このページでは,能登半島で起きた地震…特に令和6年能登半島地震を中心に…に関してまとめられた著作物について紹介します。地方新聞社がまとめた写真記録集もあれば,地震体験をまとめた自費出版など,さまざまです。
掲載順は,発行日順(新しいのが上)となっています。
令和6年能登半島地震(2024年1月1日発生)関連図書
単行本
『特別報道写真集 令和6年奥能登豪雨』
北國新聞社刊。2024年10月21日発行。A4版,48pの写真集。
2024年9月21日~22日にかけて,奥能登を襲った豪雨は,9ヶ月前の地震で大きく傷ついていた地面をさらにえぐり取り,倒れかけていた住宅には泥が侵入し,地震でかろうじて無事だった家庭の生活をも破壊した。踏んだり蹴ったり殴ったり…自然からの猛威は〈贅沢はせず,静かに自然の恵みを頂きながら暮らしていた能登に住むわたしたち〉を容赦なくいじめたのだった。
豪雨災害の現状を前にして,みな,同じようなことを口にしていた…わたしたち,何か悪いことしたの? どうして…と。
今回の豪雨災害は,起きるべきして起きた2次災害でもある。
それが悲しい。
本書は能登半島地震の特集ではないが,地震による被害を放置したままだったからこそ大きくなった豪雨災害とも言えるので,ここで紹介することにした。
『令和6年能登半島地震体験記』(Kindleのみ)
石川県七尾市在住の漫画家・まえだ永吉さんが書いたコミックエッセイ。2024年9月1日発行。143p。Kindleのみの提供のようだ。
著者の自宅は,2007年の能登半島地震でも大きな被害を受けていて,今回の地震の時には,1度目の揺れで外に逃げたという。
七尾市は,奥能登2市2町と比べて,被害も少なく,金沢にも近かったので,そんなに不便ではなかったと思っていたけれども,程度の差こそあれ,やはり,大変な日々を過ごしていたことが分かる。
地震後,前田家の家族は在宅避難をしながら,どうにか工夫をして暮らしていた。これは,わたしも同じ。在宅避難者の声は,なかなか聞こえずらいのも確かだ。
在宅避難者の声はなかなかメディアなどに上がってこないため,実際に触れる機会を得ることが難しいのです。本作品はまさに,多くの方にとって最も身近になるはずの,しかし外には出てこない,在宅避難者の叫びを知ることができる,大変貴重な資料なのです。(高荷智也著「解説」143ペ)
『ずっといっしょだよ』
本書の編集者は,大間圭介さん。大間さんは,元旦の能登半島地震で妻と子ども3人をいっぺんに失った。それどころか,当日,珠洲市仁江町妻の実家に集まっていた親族9名を失った。
大間さんは,親族から「亡くなった9人への思いを,親しくお付き合いしていた方々にしたためていただいてはどうか」と提案があったことを受け,何人かの方に執筆をお願いしてまとめたものである。執筆者,親友や恩師,近所の人や保育所の先生などさまざまで,文章を寄せられたどの方も「あなたとの出会いを宝物にして生きていきます。いつまでも傍にいると思っています」と書かれている。
読み進めるうちに,なぜか,自分の親友や恩師などの顔が浮かんできて仕方なかった。
なお,本書の巻末40pくらいは,写真集となっている。父親に宛てて書いた子どもたちの手紙が悲しさを増す。
なお本書の題字は長女の優香さんが書いた手紙の文字を組み合わせたもので,装丁画も優香さんが描いた絵である。
北國新聞社刊。2024年7月1日発行。A4版,186ぺ。
珠洲市民図書館の郷土コーナーに置かれている。
追伸:大間圭介さんは,2024年10月27日の金沢マラソンで初マラソンに挑戦し見事完走したという記事が,翌日の新聞に載っていた。胸には家族の写真が…。
鹿野桃香著『地震日記…能登半島地震発災から五日間の記録』
著者の鹿野桃香さんは,奥能登国際芸術祭の世話をしてくださっているIターンの女性。12月31日夜から1月5日にかけての日記。
本文に出てくるパートナーや友だちの名前などは…一部,自分との関係が紹介されているものの…まるであだ名であり,ほんとにそのまま個人的な日記を読ませてもらっている感じがする。もちろん,こうして出版するにあたり,少しは「初めての読者」も意識して書き加えたりしているとは思うけれども,それでもなお,私的な日記感があり,臨場感もあって面白い。
元日,珠洲市にいたいろんな人が,いろんなその日暮らしをしていたはずだ。
どんな人もこうして自分の体験を残しておくことは大切だと思う。
2024年5月発行。A5版,35p。
能登半島地震が起きた夜から,なるべくリアルタイムでその日に起きていたことを残そうと,iPhoneのメモに記録をしていました。(「あとがき」34ぺ)
宅美克基著『令和6年1月1日発生 能登半島地震による隆起状況写真』
著者による自費出版。2024年4月発行。A4版,60pの冊子。「おわりに」から引用する。
