「うさぎとかめ」の授業

たのしい道徳

加藤諦三さんの「『うさぎとかめ』について」を読んで

 道徳の時間に,以前『たのしい授業』(1996年7月号 [ No.170 ]18ぺ,仮説社)に紹介されていた「うさぎとかめ」の授業をしてみました。対象は小学校6年生(卒業間際)です。

授業の進め方は,上記の本および,リンクした指導案をご覧下さい。
なお,会員の方は,こちらに「配布用授業プラン」を掲載しておきました。こちらには加藤諦三さんの文章も載っています。パスワードは「能登大会のキャッチフレーズ」です。

 本授業プランで扱っている加藤諦三さんの文章は『もっと素直に生きてみないか』(知的生きかた文庫,三笠書房)に掲載されています。本書の「1章 自分にとってのプラスの人間関係・マイナスの人間関係」>「1 人間関係の原則―プラスがプラス,マイナスがマイナスを呼ぶ」>「こういう人には要注意―人を見る目に曇りはないか」という文章の最初の2ページに書かれています。ここでは,授業で取り上げなかった部分の文章を一部紹介しておきます。
ウサギがカメを認めるか認めないかということは,じつはカメの幸福にとって本質的なことではない。ところが,カメ自身がウサギの承認を自分の幸福にとって本質的なものにしてしまったのである。(本書,p.17)

 授業の最初に,「ウサギとカメ」の歌詞を思い浮かべながら,CDで歌を聴くのも楽しいし(保育所に戻った気分がいいんですよねえ),「かめとうさぎの生き方のどちらが好きか」という友だちの意見を聞くときも楽しいです。
 この授業は,教師も子どもも楽しい道徳の授業になること間違いなしです。
 ただ,最後の加藤諦三さんのお話が少し小学生には難しいので,「みんなどれくらい理解してくれるかなあ」と心配でもありました。
 ボクの授業後(子どもたちの感想を読んだ後の)結論を言うと,この授業プランの加藤諦三さんの文章の部分は<小学生向きに手を入れた方がいい>です。子どもたちの感想を読むと,内容をつかんで同意・反論している子もたくさんいますが,やはりいくつかの難しい言葉や,英語の綴りに惑わされている子もいて,かわいそうだったかなあと思います。
 具体的には

 心理/自分を認める/拒絶する/本性において認める/虚勢を張る

などの言葉がわかりにくかったようです。この言葉に引っかかるだろうということは,ボクもある程度予想していましたが,むずかしくても「本文のよさ」で理解してくれないだろうかという甘えがボクの側にあったわけです。
 だからこの辺は少し文章を手直しした方がいいでしょう。
 しかし,この文章の中には,単に言葉を言い換えただけでは伝わらないものもあるように思います。例えば,
「確かに自信のないとき,われわれは,自分を拒絶する人間にのみ注目する」
という文の意味は,「拒絶=拒否する」と言い変えただけでは伝わらないでしょう。かみ砕いて説明してやっても,経験のあまりない子らにはむずかしいような気がします。だがしかし,ボクは小学6年生ぐらいなら,この授業をやる意味はあると思います。それは子どもたちの感想を読んでのボクの今の思いです。

