています。昨年10月から,岩波書店より『中谷宇吉郎著作集』が出ています(全8巻の予定)が,それも取り寄せています。宇吉郎の科学随筆については,また機会があれば紹介したいと思います。
 さて,この本は,雪の結晶の写真集です。一部に中谷宇吉郎のお話もありますが,これは読むというよりみるための本です。この本は,今,教室においてあります。そうすると,子どもたちはこういう日記を書いてきます。
帰り道(里江)
今日学校から帰るとき,なんか雪を持ってみてみたら,雪の結晶みたいのがかすかに見えました。でも,手に持つとすぐに消えていきます。だから,つぎは,カサにとってみてみたら,そういうものがありました。すごいなーと思いました。

 子どもたちの周りの環境が大切な所以ですね。

●小納弘・神田健三著『中谷宇吉郎物語-天からの手紙を読んだ雪博士』(中谷宇吉郎雪の科学館,2000,36p,500円)
 この本は,子ども向けに書かれた「中谷宇吉郎の伝記」です。これも教室においてあります。大人が読んでもよく分かります。

●樋口敬二監修『中谷宇吉郎 雪の物語』(中谷宇吉郎雪の科学館,1994.,149p,???円)
 前のやつは子ども向けなら,これは大人向けの中谷宇吉郎の簡単な伝記です。宇吉郎がどんな研究をしたのか,何にこだわっていたのかが,一通り分かるし,読みやすくなっています。
 第3章では,宇吉郎ゆかりの人たちの寄せ書きが載っています。そのほとんどの文章は,朝日新聞社刊『中谷宇吉郎随筆選集』の月報に載ったものの再録です。3分の1がこれにあてられおり,なかなか興味深いです。

●佐々木康之著『パソコンで仕事が10倍早くなる!』(宝島社新書,2000,219p,700円)
 ボクにとって,もはやパソコンはなくてはならないものになっています。こんなんでいいのかなあとも思いますが,仕事のほとんどもパソコンだし(テストを作る,資料を作る),私生活のほとんどもパソコンです(特にメール)。百科事典や国語辞典を繰るものパソコン,ホームページの作成から写真の取り込み,そして今年からは,日記もパソコンでやることにしました。
 ボクが,遅くまで手書きだったのは「学級通信」でした。それが,ワープロになるまでは数年かかりました。で,今年はパソコンで学級通信を書いています。子どもの写真も載せています。
 また,最後まで手書きだった日記も,迷った末にパソコンを利用することにしました。日記をパソコンにした理由は2つあります。一つは,ノートパソコンを買っていつでもそばにパソコンがあること。もう一つは,パソコンには検索機能が付いていて,キーワードの検索ができること。特に検索の便利さは,前から分かってはいたのですが,パソコンに毎日打ち込むことが出来るかなあという心配もあったのです。しかし,ノートをもってからは,ちょっとした時間があれば,日記が打てるし,資料も打てるのです。なんと便利なことか…。
 僕の話ばかりになりましたが,この本も,「道具としてのパソコンをどうつかうか」と言うことについて,わかりやすく書いてあります。ボクも,この本と同じようなことをたくさんしているなあと思いました。

●庄司他人男著『人間形成をめざす授業のメカニズム』(黎明書房,1990,263p,2500円)
 仮説実験授業をはじめとして,林竹二氏の授業,文芸研手島勝朗氏の算数,有田和正氏の授業などを取り上げ,それらが少なからず人間形成に影響を与えているとすれば,それはどんなメカニズムよるのか,を書いた論文集です。インターネットで,仮説実験授業を検索していて引っかかった本です。
 仮説のど真ん中にいる人ではない人(ややこしい言い回しだなあ)が書いた仮説実験授業論ですが,「まあ,人間形成に影響はするだろうなあ」と思いながらも,「あまりそれを目標にするのもちょっとこわいなあ」という思いもあります。「科学をしっかり教えていたら,いつの間にか人間的にも一回り大きくなっていた」「結果的に予想論・実験論を身につけていた」ってのがいいなあ。
 「仮説実験授業の部分」より,他の文章の一部に,オッという表現をみつけました。
○授業指導の直接的な課題は,基本的には「教材」を「理解」(解釈)させることである。ときとして創造的学力や個性化を重視する観点から,授業においては「単なる理解にとどまってはならない」とする主張がなされる場合がある。しかし,そのような主張の背景には,ほぼ例外なしに「理解に対する誤解」や,きわめて貧弱な「理解」観があると言わざるをえない。そもそも「理解」とは創造的なものであり,個性的にしか成立しえないのである。(38~39ぺ)
○導入の段階で「学習課題の確認」という表現を用いた指導案を見ることが多いが,「学習課題」は単に「確認」すればすむような性質のものではないはずである。それは,子ども自身によって「意識」されなければ,その子どもの学習活動を積極的に導くエネルギー源にはならないのである。(69ぺ)
○繰り返し述べてきたように,「理解する」とは「気付く」ことであり,「感じる」ことである。だから教師が黒板に「まとめ」てくれたことを,いかに確実に「おぼえ」ても,本人が「気付く」か「感じる」かしなければ,「理解」したことにならないし,「解釈」したことにもならない。(148ぺ)

