今月の本棚・2002年版

旧・今月の本棚

12月号

●丘修三著『ぼくのお姉さん』(偕成社,1986,182ぺ,1200円)
 ボクの手元にある本は2002年2月で40刷です。
 「家族愛」をテーマにして,道徳の授業を組むときに,心の先生(そういう派遣事業がある)から,「この本はどうですか?」と紹介されたのが,表題作「ぼくのお姉さん」でした。ボクは,これを一度読んだだけで,いっぺんに好きになりました(あとで分かったことですが,本文を縮めたものが副読本に掲載されていますが,本文の方が圧倒的にすごいです。縮めたもので授業するくらいなら,本文をそのまま読んであげた方がいいと思います)。
 で,他の文章も読んでみたくて,購入しました。
 この児童文学書自身は,坪田穣治文学賞,新美南吉児童文学賞,日本児童文学者協会新人賞,赤い取りさし絵賞などの賞を受賞しているそうです。
 本書には「ぼくのお姉さん」「歯形」「あざ」「首かざり」「こおろぎ」「ワシントンポスト・マーチ」の6編のお話が収録されています。どのお話も障害者がでてきます。決してハッピーエンドに終わるようなものではなく,現実にあり得そうなことを取り上げており,子どもたちの心ににもすっとはいっていきます。
追記:上記商品リンクは2002年発行の文庫本です。

●エセル・エリオット著・松本恵子訳『小さな石炭が話した石炭のおはなし』(鄰友社,昭和16年,88ぺ,80銭)
 いわゆる科学読み物です。子ども向けに書かれています。
 家の中に入ってきてもうすぐ火にくべられる石炭(もと松かさ)が,「自分の生い立ちを同じ部屋の中にある絨毯や石炭入れたちに語る」という設定で話が進みます。植物が長い年月の間に変化して石炭の層となり人間に掘り出されているのだということが,分かりやすく書かれていました。
 お母さんが「今神様は私どもを火の花に咲かせようとしてゐらつしやるのです。私どもが人類の為に奉仕した後,どうなるかと言ふ事は神様だけが御存知の事です」と述べているあたり,ま,運命は神様が決めているらしいです。
 石炭の子供は,最後にこう言っています。
「これは子供の頃,樹木の間を吹き抜ける風の中で歌つてゐたよりも,遙かに素敵だぞ! これこそ,真実の音楽だ。僕は生きてゐる! 僕は役に立つてゐる! 僕はからだ全體で歌つてゐる。この歌は僕を何処へつれて行くのだらう? 僕は變化しつつある。今度のは今までよりも變わり方が早いだけだ! 兄弟のダイヤモンド君! 君はこれから先いつまでも,いつまでもダイヤモンドでゐなければならない。けれどもその君だつて,いつかは變る時が來るだらう。絶望する事もない。だが僕はもう…」

●星一郎著『アドラー博士の子どもを勇気づける20の方法』(サンマーク文庫,2000,197p,500円)
 アドラー心理学については,専門書も出ていて,ボクも読んだことがあります(ついでに下に書いておきます)。仮説仲間でも一時期話題に上りました(一部だけど)。子ども中心主義なのはもちろんなのですが,子どもたちに自身を与えるような親や教師の声かけなど,大変示唆に富む内容でした。本書は,1994年にごま書房より単行本として刊行されたものを文庫本化したものです。そういえば,ボクがアドラーを知ったのもそのころだったような気がします。
「子どもの評価は先天的な知能の高い低いではなく,もっている能力や与えられた能力をどう使っているかで決まります(25ぺ)」というのがアドラー心理学の基本的な考えです。ですからアドラー心理学は「使用の心理学」と言われているそうです。「個人主義が徹底して,その個人主義を乗り越える形で共同体感覚があるのです」とも述べています。
 アドラー心理学について知りたいなあと思う人にお勧めの大変読みやすい本となっています。

追記:上記商品リンクは,2008年発行の新装版です。

 これでさらにアドラー心理学について興味が出た方は下記の本も手に取ってみてください。
●マナスター他著『現代アドラー心理学・上下』(春秋社,1995,各300ペ,各2900円)
●A・アドラー著『人間知の心理学』(春秋社,1987,340ぺ,2700円)

●藤沢晃治著『「分かりやすい表現」の技術』(講談社ブルーバックス,1999,189ぺ,800円)
 知らない土地へ旅に出ると,車のための道路標識がとても頼もしく思えます。しかし,時には『これドッチのこと?」「今,曲がるの? もう少し行ってから曲がるの?」と思うことも度々。もう少し分かりやすく書いてくれればいいのにと思ったこともあります。
 本書は,そうした看板の見にくさやレポートやプレゼンの見にくさ・わかりにくさを取り上げ,見る立場・聞く立場に立った表現の大切さについて,具体例をたくさん挙げて述べています。
 われわれ教える立場にあるものも,いろいろと情報を発信していくこともあります。こうしてこのサイトを立ち上げているのも,ある一定の人たちを対象にして「その人達に分かるように」書いていかなければならないわけです。
 ただし,この点は自身がありません。そのページを見て下さっている人は,一応,その情報に興味を持っていると言うことを前提に書かせてもらっています。仮説実験授業についてのページでは,それをご存じない人も対象にしていますがね…。なかなか難しいことですね。

11月号

●リズ・ダベンポート著『気がつくと机がぐちゃぐちゃになっているあなたへ』(草思社,2002,222p,1300円)
 こんな人は,いっぱいいるでしょ。
 そう,これを読んでいるあなた,ご自分の机上を見て下さい。昨日来たダイレクトメールや半分読んだ雑誌。まだ目を通していないので捨てられない書類。後でファイルしようと思ってとってあるつもりの書類。友達からのハガキや新聞の切り抜き… ボクの場合はこれに加えて,読みかけの本や読んでない本,読んでしまった本まで,机の周りにたくさんあります。
 さらに,仕事の途中で紛れ込んでくる別の仕事やおしゃべり。これによって優先しなければならないはずの仕事が遅れてしまいます。その損失はいかほどか…。
 さて,本書は,このすべてに答えてくれるわけではありません。しかし,書類に埋もれるデスクを持ってしまっている人には,キット役立つでしょう。しかも,幾つも仕事をしている人なら特に役立つに違いありません。ボクも早速,まねをして職場の机の整理をしています。今のところ,成功しています。職場のみなさんは「どうせまた積み上げるだけよ」と言っておりましたが…。

●『ロバート・キャパ写真集<戦争・平和・子どもたち>』(宝島社文庫,2001,198p,1200円)
 ロバート・キャパをご存じない方のために,本のカバーから,引用しておきます。
 20世紀最大の戦争写真家。1913年,ハンガリー生まれ。共産党員に接触した疑いから,17歳で国を追われ,ドイツからパリへ。スペイン市民戦争の写真報道で一躍名をあげ,以後,雑誌『ライフ』の特派員として多くの戦闘に従軍し,最前線で写真を撮り続けた。1954年,来日のあとインドシナへ飛び,取材中,地雷に触れ,爆死。その生き方に憧れ,フォトジャーナリストを目指す若者はいまも多い。著書『ちょっとピンぼけ』は,20世紀を代表する読物のひとつ。
 そういうキャパが撮った写真の中から,世界の子どもたちのショットを集めたのが本文庫です。収められている122枚,すべて白黒写真です。
 表紙の写真は,「鼻くそをむしりながら戦車に乗っている子ども」です。

●NHK編『クイズ日本人の質問』(河出書房新社,1996,237p,490円)
 NHKの人気クイズ番組から選りすぐった<目からウロコ>が確実な情報を満載した文庫本です。飛行機の中の暇つぶしに購入しました。
 この系統の本は,読んでいるときはおもしろいのですが,そのうちほとんどすべて忘れてしまいます。だから,もう一度読んでも,「この答えはドッチだろう」なんて考えたりします。これは,ボクの頭が悪いのか,みんなそうなのか…。
 やはり身に付く知識というのは,系統立ててしっかり学び,ハタと膝をたたいて五臓六腑に染み渡るようなものでなくてはならないのですなあ。
 でも,暇つぶしにはいい本です。

