T小(当時) 尾形正宏
2023/01/17 追記
この道徳プランは,わたしの定番中の定番です。高学年を担当したときには必ずやってきた授業プランです。授業参観にも,もってこいです。なんせ,文章を書いたのが,日本人なら誰でも知っている山田洋次監督なんですから,大人たちも興味津々です。
最後の「題名を考えてもらう」時に,保護者にも参加してもらうってのも面白いですよ。
以下,6年生との授業のあとで発行した「学級通信」からそのあらましを紹介します。
なお,資料や授業プランの入手方法等については,本ページの最後をご覧ください。
学級通信(2018年2月28日発行)より
わたしの大好きな映画監督・山田洋次さん。多くの日本人が知っている監督でしょう。わたしは「男はつらいよ」シリーズはすべて見ました。他にも「学校」「武士の一分」「母べえ」など,何度もくり返し見た作品がたくさんあります。
その山田監督が小学校1年生だった頃に出会った衝撃的な思い出をつづった文章「勇敢な少年」(『映画館(こや)がはねて』中公文庫・後掲)があります。それを使って授業をしました。
「勇敢な少年」のあらすじ
山田さんが1年生の頃のクラスには,小林君といういじめっ子がいました。クラスの男子全員がこの小林君に服従させられていました。
あるとき,担任の女の先生が「自分の好きな友だちを一人言ってごらん」と言いました。
クラスに緊張がはしります。
みんなは,次々に「小林君です!」と答えていきました。
そして,ついに山田少年の番になりました。先生は,懇願するような視線を当時級長だった山田少年に送ります。が,山田少年は,情けなくも「小林君」と答えたのです。
そして,そろそろ終盤に近づいたとき,小林君に特によくいじめられていた小柄な医者の息子である梅沢君の番になりました。梅沢君は,顔を紅潮させて立ち上がると,ひときわ大きな声で,なんと,こう答えたのです。
「僕,小林君なんか大きらいです!」
授業を受けた子どもたちの感想
○「小林くんがきらいです」の意見は,山田くんが言うと思ったのにちがっていて,まさか,ひ弱い梅沢くんだとは思いませんでした。それに,大声で言うなんて…。本当に勇敢だなと思いました。昔は,よくいじめなどがあったのかなと,この話を読んで思いました。もし,こんなことがあるとしたら,こんな風に言えると自分も気持ちいいし聞いた人もそう感じると思います。 D.Mo
○今日の道徳の授業では,山田さんの1年生の時に見た勇敢な男の子梅沢さんについてのお話でした。梅沢さんはいつも気が弱いのに,そういう時に勇気をふりしぼって言えるなんてすごいと思いました。私だったらブンなぐられるのがイヤだから「小林君です」と答えてしまいそうです。そう考えると梅沢さんは本当に勇敢だと思います。 H. Ma
○小林くんみたいな男子がいたら怖くて近づけない…・みんなが「好きな友だちはだれですか?」と聞かれ「小林くんです」というのは分かるなア~と思いました。でも,いつも小林くんにいじめられていた梅沢くんが大きな声で「僕,小林くんなんて大嫌いです!」と言っていてとても驚いた。やっぱり,人間,出そうと思えば勇気なんてすぐに出せるのかもと思った。友だちにもいつも言わなくても,たまには気持ちをぶつけてみるのもいいかもしれない。 O.Ka
○この「勇敢な少年」という話を読んで,梅沢くんはかっこいいなと思いました。ひ弱い梅沢くんなのに,小林君のことを大声で「大きらいです」と言っていて,ほんとに勇敢なんだと思いました。 O.To
○山田君は,自分の好きな人を言うと思ったけど,「小林君です」と言ったことが「ええ~」と思った。それに比べて梅沢さんは勇敢でかっこいい人だと思った。1年生でここまでするのはすごいしかっこいいと思った。 M.To
○ぼくは,この「勇敢な少年」を聞いて,梅沢君はタイトルにぴったりな人だなと思いました。みんなが「小林君」と言って,級長の山田君も言ったのに,自分の意見をしっかり言って,相手にそれが伝わったので,すごいです。 Y.Da
○今日,「勇敢な少年」の話を聞いて,ひ弱でいつもいじめられていた梅沢くんが,あんな強気があったなんてすごいなと思いました。そして,いじめもだめだなと思いました。 N.Syu
○今日の道徳を聞いて,梅沢くんは小林君に負けずに「大きらい!!」と言って,とても勇敢だと思った。私もこんなふうにはっきり自分の意見を言いたい!! S.Chi
