江戸狂歌と月

短詩型(笑)文学を楽しむ

上のタイトル画像はAI(ChatGPT)に作成してもらいました。

江戸狂歌に詠われた「お月様」 

はじめに

『万載(まんざい)狂歌集』「秋歌(下)」の巻には「秋の月」に関する狂歌が多く載せられています。
ここでは,管理人ページ『江戸狂歌』番外編として「お月さんに関する狂歌」を紹介したいと思います。最後に,『徳和歌後(とくわかご)万載集』に出ていた狂歌も少し追加しておきます。
ただし,〈お月さん〉といっても主に「月齢」に関連する歌を紹介します。

さまざまな月齢の呼び名

仮説実験授業の授業書《月の満ち欠け》に,三日月や半月,満月と並んで,「居待ち月」「立ち待ち月」などの月の名前も出てきます。わたしはこの授業書の文章に出会うまで,そういう月の呼び方があることを全く知りませんでした。以下の「お話」を読んだときに「なるほどなあ。日本人の感性はステキだなあ」と思ったことを思い出します。 

9月や10月は「お月見」の季節です。暑い夏がすぎて少しすずしくなると,「実りの秋」がやってきます。昔から,9月の「秋分」のころを「秋のお彼岸」といい,お彼岸に一番ちかい満月を「中秋の名月」とよんで,お月見をしました。
 ――中略――
昔の人は,秋のころの月を毎晩毎晩見ては,楽しんだようです。それで,十五夜(月齢15)の次の日(月齢16)の月を「いざよい月」とよんでいました。「いざよい」というのは「もじもじとためらう」ということで,「まえの日よりいくぶん月の出がおそくなって,ためらっているみたいだ」と言うのでしょう。
月齢17の月を「立ち待ち月」,18の月を「居待ち月」とよびました。「立って待っているあいだに出てくる月」,「すわって待っているあいだに出てくる月」というので,そんななまえがついたのでしょう。
また,月齢19の月を「伏し待ち月」,月齢20の月を「更待ち月」とよびました。
みなさんは、なぜこんななまえがついたと思いますか。


「月と暦の話」《月の満ち欠け》より

おそらく,これらの〈月齢に関する言葉〉は,古くから和歌などに詠まれることで歴史に残ってきたのだと思いますが,わたしは寡聞にして知りませんでした。
しかし「古典」を調べることをしないまま,長い間,〈棚だけ作って待っていた〉ところ,今回,江戸狂歌を調べている中で,月齢に関する歌がたくさんあることを見つけましたので,まとめて紹介したいと思います。
なお,以下に紹介するのは,もちろん旧暦8月のことであり,8月15日の月が〈中秋の名月〉となります。現在使っている新暦=太陽暦にすると,2026年の中秋の名月は,9月25日らしい。

月の満ち欠けと月齢

「月の満ち欠けと月齢」については,以下の一覧をご覧ください。
詳しい説明は「ちょこっとブックマーク」というサイトの「月の満ち欠けの名前 – 月の種類 一覧」にありますので,ご覧ください。下の図も,このサイトからの引用です。

なお,月の満ち欠けの周期が気になる方は,このページの下に説明してありますので,ご覧ください。
いちおう,ここは狂歌優先ということで(^^;)

『万載狂歌集』に掲載されている〈月〉の歌

『万載狂歌集』などの『狂歌集』に掲載されている狂歌の前には「詞書(ことばがき)」といって,〈お題〉や〈まえがき〉のようなものが示されています。
ここでは,その「詞書」をタイトルにして,狂歌を紹介していきます。

三日月

*陰暦3日の月で,特に8月のそれを指し新月ともいう。

  • 天の声もよるのしまりのあれハこそひんと空錠(そらじょう)おろすみか月 (嚢庵鬼守〔のうあんのきもり〕)
  • ・空色の羅紗の袋におさまりし薙刀なりの月そさやけき (橘貞風〔たちばなのていふう〕)

八月十三日月

  • そめ出来ぬこんやの月をながむれハ秋のもなかハたしかあさつて (あけら菅江〔かんこう〕)

*秋のもなか=秋の最中。八月は仲秋にあたり,その十五日は三秋のちょうど真中。掛詞「紺屋の明後日」
*本歌:水の面にてる月影をかぞうれば今宵ぞ秋の最中なりけり(源順,『拾遺集』)

十四夜月

  • くる\/とひんまるめたらよかろうにまたちとたらてあすを待宵(まつよい) (志月庵素庭〔しげつあんそてい〕)

*月齢14の月は,望月よりも一分欠けるので〈小望月〉の名もある。

十五夜月

  1. くひたらぬうハさもきかず唐大和(からやまと)たつたひとつのもち月の影 (浜辺黒人)
  2. 桂男ハ下戸か上戸かさかつきの影とハ見えてもち月の影 (山手白人〔やまてのしろひと〕)
  3. 名月の夜を昼にしてあそはゝやつとかへこうと鳥のなくまて (筑波根岑依〔つくばねのみねより〕)
  4. お月さまいくつととへハ十三にふたつまさりてお名の高さよ (蘭水〔らんすい〕)
  5. しら露の玉を今宵の十露盤(そろばん)に三五十五の月とこそおけ (無銭法師)