●村田光平著『原子力と日本病』(朝日新聞社,2002,201ぺ,1200円)
 著者は,前スイス大使です。筑紫哲也氏が推薦文を寄せています-「外交官としての知見に基づき,差し障りを恐れず己の信ずるところを故国に向けて発信し続けた村田光平氏を私は尊敬している。本書は教職に転じたその著者が同じく国を思い,憂いながら書いた警世の書である。いまや外務省の勢威は地に墜ちたが,こういう誠実な外交官もいたのだ」-こりゃ絶賛ですね。
 本書の参考文献としてたくさん上げられていますが,ボクの本棚とよく似ています。彼が挙げている20数冊のうちで,ボクの読んだものには以下のようなものがありました。
『沈黙の春』『奪われし未来』『地球環境報告』『原子力神話からの解放』『原発事故はなぜくり返すのか』『プルトニュームの恐怖』『原発はなぜ危険か』『原子力発電で本当に私たちが知りたい120の基礎知識』『原発事故を問う』『燃料電池が世界を変える』『原発震災』
 興味関心が似ているから,同じような本を読むのか。同じような本を読むから,そういう面で同じような意見になるのかわかりませんが,環境問題を真剣に考えようと思えば,まずはこれらの本を手にとってもらうのがいちばんだと思います。
 本書は,日本人による『犬と鬼』(下の9月号を見よ)のような所も感じられる本でもあります。

●唯川恵著『あなたが欲しい』(新潮文庫,1999年,230p,450円)
 ご存じ直木賞作家・唯川恵さんの小説です。『肩ごしの恋人』を注文するときに,一緒に購入した本ですが,いままで読まずにおいておきました。というのも,ボクの読書というのは,小説類はほとんど読まないからです。これを読んだのも列車か飛行機の中だったような…。
 まあそういうわけで,小説に対して,あれこれということはボクには出来ないわけで,つまり,その,なんというか,地元出身者だから読んだってことでして…ただ,読んでいる間は「こりゃ,どうなるのだろう」なんて思ってはいるのですが…。
 三角関係のもつれっていうには,あまりにも自然で,あり得そうで,人間不信より人間への信頼が感じられる,そういう小説でした。タイトルはちょっとはずかしくて,久しぶりにブックカバーをつけて読みました。アハハハハ…

10月号

●聞き手・太田政男『教育について』(旬報社,1998,213ぺ,2000円)
 教育学者の太田氏が,各界の著名人に教育をテーマにインタビューをしたものをまとめた本です。話し言葉なので大変読みやすくなっています。登場する人は,次の通り。
 宮崎駿「子どもにいちばん大事なもの」,山田太一「癒しを求める心」,岸田今日子「自分の好きなことを見つける」,網野善彦「歴史を学ぶ面白さ」,落合恵子「「女・子ども」の視点から」,窪島誠一郎「無言の絵はいのちを語る」
 窪島さんって知らなかったのですが…スミマセン…。「課外授業」って番組がおもしろいように,示唆に富む意見満載の本でした。
 この本は,本屋タウンで「宮崎駿」と検索していたときに引っかかってきた本です。ネットのお陰で,数年前とはちょっと違うほんとの出会いがあります。

●宮崎駿著『風の帰る場所』(ロッキング・オン,2002,350ぺ,1600円)
 待ってた本です。宮崎ファンにはたまらない本音たっぷりのインタビュー集となっています。なぜ宮崎さんの本が「ロッキング・オン」から出ているのか…分かる人はいますか? なんとインタビューアーは,渋谷陽一さんです。渋谷陽一と聞いて,その名前を知っている人は,たぶん,ボクと同世代の人でしょう。青春時代をロックの影響で暮らした人たちは,必ずや聞いたことがあると思います。宮崎駿と渋谷陽一とはなかなか結びつかなかったので,ビックリしたのですが,考えてみれば,ボクも渋谷陽一にも影響を受けてきたし,宮崎駿にも影響を受けてきたので,関連があるのは当たり前なのかも知れません。
 さて,この本は,今をさかのぼること12年前のインタビューから始まります。その後,5回行ったインタビューをノーカットで活字化した物です。渋谷さんは,ときどき鋭く田原総一朗のようなつっこみも見せています。
 宮崎ファンは,必ず読んでください。「紅の豚」は本人だったのですね。

●宮崎駿アニメ研究会編『「千と千尋」の謎』(アミューズブックス,2002,220ぺ,1200円)
 ご存じ宮崎アニメの「アルプスの少女ハイジ」から「千と千尋の神隠し」までのいくつかを取り上げて,楽しくおかしく揚げ足取りをしている本です。
 最初は編者の名前を見て「これは宮崎オタクが,宮崎アニメを絶賛するために書いた本だろう」と予想していたのですが,どうもそうではありませんでした。ほとんどが揚げ足取りで占められており,それはそれでおもしろいのですが,かといって,『空想科学読本』のような徹底さもなく,中途半端な感じで終わっているのが残念です。
 まあ,しかし,宮崎アニメのファンなら,一度読んでおいて損はないかと思いますが…。

9月号

●アレックス・カー著『犬と鬼 知られざる日本の肖像』(講談社,2002,388ぺ,2500円)
 『美しき日本の残像』(新潮学芸賞)の著者・アレックス・カー(米国生まれ)による,日本論です。日本人としてずっと生きてきたボクたちにとって,外から見た日本を教えてくれるこういう本は大変興味深いことです。
 ここで大きなパラドックスが見えてくる。防壁を設けたことがかえって裏目に出る。逆説的ではあるが,地元の文化を守るうえで外国人が役に立つこともある。「日本的」なる文化遺産は,その真価を認めることのできる外国人がもっと大勢いれば,もう少しよく保存されていたかもしれない。「国際化」と「伝統文化」は表裏一体のもので,自国の文化と自然をもっと大切にすれば,国際的魅力がより増しただろうし,また,社会を外国人に本格的に開いていれば日本的なものはより健全に残っただろう。(352ペ)
 このような指摘に,ドキッとするのはボクだけではないだろう。総合的な学習の国際理解というのは実は地元を見直す事にもあるのであろう。外に目をつむる者は,内を滅ぼしてしまうのかも知れない。大変示唆に富む本でした。

●押谷由夫著『「道徳の時間」成立過程に関する研究』(東洋館出版社,2001,308ぺ,5500円)
 道徳教育について少しは本も読まなくてはならない立場になっています。そこで4月から,いつも道徳関係の本を抱えて学校へ行っています。これまでにも授業プランの書かれている本を10冊ほど読みましたが,まあ,ここでは紹介しませんでした。
 今回紹介する本は,以前の文部科学省初等中等教育の道徳担当だった押谷先生の書かれた論文です。
 内容は,道徳の時間が特設された前後の様子を内部資料等を元にくわしく解説されています。一般に「文部省側が特設道徳を押しつけた」「道徳は全教育活動で…というのが組合の立場だ」という見方がありますが,どうもそれは一方的な勘違いのようです。「特設すべき」という識者の意見に「いや,そういう必要はない」と言ってきたのは,文部省の方だったようです。高価な本ですが,なかなか読み応えもあり,ぼくの道徳嫌いも少しは払拭されたような気がします。
 ところで押谷先生には,11月にうちの学校に来ていただきますので,興味のある方は,どうぞ公開研究会においで下さい。くわしくは宝立小学校のHPを見て下さい。

●唐津一著『かけひきの科学-情報をいかに使うか』(PHP新書,2001,200ぺ,660円)
 「かけひき」と言えば,まるで政治の世界の言葉のようです。悪いイメージも持ちますが,まあ,或面では大切なことのような気もします。この本では,「科学」なんて言葉を使っているので,厳密な意味もあるようですが,まあ,そうじゃない部分もあります。
 情報というのは,「その事実知らない人にとっては何も起こっていないことと同じだ」というのは「その通りだな」と思います。昔なら,「殿様が殺された」ということを知らない人にとっては,殿様はそれまで生きているのです。情報には,そういう嫌らしさがあるのです。オサマ・ビン・ラディンは,生きていると思っている人にとってはまだ生きているのです。そして,それを自分の行動を左右するものとしている人もいるのです。
 でも,この本をお薦めか…と言われると…ちょっと迷いますが…。読んでソンはしません。

●陰山秀夫著『本当の学力をつける本』(文藝春秋,2002,239p,1300円)
 やっぱりベストセラーになっちゃいました。
 総合的な学習,週休2日制(学校5日制),教育内容の2割減,という流れで,ますますマスコミをにぎわす「学力低下」という問題。本当に学力が低下しているのかどうかはほっておいて,とにかく「危機だ!」と騒ぐのが,どうもいただけません。ヒステリックな感情論のような気もします。別に文部科学省のやることに全面的に賛成しているわけではありません。確かにこのままでいいのか?という気もしますが,それでも,あまりにも「学力低下」を言い過ぎるような気もするのです。
 そういう時代背景に,この本がベストセラーになったのでしょう。
 ただ,この本の内容は,別に今に始まったことではなく,基礎・基本が大切なのは以前から同じです。「落ち研」の運動はずっと前から続いているし,小学校の教師なら少なからずやってきたことでしょう。ただ,100マス計算などは,そのつまらなさに取り組む気はしませんが…(そこまでやらなくていいだろう。頭打ちになったら終わりだしねと思っております)。

