蓄音機に魅せられて

レポート綴

尾形正宏
1998.10.13

蓄音機発見

理科室の整理整頓

 ボクが今年から勤務している宝立小学校は,30年ほど前,幾つかの学校が統合してできた学校です。最近でも,小屋小学校が統合され,馬渡小学校も一緒になりました。それに,つい最近まで「珠洲市の理科センター」も宝立小内にありました。
 それで,理科室の実験道具なども多すぎるくらいあります。だからかどうかは分かりませんが,ボクが見た理科準備室は,足の踏み場がないほど散らかっていました。大型のガラス製品やてこ実験器などが所狭しと並んでいるのです。また,準備室の棚の板も反ってしまって実験器具に耐えられない様子です。
 最初は,掃除中や放課後に,理科室の棚などを整理していましたが,そのうち,準備室もさわりたくなり,夏休みには,理科準備室のものをすべて出してしまって,棚を直してもらいました(この時に,濱野さんの小学校のときの「蜘蛛の研究」も見つかった)。その時,昔のものはほとんど廃棄しました。で,ついでだからということで,その他にもいらないものがないか,校内で探すことにしました。

放送室で見つけた蓄音機

  ボクの管理しているところは,理科室と放送室です。視聴覚関係の器具も,資料室や放送室にたくさんありました。すべてに電源を入れてみたわけではありませんが,本当にたくさんあります。
 そのなかで,明らかに壊れてしまっているものを廃棄することにしました。そのほとんどは,<すでに台帳から消されているのに捨てられずに残っているもの>でした。
 特に放送室には,昔のレコードプレーヤーや真空管ラジオもありました。真空管ラジオは一つはだめでしたが,もう一つの方は音が聞こえたので,今,ボクの机の後ろに置いてあります(その後廃棄)。さらに,オープンリールテープレコーダーも見つかりました。使い方がよく分からない機械もあります。
 そんな中で,小さなゼンマイ仕掛けの蓄音機がありました。コロンビア製です。「これはいいぞ」とばかり,掃除の手を休めて,一人でこの蓄音機を触ってみました。

うまく動かない蓄音機

 放送室で見つけたものを<蓄音機>と判断できたのは,『音と振動のなぞ』というテキストを読んでいたからです。サイエンスシアターの第2部を担当することになっていて,アンテナを張っていたからです。
 おそらくもう1年早ければ,何も考えずに廃棄していたと思います。それほど興味もなかったのでね。
 さて,この蓄音機は「コロンビア製のmodelG209」とかいう製品でした。すでに,なんの説明書もないのですが,手回しの取っ手を付けて回してみました。このあたりは長年の感でなんとなく使い方が分かります。
 ゼンマイは生きていそうです。針も見つけました。放送室にあった(使わなくなった)LPをターンテーブルに乗せて回してみます。そのレコードにゆっくり針を降ろすと…いい音が聞こえてくる…と思いきや…
 針を降ろすと,ガリガリといいながらターンテーブルが止まってしまいました。あれっと思って,針(アーム)をあげると,また,ターンテーブルはまわりだしました。これは,針の部分が重すぎるのです。これじゃあ,レコードは傷つくばかりで音など聞こえません。
 それで,この日はあきらめて再度挑戦することにしました。

再度挑戦

 夏休みの終わり頃,もうすぐ2学期です。このまま蓄音機を机の上に置きっぱなしにはしておけないので,片付ける前にもう一度,やってみました。
 蓄音機のいろんな部分を見てみますが,残念ながらアームを軽くすることはできそうにありません。ゼンマイをたくさん巻いてみましたが,やはり針は溝には沿わずに滑ります。しかも,すぐにターンテーブルの回転が止まります。
 何か部品が足らなくなってしまっているのかも知れません。もしそうだとすると,ボクがいくらやってみたところで,うまくいくはずがありません。しかし,LP盤がだめなのかも知れません。昔のSP盤がないとだめなのかなあとも思いました。
 それで,この蓄音機は「捨てるのももったいない」と放送室の棚の上に置いておくことにしました。