*旧暦8月15日の月。望月,名月,明月,三五の月,芋名月,十五夜,月が出ない夜には「無月」とも言った。
2 桂男…月に住むという人。
3 掛詞「とつかへこう」…鶏の鳴き声の擬声語と取り替えよう

十五夜雨ふりければ

  • 名月の雲間にひかる君まさてさえぬ雨夜の物かたり哉 (ちゑのないし)

*掛詞「ひかる君」…「光り輝く満月」と「光源氏」。雨が降って月が見えなくても,歌になる。

十六夜月(いざよいづき)

  • 夕霧のまよひもいまた晴れやらていてし藤屋のいさよひの月 (四方赤良)

十七夜月

  • ぬきはなす雲間の影ハものゝふの腰にさしたるたち待の月 (あけら菅江)
  • 居合腰ていまや\/とこい口のはなれを見たきたちまちの月 (燕斜)

*月齢17の月を別名「立待(たちまち)月」という

十八夜月

  • 今少しいまちと\/とまたするハ思はせふり歟(か)二九の月かけ (燕斜)
  • とつくりとろくに居待ちの月かけハ天もく酒やひつかけて見む (志月庵素庭)

*月齢18日の月を「居待(いまち)月」という。「ろくに居待ちの」はあぐらをかいてじっくり座って。

十九夜月

  • はなかつほふして待夜の蕎麦切ハ桂男(かつらおとこ)にのひくさつたか (梅人)

*月齢19の月を別名「臥待(ふしまち)月」「寝待(ねまち)月」という。

安永八(1779)年8月13日~17日まで,太田南畝が主宰して高田馬場――信濃屋――で開催した「月見の宴」。朱楽菅江,相場高保,春日部錦江,出来秋万作,浜辺黒人〔はまべのくろひと〕らが参加。唐衣橘洲は病気で不参加。

 そして,江戸狂歌は,なんと天体現象である〈月蝕〉まで詠んでいるんですよ。

十五夜月食しけれは

  • あかるまぬ柿とやいはむほん丸の月もしふ半かくる今宵ハ (燕斜〔えんしゃ〕)

「月を柿に見立てるといういささか無理な趣向ではあるが,月蝕時の月の形や色の変化を巧みに関係付けた点に手柄がある。「しぶ半」の語には,たかが狂歌とはいえ,語飾のために事実を曲げることをしない,江戸戯作の持つ素朴な写実主義の面目躍如たるものがある。」(上掲書,175ぺより)

 以上,陰暦8月の月を紹介しましたが,陰暦9月13日の月も――「後の月」と呼ばれ――賞玩されたそうです。

十三夜月

  • つく\/と見れハとこやらミか月のおさな顔ある十三夜かな(栗山〔りつざん〕)
  • 十三てはつかりはれし空われに月のさハりの雲もかゝらす(四方赤良)

*十三という数字は思春期の女性を指すことが多い。

『徳和歌後萬載集』の〈月〉

『万載狂歌集』の2年後に出版された『徳和歌後萬載集』にも,下のような狂歌が取り上げられていました。

十五夜月

  • 天の原月すむ秋をまふたつにふりわけみればてうど仲麿 (朱楽菅江)

*本歌取り:天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも(阿倍仲麿,『古今集』)

望月の夜の空さだめなければ

  • 千金の名だかき月の雲間よりせめて一二分もれ出よかし (四方赤良)

十六夜月

  • かたぶけしきのふの酒の二日酔そらにいさよふ盃のかげ (節松嫁々)

立待月

  • 望月とあいた一夜のたちまちにすこしかけても影のさやけさ (秋風女房)

はつき廿一日の夜月をみ侍りて

  • そろばんのそろ\/かけし月かげをみやさん七の二十一日 (大事三昧〔だいじさんみ〕)

十三夜月

  • きく月の月見はもちの月ならず 籬(まがき)に花のさけや盃 (あけら菅江)

*こちらも9月13日の夜の月のこと。9月の月見には団子を供えない。

以上で,江戸狂歌集で見つけた「仲秋の名月前後の月」を詠んだ哥の紹介を終わります。

理系の目で観る月の満ち欠けと月の出の時刻の変化

月の満ち欠けの周期

月の公転周期――月が地球のまわりを2周する時間――は約27.3日ですが,地球も月を連れながら太陽の周りを公転しているので,27.3日たっても次の満月にはなれません(右図)。
実際の月の満ち欠けの周期が約29.5日なのは,この角度の差が2日分あるからです。
図は,https://global.canon/ja/technology/kids/mystery/m_01_11.htmlより。

月の出の時刻

ところで,昔の日本人は,〈日々姿を変える月の姿を表すため〉に,さまざまな呼び方をしていました。特に,月齢15(満月)以後の月を,月齢16(いざよい月)→月齢17(立待月)→月齢18(居待月)…などと呼んで,月の出るのをまだかまだかと〈待っていた〉ようです。
それでは,月の出は,どれくらい遅くなるのでしょうか? あなたは,どれくらいだと思いますか?

