今月の本棚・2003年版

12月号

 師走に入り,本来なら忙しくなるのですが,今年は級外ということで,みなさんより1週間早く忙しい時期は過ぎ,この1週間は,割とじっくり仕事が出来ました。退院してから読んだ本を挙げておきます。

○板垣雄三著『イスラーム誤認-衝突から対話へ』(岩波書店,2003,288ぺ,2400円)
 イラク問題は,泥沼化を呈しています。フセインが人殺しなら,ブッシュだって同じでしょう。正義はどちらにもあるのですから。「正義」を振りかざすことが,唯一の道なのだと思っている人たちが未だに沢山いるのは,本当に悲しいことです。もっともっと仮説実験授業をしてあげたくなります。授業書《生類憐れみの令》《禁酒法〉なんかを大人たちにもやってみたいと思います。組合で出来ないかなあ。
 今まで読んできたイスラム・アラブ関係の本と同様,本書もまた,「先進国では,日本だけがイスラム世界にやさしく話が出来る唯一の国なのだ」と繰り返し述べられています。日本人が思っている以上に,イスラム圏の人たちは,日本人を近しく思っているようです。そういう有利な立場を放棄し,アメリカにべったり追従していく日本の姿を見ていると,これからの日本の進路が「国際化から同盟国化」へと逆戻りするような気がします。同盟国なんて言葉は,第2次世界大戦の頃の言葉じゃないのでしょうか。
 入院中にちょっと抜け出て本屋さんで買ってきました。入院中,最後に読んだ本です(読み終わったのは,退院してからです)。

○上赤博文著『ちょっと待ってケナフ? これでいいのビオトープ』(地人書館,2001,183ぺ,1800円) 
 「環境に優しい」という言葉が一人歩きし出すと気になるのが,ボクの性格です。ケナフやビオトープには,昔から「?」という気持ちもあったので,購入しておきました。やっと読んでみました。
 ケナフも作ったことがありますし,ビオトープは珠洲の学校にもあります。
 ケナフについては,学校の畑で作り,結局,皮ははいだものの紙漉まではしませんでした。時間が足りませんでした。この植物の問題については,新聞紙上にも取り上げられていたりして,帰化する危険性が否定できません。本書もそのあたりをついていて,「環境に優しいという正義を振りかざす危険性」について,もっと学問的に判断しなければならないと諫めています。本当にそのとおりです。何かというとすぐに飛びつくのは,余り良くないなあと思っています。
 またビオトープについても,本来,その場所にいた生物がもどってきて生態系を作るのなら分かるが,もともといなかった魚やら,ホタルやらを離して人工的に作るのは,本来の生態系の破壊になるという指摘をしています。種が本来持っている多様性を破壊することもあり得ると警告しています。
そこにはホタルにとって何がよいことなのかいう視点は見られませんし,また,ホタルの生活史を理解し,仲良く共存していこうとする姿勢も感じられません。単に,地域の活性化にホタルを利用しているだけという印象です。(140ぺ)
 本書を読んでから,意外なものが帰化植物であることをしりました。シロツメクサなどです。オランダミミナグサもそうです。ま,名前を見れば「そりゃそうだろ」とは思うのですが。こんなにも身近になっていることにびっくりです。そんなわけで,帰化植物に興味を持ったボクは,なんと,帰化植物図鑑を購入しました。『日本の帰化植物』(平凡社,2003年,14000円)です。バカだねえ。我ながらすぐにハマル姿勢にあきれてしまいます。

○スタジオジブリ責任編集『ナウシカの「新聞広告」って見たことありますか。-ジブリ新聞広告18年-』(徳間書店,2002,453ぺ,2300円)
 長い題名のとおり,ジブリ映画の新聞広告を集めた本です。最新の『猫の恩返し』まで出ていますの。また,新聞広告記事のところどころに,その当時,ジブリ映画の広告担当をしたメンバーたちの対談記事もあって,ジブリ好きには愉しく読める本だと思います。紙質が余りよくない分,ページ数の割には値段も手頃なので,お買い得でしょう。
 上映前と後では,絵だけでなく,コピーも変わっていく様子が良く分かり,こういうことに創造性を発揮している人たちがいるんだなあって,感心しました。いつか,この新聞広告を使って,「コピーを考える」とか,「創造的な仕事って」とか,授業で利用できればなと思います。
 入院中に『風の谷のナウシカ』が発売され,アマゾンから届いていました(予約してあったから)。そこで,前々から買ってあった(ちょっとだけ読んであった)本書を,改めて読んでみる気になったのです。

○ユリイカ臨時増刊号『宮崎駿「千と千尋の神隠し」の世界』(青土社,2001,197ぺ,1100円)
 ユリイカなどという月刊誌は,今まで少し立ち読みはしたことがありますが,購入したことはありません(もしかしたら一度くらいはあるかも…)。なんせ「詩と批評」ってのが,この月刊誌のタイトルなんですから。で,もちろん,宮崎アニメについて書かれているということで手に入れたわけです。買ってからしばらく本棚の奥に追いやられていてその存在を忘れていました。今回,掃除をしていたら奥の方から数冊の本と一緒に出てきたので,上の『ナウシカの…』の続きだと思って,読みました。
『千と千尋の神隠し』がまだ世界的にはヒットしていない頃に出た本ですが,ヒット間違いなしという感じで書かれていました。
 原稿を寄せているのは,多種多様です。例えば,毛利子来(もうりたねき:小児科医),川口晴美(詩人),香山リカ(精神医学),無藤隆(発達心理学),村山敏勝(英文学)たちなどです。2ページ~10ページ前後の文章が寄せられているので,興味のあるところから読むことが出来ます。たかが映画にそんな深く考えなくても…と言いたい人は,読む必要なし。いろいろと解釈することが好きな人は,興味深く読める本でしょう。ボクはおもしろかったです。

○星田直彦著『はやわかり単位のしくみ』(広文社,2003,191ぺ,1500円) 
 入院編でも紹介した中学校の数学教師星田先生の「雑学本」の1冊です。『人の噂…』と一緒に購入しました。著者の前書きを紹介します。
 本書では,単位に焦点を当て,「雑学」的要素を多く盛り込みながら,楽しく単位のことを知っていただけるように書きました。中には,聞いたこともない名前の単位も出てくることでしょう。でも,肩肘張らずに,楽に読んでいただけると思います。「数学嫌い」や「数学苦手」のあなたにも,せめて,「単位は好き」と言っていただけると信じています。
 単位っておもしろいです。人間って,いろんなことを考えて,賢くなっていったんだなあって,つくづく思いました。
 本書には,詳しい索引も付いていて,調べるときにも使いやすくなっています。

○ロム・インターナショナル著『図解・日本地図と不思議の発見』(河出書房新社,2003,174ぺ,1400円)
 最近出たばかりの本です。ブック宮丸で12月に購入しました。アマゾンなどで注文するときには,題名と書評などから注文するこことが多いのですが,本屋でじっくり見て購入するのもいいものです。
 日本地図の「雑学」の本です。「トリビアの泉」のようなものですな。『東京には目黒や目白の他に「目赤」「目青」「目黄」がある』『大阪や奈良は近畿ではない』なんて,「へ~」って思うでしょ。どこどこって…。
 世界地図編もあるらしいですが,こっちの方は日本地図ほど余り身近じゃないので,おもしろいかどうかは分かりません。ボクは今のところ,購入予定はありません。誰か読んだら,教えてよ。

○齊藤充弘著『原子力事故と東海村の人々』(那珂書房,2002,174ぺ,1300円)
 「シリーズ臨界事故のムラから」の1冊めです。以前,2冊目の「村上村長の証言」を紹介しました。その内容が,「原発の賛成反対を通り越したもの」であったので,このシリーズに興味を持ち,第1冊めと第3冊めを取り寄せました。第1冊めの方は少し待たないと手に入らなかったので,興味を持った方は早めに購入した方がいいでしょう。
 さて,このシリーズ第1冊目には,東海村がたどってきた歴史が書かれています。なぜ,今のように原子力発信の町になったのか,また,なぜ住宅街のど真ん中に,あれほど危険な施設が建っていることが出来たのかなどが,よくわかります。要するに原子力に対する安全神話がしっかりと根付いていたのです。

○葛西文子著『あの日に戻れたら』(那珂書房,2003,261ぺ,1600円)
 「シリーズ臨界事故のムラから3」です。
 著者は,臨界事故までふつうの主婦だった方(といっても,ときどき新聞に記事を書いていたらしいが)です。それだけに,臨場感あふれる文章となっていて,運命に翻弄される村民たちの姿がありありとみてとれます。
 東海村にひっこし,夫がやっている学習塾もやっと軌道に乗りかけた頃,JCOの事故に遭遇します。塾の場所がJCOに近かったこともあり,事故後,塾生は少しずつ減り,新しいメンバーも来ません。そして借金を抱えたまま,廃業。夫はタクシーの運転手になります。一方,奥さんの方は,「なぜ,私たちがこういう目に遭わなければならないのか」と,その原因を探る為,いろいろな会や集会に参加し,インタビューにも答え,新聞の記事も書きます。原子力に疑問を持ち行動するだけで反対はと言われることの寂しさも経験します。さらに,堕胎した子どものことを思うと,事故との関連を考えざるを得ません。なかなか整理がつかないのですが,それでも「今,生きている愛する人と一緒に歩むしかない」と言い聞かせる態度に深く共感しました。
 盲目的に原子力技術を信じるのは本人の自由ですが,いったん事故が起きれば,信じていた人もいない人も,平等に,人生が大きく変わってしまうのです。

 本文にも書きましたが,最近のボクの本の注文は,ほとんどが,アマゾンか本屋タウンです。実際に本の中身を見て買うのは,本屋に行ったときにしかできませんが,これがまた4冊ぐらいで押さえようと思うと,なかなか決まりません。どれもこれも欲しくなって,「こんなに読めるはずないよなあ」とあっちの本を取ってみたり,もう一度,元の場所に返してみたり…。ただ,そうして選んだ本は,たいてい,すぐに読み始めます。新聞の書評などを読んでネットで注文した本は,ついつい積ん読になってしまいます。やっぱり,本は本屋で買うのが一番なのかなあ,と,思ったりもしています。

