能登半島地震を授業する

理科・科学

宇出津小 尾形正宏
2007.11.17

 今年(2007年)度,6年生担任と決まった時から,「大地のつくり」の所では「地震」を取り上げようと思っていました。というのも,2007年3月末に能登半島では今まで経験したことのない大きな地震「能登半島地震」が起きたからです。私の転任した小学校のある地区でも大きな被害を受けた所もありました。ホットな話題から,日本全体の地面の動きにつなげられればいいのではないかと思いました。
 この授業の前段では,地元能登町の地質図を紹介してあります。また,地層見学にも行っています。

1時間目 日本付近の地震のおきかたについて調べる

[質問1]
能登半島地震発生時,あなたはどこにいて,どんなことを経験しましたか?
[意見]
・そのとき丁度カゼをひいていて,ベットに寝ていたら突然揺れて…,あわててベットからおりて近くのたんすを押していた。けど,ぜんぜん力が入らなくてこわかった。
・その時は何もできなくて,ボー然としていた。揺れがおさまったら外に出た。
・買い物にホームセンターに行っていたんだけど,その店が海岸にあるのでとても揺れて,商品とかも落ちるし,私たちは,何もできなくてその場に座り込んだ(注:ここは埋め立て地です)。
・その時,(隣村の)マラソン大会にでいた。何か前のけしきがゆれたので「ああ,ちょっとつかれてきたかな」と思っていたら,前方にひび割れがあった。なにげなく飛び越えて,そのまま走っていった。
・飼っているペットがなんかそわそわするなあと思ったら,いきなり大きく揺れ出してビックリした。
・揺れたあと,テレビも切れて,電気がつかなくなった。誰もいなかったのでこわかった。

[質問2]
 地震ではどんな被害があるか(あったのか)知っていますか?
[意見]
 白山神社の灯籠・地割れ,家屋の倒壊,墓石もたおれる,崖崩れ,能登有料道路もくずれた。
・隣の家は,結局,全てこわすことにした。
・白山神社でも,灯籠がくずれた。
・神野小学校の体育館の天井が落ちた。

<資料入手先>
 わたしは自分で撮影した写真を使いました。地元の被害の写真,ネットからの写真多数(これは「検索」でかんたんに見つけられるでしょう)

[質問3]
 能登半島地震の余震はいつまで続いたでしょうか。震度1以上の揺れを感じたもので考えます。
[予想]
 ・2日間くらい
 ・1週間くらい
 ・1ヶ月くらい 
 ・2ヶ月くらい
・半年くらい

<資料入手先>
・能登半島地震で余震の様子は,巻末の「能登半島地震全般の情報」のサイトで探して下さい。

[質問4]
 日本周辺では,どれくらいの間隔で地震が起きていると思いますか?
[予想]
 ・1年に1度くらい 
 ・1ヶ月に1度くらい
 ・1週間に1度くらい
・1日に1回くらい

<資料入手先>
気象庁 > ホーム > 気象統計情報 > 地震・津波 > 最近一週間の地震活動 > 全国M3以上の最近一週間の地震活動

[質問5]
 日本にはなぜこんなに地震が多いのでしょう?
[意見]
・火山も多いから
・プレートがあって,そのプレートが…と説明するものしりもいるだろう。
[説明] プレートとその動き
 ①プレートの動き
 ②プレート型(海溝型)巨大地震
 ②直下型地震

<資料入手先>
 これについての写真や図・映像資料などは,ネット上にはたくさんあります。NHKのビデオクリップなども利用できます。

2時間目 能登半島地震について

[質問1]
 地震のゆれの伝わる速さはどれくらいだろう。
[簡単に予想]
 ・新幹線くらい
 ・音の速さくらい
 ・ロケットの速さくらい
 ・もっと速い地震波の伝わる速さ
[説明]  
 地震波伝搬のデジタル映像を見せる
 東京へは約50分,北海道・九州へは約120秒