愛知の高木さんと

 そんな中,サイエンスシアターの打ち合わせのため,愛知の会で,シアターの第2部を担当した高木さんが,珠洲まで来て下さることになりました。
 9月26日(土),尾形の家で勉強会を持ちました。珠洲からの参加者は,尾形と真智さんと菅原さんです。この時にあわせてボクは,蓄音機を家まで運んでおきました。
尾形 この蓄音機,学校にあったんだけど,うまくいかないんだよねえ。もしかしたらレコードがだめなのかも知れないけど…。
高木 ふーん。確かにうまくいかないねえ。でも壊れている様子もないから,SP盤でやってみるといいよ。うまくいくかも知れない。SP盤ならボクがここへ来るとき途中で売っていたよ。中古品店で。
珠洲 何? そんな店,どこにあった? 知らないですよ? え,あの有料道路が終わった所の「八幡ずし」の前だって??? ああ,そういえば,昔,観光案内所があったっけ…。
高木 店には「のらくろ」もおいてありましたよ。SP盤もたくさんありました。
尾形 今後誰か行くとき買ってきてよ。ところで<ラッパ付きの蓄音機>がどっかにないかなあ。
真智 そういえば以前,津幡のある個人の家で「蓄音機などをおいた展示館」みたいのを作っている人がいるって聞いたことがあります。今度,津幡の友達に聞いてみて,分かったらメールで連絡します。
尾形 よかったら,そこへも行ってみたいなあ。

 なんと,穴水に「骨董屋」みたいのがあって,そこにSP盤が売っていたと愛知の人に教えられました。まさに,<見れども見えず>です。 

SP盤と蓄音機

  さて,そのSP盤。勉強会の2日後に菅原さんが例の店で手に入れて,ボクの家まで届けてくれました。作品は『新作民謡:火の國小唄』(ビクター)です。1枚500円だったそうです。
 その日,会議で遅くなったボクは,帰宅するなり,胸をわくわくさせながら,レコードをターンテーブルに乗せ,ゼンマイを巻きました。
 テーブルは勢いよくまわっています。ここまではLP盤のときと同じです。
 針をそおっと降ろします。横滑りはしません。
 そのうち,とてもはっきりとした音楽が聞こえてくるではありませんか。
 「これはすごい! 思ったよりいい音だし,大きい」
 電気も何にも使っていないのに,しっかりした音が聞こえてくるのでビックリです。ついに聞けました。感動ものです。とにかく,一度,聞いてみて下さい。
 やはり,この蓄音機とSP盤は切っても切れない仲だったのです。それにしても,こんなに重い針を乗せていてレコードが傷つかないのでしょうか。少し心配です。

サイエンスシアター研究会でも

 この蓄音機を持って,サイエンスシアター研究会(10月4日~5日,小松・金沢)に参加しました。
 この蓄音機はここでも人気者です。電気も使っていないのに,これだけの音量が出ることにみな驚いていました。これも「内蔵メガホン?」のお陰といるのでしょうか。
 4日,小松へ行く途中,穴水の「中古屋」へ寄って,SP盤を3枚買ってきました。(でも,1枚割れてたよー) 

「昭和の音と映像資料館」見学記  

ラッパ付き蓄音機を求めて

 さて,今回の話題の最後は,「昭和の音と映像資料館」の話です。
 真智さんが「津幡にあるらしい」といっていた「資料館」の連絡先を突き止めてくれました。
 その方は「山崎久雄さん」という人でした。「資料館」は自宅ではなくて,津幡の山の方の民家を活用して展示してあるそうです。
 さっそく連絡をとり,10月11日(日)の10時に「資料館」で待ち合わせすることにしました。シアター研究員にも連絡したところ,福岡さんが子連れで来るとのこと。菅原さんと福岡さんとボクの3人(プラス子ども2人)でおじゃますることにしました。
 電話では,ボクの自己紹介と,今,研究していることの概略を話しました。「ラッパ付きの蓄音機を見たい」「できればラッパをとったときの音とかも聞いてみたい」という図々しいお願いもあわせてしました。山崎さんは,とても親切に応対してくれました。「場所がわかりにくいから津幡の駅まで迎えに来る」というのをお断りし,自分たちの力で「津幡町相窪」へと向かいました。この時はまだ資料館の名前さえ知りませんでした(電話でも聞かなかったのだ)。いい加減だねえ,まったく。

やった蓄音機だ

 山崎さんの資料館は「昭和の音と映像資料館」という名前です。そこには,蓄音機だけでなく,真空管ラジオや映写機などが,1階と2階の屋根裏部屋みたいところに,所狭しと並べられていました。しかも,そのほとんどがちゃんとまだ使えます。複雑な配線もご自分でやられたとのこと。大金持ちが金にものをいわせて集めたのではなく,素人が無理をせず集めたもの,いやむしろ捨てる寸前のものを捨てずにとっておいたものが,並べられているのです。

資料館の看板

 お目当ての蓄音機も何台かありました。
 レジュメによると
 ・蓄音機(米国ビクトーラVV-X1V)
 ・箱形蓄音機(英国,国産)
 ・ポータブル蓄音機
 ・電気蓄音機
が何台かあったことになります。ただ,どの蓄音機がどれのことかよく分かりません。
 ボクたちの興味は別の所にありましたので…。
 蓄音機の音を聞きます。特に箱形のは結構いい音がします。ボクの持っているポータブルのよりも相当柔らかで高級な音です。これなら,今聞いても,CDとはまた違った味わいがあります。すぐ,欲しくなるんだよなあ。

大切な蓄音機で実験!!