●小林信彦著『現代<死語>ノート』(岩波新書,1997,214p,650円)
 一世を風靡したあの言葉この言葉,その当時の世相を振り返りながら,戦後を語っている本です。ボクが知っているのは,この本の半分くらいから後半です。でも,単なる歴史物を読むより,取っつきやすい内容となっています。最近のはやり言葉で死語となるものはなんでしょうなあ。
 腰巻きから少し紹介します。あなたはどんな意味か分かりますか。
太陽族,BG,永すぎた春,黄色いダイヤ,私の選んだ人,声なき声,あたり前田のクラッカー,バカンス,お呼びでない,おれについてこい,断絶,フィーリング,列島改造,ナウ,記憶にございません…
追記:2000年に続編が出ています。

5月号

 依然として「その日暮らし」です。
 今回は,「なぜオレには時間がないように感じるのだろうか」という謎を解くために,3冊の本を購入し,読んでみました。

●ブライアン・トレーシー著『カエルを食べてしまえ!』(ダイヤモンド社,2002,136ぺ,1200円)
 まず最初に目に付いたのが,この『カエル』の本です。平積みしてあったので手に取ってみました。なかなかおもろいことが書いてあります。序章から引用します。
 昔から言われていることに,こういうのがある。「朝一番に生きたカエルを食べれば,その日の最悪事はもう終わったと安心して過ごすことができる」
 この「カエル」とは,あなたにとって最も難しく重要な仕事で,いまやらなければどんどん後回しになってしまうもののことである。その時点であなたにとって大いにプラスになる仕事のことでもある。
 また,「もし2匹のカエルを食べなければならないなら,醜いほうから食べよ」とも言われる。
 重要な仕事が二つあったら,難しく大変なほうからやりなさいということだ。そして,すぐにとりかかり,やりとげるまではほかのことに手を出したりしてはいけない。(中略)
 そして究極の格言はこうだ。「もし生きたカエルを食べなければならないなら,座り込んでじっと眺めたりしてはいけない」
 高い成果をあげるためのカギは,朝一番に大事な仕事に取り組むという習慣をつけることである。つまり,真っ先に「あなたのカエルを食べること」を日課にすることだ。あまり考え込んだりせずに。

 少し長く引用しましたが,仕事(カエル)の内容を見極めて,少しずつ取りかかりなさいというきわめて当たり前のことが書いてあるのですが,それがなかなかできない自分に気がつきます。
 また,「80対20の法則」というのをあげて,「活動の20%が成果の80%をもたらす」とも言っています。その20%に当たる仕事を見付けるのが,重要だと言っています。
 なるほどと思うことが多々ある本でした。

●野村正樹著『プロフェッショナル時間術』(東洋経済新報社,2001,199p,1300円)
 著者の野村さんは推理小説の作家としても活躍しているようですが,ボクは全く知りませんでした。マーケティングやビジネス書も多数書いているようです。また,講演でもあちこち回っておられるようなので,文字通り「時間がない」人です。
 83項目にわたって読みやすく(見開き2ページで1項目)編集されています。
 「朝の時間をうまく利用すること(夜よりは能率がよい)」などは,実行できそうです(実行しています)が,「勤務時間が終わったら,すぐに帰る」というのは,なかなかできそうにありません。
「パソコンの好きなある若い社員に企画書の作成を命じたところ,レイアウトに懲りすぎて残業してまで仕事をして,しかも提出期限が遅れることもあった」なんてのを聞くと,ドキッとします。「時間は大切なもの」という意識をまず持つことが重要ですね。

●小石雄一著『時間を他人(ヒト)より2倍うまく使う技術』(実業之日本社,2002,190ぺ,1300円)
 項目をいくつかあげることで本書の中身の紹介に変えます。
・時間は自分で磨き上げるもの
・情報機器は最大限利用する
・パソコンは壊れるものと考える
・金持ちを目指すか時間持ちを目指すか(『時間術』にも書いてありました)
・ビジネスマンの早朝活用は,もはや常識
・目覚まし時計を使わないと,グッドモーニングになる
・出張は一人で出かけると疲れない
・勉強会をどう活用するか
・「かばん」にこだわる
と,いくつかすでに実行に移しているものもあります。朝の時間については,もう誰もが言っていることなので,時間がないと思う人は「まずは早寝早起きの実行」からですね。うちの校長さんが「忙中の閑」という言葉を教えてくれました。なかなか含みのある言葉ですね。

●林公著『朝の読書実践ガイドブック』(メディアパル,1997,79p,800円)
 この本は『朝どく』の提唱者が書いた『朝の読書』のための手引き書・入門書です。
 先月のサークルでも問題になっていた「マンガ」については
「基本的にはマンガや雑誌の類は,はじめからはっきり禁止したほうが良さそうです。(56p)」
と書かれています。マンガはほおっておいても読むけど,「本」は「朝どく」がなければ1年に1冊も読まない子もいるのですから…。
 読書の環境作りや教師の声かけなど,<読ませっぱなしではない実践>も語られています。
 いまのところ,うちの学校では,やや読ませっぱなしという感じです。一度,きちんと意思統一(お~嫌いな言葉だ)してから,実践をしないと効力も半減してしまいそうな気がします。

 今月は以上の4冊です。時間術を使って時間を作り,もっとたくさん本を読みたいなあ。ボクは「何のために読むのか」「何かを知るために読む」というのもスキなのですが,本を読んでいる時間そのものがスキなので…。

4月号

 とてつもなく忙しい日々の中で,活字中毒症になやみながらも,なんとか乗り切った一ヶ月間でした。おそらく,どこの職場でも同じような感じなのだろうなあと思います
 そんなその日暮らしのため,緊急事態の本くらいしか読めませんでした。トホホホホ。

●仲田紀夫著『算数パズル「出しっこ問題」傑作選』(講談社BLUEBACKS,2001,155ぺ,750円)
 昨日送られてきたブルーバックスのDMには,次のように書かれていました。
 昨年12月に刊行した『算数パズル「出しっこ問題」傑作選』が好評です。
「暗記できるほど短い問題文」「発想の転換がないと解けない奥深さ」
「思わずうなる衝撃の解答」--この3つがそろった特選中の特選問題に小学生から大人まで、誰もがはまっています。
今月の新刊では姉妹編『論理パズル「出しっこ問題」傑作選』も登場。
頭を使い、智恵を絞り、考える力が身につくパズルで、楽しんでみませんか?

 先月のサークルの終わり頃に紹介した本です。『論理編』も出たようなので連休にでも手に入れて,じっくり読んでみませんか?

●竹川訓由他著『「情報・コンピューター教育」の授業プラン』(明治図書,1999,111ぺ,1400円)
 今年は,珠洲市の小学校にもパソコンがふえるそうです。うちの学校にも5台入って全部で10台になる予定です。ただし,夏休みに設置するそうなので,まだまだ先の話ですが。
 で,ぼくは,情報の方の校務分掌がありますので,それに関する本を読んでみました。
 この本は「総合的学習の開拓」シリーズの8巻目です。このシリーズのすべてを読んでおきたいなあと思ってはいますが,まだ,購入していません。
 Ⅰ 「情報・コンピュータ」の授業
 Ⅱ 「国際理解」でのコンピュータ機器の活用
 Ⅲ 「環境・エネルギー」でのコンピュータ機器の活用
 Ⅳ 「福祉」・ボランティア」でのコンピュータ機器の活用
 Ⅴ 「地域や学校の特色に応じた課題」でのコンピュータ機器の活用
の5つの柱で,実践例を示しながら説明されています。
 コンピュータについて,珠洲は他の市郡から見るとまだまだ遅れています。「Ⅰ」がちゃんとやれていないと,Ⅱ~Ⅴの実践もスムーズにできません。しかし,パソコンの台数が少なくて,十分に授業に取り入れられません。クラスを2つに分けてやるしかないかなあ。