●チョン・チャンヨン著『英語は絶対,勉強するな』(サンマーク出版,2001,232p,1300円)
 この刺激的な題名に誘われて買ってしまいました。宇出津の本屋で,です。で,そのうち,いろんな本屋でベストセラーになっているらしくて,平積みされていました。
 言ってることは,簡単です。
①ひたすら1本の同じ英語のテープを聞く(1日2回)。
②その聞いたテープを,英語で書き取る。
③書き取った内容の内,分からない単語を英英辞典でひく。
④英語のビデオを見ながら,①~③までをする。
⑤英字新聞の記事を朗読する。すべての記事でやる。その内容を英語で人に話す。
 これだけを根気強くやるだけです。たとえば①のときに,単語が分からないからと言って辞書で調べたりしてはいけないのです。ひたすら聞くだけです。ちょっとこれには参ります。④のビデオから入った方がいいなあと素人は思うのですが,それもいけないらしい。要するに,英語を勉強するのではなく,英語になれろと言うわけです。「英英辞典を引け」というのも,英語の言い回しをいつの間にか覚えるだろうと言うことにつながっています。「早ければ半年,遅い人でも1年あれば,しゃべれるようになる」というのですが…。
 あまりにも単純すぎて,なかなか長続きしないだろうなあと思います。でも,今まで英語をしゃべりたいと,何年間も勉強してきた人は,この1年くらい,だまされたと思ってこの方法を試してみるのもいいかも知れません。

1月号

 いよいよ21世紀です。平生は「平成,平成,元号だ,元号だ」といっている自称「愛国」者までもが,「21世紀」という言葉をはいているのには笑ってしまいます。なんでキリスト紀元の年号を使うのでしょうかねえ。イスラム紀元なら今年は1422年だそうです。
 この前『週刊金曜日』を読んでいたら,こんなボクの思いと同じことを本田勝一さんも書いていました。まあ,ボクが彼から受けた影響も大きいので,同じようなことを思うのは当たり前ですがね。
 さて,年末年始は,いつになく体調を崩してしまい,思うように大掃除も読書もできませんでした。でも,さすがに自由時間はたくさんあります。昨年の12月に高木仁三郎氏の偲ぶ会に行って来たこともあり,高木さんの本をよく読みました。まずは,それから紹介します。

●高木仁三郎著『原子力神話からの解放』(光文社,2000.8.20,281p,848円)
 高木仁三郎さんのことは,まあ珠洲の教員なら知っているでしょう…と,思っていたのですが,どうもそうでもないようです。
 1ε年前,珠洲で講演会を計画し,来ていただいたこともあります。今までに2度,来市されたと思います。いずれも反原発団体主催の講演会でした。そのころはもちろん元気でしたが,98年春ごろから体調をくずし,大腸ガンが見つかってからと言うもの,「残された時間をいかに生きるか」ということを考え(昨年10月8日に亡くなるまで),行動されました。一昨年の末に『市民科学者として生きる』(岩波新書,1999)の紹介もしましたっけ。
 ボクは,今,彼の科学者としての生き方に,打ちのめされています。それは単に「反原発だから」というわけではありません。普通なら,体制派の科学者として安泰の生活を保障されていた立場にありながら,自分のこだわりを大切にして(自ら困難な状況になることもかまわず),市民の側の科学者として生きる道を選んだ,その姿勢に感動するのです。しかも,それが(反体制によくありがちな自己満足の)玉砕とはならずに,しっかり根を張り,少しずつ人を動かし,国を動かす力にもなっていることを思うとき,彼のしたこと,彼の生き方に学ぶべきものが多いと改めて思います。特に,死を受け入れながら,「希望を失わずに生きていこう」と逆に私たちに呼びかけている文章を読むたびに,心が引き締まる思いがします。JCOの事故をきっかけに,「このままではいけない」「言い残したことがありそうだ」と言う思いで書かれた本が,たくさん出版されました。
 そんなわけで,昨年出版された,高木さんの本を数冊紹介します。
 この本は,「カッパブックス」の1冊として8月に出ました。JCOの事故をきっかけにして,あまり原子力発電についてくわしくない人向けに書かれた本です。JCOの事故は,反原発であろうが推進であろうが,原発に興味があろうがなかろうが,そんなこととは何も関係なく平等に人々を恐怖のどん底に陥れました。それが放射能というものの正体なのです。だからこそ,一般向けの啓蒙書を書いたのです。
▼この事故は,私たちがこれまで原子力に対して接してきた態度そのものについて考えさせられるものとなりました。原子力産業や政府はもちろんですが,原発反対派の私自身も含めて,根底から今までの原子力問題に対する態度の甘さを認識させられ,痛感させられる,そういう事故だったと思います。(10ぺ)
 原子力にかかわる神話について,その一つ一つについて,丁寧にわかりやすくそのウソを暴いています。これ1冊あれば,電力会社のビラがいかに時代錯誤か分かります。
追記:上記商品リンクに,2011年5月に発行された文庫本も追加してあります。