蓄音機のラッパをとると,音の大きさは?

 さて,写真のような蓄音機で,ラッパ(メガホン)をとると音はどれくらい小さくなるか実験です。
 まったく図々しいこちらの要望を聞いて下さる山崎さんには,本当に頭が下がります。「外してみて下さい」「付けてみて下さい」と3回ほど繰り返して,菅原さんがデジタルビデオにおさめます。
 現場で聞いた限りでは,ラッパの開いた方にいると,明らかに違いが分かります。ラッパを付けると「大きくなる」というより「音が拡散せずに聞こえる」という感じです。ラッパの口と反対側にいると,さほど違いは感じませんでした。
 ボクがお願いしていたことは,これだけだったのですが,山崎さんは次にこんな実験もしてくれました。

当時のデジカメ写真・粗い画像だわ

実験1 レコードの振動を伝えるには

 蓄音機に付いている振動板を順番に外して,レコードの音を聞いてみました。
 針だけで聞いたり,針にコップを付けたり,空き缶を付けたりしてみました。
 針だけでもわずかに聞こえるのですが,その針にコップを付けると相当音が大きくなります。
 「針の振動を増幅して振動板に伝えるために,てこの原理も使っている」とは知りませんでした。蓄音機の振動板はすでに何回も見ているはずなのに,まったく気が付きませんでした。これまた<見れども見えず>です。

実験2 音を大きくする方法

 次に山崎さんは,「大学でもこんな実験しないよ」といいながら,カセットテープレコーダーとスピーカーの部品のようなものを持ってきました。そのスピーカーの部品は,レコーダーの出力端子につながれています。このスピーカーのままでは,あまり大きな音は聞こえません。
 それを,カセットケースにあてると結構大きな音がします。次に,ガラス戸や板戸,さらには箱型蓄音機の箱の部分にもあててみました。さすがに箱型蓄音機にあてると,とても柔らかい音がします。「蓄音機は箱も大切である」ことがよく分かります。
 そう,この実験は,サイエンスシアターの第1部の導入部分「手回しオルゴールの音を大きくするには」とまったく同じ発想の実験でした。これにはビックリです。
 この実験をするために,蓄音機からターンテーブルを外したり…。見ているボクたちはドキドキです。「いくらするのか知らないけど,大切な蓄音機をこんなに実験道具にして良いの???」と,こちらがかえって心配するくらいでした。

元気な人

 帰り道,「山崎さんは板倉さんと同じ年ぐらいだね」「新居さんとも重なる雰囲気を持ってるね」などといいながら車を走らせました。元気な人っているんですね。
 山崎さんは元教師です。そんな彼は,現職のときも,趣味か実益か分からないほど機械と付き合っていたのではないでしょうか。機械たちは時代と共に移り変わりますが,山崎さんの蓄音機等に関する興味は少しも失われることなく今まで続いています。
 ボクたちにいろいろなお話をする山崎さんは本当にうれしそうでした。実験する山崎さんの姿を見て,「単なる収集家ではない」ことがよく分かります。自作ビデオも多数入選していらっしゃるようです。
 この前,学校へ分子模型のかご(水の分子がたくさん入っている)を持っていったら,同僚から
「尾形さんって,趣味と仕事と一緒みたいね」
といわれました。確かに,そういう面もあります。新しい分子模型を作っているときのボクは,多分,新しいプラスチックモデルを作っている小学生の頃と同じ気持ちだろうなあと思います。1ε年前にはじめて作った「砂糖の分子模型」は,うれしくてしばらくテレビの上に飾っておきましたから…。

追記:なんとデジタル百科事典に掲載!

【後日談】
本記事を珠洲たのサイトにアップしたところ,(株)オルカビジョンという会社から「そのときのビデオが残っていたら使用させてもらえないか」『DVD版 学習総合百科事典』というようなものに載せたいのだが」という相談がありました。だから,ちゃんと送ってあげました。世の中の役に立ったんだなあとうれしくなりした。左の画像が掲載されたもの。(2003.10.17)

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