○梅沢君はとても勇気があり,とても勇敢だと思った。小林君は大きらいと言われても復習しなかったので,ほんとはいい人かもと思った。題名を考える時に,「勇敢」以外に思いつかなかった。 H.Tu
○山田さんの昔の話だったけど,みんなが「小林君」と言っているのに,ひ弱な梅沢君が「大きらい」と言ったのはすごいと思った。題名の意味が分かった。 Y.Ta
○今日の授業で,私のクラスにはいじめられっ子もいないし,いじめる子もいないと思います。梅沢さんは自分はなぐられてもいいからまわりの人にめいわくがかからないように自分がぎせいになるという考えは,いい考えだと思いました。今でもいじめがあるらしいけど,梅沢さんのような勇敢な人がいるといいと思います。私もそうなりたいです。 K.A
勇敢(ゆうかん)…勇気があって,危険や困難にひるまないこと。
「勇敢な少年」は,以下のような文章で締めくくられています。
クラス中の少年たちが腰をぬかさんばかりに驚いたのはもちろんのことである。
山田洋次著「勇敢な少年」『映画館がはねて』
小学校一年の私をおそったたとえようもなく恥ずかしい感情と,窓がわに逆光を浴びて立っていたせいでもあろう,まるで後光がさしたような色白の梅沢君の美しい横顔と,そのカン高い興奮した声を,私はまるで昨日のことのように思い出すのである。
その後のことはあまり覚えていない。
ただ,小林君が梅沢君に復讐をしなかったことだけは確かだ。
七歳の私に自分の姿を認識させてくれ,そして人間の勇気について教えてくれた梅沢君,それに小林君の二人の幼友だちの追憶を,私は今もって大事にしている。
今ごろあの二人はどうしているだろうか。
出典など
この授業プランは「勇敢な少年」の文章を途中で切りながら,その先を予想していく形(「再現構成法」と呼ぶらしい)で授業を進めます。授業に配布できる「授業用プリント」は「珠洲たの倉庫」(会員限定)に入れておきましたので,それをお使いください。山田さんの本文や授業の進め方の例は,以下の本(やブログ)に載っています。
■山田洋次著『映画館(こや)がはねて』(中公文庫,1989)
本授業プランの元になった文章が収録されている本です。
山田洋次監督のエッセイ集になっています。自分の生い立ちや寅さんなどをふり返る文章は,読み応えがあります。
本書を読んで,山田監督は実にいろいろなアルバイトをしてきたんだなあって思ったことと,映画というのは,本当にいろいろな人のおかげで成り立っているんだなあって感じました。
仕事ってものを捉え直すきっかけにもなる本でした。
■板倉聖宣・村上道子編『知恵と工夫の物語・新総合読本2』(仮説社,1998)
本書発刊の意図を編者のひとり・板倉聖宣氏は,以下のように述べています。
「新総合読本」と題したこのシリーズの本は,その第1巻の『なぞとき物語』のはしがきにも書いたことですが,〈今日の学校教育のどの教科の枠にもおさまらないような雑多な知識〉を提供しようとして作成されたものです。そこで,各種の学校ー小学校から大学までの副教材として,理科・社会科・道徳・ホームルーム・保健体育・図工・音楽・算数・数学・英語・国語・ゆとりの時間など,ありとあらゆる時間の授業に〈読み物教材〉として使うことを意図しています。(本書ⅰぺ)
おさめられている文章は多岐にわたります。本ページで紹介している「勇敢な少年」(山田洋次)などのように新しく書かれた文章もあれば,「稲むらの火」(小學國語読本)や「科学者とあたま」(寺田寅彦)のような古い文章もあります。どの文章も教師の料理次第で子どもたちに受け渡すことができるでしょう。
■深澤久編著『道徳授業改革双書 子どもが本気になる道徳12選』(明治図書,1991)
ここに出ているプランを使って授業をしていたように思います。ただ,この本は,もう手元にないので,なんともいえません。
今,ネットを確認すると,その授業プランの大枠を載せているページがあったので,ここからリンクをしておきます。いちおう著者の了解は得てあるような書きぶりです。
ところで,このシリーズ「道徳授業改革双書」は,確か20巻近く発行されたと思います。それらの本に収録されていたプランのなかには,実際にわたしが授業にかけたものも多くあります。今となっては,なかなか手に入りませんし,道徳が教科化されたので以前のような自由もききませんが,学校などで眠っていたら是非手にとって見てみてください。
コメント