●高木仁三郎著『鳥たちの舞うとき』(工作舎,2000.11,221p,1600円)
 この本は,高木さんの初で最後の小説です。本の完成には間に合いませんでした。そこであとがきは,奥さんが書いておられます。
 ダム建設を阻止しようとする村民と森の動物(鳥)たち。それを支援する弁護士の浩平が主人公です。六ヶ所村の再処理工場等の建設に反対するため,証言台に立っている高木さんご本人に,主人公の浩平が重なって見えます。亡くなる寸前までテープの前で口述してできあがったこの本のメッセージも,胸に迫るものがあります。是非読んでみて下さい。鳥たちの叫びに耳を傾けることが,人間をも救うことになるのだと,はやく気がついてほしいです。
 本当は,この本が高木さんの最後の著作になるはずでしたが,実は,もう1冊,岩波が作っていました。これも死後2ヶ月以上立ってから出版されました。

●高木仁三郎著『原発事故はなぜくりかえすのか』(岩波新書,2000.12,188p,660円)
 やむにやまれず口述したものをもとに編集された本です。カバーから引用します。
 日本中を震撼させたJCO臨界事故をはじめ,数々の原子力施設の事故から明らかになったことは国の政策や原子力産業の問題,技術者の姿勢を問い,これからの科学技術と人間のあり方を考える。生涯をかけて原発問題に取り組み,ガンで逝った市民科学者・高木仁三郎が闘病中に残した最後のメッセージ。
 事故はなぜ起こるのか? なぜ隠蔽したりねつ造したりしても平気なのか? 「原子力開発」の根っこの問題に鋭く切り込む遺作です。どちらかというと自然科学というより社会科学的な本です。あとがきは,現原子力資料情報室共同代表の山口幸夫氏が書いておられます。

●小松美彦著『黄昏の哲学』(河出書房新社,2000.10,204p,1600円)
 この本は高木さんの著作ではありません。しかし,60ページほどにわたって高木さんの著者との対談が載っているので,購入しました。本の存在は,インターネットの検索で見つけました。
 この対談は,2000年2月28日に行われました。ここで高木さんは小松氏の話題に誘われ,原発問題に限らず科学技術一般についても述べており,貴重な記録となっています。この小松美彦という著者については,ボクはまったく知りませんでした。「脳死」や「臓器移植」について,反対する立場から論を展開しているようです。当然,最近の立花隆には反論しています。ボクは,この問題についてはあまり深く考えたことがなかったので,「臓器移植は,人の死を待って成り立つ技術だ」という文章に,どきっとさせられました。「人がはやく死んでくれるのを待って成り立つ医療」って,この世に存在してもいいものなのか?

●広瀬隆・藤田祐幸共著『原子力発電で本当に私たちが知りたい120の基礎知識』(東京書籍,2000,344p,1600円)
 原発ついでに,こういう原発特集の本も紹介しましょう。この本の著者についてはご存じでしょう。特に藤田さんは,ボクも何度も話をしたことがあるし,藤田さんの研究成果をビラにしたこともあります。今回,こうして手引き書ができあがったので,大変勉強しやすくなりました。まさに「原発のすべてについて待ち望まれた初の標準的なテキスト」となっています。