●片山信儀著『教師が変われば教室が変わる』(明治図書,1998,128ぺ,1600円)
 法則化の本です。たまにはいいでしょ。ここに出ていた「春」の授業をやってみました。おもしろかったです。子どもたちのけっこう楽しんでくれました。国語の出会いは,法則化のネタもいいものです。
 本の内容は,ほとんどが学級通信です。荒れた学級を立て直した実践例が書かれていますが,とにかくいい授業をすることが,学級を立て直すもっともいい方法だと思います。まあ,今の学級が荒れているわけではないのですが…。
 ぼくは,国語は「春」から,図工は「三原色で色づくり」,算数は「一あたり量とかけ算」,理科はまだしてない(総合として「もし原」から),授業を始めました。どれも子どもたちには大変受けています。まずは,いい出会いですね。

●穴見嘉秀編著『「朝の読書」がもっと楽しくなるアイディア集』(学事出版,2001,159p,1600円)
 うちの学校では,昨年から「朝の読書」を取り入れています。ただ,昨年はまだまだ不十分でした。今年は,週に三回,15分間の読書を取り入れました。職員の打ち合わせも早く終えて,教師もいっしょに読書をすることにしています。まだまだ軌道に乗っているとは言えませんが,1年間続ければ,それなりの効果が出てくるものと思います。
 この本は,読むだけでいいという「朝の読書」をもっと有意義なものにできないか,その実践例を集めたものです。おそらく『授業づくりネットワーク』で掲載されたものを集めたんじゃないかと思います。
 「朝の読書」運動は,今じゃ,全国的に広がっています。「朝の読書4原則」って知っていますか?
   みんなでやる 毎日やる 好きな本でよい ただ読むだけ
の4つです。この最後の「ただよむだけ」というのが大切なのですが,かといってほったらかしというのももったいないなあと思うのです。子どもに負担にならない程度に,読書の交流ができたらいいなあと思うのです。
 「朝の読書」についてその誕生から最近の動向を知りたい方には,お薦めの1冊です。ぼくはとりあえず1学期はこのままいろんな本を読んでもらうだけにして,2学期からは,何か仕掛けようと思います。みなさんの実践も教えてくださいね。

●山田祥平&インプレス書籍編集部編『できるOutlook2000』(インプレス,1999,238p,1380円)
 パソコンが好きなボクも,意識して使わなかったソフトに「PIM(Personal Information Manager)=個人情報管理ソフト」があります。これは,要するに,仕事や予定や住所録を管理するソフトです。
 以前,ザウルスという電子手帳を持っていたことがありますが,あまり便利さを感じなかったので,途中で使うのを止めてしまい,タダの電子辞書となってしまった経験もあります。『超整理法』のあの方の本にもパソコン関係の本がありますが,そこでも「メモは紙に限る」と書かれており「やっぱりなあ」と思ったこともあります。
 しかし,紙にメモるのが苦手で,しかも仕事がたくさんあるので,どうもいろんな仕事に追いまくられている自分に気がついたボクは,新たな挑戦を始めました。「OutLook」を使ってみようと。
 というのも,今度VAIOC1を手に入れました。これはほとんどぼく自身の情報管理のために購入したようなものです。毎日の予定・仕事内容だけでなく,授業内容の点検から,各種会議の記録など,すべてこのパソコンでやっています。すると,大変便利なことに気づきました。メモからもう一度入力する手間はないし,仕事も忘れることなくこなしていけます。
 ただ,もしもの時のバックアップと,他のパソコンとの同期が大切になります。これは,まだ,試行中ですが,ジャストシステムの「インターネットディスク」という方法を使えば,何とかなりそうです。「超整理手帳」をもってしても,うまく整理できなかった仕事や予定やメモを,これでうまくできるか2年間ほど実験してみます。誰か,いっしょにやってみませんか。VAIO-Uも新たに出たことですし…。

3月号

 今,A4縁なし写真印刷をしながら,この『今月の本棚』を書いているのですが,漢字変換の途中で時々止まります。遅くて仕方ありません。XPを使っていてもダメなのかなあ。もっとメモリーを増やせばいいのかも知れませんねえ。

●板倉聖宣著『粒と粉と分子』(仮説社,2001,126ぺ,2000円)
 この本は,『サイエンスシアターシリーズ』の1冊です。サイエンスシアターについてはここで多くを語りませんが,こうしてシリーズになっていくのを見ると,それに関わった当時が思い出されて,ふつうの本とはちがった感情も生まれます。
 シアターの授業化も考えていますが,なんせ仕掛けが大がかりなので,なかなか難しいです。でも,授業書《虹と光》にホログラムシートを取り入れたりして,よりたのしく授業が出来るようにと思っています。
 この本は『原子分子編』の1冊目です。どんぐり,こんにゃく,砂鉄からなつかしいあぶり出しまで,楽しみながら原子の世界へ入門できます。
 これを読みながら,シアター研究会で手に入れたコンニャクイモを学校に持っていって,ほんの少し味わわせたときのパニックを思い出しました。

●小学読本研究会編『小学読本物語』(アトム出版社,1959,260ぺ,290円)
 別項で紹介したように,最近のボクは,またまた昔の教科書を手に入れて読むことに興味を持っています。特に,『読本』はいくらかまとまって手に入れたので,それを使いやすいようにまとめています。
 今まで,これらの古本を「日本の古本屋」や「スーパー源氏」で見つけて注文していたのですが,最近はこれに「ヤフー・オークション」が追加されました。ふつうの古本屋より安くてに入りますし,支払いも楽です。
 この本は,そのオークションで検索しているなかから偶然見つけた本です。発行はボクの生まれた年…。明治の草創期から戦争前までの『国語読本』の流れを,その実物のコピーをふんだんに交えながら解説しています。というか,3分の2は実物のコピーと言ってもいいでしょう。だから,教科書を持っていなくても,これ1冊で十分です。ただ,ボクのような収集癖のある人は,やはりすべて欲しくなってしまうのですが…。

●向谷匡史著『いま,「修身」を読む』(ぶんか社,2002,142ぺ,1200円)
 前の本とよく似たものが出ました。これは「読本」ではなく「修身」の教科書の紹介です。副題には「よみがえる心の教育」ってあります。今年出版されました。できたてほやほやです。
 本書は,文部省著作『尋常小学修身書・児童用 巻1~巻6』(大正年間)全159目録の中から58目録を選び出して,左のページには「現代語風の読み方」を紹介し,右のページにはその内容に対する著者の意見を掲載しています。
 戦後,民主教育の立場から目の敵にされた『修身書』ですが,今,読み直してみても,「そりゃそのとおり」と思うことがたくさんあります。全否定するのではなく,いい物はしっかり残していくという作業が必要だったのだろうと思います。
 まあ,ボクはいやらしい道徳教育には反対していますので,もちろん,こういう押しつけがましい『修身』の教科書も嫌なのですが,それでも,人間として大切なことは大切なのです。今の子どもたちを見ていると,そのあたりがかけているなあと感じることも多く,大人は「悪いことは悪い」というべきなのかも知れません。あまりにも「こどもに気づかせる」なんて言い過ぎだと思いませんか? しかし,この著者の姿勢は,やや偏りすぎです。
 この人の言いたいことは「まえがき」によく顕れています。それがまた,結構差別的で「あんた,大丈夫?」って思っちゃうのですが…。たとえばこういう部分。
「教師も労働者だ」
と言われれば,お説ごもっともである。
 だが,「理屈」が,ことの本質において,必ずしも正しいとは限らないことを,私たちは知っている。
「教師も労働者だ」と赤い旗を振って,教師は自ら「聖職」を放棄した。「一介の労働者」が人の道を説いたところで,耳を貸す生徒がいるはずもない。尊敬という絆が切れれば,学校が荒廃するのは当たり前なのである。

 こういう本を書くときにはよほど注意をしないとイケナイと思うのですがねえ。これについては事実誤認も甚だしいですが,それはここでは問いません。この部分でもっと気になるのは-「一介の労働者」が人の道を説いたところで,耳を貸す生徒がいるはずもない-という部分です「一介の労働者」と言えば,ほとんどの親がそうでしょう。これを素直に読むと,「一介の労働者」の意見を聞く子どもはいないということになります。まったくこれでは「親の言うことを聞かないのは当たり前」「となりのおじさんも一介の労働者だしバカにしよう」という結論が出てきてしまいます。「教師は聖職者」だから「文句言わずにまずは敬え」という時代がどういう方向に進んでいったのかは,著者も分かっているはずですがねえ。「教師のことを労働者と考えようが,聖職者と考えようが,本人がどれだけ尊敬されるものをもっているかが大切」なのです。「一介の労働者」にも「尊敬できる人」もいれば「尊敬できない人」もいるのです。こんな事は当たり前だと思うんだけどなあ。
 ま,こんな部分もありますが,現代ではなかなか読めない修身書から50以上ものお話を抜粋して本を作ってくださったことに,感謝したいと思います。

