地震の被害と地質(雲津・小泊編)

さいはての街・珠洲

本レポートは,2024年1月1日午後4時10分頃に発生した令和6年能登半島地震による市内の家屋の倒壊状況を見て,疑問に思い,調べたことである。
あくまで一つの仮説として読んでほしい。
ここで取り上げた小泊地区と雲津地区は,以前,わたしが勤めことのある旧小泊小学校校区である。
なお,わたしの自宅周辺(宝立町鵜島地区)における「能登半島地震の被害と地質」についてのレポートは,別にまとめてあるので,併せてご検討くだされば幸いである。

隣り合った地域なのに被害には大きな違いが

旧小泊小学校校区には,南から「雲津」「小泊」「伏見」「高波」という地域があり,この4地区から子どもたちが通っていた。わたしが勤務していた1993年度~1996年度も,この4地区から,元気な子どもたちが通ってきていた。当時のわたしは,33歳~36歳のときで,教師として脂ののった時期だった(と勝手に思っている)。
旧小泊小学校は,2024年現在,金沢大学能登学舎(1階には,NPOおらっちゃの事務局,珠洲市自然共生室,SDGsラボなどが入り,2階,3階は,金沢大学の研究施設)として活動している。

雲津地区と小泊地区

地図のように,雲津(もづ)地区と小泊(こどまり)地区は隣り合っており,いずれも能登半島の海岸線を走る道路の両側に家屋が建ち並んでいる場所である(もちろん,両地区とも奥の方にも地域は広がっているが,ここでは比較しやすいように海岸線のみに注目した)。
海沿いを車で走っていくと,蛸島町の東端にある「鉢ヶ崎ビーチホテル」(地図の左端)から小泊まで家屋がずっと続いている。

粟津と小泊地区(海岸線のみに注目)
三崎町雲津・小泊

しかし,令和6年能登半島地震での家屋や道路の被害は,この両地区で全く違っている。
能登学舎(黄色の★印)が建っている小泊地区(緑色)の家屋の被害はほとんどなかったのに比べて,雲津地区(黄色)の家屋は壊滅状態で,軒並み家屋が崩れていた。5月末まで,能登校舎は避難所になっていたのだが,ここに避難していた人は,ほとんどが雲津地区のひとだったらしい。
この被害の大きさの違いに,わたしはとても驚いた。
同じ海岸近くに家屋が並んでいるのに,この被害の大きさの違いはどこからくるのか。
これは地質に違いない。

地質を比較する(地質図navi)

雲津,小泊地区の地質図

雲津地区の地質

堆積岩
形成時代:
新生代
第四紀 完新世(約1万年前~現在)
岩石:海岸・砂丘堆積物

小泊地区の地質

火成岩
形成時代: 
新生代
古第三紀 漸新世 チャッティアン期〜新第三紀 中新世 アキタニアン期(約2810万年前~約2044万年前)
岩石:デイサイト・流紋岩 溶岩・火砕岩

両地区の地質を比べてみると,
雲津地区は,約1万年前(地質年代的にはほんのこの前)に堆積した砂丘堆積物でできているが,
小泊地区の海岸線は,約2000万年以上前にできた火成岩(マグマが凝固した岩石)でできている。
これじゃあ,震源から距離が同じでも,家屋が建っている表層の揺れは大きく変わるはずだ。
蛇足になるが,地質図の茶色の部分は埋蔵量が東洋一の「珪藻土」である。

液状化しやすさマップ(国土交通省北陸地方整備局)

念のため「ゆれやすさマップ」も調べてみた。ネットを検索すると,最近は「液状化しやすさマップ」と呼ばれているようだ。
これを見ると,危険度を示す度合い(色)は,雲津地区も小泊地区もピンク色で「危険度3」である。しかも,珠洲市内でも特に被害がひどかった蛸島町(雲津地区のさらに西側)は黄色になっていてなんと「危険度2」。
おいおい,これでいいのかな。

ゆれやすさマップ

このマップには,「利用上の注意事項」として,以下のような解説がついている。それを加味しながら,このマップも参考にしてほしい。

1 このマップは,地盤の液状化という点にのみ注目し、「液状化しやすさの傾向」を示したものであり、地 震被害想定マップではありません。 なお、液状化しにくい地盤でも地震による揺れが大きくなる場合があるので留意ください。
2 液状化しやすいとされる地形条件と既存の地盤(ボーリング)データを参照しており、多くの推定を含んでいます。 したがって、大まかな傾向を示したものととらえてください。
3 液状化対策が実施された建物など、地盤が液状化しても被害が現れない場合があります。 本マップは液状化による被害の有無にかかわらずあくまでも地盤の性質として、液状化しやすい傾向を示したものです。

なんとなくのまとめ

わたしは現職の頃,小学6年生理科の授業で「2007年能登半島地震」を取り上げたことがある。
その授業の目標(めあて)は,「地震の被害(揺れの大きさ)は,震源からの距離だけではなく,その土地の地盤の強さにも影響されること」を,小学生レベルで知ることである。「地盤の強さ」は「地層を作る岩石のでき方」の学習とつながる。地層をつくる岩石として「堆積岩」「火成岩」を既習済みなので,それを利用して解こうと言うわけだ。
そして,このレポートも,その応用問題と言えるだろう。
「液状化しやすさマップ」によると,なぜか雲津地区も小泊地区もあまり変化はなさそうだが,このように地質を調べれば,地下の様子が大きく違うことが分かる。
自分の家が建っている地面がどのような場所なのか。これを知っていることは,減災の意味から言っても,とても大切な基礎知識と言えるのではないか。
とくに,今回の地震ではたいへん広い範囲で液状化が起き,北陸の人間じゃなくても「自宅が建っている地面の下は大丈夫なのか」と関心が出ている。こんな時こそ,しっかり授業で扱いたいものだ。

コメント

  1. すばらしい考察です。
    わたしの住んでいるところは海岸砂丘地帯です。上記の地質図Naviで表示させてみました。 新生代 第四紀 完新世と表示されました。1km先の泊港付近では新生代 第四紀 更新世 ジェラシアン期となり溶岩大地です。
    2016年の地震では震源地から20km離れていました。幸いほとんど被害はありませんでした。同じぐらい離れていたのに大きな被害があった町もありました。同じ海岸砂丘地帯だったのに不思議です。周りの地形も影響しているのでしょう。
    いろいろ考えさせられました。

タイトルとURLをコピーしました