私は,県職員時代に港湾・漁港・海岸など海に係る(ママ)仕事を多くさせていただきましたので…(中略)…ネットでは…(中略)…隆起前と対比した画像があまりないように感じましたので,隆起の状況を少しでも皆様に知っていただくことと記録として残しておくために,これまで自分で撮影した写真を抜粋して隆起前と隆起後の状況を整理しました。(本書60ぺ)
隆起後の状況ならいざ知らず,隆起前の写真をしっかり撮影している人はそんなにいないでしょう。そんな意味では,大変貴重な写真集となっています。
『検証 能登半島地震 首都直下・南海トラフ 巨大地震が今起こったら』
日経が総力を挙げてまとめた単行本。2024年4月4日発行。
地元新聞社(北國新聞,北陸中日新聞)が,早々に「記録写真集」を発行した出版物とは違い,各専門的な立場から,より深い記事がまとめられている。第1章~第5章までが能登半島地震について。
第6章は「次の巨大地震に備える」と題しての特集。第7章が「東日本大震災10年にみる課題」という特集。
特に,第7章の特集は,東日本大震災後の復旧・復興のあり方と,その課題が示されていて,これから復興に向けて動き出す能登半島の住民にとって,大変興味深い記事となっている。
日経BPの技術系デジタルメディア「日経クロステック」、建築専門誌「日経アーキテクチュア」、土木専門誌「日経コンストラクション」の専門記者約30人が,能登半島地震を徹底取材し,報じてきた記事を1冊にまとめ,緊急出版するものです。…中略…専門家や施設関係者への取材から見えてきた建築・土木の被災メカニズム,工場・通信インフラの復旧を阻んだ障壁など,建築・土木、自動車・電機、IT(情報技術)といった様々な視点から解説しています。
『特別報道写真集 2024.1.1 能登半島地震』
警察や消防、自治体職員の活動などを撮影した写真を、「倒壊」「火災」「津波」「爪痕」「孤立」「救援」「避難」「支援」の項目に分けて編集。
現地記者のコラムや、ゆかりの著名人のメッセージなど、新聞紙上の一部も再録。
下の北國新聞社の特集本と比較して,ページ数も少ないし,写真が中心となっている。
中日新聞社編集。2024年2月20日発行。A4版,64p。
『特別報道写真集 令和6年能登半島地震』
多くの報道写真に加え,各専門家による解説(右写真)も掲載している。
「断層はどう動いたのか」「地盤隆起のメカニズム」「倒壊家屋を分析する」「津波が高くなった要因」「液状化被害、なぜ甚大に」「断たれたライフライン」
今回の地震のメカニズムや被害の大きさについて少し詳しく知りたい人は,上に紹介した中日新聞社刊のものよりもお薦めだ。
北國新聞社刊。2024年2月15日発行。A4版,128p。
季刊・月間・週刊誌
『地産地消文化情報誌 能登・2024春 №55』
地元の季刊誌『能登』は,これまでもいろいろな視点で能登の今を特集をしてきた。
下の新聞記事が伝えるように,今回の地震を受け休刊も覚悟していたらしいが,結果的にはとても内容のある,そして迫力のある一冊に仕上がった。
インタビューとして,平松良浩教授(地震学),青木賢人教授(自然地理学,いずれも金沢大学),鈴木康弘教授(変動地形科学,名古屋大学),「志賀原発を廃炉に!訴訟」北野進原告団長のものがあり,どれも専門的な話ながらわかりやすくまとめてくれている。
また,地元被災者の震災体験談が4件(輪島市2,珠洲市1,七尾市1)あるし,さらには特別リポートとして,NHK連続テレビ小説「まれ」チームのボランティア訪問記も,外部から訪れた人が見た被災地の状況を伝えるリポートとして,たいへん読み応えがある。
講演記録「創造的復興とは何か」(雄谷良成)も,今後の復興に向けて大変示唆に富む記事だ。
なお本書は,いつもの3倍売れ,初めての増刷をしたそうだ。
2024年5月20日刊。
こうした事業(引用者註:屋台村を作るなどの新しい取り組み)は現状バイアスから脱することで可能になる。いままでとは違ったやり方を強いられる状況だからこそ,能登半島で何らかの可能性を見つけ出すチャンスなので。安定したときには受け入れられなくても,ガラガラポンになっているときは外から人は入りやすいので,日頃は利用されにくい人材活用の機会となる。(本書,101ぺ)
能登半島を舞台にさまざまな人や店を紹介する年4回発行の季刊情報誌「能登」。石川県輪島市門前町に編集室を置くが,元日の能登半島地震で被災した。1,2年の休刊を覚悟したが、周囲に「こんなときだからこそ」と求められ、55号となる春の発刊にこぎつけた。思わぬ反響があった。(朝日新聞・2024/7/10の記事より)
月刊『創』
落合誓子氏の「能登半島の被災地・珠洲市瓦礫の中の秋祭り」(2p)を収録。
短い記事だが,珠洲原発反対運動の拠点だった蛸島住民の反骨精神についての祭りに絡めての分析が面白い。