入院編

 11月17日から29日まで,訳あって入院生活をしていました。手術で1日半は寝ていましたが,その他の時間は,回復するまでただ寝ているだけ。せっかくなので,買ったまま読んでいなかった本を持っていきました。本を読んでばかりもいられないので,落語のMDも持っていきました。お陰で,少しは時間つぶしになりました。
 今月の本棚は,まずは,入院編からどうぞ。12月号は,項を改めて紹介することにします。

○野口悠紀雄著『「超」文章法-伝えたいことをどう書くか』(中公新書,2002,265ぺ,780円)
 以前,サークルでも話題に上っていた本です。本校が昨年から研究発表の指定にあたり,人様にむけて文を書くことが多くなっていたので,ようやく買って読んでみました。ただ,すでに研究紀要などはまとめてしまってあって,この本を読んだ成果は,次回まで持ち越しなのですが…。野口さんの本とは,ベストセラーになった『超整理法』以来のおつきあいです。
 本書も「今までの研究成果と野口さんの主張」が,大変わかりやすく書かれています。利用できることがたくさんありました。
・実際,本を書くことの最大のメリットは,書いている途中で発見があることだ。あるいは,それまで漠然と考えていたことを,はっきりと意識することだ。「知らないことがあったら,本を書いてみよ」と言われるほどである(教えることも,同様の効能をもつ)。(5ぺ)
・「見えるものの中からとくに目立つもの」を指摘するのは,素人にもできる。しかし,「あって然るべきものがない」と指摘するには,対象に関する深い知識が必要である。だから,プロにしかできない。(23ぺ)
・冒険物語は面白いから,それだけでもよいのだが,ためになればもっとよい。故郷への帰還は,「ためになる物語」を作る工夫なのである。(63ぺ)
・共通の原理でいろいろのことを理解できるというのは,面白い。実際,学問の面白さはこれにつきると言っても過言でない。  68ぺ
といった骨組みを作るためのアドバイスから,
・節より下のレベルにはタイトルをつけない人が多いが,本書では,節の下のレベルの区切りに小見出しをつけている。タイトルは見開きに一つ程度はあるほうが読みやすい。(200ぺ)
・ある行に1文字しかないことや,あるページが1行だけになってしまうことを避ける。さらに,節のタイトルや小見出しが奇数ページの末尾にならないようにする。(204ぺ)

といった細かなことまで提案しています。
 私もレポートを書くときには,同じようなことに気をつけてきましたが,これからは,もうちょっとしっかり添削などもしたいし,色々なテーマにも取り組んでみたいと思います。今まで,自分のことを「ボク」と書いていましたが,身内以外に見せるものは「私」します。といっても,自分の文章なんて,なかなか変えられませんがね。

○小野田博一著『論理パズル「出しっこ問題」傑作選』(講談社,2002,156ぺ,750円) 
 ブルーバックスの1冊です。こういうパズル本は,時間つぶしに最適です。本書は,「嘘つき村と正直村」のようなタイプの問題が60問掲載されています。
 頭だけでなく,ちゃんと紙とペンを用意して解かないと解けない問題もあります。
 ただ,1冊の本の中に類似の問題がたくさんあって,続けて読むには疲れます。集中力のない私のような方は,時々取り出して,やってみるのがよいでしょう。

○青木雄二著『「銭」の教訓。』(主婦と生活社,2003,285ぺ,1500円)
 今年の9月に亡くなった『ナニワ金融道』の作者で,マルキストを自認していた青木雄二さんが「闘病中に書き遺した,最後の金言集」です。
 最近気になっているものに,サラ金のコマーシャルがあります。武富士やらプロミスやら…。昔はサラ金というと,「くらーい」イメージがあって,「一家離散」という文字などもいっしょに思い浮かんだものですが,これらのコマーシャルにはそれがありません。「犬がほしけりゃ,そりゃサラ金」「ティッシュ配りも意義あること」と自然に思わせるこれらのコマーシャルを見て育った子ども達って,こういうところから簡単にお金を借りるようになるのでしょうか。実際,サラ金企業は,たいそう儲かっているそうですし…。30%近くもの利子を取られるものに手を出すなんて,変ですねえ。 
 本書は,これらの金貸業と銀行とがつながっている話とかもでてきます。「カジノ合法化」「郵貯」「携帯電話」など,話題は豊富。
 「銭」に人生をめちゃくちゃにされないために,青木さんの遺書を読んでください。

○中込重明監修『落語で読み解く「お江戸」の事情』(青春出版社,2003,205ぺ,700円)
 新書版です。「プレイブックス」というシリーズです。
 これは書名ですべてを表しています。古典落語の内容を解説することで,江戸時代の状況を垣間見てみようという作戦です。章立ては,
第1章 長屋の生活と庶民の日常(例としてあげられている落語…時そば,粗忽長屋,長屋の花見,崇徳院,火事息子)
第2章 遊郭での遊びと独特な決まりごと(明烏,錦の袈裟,品川心中,富久)
第3章 庶民の娯楽と流行事情(蛙茶屋,千早振る,目黒のさんま,大山詣り)
第4章 江戸っ子の生業と財布の中身(たがや,百年目,厩火事,三方一両損)
と,なっています。大阪・京都版ってのは,ないのかなあ。落語と江戸学入門には適書だと言えましょう。

○星田直彦著『なぜ「人の噂も75日」なのか』(祥伝社黄金文庫,2000,404ぺ,648円) 
 副題に-思わず話したくなる「数」の雑学-とあるように,数字に関する雑学で盛りだくさんです。著者のことは,ネット上で知りました。
 著者は「★雑木話★」というホームページを開いており,たくさんの人たちから集まってきた珍問・難問などの疑問を,これまたたくさんの人たちが勝手に答える,ということをやっています。このHPは,数字に限ったものではありません。メールマガジンもあって,実は私もそのメルマガのメンバーに登録しているのです。
 本書は,稲田君,杉野君と星野さんの会話形式で進められていくので,大変読みやすいです。いっしょに謎解きをしているような気分になります。これがいいんですよね。400ページもありましたが,一気に読んでしまいました。ディズニーのビデオやキーホルダー等の<ある記号>の説明は,すっごく「へ~」でしたね。
 雑学本って,ボクは学生時代から好きだっんですよねえ。ただ,内容は雑多なだけにすぐに忘れちゃうんだけどね。暇つぶしには最適ですね,こういう本は。

○板倉聖宣著『わたしもファラデー』(仮説社,2003,188ぺ,1800円)
 『ぼくらはガリレオ』が,「ぼくら」になっていて,女の子をのけ者にしたみたいで気になっていたという板倉さん。やっと念願の「ファラデーの伝記」ができました。
 本文は,『理科教室』という教育月刊誌に連載されいていたので,サークルにも時々持っていきましたが,本書は,その文章に,たくさんの図版を加え,とてもわかりやすくなっています。
 小学校しか出ていない,数学も知らないファラデーが,どんな人と巡り会い,どのように科学上のさまざまな発見をするに至ったのか。
「豊かなイメージを武器に電磁気や半導体物質など今日の社会を支える大発見を次々となしとげたファラデー。その魅力的な半生をいきいきと描く発明発見物語。」
と,裏表紙に書かれています。
 なお,57ぺのファラデーの肖像画は,すごくハンサムです。本当にこんなにいい顔をしていたのかなあと,どうでもいいことも考えていました。

○塩野米松著『木のいのち 木のこころ(人)』(新潮OH!文庫,2001,250ぺ,619円)
 本書は,1994年,草思社から刊行されたものを文庫本化したものです。
 以前にも紹介したように,これは「天・地・人」の3部作となっております。
 「天」には,西岡棟梁の話を中心に,「地」は西岡の唯一の弟子である小川からの聞き取りを中心にまとめてあります。そして「人」には,西岡から見れば孫弟子にあたる「鵤工舎」のメンバーたちの聞き取りです。
 西岡の著書を読んで「宮大工」を目指してきたというものから,ただ何となく来てみたというものまで,それぞれの人生を真剣に生きる若者達の姿が伝わってきます。
 西岡から学んだことをそのまま弟子達に伝えながらも,現代に「宮大工」を成り立たせるための工夫を考える小川三夫棟梁の生き様も見え,元気の出る本となっています。

○渡辺眞子著『捨て犬を救う街』(角川文庫,2002,227ぺ,552円)
 単行本は,WAVE出版より2000年に出版されているようです。
 空前のペットブームと言われている中,人は癒しを求めて動物と過ごしているようです。しかし,その動物を最後まで看取る人たちは,そのうち何割くらいなのでしょうか。捨てられるペットが後を絶たないと言います。
 本書は,アメリカのサンフランシスコの動物愛護の状況を私たちに教えてくれます。そして,日本の情けない状況に怒りと悲しみを覚えます。さらに,「自分たちにできることは何なのか」を考えさせてもくれます。
 「もの」扱いされ,人に捨てられた動物たち。今でも飼い主を信じているのかも知れない殺される動物たち。私たちは,あまりにも簡単に動物(ペット)を手に入れているのかも知れません。
 本書は,病院の売店で購入しました。
 単行本の方には,きたやまきょうこさんの挿絵も載っているそうなので(あとがきに書いてあったから),買うならそっちの方が良いかな。

○郡司ななえ著『ベルナのしっぽ』(角川文庫,2002,318ぺ,600円)
 これも,病院の売店で購入しました。上の本を買ったときには棚に並んでいなかったのに,3日後に行ったら売っていました。そんで,早速購入。
 作者の郡司さんは,人生の途中で失明しました。夫も目が不自由です。
 犬嫌いの彼女が盲導犬を持とうと思ったのは,自分の子どもを産み育てたいと思ったから。ベルナと名付けられたラブラドールは,家族として,また,生まれてきた男の子のお姉さんとして,一家になくてはならないものとなりました。
 生きているものは必ず死にます。ふつうなら,盲導犬としての役目を終えると,違う飼い主に譲られるのですが,郡司さんは最期まで一緒にいることを決意します。
 まだ盲導犬があまり知られていなかったころのお話です。動物が持っている秘められた力に感動します。