<資料入手先>
『防災科学研究所』「過去の地震における最大震幅分布図」
 ここから自分のほしい地震の最大振幅分布画像を手に入れられます。また,振幅アニメーションもダウンロードできます。サイト上にこれを発見したので,この時間の導入が決まりました。

 このアニメーションによって地震動が地表面を伝播していく様子や、場所による地震動の強さの相違などを詳細に把握することができます(掲載HPより)

[質問2]
 能登半島地震の震度を予想する(3地点を選んで,その震度の大きさの順位を予想してもらう)

[予想・意見]
・震源の近くが一番ゆれているはずだ
・震源から離れれば揺れは小さくなる
・遠くても地面が柔らかいところがゆれることもある

震度は後で見せる
震源(震央)に近い方が震度が大きいとは限らない

[質問3]
 中越沖地震で揺れが大きかった場所を予想する(同じく3地点を選んで)

[予想・意見]
・能登半島地震の時と同じだろう
・わたしたちの所もけっこう揺れたよね

これも震度は後で見せる
震源(震央)に近い方が震度が大きいとは限らない

<資料入手先>
震度分布表も各種いろいろなものがネット上に存在します。自分の使いやすい物を加工して使うといいでしょう。

[質問4]
 「表層地盤のゆれやすさ全国マップ」を見て,ゆれが大きい場所を話し合う
[意見]
・やはり,場所によって揺れやすさがちがう
・石川では海の近くが大きいみたい
・地盤の柔らかいところの揺れが大きいのではないか

<資料入手先>
「表層地盤のゆれやすさ全国マップ」…内閣府のHPで見つけました。もともとは新聞記事からの情報でたどりました。このマップは図のように県ごとでダウンロードすることもできます。この地図ができて初めての大きな地震が,能登半島地震だったのです。

 地震による地表でのゆれの強さは、主に、「地震の規模(マグニチュード)」、「震源からの距離」、「表層地盤」の3つによって異なります。一般には、マグニチュードが大きいほど、また、震源から近いほど地震によるゆれは大きくなります。しかし、マグニチュードや震源からの距離が同じであっても、表層地盤の違いによってゆれの強さは大きく異なり、表層地盤がやわらかな場所では、かたい場所に比べてゆれは大きくなります。この効果を、ここでは「表層地盤のゆれやすさ」と表現しています。「地盤のゆれやすさ全国マップ」は、全国の表層地盤のゆれやすさを地図として表現したものです(掲載HPより)。

[作業]
 液状化現象のモデルを見る。
・「液状化現象」の写真・新聞記事を見る。
・ペットボトルと砂(エキジョッカー)で実験をする。
・ピンが浮いてきた!
・砂の位置が下がった!

公開授業時の授業風景

<資料入手先>
 液状化現象の写真はネットにたくさんあります。
 当時の新聞記事は,公立図書館で調べ,バックナンバーをコピーしました。
 授業で使った「エキジョッカー」は,中村理科でセットが売られています。均等な粒の砂とペットボトルさえあれば自分でも作れます。これも授業を盛り上げるポイントです。是非準備したいものです。「エキジョッカー」で検索すると自作例がいくつか見つかります。

[説明]
 能登半島地震時の,能登町の状況を聞く。
・震度計は各役場にある。
・能登町役場が建っている場所は軟弱地盤。
・役場のまわりは地盤沈下した。

<資料入手先>
・役所のまわりが地盤沈下した写真を準備した
・役所の近くのボーリングデーターを入手。
・役所へ行き,基礎が岩盤の上に立っていることを聞いた。

3時間目 地震による土地の変化

[質問0]
 電子基準点の写真を見せて(これはどこにありますか?)電子基準点
これは能登町の能都中の近くにあります。グラウンドの横です。

[説明]
 これは,電子基準点といいます。日本には,1200点の電子基準点があります。これで地面がどれだけずれたのかが分かります。
 今回の地震で,能登半島の地盤はこれくらい動きました。
・「GPSで調べた地震前後の動きの図」を見せる