〔問題1〕 満月(月齢15日)を基準にして月齢16日の月(いざよい)はどれくらい遅れて出てくると思いますか?
 〈予想〉 
  ア 10分くらい後に出てくる
  イ 20分くらい後に出てくる
  ウ 30分くらい後に出てくる
  エ 1時間ぐらい後に出てくる
  オ もっと遅れて出てくる

結果は…ずっと下に ↓

〈結果〉
2026年の石川県の月の出の時刻をあるサイト(下記参照)で調べてみました。
  9月27日(日) 17:47頃 満月
  9月28日(月) 18:16頃 いざよい月
となり,前日の満月から約29分遅れでいざよいの月が出てくるようです。
右図では満月=月齢16となっているので1日ズレてきますが,気にしないでください。
ここでは,満月=15日として考えていきます。

〔問題2〕それでは,月齢17(立待月),18(居待月),19(寝待月,臥待月)…の月の出は,前日に比べてどれくらい遅く出てくると思いますか?
 〈予想〉
  ア 「満月→16月」と同じくらい(1~2分は誤差の範囲)
  イ だんだん遅くなる。
  ウ だんだん早くなる。
  エ 決まっていない。

結果は…ずっと下に ↓

〈結果〉
2026年9月27日の満月~21日までの月の出の時刻を見てみましょう

  9月27日(日) 17:47頃 満月
  9月28日(月) 18:16頃 いざよい月(前日+29分)
  9月29日(火) 18:50頃 立待月(前日+34分)
  9月30日(水) 19:30頃 居待月(前日+40分)
  10月1日(木) 20:19頃 臥待月(前日+49分)
  10月2日(金) 21:18頃 更待月(前日+59分)
  10月3日(土) 22:25頃 下弦月(前日+67分)

となり,月の出の時刻は,前日と比べてだんだん遅くなっていることが分かります。しかし,このままずっとだんだん遅くなるはずがありません。そんなことをすると,月を見ることが出来なくなりますからね。
何かを境に,こんどはだんだん遅くなる割合が少なくなってくるのでしょう。
ここで,さらに前後の満ち欠けを見てみましょう。

下に示した〈月の満ち欠けと月齢〉の図は,2026年9月20日~10月10日までの「石川県の月齢と月の出入の時刻」一覧です。
これを見ると,月の出の時刻が規則正しく遅くなっているわけではないようです。それどころか早くなっているようにも感じます。

2026年9月20日~10月10日までの「石川県の月齢と月の出入の時刻」

あとは自分で計算してみて下さい(^^;)

結果としては,月の出は前日よりも遅くなるのですが,遅くなる程度は,日によって違うようです。その幅は,上のカレンダーの場合には,約25分~75分の幅があるようです。
なお,月の出の遅れる訳について,分かりやすい解説動画を見つけましたので,ご覧ください。

月の出の遅れ方は〈平均約50分〉と覚えておけばいいでしょう。
この月の出の時刻の遅れ方が一定ではないのは,観察地点の緯度や地球と月と太陽の位置関係にも関係しているようです。
これ以上は,余りにも専門的になるので,ここらで終わります。
そんなに理科系に入って行けないよ~ってね。
ご静聴ありがとうございました。

菜の花や月は東に日は西に(与謝蕪村)

与謝蕪村(1716-1783)がこの俳句を詠んだとき,彼が見た月の形はどんな形でしょうか?


蛇足:〈月の出の時刻〉の遅れの不思議

それでも月の出の時刻が気になる方のために,Geminiの答えをお教えします。
ほんと,これ以上は,ご自分でネットサーフィンしてくださいね。

白道(月の通り道)と地平線の角度
これが最も大きな要因です。月は地球の周りを公転していますが,その通り道である「白道」は,地球の赤道や地平線に対して傾いています。
角度が急なとき: 月が地平線に対して垂直に近い角度で昇ってくる時期は,月の移動距離がそのまま「高さ」に反映されるため,月の出の遅れは小さくなります(秋分ごろの満月など)。
角度が浅いとき: 月が地平線に対して横になめるように昇ってくる時期は,月が移動してもなかなか地平線の上に顔を出さないため,遅れが大きくなります(春分ごろの満月など)。
 白道も変化する→暦wiki

月の公転速度の変化(ケプラーの法則)
月の公転軌道は完全な円ではなく,少しつぶれた楕円形をしています。
地球に近いとき(近地点): 月の公転速度が速くなります。月がより遠くまで進むため、地球がその分余計に自転しなければならず、遅れが大きくなります。
地球から遠いとき(遠地点): 月の公転速度が遅くなります。月の進む距離が短いため,追いかける自転時間も短くなり、遅れは小さくなります。

まとめ

これらの「角度の問題」と「スピードの問題」が複雑に組み合わさるため,毎日の遅れ方にバラつきが生まれます。

要因遅れが小さくなる条件遅れが大きくなる条件
軌道の角度地平線に対して垂直に近い地平線に対して並行に近い
公転速度地球から遠い(ゆっくり)地球に近い(速い)

ホントに終わり(^^;)

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