○仲田紀夫原作・佐々木ケン絵『マンガおはなし数学史』(講談社ブルーバックス,2000,267ぺ,940円)
 数学史については,まとまったものを読んだことがありませんので,取りかかりとして読んでみました。索引も付いているので,何かの出来事について,ちょっと気になったとき,本書を読んでみればその時代背景が分かるでしょう。
 さすがに『集合論』あたりのことをこれだけ簡単に書かれても,それをかじったことのない私には「…」でしたが…。

○天木直人著『さらば外務省!』(講談社,2003,250ぺ,1500円)
 子気味いい切り口で,外務官僚ををばさばさと切り捨てています。
 著者は,元外務省職員で「前駐レバノン特命全権大使」です。こんな人が,自分の人生をかけて,「米国のイラクを支持しないよう」お上に申し立てたところから,始まります。 対米追従しか能のない日本の自民党の政治家(そうじゃない人もいるが)や外務官僚にこのまま日本を任せていると本当に大変なことになりそうです。アラブ諸国と決して敵対してこなかった日本の取るべき道は,「イラク攻撃支持」ではなかったと思います。
 ボクは,湾岸戦争のころに,アラブ,イスラム関係の本を沢山読んでみて,日本は,アメリカ・西欧とはちがうスタンスをとれる国なんだと思っていました。この本を読んでそれを再確認しました。しかし,事態は違う方向に向いていますが…。
 この本はただ今,ベスト10入りしています。是非たくさんの国民に読んでほしいと思います。小泉はタレントです。一国の総理ではありません。日本の舵取りを巻かせるにはあまりにも怖すぎます。

○網野善彦+宮田登著『歴史の中で語られてこなかったこと』(洋泉社新書,2001,283ぺ,780円)→「網野善彦氏の著作を読む」へ

○どこからどこへ研究会著『地球買いモノ白書』(コモンズ,2003,102ぺ,1300円)
 この出版社は,初めて知りました。差し込まれていた「読者はがき」には,環境・平和関係の本が10冊ほど出ていたので,そういう視点の出版社のようです。
 本書は,「ものができるまで」の本です。
 チキン,マグロ,カップ麺,缶コーヒー,マガジン,スポーツシューズ,ケータイ,ダイヤモンドの指輪,マンションについて,その材料の調達?から製造(から解体)まで,簡単に鳥瞰してあります。
 内容は一つ一つについて10ページほどの大変簡単なものですが,参考文献・参考インターネットサイトが充実していますので,詳しく研究したい方には,良い入門書となるでしょう。

○上田薫著『上田薫著作集1・知られざる教育-抽象への抵抗』(黎明書房,1992,361ぺ,5640円)
 久しぶりに「骨」のある本を読みました。値段もすごいしね。
 この本は,昭和33年初版で,昭和62年までに18刷を重ねたといいます。その道のロングセラーと言えるでしょう。
 ボクにとって,社会科は,教科の中でも一番遠い人間で,有田和正さんの本くらいしか知らないのですが,今回,上田さんの本を読んで,なかなかおもしろく読めました。
 経験主義が頓挫して,系統学習が言われだすころ,また,社会科に含まれていた道徳教育が特設されていくころ-つまり昭和30年台前半のころに書かれたものです。上田さんは,経験主義を重んじて,生活単元学習というか問題解決学習というか,いわゆる戦後10年くらいの教育のありかたに学習の本物があると考え,単なる系統学習に反対していました。何でも抽象的に考えることがより上位の認識であるということに異議を唱え,真なるものは具体的である,と説きます。また,動的相対主義を主張し,絶対的な理論の上に安住する態度を戒め,具体的な動的な場面でこそ,認識が深まるといっています。多分…。
 教育書というより哲学書を読んでいる感じが強くて,しーんとした中でないと言いたいことが頭に入ってきませんでした。上田哲学について,今後,社会科の先生に聞いてみたいものです。

○WCG編集室編『ニュージーランド-キウイたちの自然派ライフ』(トラベルジャーナル,1999,188ぺ,1800円)
 ま,要するにニュージーランドの観光ガイド本です。ただ,地図は国土全体が1ページ,オークランドとクライストチャーチの市街地図がそれぞれ1ページしかありません。
 リピーター向けに書かれた本のようですが,読み物として読んでもおもしろかったです。単なるガイドブックは,旅に行かないと役に立たない気がしますが,本書は読み物としても合格でした。本書の「はじめに」で,このシリーズ(ワールド・カルチャーガイド)について,以下のように書かれていました。
「いま,書籍として求められているのは,単なる情報の羅列ではなく,旅行先国の社会の仕組みや人々の暮らしぶり,さまざまな文化にスポットを当てた,“読んで楽しい”ガイドブックではないでしょうか。」
「なんで,ニュージーランドなの」かって。それは,秘密。

 入院生活というのも,ある意味,体がリフレッシュできるのかもしれません。しかし,確実に1週間に1キロはやせていったので,このまま病院にいると本当の病人になりそうでした。

11月号

 研究発表会が終わり,やっといつものペースにもどって読書やらパソコンやらが出来そうだと思っていたら,顎の方で疾患が見つかり,入院・手術する羽目になってしまいました。人生というのはわからんもんですなあ。で,入院する前に,11月に読んだ本をまとめてみました。
 11月のベスト1は,金森さんの本かな。教育の原点をもう一度考えさせてくれる本でした。この本はぜひ読んでみてください。

○金森俊朗著『いのちの教科書』(角川書店,2003,238ぺ,1200円)
 NHKスペシャル(2003年5月11日放送)で反響のあった「涙と笑いのハッピークラス~四年一組 命の授業」として紹介された学級の担任・金森先生が書かれた本です。
 金森さんについては,石川県の教師なら,よくご存じでしょう。ボクの本棚にも『性の授業・死の授業』というのがあります。とてもユニークな授業を展開し,「子ども達と共に生きる」という姿で実践しておられる方です。日本生活教育連盟の会員でもあります。具体的にまねできそうなものも紹介されていますが,金森学級のようなものをめざすには,いくつかの実践をまねただけではだめです。教育哲学をしっかり持って対処することでしか,こういう学級は生まれないのかなあと思います。
・体験が貴重であることは事実です。しかし,体験こそ,きちんと意味をとらえ直し続けなければ,かえって頑迷になったり偏狭になったりするのではないか-そんな思いが,私には強くあります。
・最近は,学校に教師以外の人を招く学習が一般化しつつあるようです。しかし,その多くは「地域の人材を活用する」という考えです。人を「人材」と呼び,「活用する」という言葉に象徴されるようにどこか「収奪的」で「権力的」です。/互いに学び合い,生き方を共有し合うという思想を根底におかないと,学校外の人を招いた学びは本物にならないでしょう。
・視野を広く持つということは,常に学び続け,選択肢を多く考えることができるということでしょうか。

などなど,立ち止まって考えさせられる言葉が沢山詰まっているすばらしい本です。
追記:上記リンクは文庫本です。

○青木雄二著『僕が最後に言い残したかったこと』(小学館,2003,204ぺ,1300円)
 著者の青木さんは,ご存じ『ナニワ金融道』の作者です。サラ金を舞台にしたマンガは,独特の絵とお話の精密さで,僕も一時はまりました。そのあと,青木さんが「マルクス主義者」を自称していることを知り,別の面で,興味を持ったものです。その青木さんが,2003年9月5日,永眠されました。肺ガンであると告知された青木さんは,日本へ,サラリーマンへ,息子へ…メッセージを語りました。それをまとめたのが本書です。第4章「マルクスへ」なんてのもあって,面白いです。というより,死を前にして,これだけ語り,託してくれる姿に感動します。一昨年なくなった高木仁三郎さんともだぶってしまいます。妻からの言葉には思わず目が潤んでしまいました。
 いつ死ぬか分からないから,今この時を一生懸命生きようと,改めて思いました。

○粟野仁雄著『ルポJCO臨界事故 あの日,東海村でなにが起こったか』(七つ森書館,2001,253ぺ,1600円)
 文字通り,JCO臨界事故のルポです。JCOの職員や村長,主婦など,多くの方々にインタビューをしています。怒鳴られながらも,取材を続ける姿に本物のルポライター魂を感じました。
 臨界事故後の東海村の様子も書かれています。あの悲劇的な事故は何だったのか,その全体を知りたい方には,お薦めの本です。

○勝田忠広著『市民のエネルギーシナリオ2050』(原子力資料情報室,2003,65ぺ,800円)
 長期的なエネルギーの見通しを立て,原発のない,石油にも依存しないシナリオが可能であることを,具体的な数値を上げて政府案と比較検討しています。ブックレットで30ページあまりの付録には具体的なデータやグラフが付いています。

○カール・Z・モーガン,ケン・M・ピーターソン共著『原子力開発の光と影』(昭和堂,2003,272ぺ,2300円)
 副題に「核開発者からの証言」とあるように,アメリカ合衆国の核開発当初から関わっていた保健物理学者(放射能の影響を研究する物理学者)が著者です。
 本書は,米国の核開発史上において,いかに放射能の管理がずさんであったか,放射能の影響を小さく見積もっていたかを,暴いています。著者達は,自分たちが警告したにもかかわらず,そのデーターが日の目を浴びなかったという経験がたびたびあったことを指摘し,「われわれに原子力を使う資格はあるのだろうか」と問いかけます。そう,資格はないのです。
 翻訳本にはつきもののことですが,本書も,直訳が多いのか,ちょっと読みにくかったです。
 でも,こういう証言が出ること自体にその意義を考えておきたいです。

○仮説社編『たのしい授業プラン・道徳』(仮説社,2003,256ぺ,1365円)
 仮説社発行の教育月刊誌『たのしい授業』から,「道徳」に関するものを集めた別冊です。「道徳」といっても,一般に行われている副読本での「道徳」だけではなく,もっと広い範囲で子ども達が楽しみ考えてくれた教材や授業プランが紹介されています。ふつうの道徳でありきたらない人,そもそも道徳なんてどうでも良いと思っている人,一度,読んでみてください。「こんな道徳。僕も受けたい」と思うに違いありません。