<資料入手先>
・自分で撮った電子基準点の写真(上の写真)
・自分で撮った門前町海岸隆起の写真
・気象庁のHPに「電子基準点」の説明があります
・能登半島地震での地殻変動の様子は,巻末の「能登半島地震全般の情報」のサイトで探して下さい。

[説明]
 緊急地震速報について
緊急地震速報 2007年の10月から地震発生を知らせるようになったことを知っていますか?「緊急地震速報」といいます。
・今年,学校からもチラシが配られたので,よく知っていた。

[質問1]
 地震が来ることを早く知るとどんなことが予防できますか。
・早くかくれることができる
・戸を開けておける
・火を消すことができる。
・心の準備ができる
・車を止めることができる

[視聴] 下記のビデオ(約10分)を見る

<資料入手先>
ビデオ「その時,あなたはどうする!緊急地震速報のしくみと心得」
 緊急地震速報ビデオこのビデオは、緊急地震速報のしくみと心得を分かりやすく解説し、緊急地震速報の普及を図ることを目的に制作されています。
企画・制作 : 気象庁 (2007年6月)制作協力
     : テレビ朝日映像株式会社本編
     : 約10分 (字幕表示可能)

気象庁> 気象庁について > 気象業務案内 > 刊行物・レポート > その時、あなたはどうする! 緊急地震速報のしくみと心得

その他の参考サイト

■能登半島地震全般の情報

○地震調査研究推進本部(http://www.jishin.go.jp/main/oshirase/20070325_noto.htm)
○防災科学研究所(http://www.hinet.bosai.go.jp/topics/noto070325/)
○気象庁(http://www.seisvol.kishou.go.jp/eq/2007_03_25_noto/index.html)
○海上保安庁(http://www1.kaiho.mlit.go.jp/GIJUTSUKOKUSAI/jishin/07noto/index.html)
○産業技術総合研究所(http://unit.aist.go.jp/actfault/katsudo/jishin/notohanto/index.html)
○国土地理院(http://www.gsi.go.jp/BOUSAI/isikawa/index.html)
 その他,東大・京大・金大・東北大などの研究機関がまとめた調査記録もあります。

■掲示物や工作もの

○地震調査研究推進本部(http://www.jishin.go.jp/main/)
 全国を概観した地震動予測地図(2007年度版)がダウンロードできます。拡大印刷して教室にはっておくだけでもかっこいい掲示物です。

○防災科学研究所(http://www.hinet.bosai.go.jp/)
 ここからは,「日本の地震活動立体模型 震源くん」がダウンロードできます。全部を作るのは大変ですが,自分の住んでいる場所だけでも作ってみてはいかが?
 これは,算数の立体の勉強にも使えますよ(展開図)。

 以上,私が今回の授業を組むにあたってさがしまくった情報を紹介しました。今度授業をする時の私の備忘録としてもまとめてみました。


なお,このレポートは,前時の地層見学等の情報を加えた形で『理科教室2008年10月号』(日本標準)に掲載されました。興味のある方は,ぜひ,手に取ってご覧下さい。


[追記]
 その後,2011年に東日本大震災などがあり,地震の授業では,そちらの方も取り上げるようになりました。実際には,その地域で,子どもたちの記憶に残っている地震を取り上げるのがいいでしょう。そのときでも,本レポートで紹介したサイトはどんな地震でも役に立つので,授業を組み立てる際には参考になると思います。東日本大震災は,プレート型地震なので,内陸型のものを取り上げた後で,別に取り上げるといいと思います。近々,わたしの実践を紹介したいと思います。いつになるかな(2022/04/08記)

 

コメント

  1. 最近地震が多いので、気になっています。以前、地震と火山の講座を受けてからは、地球規模の動きであることがイメージできるようになりました。

  2. 授業プラン〈地震と火山〉は,プレートの大きなながれの話ですね。日本付近に地震が多い理由は,あれで納得できます。しかも,地球全体を見る目も育ちますしね。

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