能登半島地震とは関係ないけれども,「虎に翼」について語る弁護士たちの話をまとめた女性弁護士座談会「朝ドラ『虎に翼』と法曹界のジェンダー問題」は,朝ドラをずっと見ていただけに,たいへん興味深く読んだ。
巻頭にはグラビア「能登半島地震被災現場に広がっていた驚きの光景」。
編集長・篠田博之氏の「能登半島地震で建物全壊、されど書店の熱い思いは続く」では,珠洲市の「いろは書店」と輪島市の「大下書店」が取り上げられている。いろは書店さんへのインタビューも載っているのだが,その中で西尾維新原作・岩崎優次作画『暗号学園のいろは』という漫画があることを初めて知った。3月に出版された第6巻の巻末には地震前の「いろは書店」のイラストが掲載されているそうです。
また,落合誓子氏の「能登の状況は明日のあなたの街かもしれない」も地元の現状を伝える声として興味深い。中でも「あっても困るなくなっても寂しい瓦礫の山」「出るのも苦住むのも苦」なんかは,奥能登住民のだれもが一致する気持ちに違いない。
地元ルポライターの落合誓子氏の「能登半島地震の体験と珠洲原発の恐怖」が収録されている。
令和6年能登半島地震をきっかけに,以前,珠洲市民を2分していた珠洲原発建設計画についてスポットが当たり始めた。今回の地震では特に外浦の海岸線が大きく隆起したのだが,そこには珠洲原発建設予定地も含まれていた。
本ルポは,珠洲原発反対運動にも深く係わっていた落合氏が,改めて珠洲原発計画阻止の意義を噛みしめている文章である。
わたしは,今回の能登半島地震で,地震大国日本と原発は両立できないことがはっきりしたと思うのだが…なかなか世論はそうならないようだ。
週刊「エコノミスト」(毎日新聞出版)
能登半島地震の特集記事があるわけではありません。
「エコノミスト」誌上では,以前から「鎌田浩毅の役に立つ地学」という連載が続いているようです。
能登半島地震関連の記事は,その連載の№171~№173に取り上げられています。
№171「能登半島地震 日本海側の対策も急務に」
№172「能登半島地震の想定外 「孤立」長期化で備蓄も見直し」
№173「日本の活断層② 日本海東線ひずみ集中帯 プレート衝突で能登半島地震も」
です。いずれも1~2ページ程度の短い記事ですが,専門家からから見たコンパクトな意見として読みやすかったです。
また,4/30・5/7合併号に掲載の№181では,台湾地震が取り上げられています。さらに,同じ号には,輪島の朝市を扱った絵本『あさいち』復刊のお知らせもありました。
令和5年奥能登地震(2023年5月5日発生)関連図書
北國新聞社『特別報道写真集 珠洲地震』
珠洲市の外浦沖を震源として起きた震度6強の大地震の写真記録集。
珠洲市は2020年12月ごろから,地震活動が活発化し,震度1以上の「群発地震」が起きていた。
本書には,地震当日の同新聞の号外や地震被害やボランティアの写真,そして珠洲市で続いていた群発地震のメカニズム(仮説)の解説などが収録されている。
本紙は今回の地震を「珠洲地震」と称しているが,石川県では「令和5年奥能登地震」と呼んでいるらしい。しらんけど。
この地震で終わりだと思っていたのだが…半年後にまた…。
2023年5月25日発行。A4版,64p。
追伸:気象庁は,2020年12月以降奥能登を中心に起きていたこれら一連の群発地震と,2024年1月1日に起きた地震を含めて「令和6年能登半島地震」と呼んでいる。
平成19年能登半島地震(2007年3月25日)関連図書
『特別報道写真集 能登半島地震(2007.3.25)』
能登半島北部での地震について,「地震動予測地図」によれば「今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率」は0.1%未満と見積もられていたそうだ。5ランクの最下位に位置づけられていた。だからこそ,「想定外」となったとも言える。
この日,わたしは,娘の大学入学準備のため,東京のホームセンターにいたのだった。自宅に両親を残していたため心配していたのだが,近所の友だちが無事を知らせてくれた。
珠洲市内の被害は,それほどでもなかったが,正院町をはじめとして液状化現象も見受けられた場所もあった。
本書は,その殆どが災害やボランティア活動の写真集。巻末には,河野芳輝金沢大学名誉教授(地球物理学)の「2007能登半島地震 未知の断層が動き大災害に 政府の地震危険度情報に大きな疑問」という談話文が掲載されている。
北國新聞社刊。2007年4月12日発行。A4版,80p。
追伸:2024年の今,改めてこの河野教授の談話文を読むと,この警鐘が生きていたのかどうか…と思わざるを得ない。
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