○山路敏英著『のろまのまんま』(ほのぼの出版,1998,134ぺ,1500円)
 仮説実験授業の実践家・ヤマジさんの,エッセイ集です。心温まるお話がいっぱいです。このまま道徳にも使えそうな文章もあります。こんな文章を書けるようになるといいなあ。感性がするどいんだなと思います。
 ただ,この本は,一般の書店で注文できないかも知れません。上の『道徳』にも入っていますので,まずは,そちらをお読みください。

 これまで,原子力関係の本はずいぶん読んできました。
 学生時代に武谷三男氏の著作に出会ったのが始まりのようなきがします。そのころから,「科学とは」とか「科学者の役割とは」というようなことも考えたりしました。ボクたちは科学者ではないけど,子ども達に責任のある生き方をしなければならない点では,同じようなものなのかもしれません。武谷三男氏の著作から,板倉聖宣氏の著作へと進んだのです。懐かしいなあ。もう20年以上も前のことになりました。

10月号

〇板倉聖宣著『熱をさぐる編3 ものを冷やす』(仮説社,2003,125ぺ,2000円)
 この本は<熱をさぐる>をテーマにしたサイエンスシアターシリーズの第3巻です。
 「蒸発による冷却」というたのしい話題を取り上げて,分子原子の運動論を展開しています。高校時代に習った「分子運動論」と「熱」の関係が,身近でわかりやすく述べられていて,お薦めです。
 ま,ページ数のわりには高い本ですが,内容は目から鱗です。その知識が,断片的ではなく,理論として身に付くので,応用範囲も広いですよ。単なる「へ~」ではありません。
 サイエンスシアターシリーズは,この後も続々続くそうなので,期待して待っていましょう。7冊出すのに,丸2年もかかっているので,先が心配なのですが…。仮説社さん,お願いしますよ。

〇星一郎著『アドラー博士の小学生に自信をつける30の知恵』(三笠書房,2003,222ぺ,1300円)
 アドラー心理学については,以前,この欄で専門書を紹介したような気がします。
 本書は,アドラー心理学を,実際の子育ての場面で使うというのはどういうことなのかを,具体的な場面に即して述べてあります。
 30の知恵の一部を紹介します。
・「嫌いなところ」の視点を変えてあげる
・「正しい,間違っている」より「嫌だ,迷惑だ」で意見を言う
・「いつも~」「絶対~」などの“決めつけ言葉”は使わない
・「ありのままの自分」を受け入れることを教えてあげる
 ただし,こういう本の常ですが,アドラー心理学を語るこの本が,単なる子育てテクニックに陥ってはいけませんよね。アドラーの思想から何を学ぶかが大切なのですから。親や教師が上から教えてあげるという態度が無くならないうちは,アドラー心理学が身に付いたとは言えないでしょう。

〇岸見一郎著『アドラー心理学入門-よりよい人間関係のために』(KKベストセラーズ,2000,190ぺ,648円)
 アドラー心理学の入門書です。新書版です。これを購入したのは,地元の本屋さんでした。こんな本が出ていることを知りませんでした。アドラーの生い立ちも出ていますし,アドラー心理学が,個人心理学といわれるわけなども書かれています。
 著者ご自身は,ギリシア哲学の専門家なので,アドラー心理学の入門書を書くというのは門外漢という気もするのですが,それが,この本のもっている強みでもあるのです。
 というのも,著者自らが,アドラー心理学に魅せられ,自分の子育てにも適用したり,自分の生き方も見直してみるなかで,もう一つのライフワークとなってきたのだそうですから。
 アドラー心理学について知りたい人は,上の本(他にも似た本があります)と本書をまず読んでみることをお薦めします。

〇犬塚清和著『輝いて!』(仮説社,2003,222ぺ,2000円)
 久しぶりの仮説実験授業関係の授業論・教師論・学校論の本です。今年,退職された研究会事務局の犬塚さんの心温まる講演やレポートが,ふんだんに集められています。
 犬塚さんは,本書の後書きで
「仮説実験授業とかかわってきて一番よかったことはどんなことか」と聞かれたら,ボクは迷わず,「<子どもはすばらしい>ということを発見し続けることができたこと」と答えます。
と書いています。まさに,子どもに寄り添いながら教師を続けてきた方です。仮説実験授業の思想をしっかり学んだ生き方をすれば,大丈夫だよと呼びかけてくれる本です。
 同じ仮説実験授業の研究者として,とても頼もしく読ませて頂きました。最近,学校研究で子どもたちとちゃんと向かい合っているかなと,反省もしてみました。
 教師であるあなたへ-「いつまでも笑顔の教師でいるために」-あなたも読んでみてください。そして,仮説実験授業を実際にやってみてください。
 教師でないあなた。是非,担任の先生に紹介してあげてください。

〇佐高信著『佐高信の教育革論』(七つ森書館,2003,221ぺ,1500円)
 本書は,1987年に単行本として刊行されたものです。ですから,内容が古いか…というと,決してそうではありません。だからこそ,七つ森書館さんも,今年,新しく版を起こしたんでしょう。
 佐高さんは,昔,高校の教師だったことがあります。御存知の人は御存知でしょうが,ご存じない人は初耳でしょう。
「教師しか経験していない者が「教師ほど大変な職業はない」とマンガ的なことを言うのに象徴されるように,現在の日本の教師たちの最大の欠点は「社会」を知らないということであり,また,それを自覚していないということである。」(38ぺ)
とばっさり切られては,教師も立つ瀬がありません。「地域と連帯」といいながら,ぬるま湯につかっているように見える教師の世界があることを,教師は自覚しなければなりません。これがないかぎり,他業種の人たちと連帯できるわけが無いじゃありませんか。
 卒業した教え子が,いろいろと相談をもちかけてくることを,さも自慢そうにいう同僚に対して「一人で生きる力をつけるのが教師の役目なら,それはあなたの教育の失敗じゃないのか」という佐高さんの厳しい目は,本物です。
 「教育とは教えている教師を必要でなくする仕事である」と,佐高氏。教師は絶えざる自己否定の仕事なのです。

〇大崎博澄著『子どもという希望』(キリン館,2001,176ぺ,1600円)
 キリン館というのは,仮説実験授業の会員で本屋さんでもある方のお店の名前です。書店からも注文できますので,どうぞ。
 さて,この大崎さんという方は,2000年4月から,高知県の教育長となっている方です。文章を書くことが好きで,教育長になられる前から,いろんな所に文章を書いていたようです。教員畑の出身ではないのですが,(佐高さん流にいえば)だからこそ,味のある文章を書かれています。
 大崎さんの本といえば,高知新聞社から出ている『山畑の四季』も合わせて読んでみてください。
 こんな教育長がいると,いいのになあ。某県の教育長は,学力(それも知識としての)しか頭にないんじゃないの。ちょっとは,こういう本も読んで欲しいものだよねえ。

 「今月の本」は,アドラー心理学実践講座のようになりました。嘆いてばかりの教育界じゃつまんないです。明るい未来もあると思える本に出会えて,幸せです。

9月号

 ひさしぶりに更新します。いろいろと読んではいたのですが,なかなかパソコンに向かう時間がもったいなくてご無沙汰しました。

●広田照幸編集『<理想の家族>はどこにあるのか?』(教育開発研究所,2002,262ぺ,2000円)
 7月に紹介した<きょういくのエポケー>シリーズの第1巻目です。編者は,以前,この欄でも紹介したかな…広田照幸(東京大学大学院助教授)さんです。『日本人のしつけは後退したか』(講談社現代新書)の著者です。
 理想の家族を追い求めて,いつも不満を抱いて生活している人たちに,「あなたの理想の家族って,この世の中の存在するの?」と問うています。
 そもそも<理想の家族>という幻想を作りだした人たちは,何を狙っているのでしょうか。
「今の家族と比較して昔の家族はよかったなどといった物言いが可能なほど,単純にとらえることができない歴史的な厚みを家族はもっているのである。」
「それがいつの時代の誰の家族なのかということをちゃんと見極めると同時に,安易にそれを一般化させてはならないということである。」
「<地域ぐるみの子育て>」といった理念が抱える問題点は,しばしばそれが,個々家族の方針とは異なる,特定のタイプの価値観や態度を押しつけることになりかねない点にある。」

など,原則的で刺激的な言葉が並びます。

●小沢牧子編集『子どもの<心の危機>はほんとうか?』(教育開発研究所,2002,254ぺ,2000円)
 <きょういくのエポケー>シリーズの第2弾です。
 これまた,タイトルからして刺激的です。文部科学省をはじめ,マスコミが一斉に「心の危機」を叫んでいる昨今の状況を,少し冷静に分析するとどういうことなのかが,びしびし伝わってきます。
 表紙には,以下のように書かれています。
  個人の心に最大の価値を置く<心理主義化>が進むなかで,
  一度立ち止まり,自明のものとされる
  社会・学校の<心>をめぐるさまざまな状況を問い直す。

 
心の危機は本当にあるのでしょうか? 子どもたちの心はそんなにすさんでいますか? いま,なぜ癒し系がブームなのでしょう。そんなことを考えさせてくれる1冊です。文部科学省の作成した「心のノート」も取り上げられています。
 このような本を読んでいるうちに,そのものズバリの本も手に入れました。