●唯川恵著『肩ごしの恋人』(マガジンハウス,2001,296p,1400円)
 ボクが小説を読むなんて,ま,1年に2~3冊ですねえ。
 今回の直木賞受賞作家が,石川県と関係がある女の人だと新聞で見て「それなら,話題の一つに読んでみるか」と思いました。
 性格の違う仲良し女の子を中心に進んでいくのですが,まあ,そこに男も数人絡んできて…。確かに,「新しい恋愛小説が誕生した」(腰巻きのコピー)と言えなくもないようですが,古い恋愛小説を知らない私は頷くしかないわけで…。
 唯川さんの本は,もう2冊,文庫本を買ったので,もし読んだら紹介しますね。

●銀林浩編著『どうしたら算数ができるようになるか・小学校編』(日本評論社,2001,252ペ,1700円)
 いやー,内容の割には大変安い本です。「お母さんとお父さんの教育相談」とも書いてあるように,読者のターゲットは,保護者のようですが,ボクは教師にお勧めしたいと思います。数教協の研究成果が『わかる算数』以後のものも含めて納められています(たぶん)。教えた方までも書かれているのですから。
 この本を読んだ保護者は,算数への目が肥えてきて,「うちの担任もっと勉強してちゃんと教えてよ」と思うのではないかと危惧します。ま,教師も知らなきゃイケナイね。
 この本には『中学校編』もあります。よろしければそちらもご覧下さい。これらの本のことは,2月のサークルでHさんに教えてもらいました。いい本をありがとうね。

●小泉袈裟勝著『単位のいま・むかし』(日本規格協会,1992,196p,1400円)
●小泉袈裟勝著『続・単位のおはなし』(日本規格協会,1985,180p,1100円)

 先月来,単位の話題に興味があって,とくに「g」について新しい話題はないかなあと思って手に入れた本が上の2冊です。結論から言うと,新しいことは分かりませんでした。『続』の方には,「キログラム」の所に以下のように書かれています。キログラム原器の説明部分から一部抜粋します。
 構造は白金90%,イリジウム10%の合金の円筒形の分銅で,直径と高さはともに39mmです。日本の原器はNo.6という番号のもので,現在の質量は国際キログラム原器より0.170mgだけ大きいのです。したがって日本原器でキログラムを“現示”する場合は,それだけの補正をすればよいことになります。
 キログラムは基本単位のうちで1000を意味する接頭語のついた唯一のものです。メートル法を作るとき,基本はグラムになる予定で立方デシメートルの1000分の1の水の質量と定義されましたが,後にキログラムを基本単位としたからです。そこでキログラムには接頭語をつけず,グラムにつけると約束されています。

 実は,これ,読んでココというソフトで本から直接読み込みました。な,なんとこの部分に関して言えば100%の認識率です。日本語OCRは,いつの間にココまで進化したのでしょうか? 2週間ほど前,新しいスキャナーを手に入れたときにいっしょに『読んでココVer.8』も購入したのでした。たいしたものです。
 話を元に戻して,この部分の「後にキログラムを基本単位としたからです」で,すべては片づいているので,ま,新しいことは何もないといったのです。
『単位のいま・むかし』は,その題の通り,世界各地の単位の今と昔について分かりやすく書かれた啓蒙本です。「統一単位制度」を巡る各国の動きなど,「g」に関係ないけどたのしく読めました。

●高島俊男著『漢字と日本人』(文春新書,2001,250p,720円)
 漢字が日本に入ってきたときに,その漢字をいかに日本語化していったか,というようなことがテーマ。また,漢字の字体も問題にしていて,「簡単にしてしまったためにかえって元の意味が分かりにくくなった漢字」がたくさん存在しているとも指摘している。著者は「あとがき」で自分の考えを次の2点にまとめています。
▼よんでいただければわかるが,わたしの考えは,まず第1に,漢字と日本語とはあまりにも性質がちがうためにどうしてもしっくりしないのであるが,しかしこれでやってきたのであるからこれでやってゆくよりほかない,ということ,第2に,われわれのよって立つところは過去の日本しかないのだから,それが優秀であろうと不敏であろうと,とにかく過去の日本との通路を立つようなことをしてはいけないのだということ,この2つである。

●鈴木孝夫著『日本語と外国語』(岩波新書,1990,242p,780円)
「虹の色は,なぜ7色なのか?」というような話題が『たのしい授業』誌上にも掲載されていましたが,その中で紹介されていた本の中の1冊が,この『日本語と外国語』です。内容としては以下の通り。
 第1章 ことばで世界をどう捉えるか
ここでは,英語のorangeが日本語のオレンジと同じ色ではないらしいとことか,リンゴと言えば日本では「赤」と決まっているけど,「緑」を連想する国もあることなどを話題としています。
 第2章 虹は何色か
虹の色を巡る話題を取り上げながら,国によって立場によって虹の色の認識の違いがあると言うことを述べています。詳しいことは,『たのしい授業』をご覧下さい。
 第3章 日本人はイギリスを理解しているか
ま,そういうことです。
 第4章 漢字の知られざる働き(1)-音読みと訓読みの関係-
ここでは,専門用語について,漢字と英語の綴りを比べて次のように述べています。
▼つまり英語の高級語彙では,このようにほとんどの造語要素がギリシャ語かラテン語であるために,自分がそれまで知らなかった語の大体の意味を,ただ見ただけ聴いただけで察することは,古典語の素養のない一般の人にとって非常に難しい。/しかし日本語のそれは造語要素のほとんどが,日常的な漢字であるために,たとえ所見の語でも,およその見当がつくのである。(本書133ペ)
このように漢字で表すのは,とても便利なのです。だから,現在使われていない漢字がふえると,本来の意味が分からなくなってくると著者は危惧します。
 たとえば,次のようにです。
▼また現在では,中学や高校の生物の時間に齧歯類という動物名が初めて出たとき,内容を教わる前に,それが何を指すかの察しがつく人も少ないだろう。戦後の漢字制限のおかげで,何か物を≪かじる≫という時に,この齧を使うのを止めたため,調べなければ分からない難しい字になったからである。(134ペ)
 これと同じような例として「蛋白質」もあげています。最近は「タンパク質」」と書くので,これは外来語かと思っている人もいるかも知れませんが,この「蛋」という字は現代中国で「卵」のことなのです。ですから「卵白質」と書いてもいいことにすれば分かりやすくなります。なるほどとは思いませんか?
 第5章 漢字の知られざる働き(2)-視覚的弁別要素の必要性-
日本人はいつ頃から「日本語はかっこわるい」と思うようになったのでしょうか。車の名前にしても,雑誌の名前にしても,日本人のための日本の物なのに英語綴りが多いのです。ワープロの「一太郎」などは,かえって目立つ存在です。「花子」や「桐」ってのもありますがね。

 今回紹介しなかった本に,昔の教科書があります。これは興味が向いたときに,どんどん読んでいます。おいおいHPや別刷りレポートに紹介しますね。そのときには連絡しますので,また,見てください。

2月号

 前回のサークルから2週間しかたっていないので,まだ本は読んでいる途中です。ボクは,一度に3~4冊くらいの本を並行して読むクセがあります。今,半分くらい読んでいるやつは,次回に紹介します。

国立国会図書館デジタルコレクション

●木村裕一著『きりのなかで』(講談社,1999,48ぺ,1000円)
 この本は,以前ご紹介した『あらしのよるに』の続編第4弾です。第5弾は『どしゃぶりのひに』です(ボクはまだ持っていません)腰巻きのCMには,こんなコピーが書かれています。
 第1部『あらしのよるに』…奇妙な友情はなぜ生まれたか?
 第2部『あるはれたひに』…友情は食欲に勝てるか?
 第3部『くものきれまに』…秘密の友だちって,いろいろたいへん。
 第4部『きりのなかで』 …なかまよりたいせつな,お友だち?
 第5部『どしゃぶりのひに』…生きるためには,うらぎりも必要なのか?
 とにかく楽しいシリーズです。子どもたちに読み聞かせてあげてください。