追記:その後,わたしはこの加藤諦三さんの文章を少しだけ小学生向けにして,授業をしています。

【子供たちの感想から】
■同意します
・その通りだと思った。カメは自分のとくいな水中でしょうぶすればよかったと思った。(R)
・確かにそうだろうと思う。が,そのとおりだろうけど~なんで~ウサギは自分の相手にならないカメと勝負したのか? 自信があるなら言うだけ言って,勝負をしなければいいのに…(T)
・私もそんな時,あると思う。(M)
・たしかに人は,そういうとこもある。この人の言うことは「本当のこと」と思ってしまった。実際,私にもそういうことはあったかもしれない。だから,私は,この人の意見に賛成したのでは…。(A)
・カメの「よけいなお世話だ」というのが伝わってくる。(T)
・加藤諦三さんはすごい人だー。わーい。(Y)
・たしかにそうだとおもった。そのカメにはいいところもわるいところもあって,うさぎもわるいところもあるし,いいところもある。それが本物なのにどうしてあらそったりきそったりするんだろう。自分にもそういうところはあるだろうけど,そう思うと「いやだ!!」と思う。(A)
・「ウサギとカメ」というお話を,今までウサギさんがわるい人でかめさんがいい人と思っていたけど,この勉強をして,考えが大きく変わった。かとうさんのはなしをきいて「そうだったのかー」となっとくした。(Y)
■異議あり
・加藤さんは心理的ぽいことを言っているけど,「ウサギとカメ」を作った人はそんなことを考えて作ったんじゃないと思うし,そんなにこだわらなくてもいいと思う。(S)
・もし自分に自信のあるカメなら,私は勝負した方がいいと思う。「よけいなおせわだ!」とかいったら,ウサギに「ふーん,自信ないんだー。だから勝負できないんだー」とか言われたらイヤだから。(K)
・加藤諦三さんの言っていることは,ぼくにしてみればおかしい。命あるもの,欲もある。カメは「自分はなんでもできるんだ」ということをウサギに見せたかったのではないか。たしかに負けると分かっていても,そこでひらきなおったら,カメはたぶん自分に自信を持てなくなると思う。だから「チャレンジャースピリッツ」をカメは忘れなかったと思う。(男)
■難しい
・わからない。でも,わかるような。う~ん,文章むずい。(S)
・あんまり意味がわからなかったけど,かめとうさぎはけっきょくどっちがすごかったのかなと思った。
・よく分からなかったけど,回りのことを見て,自分とよく考えてウサギのように言う人ばかりじゃないぞということ?う~ん,考えてみればけっこうすごいんだなーと思いました。ウサギとカメという物語は,いい話だったんだなーと思いました。
・先生が小学生向きに直してくれなかったのがちょっと…。でも楽しい話だと思った。むずかしい言葉とかあったけど,なんとなくわかってきた。(A)
・加藤さんのを読んで,なんとなくすごくむずかしことをかいてあったので,すごくわかりにくかったです。でも,すごいことがかいているみたいにおもえました。(K)
・文はよく分からないけど,どっちのみかた? カメが「よけいなお世話だ」って言うのはあたりまえ?カナ?だって,うさぎにそんなこといわれたらくやしいから。
■そのほか
・こんなことは,ウサギとカメを読んでも思わなかった。よっぽど加藤諦三さんは頭が良くてそーぞーりょくがいいのかなあ。ほかの物語にもこんあことがあるのかなあ?(R)
・うさぎとかめのおはなしは,すごくおもしろかった。うちもまえ,こんなことがあった。山でまきちゃん(妹)と自分で「うさぎとかめしよう」といって,私は「うさぎでいいよ」といって,うさぎならねる。よし,ここでねようといってほんとうにねてしまった。おしまい。たのしかったでーす。(Y)
・「あなたは水の中に泳げていい」って言うことは,うさぎは優しい?(Y)
・今日,最初,「うさぎとかめの話を書け」って言われたとき,どういう話だったか忘れていたけど,思い出して何とか書いた。今日,うさぎとかめの歌を全部知ったのだった。(Y)

 うさぎとカメという立場の違うキャラクターが出てきて,いくつもの「教えること」がありそうな物語です。普通なら「カメのように努力しないとだめですよ」「ウサギみたいに,甘く見てはいけませんよ」ということを教えてくれていると思っていた物語が,切り口を変えるとこんなにもおもしろくなるのですね。
 最後に,ボクが驚いたことを一つ。この物語について,子どもたちは,「カメがよくて,ウサギがダメだ」と思っているとは限らないということを発見しました。
「よく考えると,ウサギもカメもイヤだ」って書いている子もいました。
 いろいろな価値観で話し合える道徳の授業って,魅力的ですね。

尾形正宏(2000.7.14)

その後,この授業を,2人のゲストティーチャーを迎えて行ったことがあります(2002年度,6年生担任の時)。そのときの指導案はここで読めます。

追記 2022/07/12

コメント

タイトルとURLをコピーしました