●斎藤環著『心理学化する社会』(PHP研究所,2003,238ぺ,1400円)
 最近の世の中は,心理学ブームです。カウンセリングも流行っています。学校現場でもスクールカウンセラーと銘打った人たちが配属されているところもあります。また,学級活動や道徳などで,エンカウンターといったものも取り上げられています。「十二楽章」とかいうグループが癒し系の音楽を作って,それが流行ったり…。
 また一方では,少年犯罪の増加が取りざたされ,その低年齢化・残虐化が強調されています。(しかし,これは根も葉もないウソであることは,統計を見ればすぐにわかります。)そして,その原因として,トラウマなる言葉がもてはやされてもいます。
 こんな現状に,精神科医の立場から,スパッとものを申しているのが,本書です。トラウマを扱った文学や映画から話題を起こしているのも,読みやすい本となっています。
 著者は後書きで,こう述べています。
人々が「心理学」や「精神医学」を求めることはやむを得ないとしても,その不確かさや限界を,内側から示しておくことには意味があるはずだ。有効なものには必ず副作用があり,また固有の限界がある。本書はその意味で,「心理学」の余白に書き込まれた,批評的な注釈たらんと欲するものである。(236ぺ)
追記:上記のリンクは,2009年発行の文庫本(河出文庫)です。

●小沢牧子・長谷川孝編著『「心のノート」を読み解く』(かもがわ出版,2003,97ぺ,1000円)
 「心のノート」への批判書です。ボクも,授業では「心のノート」を使用し,その実践例まで研究大会に紹介したのですが,こういう本もちゃんと読んでいます。
 「心のノート」には,決して悪いことが書かかれているわけではありません。そこが,もう一つわからないところなのです。
 ただ,戦前の修身の教科書と比べている辺りは,「そりゃあ,あんた,考えすぎだろう」と思いますし,また,たとえば,故郷や国を思う心を取り上げる場面では,「そこには脱亜入殴型で近代化を遂げてきた日本の負の遺産を直視する場面はない。民族差別も部落差別も基本的人権も無視して,一国主義的なナショナリズムに傾斜していくなら,再びアジアで孤立することになるおそれがある」と非難する辺りは,ちょっと違うんじゃないと思ってしまいました。というのも,「何が書いてあるか」で批判しないで「何が書かれていないか」で批判することは,あまりいい感じがしません。書かれていないことは,教師がしっかりと別なところで教えればよいことですから。
 ボクの「心のノート」への批判は,次の一点につきます。「文部科学省が一方的に全国の児童生徒に配布したものである」-という点です。これは,民主国家にあるまじき行為です。いくらいいものであれ(先の例でいえば,部落差別や基本的人権の尊重やなどがすべてもりこまれているものであれ),国が一方的に,子どもたちへ<心の問題に踏み込むようなもの>を配布し,利用を強制するべきではありません。それでは,北朝鮮と同じです。
 心をコントロールするために,カウンセリングの技術が学校現場に入り,「心のノート」が配布されている…という点については,先に挙げた本を合わせ読むと,「そうかもしれないな」と思います。

養老孟司著『バカの壁』(新潮新書,2003,204ぺ,680円)
 あまりにもベストセラーになってしまって,今更紹介するのもなんですが…。
 「新潮新書」という新しいシリーズが,この一冊でしっかり国民に広がりましたね。よかったね,新潮社さん。新書ブームにやや乗り遅れた感がありましたが,これで一安心かな。
 ここまで,「今月の本棚」を読んできた人はわかって下さると思いますが,この本が売れたのも,社会が心理学化していることの証明だと思います。心理学化から脳科学化へ進みそうな勢いもありますので,要注意ですな。
 自分のこともわかんないのに,人間同士のことなんてかんたんにわからないよ。科学の力で何でも説明できるのではないかと考えるのも,おおきな落とし穴だよってことは,確認しておきたいですね。かといって,オカルトに走る必要もないけど…。
 というボクの読書のジャンルも,心理学化しているような… (^^ゞ

8月号

●鐸木能光著『ワードを捨ててエディタを使おう(第2版)』(SCC,2001,262ぺ,2200円)
 6月号で,著者のことを少し紹介しましたね。マルチ人間「たくきよしみつ」さん。
 今回は,パソコン関係の本を読んでみました。
 ま,ワープロソフトを使わないで,エディタを使いましょう。なにかと便利だよという呼びかけですこの本には本書で取り上げられているエディタソフト「QXエディタ」がなんと無料で付いています。「秀丸」は登録料が4000円することを思うと,2200円で手にはいるのは,なんともお得ではありませんか。
 ボクは「秀丸」を使っていますが,学級通信とかは,やっぱり「一太郎」です。写真があるからね。
追記:上記リンクは,2007年発行の新版です。

●伊東実成著『豊田家の神話』(大成出版,1972,188ぺ,550円)
 ネットの古本屋から手に入れた本です。もう30年も前の本ですから,ま,それなりに内容も古い。しかし,その古い話にちょっとだけ興味があったので購入しました。
 著者の伊東さんは,証券マン時代にトヨタ担当だった方で,ずっと豊田家を外から見てきた人です。伊東さんは最後に,こんな風に述べています。
佐吉翁の時代,そして利三郎,喜一郎両氏,それを取り巻く石田さん,岡本さんらの時代,ここまでが“豊田家の時代”と呼べるものでしょう。/豊田家の一族の血,そして,その血のために一生を捧げた“大番頭”の血。それらは単なる主従関係を超えて,ひとつの同じ血だったと思えてなりません。それぞれの思いは異なろうと,それをまとめてみた場合,豊田家という血族の意識を第一にしなくては考えられない強い連帯感によって構成された世界です。(中略)この石田さんの退場によって,これからのトヨタ・グループは豊田家一族のものから,「株式会社」という言葉が意味する客観的な法人組織中心の会社に変貌したといえましょう。(179~180ぺ)
 今だにトップを走るトヨタの哲学については,別の本を読んでいます。

●西岡常一著『木のいのち木のこころ(天)』(新潮OH!文庫,2001,174ぺ,543円)
●小川三夫著『木のいのち木のこころ(地)』(新潮OH!文庫,2001,214ぺ,581円)

 一冊目は,御存知,最後の宮大工棟梁西岡常一さんの聞き書き本です。2冊目(地)は,西岡さんのただ一人の内弟子の聞き書き本です。これらの作品は,もともと1993年に草思社より刊行されており,それが今回文庫本化されたわけです。
 『木に学べ』の続編として,聞き書きされているわけですが,内弟子の小川さんの文章も一緒に読めることで,代々続いてきた宮大工棟梁の技と思想が,繋がって見えてきます。
 このシリーズには,少し遅れて出た「人」編もあります。これは,孫弟子たちの聞き書き本です。3冊一緒に読んでみてください。気軽に読める文庫本もたまにはいいものです。

追記:この『木のいのち木のこころ』(天・地・人)は,その後(2005年),合本されて新潮文庫から1冊本(582p)として発行されています。

●入江曜子著『日本が「神の国」だった時代』(岩波新書,2001,232ぺ,740円)
 副題に「国民学校の教科書を読む」とあるとおり,戦前・戦中の修身や音楽,読本,図工の国定教科書を紹介しながら,国家が小国民に何を要求しようとしていたのかを,とても読みやすくまとめてあります。
 同じ修身の教科書でも,尋常小学校の頃と国民学校の頃とでは,その中身がさらに神の国に近づいている様子がわかります。明治以来の教育の延長というよりも,国民学校と名前を変えただけのものがあったのだということがよく分かりました。
 そのころ小学生だった人たちが,いま,亡霊のように「日本は神の国」と発言しているのですから,刷り込みというのは恐ろしいものです。もちろん,自民党の本人たちは,刷り込まれたとは思わずに,自分で判断しているつもりでしょうがね。これが洗脳の恐ろしさですな。

7月号

●土田敏彦編集『<道徳>は教えられるのか?』(教育開発研究所,2003,242ぺ,2000円)
 <きょういくのエポケー>全3巻のうちの3巻目です。
 この本を金沢の本屋さんで見付けて,すぐに買ってしまいました。
 エポケーという意味について,カバーには以下のような説明があります。
「エポケー(epoche:ドイツ語)<判断中止> 一般に世界を見ている仕方をやめて,新しい視点から世界を見直すということ。世界はかくあるという素朴な思い込みをいったん捨て去る」
 ボクは,昔から,わりと,こういう原理原則から論を立てたり,常識を疑ったり,疑っている人をも疑ったりするような論理が結構好きです。こういう本を読むと,とてもノーミソが刺激されます。
 道徳教育推進校にいながら,こういう本を読むのもなんですが,やはり自分たちがやるべきことを盲目的にはならずにやるためには,こういう本も読んでおくべきだなと思います。
 この本を読んだからといって,自分の立つ位置がきっちりときまり,明日からの実践に生きてくるということにはなりませんでした。もう一度じっくり読んで,道徳教育そのものについての自分の意見を持ってみたいものです。
 ところで,この<エポケー>はなかなかおもしろそうなので,第1巻,第2巻も手に入れました。読んだら紹介します。

●石黒謙吾著『パピーウォーカー』(ぜんにち,2003,150ぺ,1400円)
 ベストセラーとなり,NHKでドラマ化された『盲導犬クイールの一生』の著者の作品です。石黒さんは,1961年,金沢市で生まれました。一昔前はパピーウォーカーなんて言葉を知っている人は,本当にごくわずかだったでしょう。しかし,最近は,犬ブームということもあり,結構知られているような気がします-これって,俺が知るようになったからそう思っているだけかな。実際10年前には年前には,こんな言葉を知らなかったし…。
 盲導犬になる犬は,育ての親を通して訓練所に連れて行かれ,そして盲導犬となり,最後は,その一生を終えます。その,訓練センターに行くまでの10ヶ月を過ごすのが,パピーウォーカーといわれる人たちの下でなのです。
 犬好きの人なら,こういう犬の本は,まあ,おもしろくないはずはない。