●西本鶏介著『宮澤賢治』(ポプラ社,1998,176ぺ,880円)
 この前のサークルで,Hさんに教えてもらった宮澤賢治の子ども向けの伝記を注文して読んでみました。何カ所かで大人向けの?伝記からの引用などもありました。子ども向けの伝記って,こんなもんなのかな。
 この伝記のユニークなのは,後ろ30ぺージほどが,クイズになっていることです。伝記を読んでからでも「えっ,こんなこと書いてあったっけ」と思うような問題もあり,なかなか楽しめました。本離れが言われる昨今ですので,伝記にもこうした工夫が必要なのかもしれませんね。
 賢治の伝記をまとまって読むのは,この本が初めてですが,すでに自分自身が結構知っていたのは,それだけ賢治に関する雑誌などの記事を読んでいたからでしょうかね。

●筑波常治著『大蔵永常』(国土社,1969,222ぺ,500円【昔の値段】)
 前回のサークルやサイエンスシアターの反省会で話題になっていて,さらに仮説の冬の大会での発表にもあった「大蔵永常」の伝記です。
 メールにも書きましたが,もう一度,ココにその顛末を書いておきます(この「本棚」は自分にとっての日記も兼ねていますので)。

 1月のシアターの反省会で,仮説の冬の大会の話題になり,Sさんが「大蔵永常って知っている?」と聞いたので,ボクは「名前なら聞いたことがあるような気がする」と言っておきました。しかし,みなさんは知らない様子。Sさんは「私は小学生の時に,大蔵永常の伝記を読んで読書感想文を書いていいところまでいった」と話してくれました。そのときは「へ~,そうなのか」と思いながらも,「それにしても何でオレは名前を知っているのだろう。なんか農業の人だというのも知っているような気がする」と思っておりました。
 一つ心当たりがあるのはボクの手元にある『江戸科学古典叢書』(全43巻)のパンフレットです。もしかしたら…と思い,のぞいてみると…ちゃんとでているではありませんか。江戸時代に発行された文献105冊が納められているこのシリーズは,全部そろえると30万ほどします。
 さて,その中に大蔵永常の本は『農具便利論』『たはらかさね工作絵巻』『琉球藺作織法』が収録されています。なるほど,このパンフを見ている間に,頭に入ってきたのか,と理解し,前回のサークルでもそれを見せたと思います。
 しかし,その後,学校の図書室をのぞいていたら『大蔵永常』という本が目に飛び込んできました。この学校に来て4年になりましたが,今まで全然気がつきませんでした。しかも2冊も並んでいます。そのうちの1冊は,統合した学校のはんこが押してありました。もう1冊は本校のものです。で,中をのぞいてみると,図書カードが挟まれています。その2行目に,な,なんと「5の1 ○○正○ 11/24~11/26」とあるではありませんか。今の勤務校はボクの母校です。そうです。ボクは,「大蔵永常」という人の伝記を,小学校5年生の時に図書室から借りて読んでいたのです。それが頭の片隅に残っていたために,あの時「聞いたことある」といったというわけです。
 でも,内容については全く覚えていません。そこで,もう一度,読んでみることにしました。もしかしたら,今のボクの発想や考え方に近いものが隠されているかもしれません。

 長い前置きになりました。それでは,大蔵永常について書いてみます。
 大蔵永常は,幕末のころのすぐれた農学者です。彼は,宮崎安貞佐藤信淵と並び「江戸時代の三大農学者」と呼ばれています(2p)。植物の雌雄について日本で初めて正しい知識を主張しました(129p)。まあ,人生についてのもろもろのことは,実際に本にあたっていただくとして,ココでは,ボクの心に残ったところから話をします。
 彼のはじめての著作本『農家益』は,農民が読みやすいように,できるだけ多くの人がおもしろがるように工夫がされています。
 舞台は,大阪市内をゆく乗合船です。徳兵衛(永常のこと)のかんがえた乗合船には,伊勢の手代,日向のすみ売り,畿内の農民など,さまざまな乗客が乗りあわせていて,たがいにお国自慢をはじめます。そのなかのひとりである,筑紫の人が,西国のハゼをさかんに宣伝します。その話を聞いた,大和の男が,すすみでてきて,筑紫の人に反対します。こうして,筑紫の人と大和の男とのあいだで,論争がはじまるというしくみです。(100p)
 この形は,ガリレオの『天文対話』『科学対話』に似ています。登場人物に討論させながら,自分の主張したい意見(今の場合は筑紫の人の意見)をわかりやすく聞かせるテクニックを利用していたとは恐れ入りました。『農家益』を手に入れて読んでみたくなりますよね(ただし,全部漢文。現代語訳があるかな)。また,各地の農民が苦労しているのにもかかわらず,怠けずに働けというだけの指導者に対しては,
▼農民だって,人間ではないか。おなじ収穫を上げるにしても,できるだけ楽をしたほうがよいにきまっている。えらい学者,先生たちは,ただはたらきづめにはたらきさえすれば,それでりっぱな農民みたいにいっているが,労働というものは,もっと能率的にやるのが正しいはずだ(133p)
と言っています。これは単なる同情ではありません。科学に裏付けられた方法で,しっかりと作物作りに取り組めば,今よりもっと楽をして,しかも今よりも収穫も収入も上がる方法があるという自信の現れでしょう,そして,それを広めようとしたのです。永常は6冊目の著書『農具便利論』という本の中でも,つきのようなユニークな呼びかけをしています。
▼永常には,じぶんは日本じゅうの農具をことごとく知っているぞ,などと,いばったりする気持ちは,まったくありませんでした。いたらぬてんはいたらぬと,正直にうちあけ,世間の人びとも,農民のしごとに協力してもらいたいと,ひろくよびかけているのです。こういうよびかけをつけた本は,世界でもめずらしいといわれています。(141p)
 こういう謙虚な態度は,単に道徳的にいい人だというのではなくて,広く農民にも参加を呼びかけて,よりよりものを作っていこうという思想の現れに他なりません。しかし『農具便利論』に反論する人もいました。「農具というのはその土地にあったものがあるのだ。いくら熱心に<こちらの方がいい>といっても,従うわけがない」という訳です。
▼しかし,永常はながいあいだの経験から,農民がふるいものにこだわる理由の一つは,かれらがまずしいためであることを,みぬいていました。どこの農村でも,いままでのやりかたにしたがえば,とにかく,ある程度の収穫は確実にあるのです。もし,あたらしい方法にきりかえて,なれないために失敗したばあいは,たちまち破滅しなければなりません。その危険をおそれて,農民たちは,なかなかあたらしい技術にとびつこうとしないのでした。したがって,あたらしい作物や農具をひろめるには,ぜったいまちがいない親切な指導が必要であり,また,その利益を証明してみせなければなりません。(143p)
 このあたりのことも,なかなか興味の尽きないことです。
 今の教育界だって,まだまだ<ふるいもの>にこだわっているのかもしれません。仮説実験授業がゆっくりとしか広がらないのもムリはないようです。しかし,だからといって「総合的な学習」はいただけません。なぜなら,そこには「ぜったいまちがいない親切な指導が必要であり,また,その利益を証明してみせなければな」らないのに,それが全くないからです。これでは,いくらお上がさけんだところで,せいこうするはずがないでしょう。まさに,「騙された農民」「今までのほうが良かったと思う教師」をたくさんつくるだけでしょう。ん~,やっぱり奥の深い本だった。
 永常は,1768年に生まれて1860年に93歳で亡くなったいわれています。まさにあたらしい明治の世界の目の前にして,30冊あまりの農学の本を書いたのです。
 こうして読んでみると,5年生のボクがどう感じていたのかは分かりませんが,この本は,今のボクの考え方にも影響しているような気がします。あくまでも〈気〉ですけど…。
 この本には「参考文献」が載っていませんでした。先の宮澤賢治の伝記にはちゃんと載っていました。発行された時代が30年もちがうので仕方がないのかもしれませんが,子ども向けの伝記にも,是非,「参考文献」や「もっと知りたい人のために」なんていう欄を設けて欲しいものです。
 アマゾンで調べたところ,現在(2002年)この本は,『大蔵永常 堂々日本人物史<11>―戦国・幕末編』と名前を変え,国土社より1200円で出版されています。

1月号

 年末年始は,時間がありそうで…ない。
 年末は忘年会と年賀状と大掃除でつぶれるし,年始は年始の挨拶とお買い物でつぶれちゃう。それに「たまの休みはじっくり映画ものでも」と思ってDVDなんかを見ていると,たちまち時間が過ぎてしまうのであった。
 今回紹介する本は「ブック・オフ,シーサイドの古本屋,インターネットの本屋さん,アマゾン・コムなど」から手に入れたものです。アマゾンは便利です。ネットで注文できるのは「インターネットの本屋さん」と同じですが,家まで配達してくれます。しかも,送料は無料。下にも紹介した野口さんの本を読んで,珠洲たののページから,直接アマゾンの検索ができるリンクを張りました。
 まずは,以前サークルで話題になった本を,ボクも仕入れて読んでみましたので,それを紹介します。

