《光と虫めがね》の授業から

仮説実験授業のミニ記録

2013年7月 記

 2013年8月のKITサマー・サイエンス・スクールの講座で《光と虫めがね》を担当することになったので,急遽,担任している3年生の子どもたちと仮説実験授業《光と虫めがね》を始めました。ただ,やれたのは,カメラをつって写真を写すまで…です。
 その様子を紹介します。

蛍光灯の光は,虫めがねで集められるか

 「問題2」は「蛍光灯の光も虫めがねで集められるか」です。この問題は「虫めがねで月の光は集められるか」という問題のあとでやることになっています。月の問題の結果は,写真で示すこともできるのですが,今回は月の問題の答えは保留のままにしておいて蛍光灯の問題をやりました。
 集められない派,丸い形に集まる派,蛍光灯の形に集まる派,いろいろ入り乱れて,楽しい討論になりました。
 「丸い形」派にいたケンジが,
「偶然にやったことがあった気がする。そのときは蛍光灯が机に写った。」
と言って「蛍光灯の形」派に移動すると,数名がそれに追随しました。
 しかし「丸い形」派の論客から,
「蛍光灯も日光も,まわり中に光を出しているのは同じだ。その光を集めるのだから,丸い形になるだけだ。」
「虫めがねが丸いから,丸くなるに決まっているだろう。」
という,もっともらしい意見が出ると,移動の動きも止まります。
 「蛍光灯の形」派からも,応援の意見が出たりするのですが,決定打にはなりません。

 時間も来たので,予め配布してある自分の虫めがねを出して,各々で実験をしてもらいました。
 机の上にクックリと映る蛍光灯に,ビックリする子どもたち。
 教室に,子どもたちの歓声が響きます。
 この「問題2」では,<「やったことがある」という子を信じる人たち>と<原理的に説明して討論で圧倒的に優位に立っている人たち>とのたたかいでした。実験結果は,「やったことがある」派を支持したわけです。堂々と自分の意見を言っていた「丸い形」派が,結果的にはまちがっていたわけです。
 子どもたちの感想を読んでみましょう。
 まずは,全く討論には参加していない子の感想をひとつ紹介します。

□でんとうで,自しんをもって「あつめられない」をえらんだけど,答えは「あつめられる」の「細長い」のだったし,くやしかったです。それと,月のヤツで「しんぶんしはもえるか」で,ぼくは①は「もえない」にして②はどんな形になるかで,ぼくは,「小さな・丸になる」をえらびました。①はあたっていて,②は半月だったら半月の形になりました。くやしかったけど,すごかったです。(K)

 次に,論客の二人の感想(「丸い形」派)

□あっていませんでした。あっていなかったけど,たのしかったです。またやりたいです。つぎはあっていてほしいです。(R)
□きょう,かがくをやっていて,ずっと「虫めがねで光をあつめる時のしょう点はいっしょだ」と思っていました。でも,ちがいました。太陽は,太陽の形,月は月の形というふうになっていました。これでぼくもまた一つ知りました。楽しかったです。(T)

 「やったことがあった」というケンジの感想を読んでみましょう。

□けいこうとうのひかりは,いちどしょう点にあつまるけど,そのあとは,もとにもどると思ったのが,あってて,うれしいです。ぼくは,たまたま虫めがねをだしたら,けいこうとうの形になったのをおもいだしました。月もおなじで,いちどしょうてんにあつまるけど,そのあとがもとどおりって,けこうとうをやって思ったんだけど,まちがえました。(ケンジ)

 ん~,彼は,正解したんだけど,その解釈はまちがっています。実験結果を見て「蛍光灯の光が焦点に集まっている」とは思っていないようです。前の解説の時に,<レンズの焦点は「焦げる点」である>と強調したためでしょうか? 本来「蛍光灯の形に集まる場所」が,そのまま「焦点」なんですがね。
 このあたりのことは,虫めがねを教科書で学んだ中学校の子どもたちもつっかえているんだろうと思います。現行の教科書には,またまたレンズの教材がもどっているはずです。