●杉山亮著『朝の連続小説-毎日5分間の読みがたり』(仮説社,2003,204ぺ,1900円)
 朝の読書に取り組む学校が増えています。通称「朝読」は,うちの学校でも取り組んでいます。で,それなりに,今まで本を読まなかった子が,少しずつだけど,活字に親しむようにもなっています。ただ,やっぱり。いつもバスケットの本だったり,野球の解説本だったりする子もいて,「ん~,もっとちがう本も読んで欲しいな」なんて,教師の欲も出たりするのです。
 さて,仮説社の『たのしい授業』誌上で,何度か話題に上っているのが,『朝の連続小説=読み聞かせ』です。これは,子どもたちに自由に読ませる読書とは違い,教師が選んできた本を,毎日数分間ずつ連続して読み聞かせをするというものです。NHKの「朝の連続ドラマ」をもじって,こう呼んでいます。
 中学年をもったころは,ボクもこれをやっていました。子どもたちはとっても真剣に聞いてくれて,一体感のようなものも感じます。この一体感は,一人ひとりが別々の本を読んでいるときは,生まれません。
 朝読も,よさはあると思いますが,まずは,朝の連続小説で本の楽しさをみんなで味わってみるのがいいと思います。
 この本には,お薦めの本もたくさん出ています。どれも本当に子どもたちにうけたものばかりです。是非,呼んでみて,2学期から,実践してみては如何ですか。
追記:2007年発行の続編『朝の連続小説・2』もリンクしておきました。

●反原発運動全国連絡会編『原発事故隠しの本質』(七つ森書館,2002,85ぺ,800円)
●原子力資料情報室編『検証:東電原発トラブル隠し』(岩波ブックレット,2002,70ぺ,480円)
 昨年の8月,マスコミに流れた東電のトラブル隠しは,長年にわたるものだったこと,内部告発から発覚したことなど,とてもショッキングなものでした。そして,東電の原発がすべて止まることになるなど,たいへん大きな影響を与えました。
 安全性より経済性を優先しなければいけない原発の状況があきらかとなり,いくつかのウソがばれました。そのウソとは,故障隠し以外に,
・原発は決して安い電力じゃないこと(経済を優先しないとやっていけないもの)
・日本の技術は世界一だから一番安全だということはないこと
・原発がないと電気が足らないということはないこと
などです。
 原発をめぐる情勢は,たいへん厳しいものがります。もう燃料電池の研究にシフトした方がいいのではないでしょうか。
 この2冊のブックレットは,事故隠しの影響と,それでもお金が欲しい現地の住民?の姿をあぶり出しています。
 『原発事故隠しの本質』の方には,各自治体や団体からの意見書や要望書も掲載されており,資料的な価値もあります。推進派がビックリした事件だったことがよく分かります。でも,たぶん,のど元過ぎれば…なんだろうなあと思うと寂しくもなるのですが…。

●西尾漠編『原発のゴミはどこにいくのか』(創史社,2001,125ぺ,1200円)
●西尾漠編『原発ゴミの危険なツケ』(創史社,2003,157ぺ,1400円)

 またまた原発に関する本です。
 この2冊は,副題に「最終処分場のゆくえ」とあるように,原発から出る<高レベル放射性廃棄物>の処分場をめぐる話題を,処分場に狙われている現地からレポートする感じで報告されています。『ツケ』の方は,『どこにいくのか』の続編となっています。
 現地とは
・青森県下北半島
・北海道幌延
・岐阜県東濃地区
・岡山県高梁川流域
などです。続編だけ読んでも,流れがわかるように書かれていますので,1冊読むだけなら,『ツケ』の方を読むといいでしょう。
 1冊目からたった2年で,続編が出るというのは,それほど,この地域が目を離せないほど状況の変化・攻撃があるということでしょう。 

6月号

●西尾漠著『なぜ脱原発なのか』(緑風出版,2003,173p,1700円)
 緑風出版の「プロブレムQ&A」シリーズ中の1冊です。25のQアンドAで,「放射能のゴミ問題から,非浪費型社会を作るためのポイント」まで,とっても分かりやすくまとめられています著者は,高木仁三郎さん亡き後の原子力資料情報室の共同代表です。
 今年の6月7日に,東京で5000人規模の「脱原発集会」を開きましたが,その時の責任者でもあります。
 原発に依存する世の中は,とても危なっかしくて,却って電気の確保さえも難しいことが分かった半年でしたね。

●聞き手・箕川恒男『みえない恐怖をこえて-村上達也東海村長の証言-』(那珂書房,2002,287ぺ,1900円)
 250ページ余りが,村上村長のインタビュー記事となっています。JCO事故後のインタビューですが,内容は,JCOの事故のことばかりではなく,村長になる前の話なども出て来ます。
 「原発の村」というのをメインにしていた東海村で起こった原子力開発史上最悪の被曝事故を経験した村の責任者として,思い発言が随所に出てきます。
 原発の賛成・反対以前の問題として,この本をまず読んでおくべきです。
 出版社の那珂書房は,「住民が賛否を超えて原子力を語り合うために」この「シリーズ 臨界事故のムラから」を刊行したそうです。本書はそのシリーズの第2巻目です。3巻まで出ているようなので,手に入れて読んでみようと思います。

●西山登志雄著『カバ園長のおもしろカバ日記』(ポプラ社,1985,198ぺ,880円)
●西山登志雄著『大きいやつと小さいやつ』(草土文化,1979,110ぺ,1000円)

 1月号にも紹介しました。カバ園長・西山登志雄さんの著書を2冊読みました。
 西山登志雄さんについては,5年生の道徳の副読本に「ぼくの仕事は便所掃除」という文章が出ていて,その授業を組むときに少し調べてみました。で,両方とも古本なのですが,こんな時にはホントにインターネットが便利ですねえ。
 2冊とも,動物園で見られるいろいろな動物のことが書かれています。母親の温かさが伝わってくるものが多いかな。夫婦間の話もあるけどね。
上の『カバ園長…』が小学生向き,『大きい…』は,ちょっと大人向きかなと思います。『大きい…』の方の副題には「西山登志雄と動物たちの育児相談論」とありますからね。動物を見ていると人間の世界を見直すきっかけにもなりそうです。動物好きな人にはお薦めの2冊です。

●たくきよしみつ著『マリアの父親』(集英社,1992,214p,1100円)
 著者のたくきよしみつさんは,なんとも楽しい経歴の持ち主です。作曲から著述まで扱う,幅の広い活動家?といえましょうか。この人の本に『ワードを捨ててエディタを使おう』というものもあります。同じ著作でも,小説からビジネス書まで書いているんですからビックリです。
 さて,この『マリアの父親』ですが,著者によると,これは「エントロピー小説」宣言-だそうです。
 読後には,なんとも不思議な感じがしました。登場人物が現実にいそうで,いなさそうな雰囲気があり,本物の人間のようで何かの妖精のようで…。「第4回小説すばる新人賞」を受賞した作品です。
 この著者のことは,珠洲教組の情報紙に載っていたのを読んで,購入してみたくなったのです。小説を読まないボクですが,これはなかなかおもしろいです。

5月号

 今月の本棚も,2月以来,2ヶ月間お休みしてしまいました。この間,道徳教育関係の本は,数冊読んでいますが,ここにはあえて紹介はしません。

●山中康裕著『ハリーと千尋世代の子どもたち』(朝日出版社,2002,251ぺ,1300円)
 帯に「ハリーと千尋に託された生きる力-子どもの心を読み解く前思春期論」とあるように,本書は,今子どもたちにも大人気の「ハリーポッター」と「千尋」という映画の主人公を通して,思春期に入る前の(というか,男,女と意識する前の)心の様子について,とっても分かりやすく書かれています。ぼくはこの本を,生協のチラシで見て購入しました。
 ここでいう前思春期と言う概念は,アメリカの精神科医で新フロイト学派のサリバンという人が提唱した発達段階の一つだそうです。サリバンは,チャムシップという言葉でこの前思春期を説明しています。
「サリバンは前思春期のころに,あるい思春期にもちょっとかかっているそのころに,同性,同世代の子どもたちとの関係(チャムシップ)を築くことが,その後,その子どもの精神生活にとって,何よりも大切であると論じた人です(18ぺ)」
 油屋で一心不乱に働く千尋の設定に対し,著者は,労働というものについて次のように述べています。
「労働というのは搾取されるものじゃなくて,そもそもは,自分が生きるためのものだったはずです。自分が生きるために,食べ物を作ったり,狩りに出かけたり,…(中略)…そうして一生懸命働いている人は,男性だって女性だって,美しい。一生懸命生きている人は美しいのですよ。仕事があるというのは,すばらしことです。それが魂の燃焼であり,生きることそのものの意味なのです。/ネガティブな側面だけを見て,労働を全部否定し,いっしょくたに捨ててしまったところに,問題があるわけです。そうしたら今度は「遊び」もだめになってしまいます。全部だめになります(146ペ)」
 本書は,今,子どもたちやわたしたちにとって,本当に大切な物は何かということを教えてくれます。千尋が名前を奪われる所などもなかなか含蓄のあるお話でした。

●西岡常一著『木に学べ-法隆寺・薬師寺の美』(小学館,1991,251ぺ,720円)
 本書は1988年に小学館から発行された同名書の文庫本化されたものです。前回のサークルで,この書が話題になったので,読んでみました。語り口調で書かれており,ちょっと不思議な感じがしましたが,最後の宮大工の棟梁と言われた西岡さんのお話には,人とのつきあい方なども教えられるような気がします。
「木にはくせがありますのや。こんな柱でも,みなくせがあります。この木は右による,これは左によるというふうに。その木のくせを見抜いて,右によるというのは寄らせないように,左に曲がるのはそうならないように,うまく抱き合わせて組みあげていかなあきませんのや。(90ぺ)」

●田村尚著『プレゼンテーションの技術』(TBSブリタニカ,1987,262ぺ,1300円)
 ブック・オフで100円で購入。スキー合宿へ行くバスの行き帰りの中で読みました。
 著者は,広告会社に勤めています。ほとんど不可能と思われていたポール・ニューマンへのCM出演依頼のときの話が本書の巻頭を飾っているお話なのですが,それが一番刺激的でおもしろかったです。