●板倉聖宣他著『中学生の教科書』(四谷ラウンド,2001,261ぺ,1400円)
 先月のサークルでSさんが紹介していました。このシリーズは3冊出ているそうですが,ボクは板倉さんの文が載っている巻だけ買いました。印象に残った部分を引用します。
▼「時は金なり」と一般的に言われるがそうではないと思う。時はもっと大切なもの。時をたしていけば命になる。まさに「時は命なり」。時間が命であるならば,我々は人生において,この時間を何かに賭けていかなければならない。私にとって,それはラグビーだった。(本書・体育63p
 ただし反論もあります。彼は「知識を与えられれば,それだけ感動しなくなる」というふうに思っている節があります。でも,それはちがう。その知識をどう得たかによって,そのものに対して感動がより深くなることだってあるだろうと思います。デカルトが「花の仕組みを観察すればするほどつまらないものになるという人がいるが,それはウソである。花の仕組みを調べれば調べるほど,その神秘さはかえって増すばかりである」というようなことを述べたと,どっかで聞いたことがあります。
▼スポーツジムに行くと,おなかの出たオジさんがマシンの上でゆっくりしたスピードで,ふーふー言いながら走っていたりする。君たちから見たら「何だカッコ悪い。やめとけばいいのに」と滑稽に思うかもしれない。でも,他人からどう思われようと,このオジさんはこうやって走ることで,健康を維持し体力増強を果たし,仕事のストレスを発散しているのだ。「走る」ことは,走ることが得意なトップアスリートたちだけのものじゃない。(本書・数学104p)
 早くから「ボクこれキライ」「わたし,ぜったいやだ」という子どもたちのなんと多いことか。もっともっといろんなことに挑戦する子どもたちであって欲しいなあと思います。

●飯塚訓著『墜落遺体』(講談社,1998,263ぺ,1500円)
●飯塚訓著『墜落現場・遺された人たち』(講談社,2001,242ぺ,1500円)

 いずれの本も,Sさんに教えてもらたものです。1985年の日航機の墜落事故の現場の様子を赤裸々に書きつづっているというこの本は,それだけで,手に取るのもはばかれます。Sさんに聞いたときには,すごい本があるもんだと思ったものの,すぐに注文しようとは思いませんでした。それは,内容が内容なけに,「こんなん読んでも,なんかこわいだけや」という気持ちが先に立ったからです。
 で,王様の本屋に2冊そろって並んでいるのを見たのですが,2冊で3000円はなあ,と思い買いませんでした。ところが,この前,ブックオフに言ったとき半額で売っていたので,2冊とも買ってみたわけです。
 これ,お正月に読みました。おもしろくて…といったらしかられますが,とにかく内容がすごくて一気に読んでしまいました。
 事故発生から,現場の確認までの話。ヘリコプターから降りたこともない医者と看護婦が,ロープで現場に降りて応急手当をするというプロ魂。とても遺体とは思えない肉のかたまりや顔の皮を開いて,それに型をつくる人たち。ウジ殺しをかけてもかけても,真夏の体育館では大変。思わず吐き気を催す医師や警察官。身元確認がうまくいかずに当たり散らす遺族。ほとんど原形を残していない遺体に頬ずりする遺族の姿。遺体が腐らないように毎日,ドライアイスを変えるのが日課であると言うこと。棺桶がたくさん必要で,「自分のところにも仕事が回ってくる」と思いきや,日航が東京の会社に一括して申し込んでいてもうけ損なったという話…。もう,人間の喜怒哀楽が入り乱れて,すごい話になっています。しかし,それが,あまりいやらしくなく興味本位に流されないで読めるから不思議です。
 それは,なぜかと考えると…分かりました。作者が描いているのは,すべて,その道のプロ,自分の使命を感じて一生懸命働いている姿だからです。日赤の医者も近くの病院の看護婦も,どうにかして映像をとろうとしつこくつきまとう記者たちも,緊急のヘリポートを短時間で作ってしまう自衛隊も,遺体確認の警察官も,霊柩車を配備した葬儀屋も,みんなプロとしてこの事件に一生懸命関わったのです。おそらくこの事故で亡くなった人たちも,そういうプロの仕事屋だったに違いないのです。そのあたりがとってもうまく書かれているので,まるで地獄絵のような世界を描いているのに,なぜか人間への限りなき信頼が伝わってきます。
 ボクのように題名にビビッていてはいけません。まだ読んでいない人,すぐに読みましょう。自分の仕事を見直すきっかけにもなるし,家族を見直すきっかけにもなるし,「よーし。生きるぞー」って元気までもらえます。
追記:上記商品(『墜落現場 遺された人たち』)リンクは,2015年発行の新装版です。

●阿辻哲次著『漢字道楽』(講談社選書メチエ,2001,202ぺ,1500円)
 確か日曜日の新聞の欄の紹介を見て購入したと思います。
 活版印刷屋の息子であった著者ゆえの興味と関心を生かして,中国文字文化史を専門としている人です。
 この前のシアター反省会のときに話題になっていた部首についても書かれています。たとえば,「巨人」の「巨」という文字の部首はなんだと思いますか?これは「工」だそうです。「巨」の上下の横棒は,もともと横に突き出ていたそうです。だから「工」だとか。こんなことも活字を拾う手伝いをしながら覚えたと言います。なるほどね。
 次の漢字は,なんと読むでしょう。
 ・比基尼*1   ・披頭士*2   ・索尼*3
 あと,漢字のルーツや作り方,コンピューター時代の漢字まで,たいへん話題豊富な本です。こんなボクでも読めたので,文系育ちの人はスムーズに読めるのではないかな。

●松村智広著『あした天気になあれ』(解放出版社,1996,214ぺ,1500円)
 去年(だったっけ),同和教育の会で珠洲に来て話をしてくれた松村さんの本です。もうすでに読まれた方も多いと思います。被差別部落出身者の松村さんが,それを名乗り,乗り越え,今は教師として元気に働いている…これだけでも,大変なことです。
 講演には,その元気さとユーモアに圧倒されました(だから本を買ったんだけど…)。やはり,被差別部落出身者であろうがなかろうが,元気な人は輝いています。
 ボクが,部落問題について知ったのは,大学生の時です。恥ずかしながら,それまでそんな問題があるなんてしりませんでした。だれも教えてくれなかったからです。自分で学習する中で,天皇制の問題も考えざるを得なかったような気がします。
 この本でも取り上げられている「寝た子を起こすな」という考え方は,ボクが20年前に読んだ本にも出ていました。依然として変わんないんだなあと思いました。「寝た子を起こすな」では,差別はなくなりませんね。

●横田 睦著『お骨のゆくえ』(平凡社新書,2000,229p,700円)
 副題に「火葬大国ニッポンの技術」とあるように,死んでからお世話になる葬送のことやお墓のことについて書かれています。これは単に「おもしろそうだなあ」と思って本屋さんで直接見て選んだ本です。
 火葬の歴史と技術,散骨,立体墓地のことなど,それこそ話題が豊富です。ただ,内容が内容だけに,興味を持っても仕方ないこともあるけど…。
 ボクは個人的には無宗教だから,できれば散骨してほしいと思っているのですが,そういう思いそのものが「新宗教だったり」しているのではないかとも思います。いちばんイイのは,死んだあとのことはあとの人に任せばいいのかな?
 湯之谷村の「科学の碑」にも名前を刻んでもらっていますが,それって,自分じゃ宗教じゃないつもりなんですが…。あはははは。

●高松正勝原作・鈴木みそ漫画『マンガ化学式に強くなる』(講談社BLUEBACKS,2001,270p,940円)
 副題に,『さよなら,「モル」アレルギー』とあるように,高校の化学の嫌われ者「モル」について楽しく勉強できるようにした,漫画の本です。
 原作者は,「まえがき」で,<モルという概念>が生徒たちにとって難しい理由を,次のように書いています。
 ところが「モル」はマルチな単位で,数,体積,質量と使い分けます。1モルの数と気体の体積はある決まった値をとりますが,質量は物質によってそれぞれ異なります。これでは,初めて習ったときに面食らうのは当たり前でしょう。
 ところが,いったん分かってしまうと,化学にとって「モル」ほど便利な単位はありません。化学は「モル」なしでは成り立たないのです。