感想

・今日,けいこうとうでじっけんをしました。ぼくわ,ひかりがあつまり細長くなるとおもいました。それで,ぼくは,たつきさんに「ひかりがまわりにいっても,まんなかにくるから細長くなる」といいました。そうしたら,たつきが「こういういみ?」ときいてきました。すると,りくが「レンズが丸いから,細長くないんじゃない」ときかれました。それで,してみたら,うつっていました。(K)
・わたしは,はじめ「もえない」で①番だったけれど,けんじさんの「虫めがねを出してやった」と言ったので,2番にしました。わたしはかえるとよくまちがえるので,「大丈夫かな」と思いました。けっかは,当たっていたので,うれしかったです。どっちともあたっていたので,よかったです。(A)
・つきとかのやつが,虫めがねで同じ形になるなんて,はじめてわかりました。ぼくだって,いろいろなひかっているやつをためしてみたいと思います。(T)
・今日,けいこうとうのべんきょうをしました。たのしかったです。どうしてかというと,「けいこうとうのかたちにならない」「なる」とバトル(あつい)みたいだったから,おもしろかったです。(T)

 今日の授業で「実験の前に予想を出し合い討論をする」ということの大切さが,改めて分かりました。何よりも,頭を使うことの楽しさを感じることができるし,実験をするときの意気込みも全然違います。そして,分かったときの感動も…。
 このような内容を授業するときに,
「さあ,虫めがねを出して電灯の方に向けてご覧!蛍光灯の形が写るでしょ」
って言っちゃえば,1分で終わりですからね。でも,それでは科学の授業とは呼べない…わたしは,そう思っています。

虫めがねカメラで写真を撮る

 この授業書の最大のねらいは「明るいところにあるものは,(太陽や電球やローソクと同じように)光を出しているのだ」ということに気づかせることにあります。(『授業書研究双書・光と虫めがね』14p
 このねらいを達成するための中心的な問題が「問題3」です。
 この問題も,じっくり討論を楽しみました。
 この実験では,まず,教師実験を行いました。すぐに子どもたちでやるよりも,感動が大きいと思ったからです。
 教室の蛍光灯を消し,窓の反対側の白い壁に大きな虫めがねをくっつけて,レンズを壁からだんだん離していくと,カラーの景色が逆さまに移ります。「うお~」っという歓声。何度聞いてもいいものです。
 そのあと,自分たちでも挑戦です。人も顔も映るし,「映画みたい」と大騒ぎです。もちろんおどるヤツも出てきます。反対に映るのも,なかなか楽しいものです。

 次に,カメラ作りです。
 が,その前に,昨年の仮説実験授業研究会夏の合宿研究会で,山路さんに教えてもらったA4用紙用段ボールを使った虫めがねカメラをのぞいてもらいました(写真上)。スクリーンに映ったそのきれいな画像もまた,感動ものです。
 そしてカメラ作りです。
 今回は『たのしい授業』で紹介されていた百均の「日光写真カメラ」を利用しました(写真は,仮説社より)。仮説社は品切れだったので,楽天経由で直接購入。送料はかかりますが,それでも一つ120円くらいです(2023年現在生産していません)。
 制作時間は,約30分くらい。
 この日は,20分ほどしかなくて,あとは,お昼休みに作ってねって感じでした。みんな,喜んで作っていました。
 つぎの日は,終業式。天気のいい2時間目をねらって,写真を撮りました。一人2枚くらい撮影できました。このセットには感光紙が10枚もついています。残りの8枚は,家でやってもらうことにしました。
 昨日は集団下校で,慌ててかえったので,いろんなところに忘れ物が…右の写真も,教室のロッカーの上に置き忘れていました。窓枠と遠くの景色が何となく見えます。これでもけっこう満足していました。

現在は発売されていません。

 先に紹介した『授業書研究双書・光と虫めがね』に,「常識から科学へ」のいい文章が載っていたので,転載しておきます。

 人びとの常識的な考え方を大事にしなければ,おしつけが横行し,優等生だけがただなんとなくわかったような気になり,人びとのの(ママ)主体性・創造性がおしころされることになります。そこで,人びとの主体性を重んじながら,光の問題を教えるには,まずはじめに,「ふつうのものから出ている光と,つよい光のビームを結びつけないわけにはゆかないような,そういう感銘深い実験問題」を導入する必要があります。この授業書のねらいはまさにその点にあるのです。

『授業書研究双書・光と虫めがね』15pより

 つまり,この授業書は,凸レンズや凹面鏡を扱いながらも,その性質を教えるのではなく,あくまでも「ふつうの景色からも太陽やランプからと同じように光が来ている」ということを教えようというのです。
 今一度,授業書全体を読み直して,KIT用のプランを考えてみたいと思います。
 カメラの方は,感想をとる暇もないくらいでした。ので,続きは2学期と言うことで…。以前作った目の模型が見当たらないよ…。
 大きな目の模型を作りたいんだけどなあ。

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