●梅原猛著『梅原猛の授業・仏教』(朝日新聞社,2002,258ぺ,1300円)
 先に『道徳』の紹介をしましたが,順番からいうと,本書の方が先に出版されています。中学校での授業も『仏教(その時は「宗教」という授業)』の方が先です。
 第1時から紹介します。
「道徳とは,人間はどう生きたらよいか,ということです。それが日本の教育では教えられていないんです。…中略…算数をしたり国語をしたり,そういうことも大事ですけれども,人間がどう生きたらよいか,なにをしたらよいか,なにをしてはいけないか,そういうことが学校教育で教えられていないんです。これは日本の教育の大きな欠陥です。」
「昔はちゃんと教えられていました。修身という科目がありまして,人間はどうやって生きたらよいかを教えられた。けれども,戦前の修身は他律的な道徳でした。他律というのは,人からしばられている道徳で,天皇陛下に忠義をつくして,親に孝行せよ。そいいう外からの道徳が,戦前の学校ではずっと教えられてきた。…中略…他律的な道徳がなくなったあとには,自律的な道徳が教えられなくちゃいけなかったんです。それがまったくない。人間どうやって生きたらよいか,なにをすればよいか,なにをしたらいけないかが教えられていないんです。」
「よく考えてみると,道徳というものと宗教というものには,どうも密接な関わりがある。道徳を教えるためには宗教を教えなくちゃならない。宗教を教えなかったら,道徳教育も十分ではないということになります。」(10~12ぺ)

 日本に古くからある仏教の中から,よりよく生きるための道徳を説こうとする本書は,ちがう面から見ると,「宗教教育の勧め」でもあります。日本の法律では宗教教育は禁止されています。だから,この授業も仏教系の私立高校附属中学で行われました。宗教教育というと戦前の「神道=天皇制」と結びつき,全面否定した日本人ですが,梅原さんは明治以来の天皇制神道と日本古来の神道とは,全くその性質がちがうといいます。
 教育現場が難しくなり,改革が叫ばれていますが,全面否定することなく,なにが大切か,なにが不必要なのかを見極める目を持って行きたいと思います。本書に,全面的に賛成できる気持ちは,ありませんが…。

●梅原猛・稲盛和夫著『新しい哲学を語る』(PHP研究所,2002,221ぺ,1300円)
 哲学者・梅原猛氏と京セラの名誉会長・稲盛和夫氏の対談集です。対談集で読みやすかったです。
 ぼくは先に梅原氏の『仏教』『道徳』を読んでいたので,この梅原さんの意見に対して,名社長と言われた稲盛氏がどのような意見をぶつけるのかに興味を持って読みました。稲盛氏も道徳の基礎には仏教があると思っていらっしゃるようです。
 稲盛氏は次のように述べています。
「おっしゃるように,私も道徳と日の丸・君が代を結びつけることには反対です。同時に,道徳教育全面否定論にも反対です。いまや日教組は組織を維持するだけでもたいへんですが,それも元をただせば,道徳教育を否定したからではないかと思うのです。生徒に道徳を教えない先生自身が道徳を失った。そのため,組合員としての自覚も失い,組織が機能しなくなってしまったのではないでしょうか。」(63ぺ)
 次の文章を読んだとき,学校現場や珠洲教組の活動も頭によぎりました。これも稲盛さんの言葉です。
「私の場合は,新しいことをはじめるときには,最初は「こうあったっほうがいい」と思う理想から始めます。そして次に,その理想を実現する方法はないかということを,具体的に詰めていくのです。法律上の制約などで,難しいことも多々あるかもしれないけれど,それも解釈によっては可能になることもある。そのように,あらゆる可能性を考えもしないで,「ダメです」の一点張りでは,新しいことなどできるはずがありません。」(194ぺ)
 
このほか,「労働は本来楽しいものだったはず」という話も好きです。

●手塚治虫著『ブッダ・全12巻』(潮ビジュアル文庫,1992,各500円)
 手塚治虫のマンガ文庫本です。数年前に生協のチラシに出ていて注文して手元にあったのですが,1巻を開いたくらいで,読んでいませんでした。この間,梅原猛さんの本に刺激されて,一度ブッダの生き方ってのを読んでみようかなとおもって,気合いを入れて読みました。ボクは,昔からマンガさえも読まない子だったので,12巻読むのはなかなかきつかったです。マンガってけっこう我慢して読むんだよなあ。なんでだろう?活字本はそんなことないのに…。
 「火の鳥」と並んで,すごいテーマの本だそうです。各巻の巻末の解説が,ユニークでおもしろかったです。誰が書いているか,書き出しておきましょう。
第1巻 呉智英(評論家)      第2巻 大沢在昌(作家)
第3巻 村上知彦(評論家)     第4巻 北杜夫(作家) 
第5巻 筑紫哲也(ジャーナリスト) 第6巻 大林宣彦(映画監督) 
第7巻 糸井重里(コピーライター) 第8巻 夏目房之介(漫画コラムニスト)
第9巻 坂崎幸之助(ミュージシャン) 
第10巻 岡野玲子(漫画家,手塚治虫の息子の妻)
第11巻 なだいなだ(作家)     第12巻 萩尾望都(漫画家)

●山口幸夫著『エントロピーと地球環境』(七つ森書館,2001,165ペ,1300円)
 「市民科学ブックス」の第2巻として出版されました(ちなみに「市民科学ブックス」の第1巻は高木さんの『人間の顔をした科学』です)。学生時代に習ったエントロピーを復習しながら,エントロピーを通して,環境問題について考えることができました。
 化学式では,同じH2Oでも,それが液体なのか気体なのかで,エントロピーはちがうわけです。なるほど,そこまで考えなかったと思った次第です。カルノーの研究なんてほとんど忘れてしまっていて,もう20年もたったんだなあと感慨深げ…。高校時代に物理を専修しなかった人にはちょっと難解な部分もあると思います。
 「おわりに」の次の文は示唆に富んでいます。
「私たちがどういう目で対象を見るか,どこまで全体を見るか,環境をどう見るかというkとについて,いろいろと取り上げました。ものを見る時に,どこかに焦点を当てて狭い範囲で見ると,それなりによくわかりますが,もう少し視野を広げた時に,最初に見たものは間違っているということが多々ありえます。」(162ぺ)

 その他,Hさんから教えてもらった諸富祥彦著『学校現場で使えるカウンセリング・テクニック上・下』(誠信書房,1999,上2000円・下2200円)も手に入れて読んでみました。3日間で2冊読んじゃいました。

2月号

 卒業まであと1月を切り,すべての授業が復習のような感じで,もう一つ盛り上がりのない雰囲気です。なんか中身のある授業をしたいなあと思っています。さて,今月は4冊の本を紹介します。

●アーネ・リンドクウイスト,ヤン・ウェステル共著『あなた自身の社会(スウェーデンの中学教科書)』(新評論,1997,212ぺ,2200円)
 昨年の10月のPTAの発表会での全体講演で,金沢の教育長が紹介していた本です。すぐに注文して読み始めていたのですが,しばらく他の本に興味が映って中途半端にしたままにしていました。今回,改めて最後まで目を通してみました。
 犯罪や麻薬に対する具体例をあげたり男女の役割分担について考えたり,同性愛者についてなど,豊富な事例をたくさん挙げて,それについて露頭論を促すような作りになっています。日本の教科書は「知らせたいけど知らせない」というなんかよく分からない作りですが,スウェーデンのものは,大人社会のマイナス面についてもシッカリと考えさせようとしています。何しろ読み物としてもおもしろいのですから。
 石原教育長は,155ページの「子ども」という詩を紹介していました。ここでも最初の数連だけど紹介しておきましょう。

     子ども      ドロシー・ロー・ホルト

批判ばかりされた 子どもは
非難することを おぼえる

殴られて大きくなった 子どもは
力にたよることを おぼえる

笑いものにされた 子どもは
ものを言わずにいることを おぼえる

皮肉にさらされた 子どもは
鈍い良心の もちぬしとなる

しかし,激励をうけた 子どもは
自信を おぼえる

寛容にであった 子どもは
忍耐を おぼえる          … 続く …

 この詩については,こんな課題が載っています。
「あなたは,詩「子ども」のどこに共感しますか。激励や賞賛が良くないのはどんなときですか。この詩は,大人にたいして無理な要求をしていませんか。両親が要求にたいして応えきれないのはどんなときか,例をあげましょう」
どうですか? 日本ならさしずめ,この詩を読み取ることしかしないのではないでしょうかねえ。

●梅原猛著『梅原猛の授業 道徳』(朝日新聞社,2003,252ぺ,1300円)
 「道徳」と聞くと一度はその本を手に取り開いてみたくなる分野となっている最近のボクです。
 この本は梅原猛さんが中学生向きに書かれた(講義された)本であることがボクの興味を引きました。梅原猛と言えば,戦後日本を代表する哲学者の一人です。そういう人が中学生にどのような視点で道徳を語っているのか,とても興味深いです。12時間分の講義の内容が掲載されています。
 第1時限 いま,日本の道徳はどうなっているか
 第2時限 明治以後の道徳教育はどうなったか
 第3時限 道徳の根元をどこに求めるか
 第4時限 自利他利の行と仏教・キリスト教
 第5時限 自利他利の道徳と社会 家族・社会・国家
 第6時限 第1の戒律 人を殺してはいけない
 第7時限 第2の戒律 嘘をついてはいけない
 第8時限 討論『よだかの星』と『坊ちゃん』
 第9時限 第3の戒律 盗みをしてはいけない
 第10時限 人生をよりよく生きるために 1 努力と創造
 第11時限 人生をよりよく生きるために 2 愛と信
 第12時限 人生をよりよく生きるために 3 感謝と哀れみ
 靖国神社が日本古来の神道からはずれているとか,教育勅語は伝統思想が継承されていないとか出て来て,一部の復活論をばっさり切りすてます。道徳の基礎基本を考えたとき,一度は目を通しておいて良い本だと思います。この本の前に同じく梅原猛さんの『梅原猛の授業 仏教』というのが出版されていて,これもベストセラーになっているようです。こちらの方も後で購入したので,読んだら紹介します。