●工藤順一著『国語のできる子どもを育てる』(講談社現代新書,1999,218p,660円)
 2ヶ月くらい前の『たのしい授業』(仮説社)誌上で紹介されていた本です。「コボちゃん作文」ってどんなのかなあと思って買って読んでみました。
 理論だけでなく,一つ一つ具体案が示されており,実践に裏打ちされた説得力があります。しかし,いかんせん,ボクに国語の力がないので,むずかしすぎるところもありました。「束縛と自由」と言う問題に関しても,例えば,
「表現しなさい」という指示を与えると,なぜ多くの子どもたちの頭の中が真っ白になってしまうか分かる気がします。(中略)私たちは書くことに相当習熟していなければ,とても「自由に」とか「思ったまま」を表現なんかできないのです。すでに書くことに習熟している大人が,書くことの習熟によって初めて獲得した思考形態のまま指示しても,それを獲得していない子どもは,どうしていいか分からなくなるのです。(20ぺ)
と述べています。
 仮説実験授業の授業書や選択肢,あるいはキミコ方式のさまざまな束縛が,なぜ子どもたちに喜ばれるのか,ということと通じる内容が,この作文指導にも現れています。

●畠山けんじ・久保雅一共著『ポケモン・ストーリー』(日経BP,2000,542p,1400円)
 542ページもあって,たったの1400円。こりゃ安いです。本の紙質はその分,ペーパーバックに近いですが…。
 題名通り,ポケモンの誕生から,ゲーム・マンガ・アニメ・映画,そして周りを埋めるさまざまなポケモングッズに至るまで,「ポケモンがいかに子どもの心をつかんだのか」「その仕掛け人は何を考えていたのか」など,当事者の肉声をつないで,ストーリーを作り上げています。
 ポケモンを知らない子どもはいません。以前『たまごっち誕生記』という本も読み,サークルでも紹介しましたが,この『P・S』は,それよりも数段おもしろくてドキドキします。なんせ,500ページ以上もある本を,一気に読んでしまったくらいですから…。
 腰巻きに「日本初,親子で読めるビジネス書!」とありますが,うちの6年生の娘は,数ページで飽きたみたいです。これはベストセラーにはならないのかなあ。少なくとも『たまごっち…』よりは,本屋で見かけます。すごくおすすめの本です。今年のイチオシだね。いまのところ……まだひと月もたってないけど。
追記:上記商品リンクをつけましたが,Amazonの商品の値段が,すごいことになっています。誰が買うの? この値段で。間違いでしょうね。

●庄司和晃著『うそから出たまこと』(国土社,1973,102p,600円)
●岩城正夫著『やってみなければわからない』(国土社,1974,86p,600円)
●吉田夏彦著『なぜと問うのはなぜだろう』(国土社,1977,109p,750円)
 上記の3冊は,「常識から科学へ」シリーズの第3,4,5巻です。第1巻は板倉聖宣著『火曜日には火の用心』,第2巻は三浦つとむ著『1たす1は2にならない』です。
 この3冊の本は,なんとシーサイドの臨時古本やで手に入れました(これは12月号にも書きましたね)。300円/冊でしたが,ボクにとったら安い安い。なんでこんなのがあるのか分かりませんが,さらに,板倉さんの『科学と方法』(季節社)の第2版も300円で売っていました。ボクは,この本を持っているのですが,思わず買ってしまいました。このほかにも板倉さんの本が,何冊かあったのでビックリです。
 庄司さんの本や岩城さんの本は,何冊か読んだことがあるので,再確認という気持で読みました。でも,吉田さんの本は初めてだったので,大変興味深く読めました。吉田さんの本は「哲学・論理学入門」という内容で,哲学についてあまり知らない中学生あたりが,初めて読むにはいい本だなあと思いました(2017年にちくまプリマー新書から新刊が出ました)。
 このシリーズは,一応中高生向きに書いてるようです。これらの本が出たのは,ちょうどボクが中高生の頃ですから,「そのころ上の5冊に出会っていれば,ボクの人生変わっていたかも」なんて思いながら読みました。
 それにしても,あのシーサイドの古本屋は,価値のある本が安くて最高だ。マンガは高くていいんです。また,この前仕入れてきたので,来月紹介しますね。

 この「今月の本棚」と言うれぽーとは,本の紹介そのものも書いていますが,「本の紹介を通して,自分の今の気持や思っていることをつらつらと書いている」という気もします。だから,これを「本の内容の紹介」だとしたら,不十分かも知れません。でも,こうして「今月の本棚」というわくをはめることで,いくらか自分の思っていることや考えていることが出てきたり整理できたりすれば,自分としてはいうことないですね。なかなか<整理>まで行かないのが玉に瑕ですが…。
 そんなわけで,最後の欄は,庄司さんと岩城さんをご存じない人には,まったく不親切な本の紹介でした。許して下さい。

コメント

タイトルとURLをコピーしました