 なるほど,と思いました。モルはマルチな単位だったのです。ふつうの単位はm,gなど,ちゃんと決まった値ですが,モルはへんな単位です。
 漫画は,主人公の幸ちゃん(高校生)と友達の兄貴(化学の得意な子)を中心に進んでいきます。デートに行っても化学の話って設定はなかなかよかったです。 ボクには結構おもしろく読めましたが,さて,みなさんはどうでしょうか。

●藤井聡著『しつけの仕方で犬はどんどん賢くなる』(青春出版社,2000,206p,1200円)
 著者は,犬の飼い方で常識となっている次のようなことに対して,異議申し立てをしています。
・朝晩,必ず決まった時間に散歩をする。
・留守番をさせるときに,なでるなど犬に「別れのあいさつ」をしてから出かける。
・犬がいたずらをすると,大声で「コラ!」と叱る
・庭や部屋で自由に放し飼いにしている
・犬が嫌がるから,爪切りやグルーミングをやらない
 これらのことが,なぜダメなのかを,わかりやすく説明しています。これらのことは「犬にストレスを与えるだけ」でしかないそうです。ボクも,このあたりのことはもうだいぶん分かっていますのですが,こうして専門家が説明してくれる本を読むと,再確認できてうれしいです。
 基本は,「犬が人間に合わせることで,安心して暮らしていける」ということです。決して「人間が犬に合わせる」のではありません。

●石黒謙吾文・秋元良平写真『盲導犬クイールの一生』(文藝春秋,2001,151p,1500円)
 この本,書店で見たことがあったのですが,「ビーグルじゃないし」ということで見ないでいました。しかし,今年の年賀状に「この本は感動ものですよ。お薦します」っていうのがあって,それなら末娘も欲しがっていたこともあるし,読んでみようということに相成りました。
 1986年,ラブラドール・レトリバーが5匹の子犬を生みます。そのうちの1匹が,盲導犬としての訓練を受けるために親元を離れていきます。そして,最期の時を迎えます。
 あえてあらすじは書きませんが,白黒写真と文章が絡み合い,心暖まる内容の本になっています。また,装丁も良くて,ずっと大切にしたいなあと思わせる本に仕上がっています。

●野口悠紀雄著『ホームページにオフィスを作る』(光文社新書,2001,229p,700円)
 あの超整理手帳・超整理法の野口さんの本です。ホームページの活用術について書かれています。
 野口さんは「自分のホームページを持て」と言っています。「自分のホームページは,何よりもまず,自分のためである」とも言っています。自分のデーターを置いておく,数人でファイルのやりとりをする,など,自分のホームページを自分で利用するという発想で出発しようと言っています。
 今,「一太郎や花子」を買うと,インターネットディスクというのが割り当てられます。インターネット上に自分のファイルを保管しておけるのです。しかも,決まった人にそのファイルを公開することも出来ます。この機能を使うと,サークルのメンバーにしか見せられないレポートなどを,置いておくことも出来ます(実名入りのレポートのやりとりも可能になる)。メールでやりとりするのは,大変ですが,インターネットディスクなら,欲しいときにそこへ行ってダウンロードすればいいことになります。
 実は,ホームページとかこのインターネットディスクとかは,フロッピーを持ち歩く代わりにもなります。実際,ボクは,学校のパソコンからインターネットディスクにファイルを送り,家のパソコンで呼び込んでその続きを書き,またそれをインターネットディスクに送るーということをしながら,このレポートを書いています。それが,ボタン一つで出来るのですから,便利です。
 一太郎11以上を持っているみなさん。一度,インターネットディスクを利用してみませんか?

●平野治和著『原発銀座で輝け診療所』(かもがわ出版,1999,235p,1500円)
 仕事柄??,原発関係の本で読んでいないのがあると気になって買ってしまいます。これも中身を見ないで購入したのですが,内容は,予想に反して,生協診療所をめぐる地域の活動について書かれていました。それが原発銀座にあるということでこういう題が付けられたようです。
 原発については「第10章 怪物なるか“もんじゅ”」というのに出ているだけです。それよりは,第1章から9章までの話の方が,おもしろかったです。医者の原点のようなものも感じました。

●宮田律著『現代イスラムの潮流』(集英社新書,2001.6,204p,690円)
 9月の同時多発テロは,世界中を震撼させました。しかし,あそこまでは行かなくとも,米国やイスラエルに対して,何とかしてやろうというイスラム急進派が沢山いることはみんな知っていたでしょう。ボクは,あのとき,2機目がぶつかるのもナマ中継で見ていたのですが,その前から,かみさんに「これはイスラム過激派だよ」と言っていました。その予想がちゃんとあたったので,ま,世間一般の常識はあったかなと思います。
 しかし,当事者のオサマ・ビン・ラディンについては,何も知りませんでした。ボクのアラブやイスラムの知識は,湾岸戦争当時に読みあさった本からしかありません。その後のイスラムについての知識は,ほとんど持ち合わせていませんでした。また,そのころはイラン・イラク,イスラエルとアラブの国ぐになどのことに興味があったので,アフガニスタンやパキスタンについての知識もありませんでした。
 今回,こういう事件が起きてたくさんの本が出版されています。
 ボクが今回手に入れた本は,9月以前に出版されたものです。ですから,これは作者の予想として読めるのです。もう一冊,『タリバン』という本も購入しましたが,まだ読んでいません。
 さて,この新書は,新書のくせに?なかなか中身があります。読み応えがあります。ちゃんと予想できているんだと思いました。これじゃ,アメリカも予想していたという話は本当でしょう。
 いくつか引用します。
イスラムが人々の間で根強い支持を得るのは,それが7世紀にアラビア半島で成立してから,正義と平等を訴え続けてきたからだ。(5p)
▼イスラムは,欧米の一部で唱えられるような荒唐無稽,あるいは暴力的な宗教では決してない。もしそうだとしたら,世界12億の人々の信仰は得られない(5p)
▼イスラム世界のムスリムたちは,過去にイスラム世界に対して侵略などの行為を行ったことがなく,経済発展を遂げた日本人に対して特別な親近感がある。(28p)
▼アフガニスタンは90年代末になってタリバーンという勢力がアフガニスタン全土の90%を支配するようになったが,そのタリバーンの創設に力を入れたのもアメリカだった。(141p)
▼ビン・ラディンは,アフガニスタン戦争で,イスラム世界から義勇兵を募り,アフガニスタンに送り込んだ。こうした彼の行動はアメリカの好感をかうものであったことは間違いない。アメリカは,CIAを通じてビン・ラディンたちの活動を支援し,武器を供与したり,また彼らに軍事技術を提供したりしていった。(142p)
▼アメリカに求められているのは,急進的なイスラム組織のテロの対象になっている原因についての自虐的な姿勢だろう。(187p)

 歴史をしっかり勉強すると,自ずと解決策が見えてくるんだなあと思います。それを為政者が実行するかどうかは別にして…。

●池田香代子再話『世界がもし100人の村だったら』(マガジンハウス,2001,64p,890円)
 E-mailを通して,少しずつ広まっていったという現代の民話?を,日本人の池田さんが本に編集したものです。内容は題の通り,「地球の人口63億人を100人とすると,○○は何人になるか…」ということが繰り返し述べられています(要するに人口の分布を百分率で示しているだけですが…)。
 たとえば,「90人が異性愛者で/10人が同性愛者です」「70人が有色人種で30人が白人です」「33人がキリスト教/19人がイスラム教/13人がヒンドゥー教/6人が仏教を信じています/5人は,木や石など,すべての自然に霊魂があると信じています/24人は,他のさまざまな宗教を信じているか/あるいは何も信じていません」というような感じです。
 ボクは,この本のことを『北陸中日新聞』の1面のコラムで知りました。で,すぐに本やタウンで注文したわけです。今,ベストセラーになっているようです。
 これは,何かと授業に使えそうです。だれかプランを作ってみませんか?

追記:2022年現在,この本のワークショップ版も出ています。人口の変化等に対応するためにデータも新しくなっているようです。ここれは,2020年発行のワークショップ版第6版の商品リンクも紹介しておきます。

 そんなわけで,今回は,今まで紹介していなかった分と12月~1月に読んだ本の紹介をしました。最近は〈犬〉と〈漢字〉に興味を持ってきたので,そういう関係の本を知っている方は,また,教えてください。

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