●J.ウィルソン監修『世界の道徳教育』(玉川大学出版部,2002,211ぺ,3800円)
 高い本ですが,アンテナに引っかかった以上,買わざるを得ませんでした。あははは…。『世界の…』と書かれていますが,出てくるのはフランス・ソ連からロシア・中国・オーストラリア・ソクラテス,そしてアメリカくらいです。腰巻きに「ユネスコが世界の英知を集めて各国の道徳教育の基礎と背景についてまとめた≪道徳教育特集号≫に編者の関連論文を追補」と書かれています。ま,そういう本でした。
 翻訳の文章がとても読みにくいものがあって,一部,ちょっとくじけそうになりました。関係代名詞をそのまま訳しているような“あれ”です。もっと意訳して日本語らしくして欲しいなあって思いました。「わが国の道徳教育を考えるための基本的文献」なんて書いているのだから,せめてすべての小学校の教師がスムーズに読める本にして欲しいものです。
 フランスの道徳教育なんて,もう,ないに等しい感じで,みんな知識偏重に突き進んでいるとかは,それなりにおもしろかったです。
 第2章の「道徳的思考のための基盤形成」という論文はお薦めです。これはある国のことというよりも,「どんな国や社会にも通用する道徳ってあるのか」という問題意識で書かれています。ある一定のイデオロギーの下での道徳教育は正しいとはいえないだろう,それならば,万人が納得できることってなんだろう。梅原さんの本にも通じるような気がします。道徳は「人の生きる道」を扱うだけあって,なかなか難しいです。

●松本人志著『プレイ坊主』(集英社,2002,295ぺ,1100円)
 新聞の本の紹介欄に出ていたので,さっそく購入。ばからしい本だろうなあと思っていたら,ま,そうでした。「週刊プレイボーイ」誌上の人生相談を集めたものです。こんな感じの本は,20年ぶりくらいに読んだかなあ。若者って何にでも悩むんだなあと改めて思った次第です。

1月号

 あけましておめでとうございます。昨年は,道徳関係の本を読みあさった年でした。実践記録のようなものが多いのですが,それでも少しは理論書も読みました。自分の中では,これらの道徳関係の本が一番心に残っています。
 正月は,どうも体調がよろしくなくて,ぼ~と過ごしておりました。3学期も,何かと現場が忙しくて充分読書の時間があるかどうかは分かりませんが,少しでも活字を読んでいたいと思います。

●紀田順一郎著『デジタル書斎活用術』(東京堂出版,2002,254ぺ,2200円)
 ボクの今の生活からパソコンが無くなったら,とても仕事もできなくて,不便になってしまいます。広辞苑も百科事典も理化学事典もすべてパソコンの中です。住所録も文書も手紙のやりとりもパソコンです。ちょっと下調べものをするときも,本を開くよりインターネットにつなぐ方が多いです。新聞の切り抜きもやっていますが,必要な記事はキーワードでクリッピングしてきます。天声人語は,黙っていてもパソコンに入ってきます。珠洲に関する記事も,入ってきます。
 こんなボクが,唯一まだパソコンでやっていないのが「スケジュール管理」でした。スケジュール管理については,メモをすることも含めて,8年ほど前,ザウルスを購入したことがあります。まだ白黒の画面でしたが5万円はしたと思います。はじめは嬉しそうに使っていたのですが,どうも使い勝手がよくありません。電話帳はそれなりに便利でしたが,これはそのうち流行ってきた携帯電話の出現で,あまり用はなくなりました。スケジュールもわざわざ電源を入れるのも面倒だし,電池が無くなるもの困りものです。
 そのうち,『超整理法』というベストセラーが出て来て,影響されます。書類の整理の仕方だけでなく,自分の情報管理も再考することとなり,結局,手帳は電子より紙の方が便利という結論を持って「超整理手帳」を手に入れて数年間使うことになりました。
 今回,新年をむかえる前に「もう一度電子手帳に変えようか?」という迷いが出て来ました。そう思ったのは,以前より数段便利になった電子手帳のよさが,いろいろな雑誌で紹介されていたからです。確かに紙も便利なのですが,電子の方も「一台何役」もできる便利さがあります。また,以前と違って「パソコンとの連携」がとても良いことも魅力です。仕事がたくさんあって,ついつい忘れてしまいがちなボクとしては,仕事内容を次々と教えてくれるアウトルックは魅力的です。そんなアウトルックと連動できる手帳を持つことで,スケジュール管理がスムーズにできそうです。
 本書は,新聞の日曜の読書欄で知りました。ちょうど,「新整理手帳」か「電子手帳・クリエ」か迷っていたところだったので,購入して読んでみました。「手帳」に関しては「読者の好きにしなさい」と言う結論でした。と言うわけで,12月に新型クリエを手に入れて,使っています。
 本書には,書斎の椅子や電気の選び方や,情報の探し方まで出ていて,今まで読んだ(この系統の)本よりちょっと高級感があります。それだけにまねができない部分があるのですが,この本のような書斎がもてれば,すごいなあと思います。ボクの部屋も「デジタル書斎」になりかけているなあと感じた次第です。

●筑紫哲也著『ニュースキャスター』(文春新書,2002,221ぺ,660円)
 娘達の買い物を待つ時間の暇つぶしに購入しました。一気に読んでしまいました。本の存在は知っていたし,いつかは読んでみようと思っていたのですが,なんせ気合いのある本がまだまだ「積ん読」なので,なるべく新しい本の購入は控えていたわけで…。
 筑紫さんの朝日からTBSへの引き抜きの話や「ニュース23」の舞台裏の話。井上陽水に番組用の曲を頼んだことや阪神淡路大震災の時のキャスターとしての立場の話など,実に楽しく興味深く読めました。井上陽水のベストアルバムも買ってきて聴いたりもしました。すぐに影響されるもんで…。
 筑紫さんのファンやニュース23が好きな人は,必ず読んでください。おもしろいです。これホントです。

●世界単位認定協会編『新しい単位』(扶桑社,2002,133ぺ,1000円)
 新しい単位を作ってあそびましょうという本です。「単位」にはアンテナを張ってあるので,これは楽しく読めました。
 単位を作ったのは「ゴージャスさ」「気前よさ」「やさしさ」「女々しさ」「はかなさ」「日本人っぽさ」など,30あまり。単位の決め方のばかばかしさと,実際の場面で当て嵌めたあほらしさとぴったりさで,職場でも笑いながら見ていました。
 何ともいえない真剣な「さし絵」もインパクトがあります。本書はBSフジで放送中の「宝島の地図」シリーズの一部を単行本化したものだそうです。

追記:上記商品リンクは,2006年発行の新版です。

●いつもここから著『悲しいとき』(扶桑社,2001,215ぺ,1000円)
●鉄拳著『こんな○○は××だ』(扶桑社,2002,331ぺ,1200円)

 この2冊は『新しい単位』と同じ出版社のもので,新聞の広告で並んで出ていたので,ついでに頼んだものです。
 どちらの本も,テレビや書評などでさわがれていると「帯」に書いてありましたが,残念ながらボクは全く知りませんでした。パロディーあり,ブラックユーモアありで,それなりにおもしろかったのですが,ボクにすれば学生時代に見た山藤章二の「ブラックアングル」の絵の方が相当おもしろいです。
 でも,うちの子どもたちは,『こんな…』を読んでバカ受けしていました。内容を覚えて,何度も言って喜んでいました。時代の差かなあ…。
 『悲しいとき』の方には,短い英語が出て来て,そっちの方を読んだりすると受験勉強にも役立ちそうです。受験に疲れた頭にいかがですか。
 ただ,ボクの感覚には合わない本なので,古本屋(ブックオフ)にでも売ろうかと思ったのですが,小5の娘が「私の部屋に置く」というので,あげました。若い世代にはおもしろいのかなあと,感覚のずれに情けない思いをしている父親です。

●時実新子著『悪女の玉手箱』(実業之日本社,2002,268ぺ,1500円)
 新子は「川柳作家」です。月刊『川柳大学』を主宰しています。
 ボクは数年前から川柳関係の本も集めているのですが(読んでいるのですがとは書かないのがミソ),川柳関係の古本を探している中で出会ったのが時実新子です。新聞の書評欄に新刊の紹介が出ていたので,読んでみました。
 1929年生まれの新子はもう70を超えています。その女性が,自分の私生活を赤裸々に語ったエッセイ集がこの本です。ちりばめられた川柳を味わうには,僕はまだ若すぎるなあ。

●小林弦彦著『旧暦はくらしの羅針盤』(NHK出版,2002,215ぺ,680円)
「旧暦をバカにしてはいけない」どころか「旧暦を積極的に利用しよう」というのがこの本の趣旨です。
 旧暦というのは,太陰暦(正確には太陽太陰暦)のことです。明治のはじめまで使われていました。今でも暦には「旧暦」が出ているのもありますよね。
 いわゆる24節気やそれ以外の八十八夜,二百十日,彼岸など,今もなおわれわれの生活の中で使われている言葉も数多くあります。しかし,その割りには,言葉の意味や内容についてあまりくわしいことを知りませんよね。
 本書は,「旧暦言葉の解説」という意味でも「旧暦を利用するには」という意味でも役に立つ内容となっています。暦のなかの旧暦表示について少し知りたい方は,ちょうど良い本ですよ。
 この本も,買い物を待つ時間のために購入した本です。一時間以上またされそうな時には,新書版が便利ですね。

●西山登志雄著『動物賛歌』(新日本出版社,1978,142p,1500円)
 著者の西山登志雄さんは,以前にも紹介しましたが,「カバ園長」というあだ名で有名になった動物園の元飼育係です。本書はそんな西山さんが,赤旗の日曜版に連載していたコラムを集めたもので,いろいろな動物の日常生活の断面が動物園の飼育係・園長らしく書かれています。動物のことなので,とてもほのぼのとしていて,暖かい気持ちになります。
 うちの学校では,今年から本格的に「朝の読書」に取り組んでいます。ボクは,教室に行ってこの本を読んでいました。

追記:ついでに,1981年発行の文庫本商品リンクも付けておきました。

 この「今月の本棚」は,「本を読んだあとで感想を書いておくのはとても大切なことだなあ」と思って始めたことです。ついでに,これを読んでいるみなさんの読書のきっかけにでもなればとも思います。ボクも,新聞の書評を見て本を注文することが結構あります。特に,最近はネットからすぐに注文する方が,本屋で立ち読みして購入するよりも多いかも知れません。まさに「デジタル書斎」となってきています。

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