珠洲の珪藻土について(3部作)

レポート綴

珠洲市理科教育研究会で発表した資料「珠洲の珪藻土(3部作)」を紹介する。
『無尽蔵といわれる珪藻土掘削場の見学』は,珪藻土掘削場見学記と珪藻や珪藻土について調べたことをまとめたものである。『珪藻土の埋蔵量はどれくらいなのか』(2ページ)『珠洲の珪藻土埋蔵量を調べてみた…一応の決着』(3ページ)は,珠洲の珪藻土埋蔵量の数字が文献によって違っていることを見つけ,「本当の値」を見つけるまでの〈わたしの総合的な学習〉を,時間に沿ってまとめたものである。
いずれのレポートも,HP化するにあたり,誤字・脱字などは訂正した。

2025/09/11 記

無尽蔵といわれる珪藻土掘削場の見学

正院小(当時) 尾形正宏
2005.07.16 記
2006.01.17追記

2005年7月7日,珠洲市理科教育研究会の現地見学研修会に参加した。
今回は,前々から一度は見たいと思っていた珪藻土の地層の内部を見るのだ。珠洲市内に珪藻土を掘り出している場所があるのは知っていたが,実際にその場所は知らないし,ましてや掘削用のトンネルに入ったことはない。珠洲市に住んでいながらも,珪藻土について余りにも知らない自分が情けなくなってしまう。
今回の見学を機会に,珠洲の珪藻土や,珪藻土を使った製品などについて調べてみたので,見学記とともにまとめてみた。

1 写真でみる珪藻土掘削場見学

珠洲には,珪藻土を掘っている会社が,いくつかある。今回は,そのうちの1カ所の採掘用のトンネルに案内してもらい,あとは,場所だけ確認するという計画だった。

①能登燃焼器工業の採掘穴に入る

いよいよトンネルの中へ

まずは,上戸町の能登燃焼器工業の舟場さんに粗堀りトンネル内を案内してもらった。
ここには,以前,学校で珪藻土を彫刻したときにそれを焼いてもらうため,6年生の子どもたちと一緒におじゃましたことがある(場所はトンネルのある建物から100mほど離れた窯のある工場)。しかし,採掘している穴に入るのは今回がはじめてだ。足下には長靴を履いて,頭には帽子をかぶり,いざ,トンネルの中へと案内してもらった。
入る前から,トンネルからはひんやりした空気の流れが出てくる。舟場さんのあとについて中にはいると,7月なのに寒いくらい。
前日までは梅雨らしい雨が降り続いており,足下にはところどころ水たまりもあり,ずいぶんと危なっかしい。掘ったあととはいえ,当然ながら周りじゅう珪藻土の上に水をためその上を歩いているという状態なので,滑るのは当たり前。しかも,ゆったりとした勾配ながら,トンネルは少しずつ坂道をあがっていく感じだ。それでも転ばずになんとか終点まで行くことができたのが,日ごろの体力づくりの成果か?

春前にここに来たことのある理科部員の話によると,
「コウモリがすぐにつかめるくらいの天上にたくさんぶら下がっていた。」
ということだったが,今回はみんな出て行ってしまっており,コウモリを見ることはできなかった。舟場さんによると,コウモリは冬じゃないと戻ってこないそうだ。これは残念!
粗掘りのトンネルは,途中で数カ所,分岐する場所もあった。質のいい珪藻土を求めて掘り進めているのだという。

ついに突き当たりへ

入口から約400mあたりで,やっと壁の突き当たりに来た。誰も転ぶものがいなくて一安心。
突き当たりの壁を,手掘しているおじさんがいる。切り出し職人の下さんだ。
ひとり,こんな所でこつこつと珪藻土を掘っているとは恐れ入った。何とも地道な作業じゃないか。「珪藻土の掘り出しコンロが高いのも仕方ないね」と皆さん納得。

写真では見えにくいが,絵にすると右絵のようになっている。この絵は,「2003年8月27日朝日新聞東京本社夕刊のマリオン紙面」の「くらしの良品探訪」に紹介されたときのもの。(アドレスは,http://www.asahi-mullion.com/mullion/column/ryouhin/30903index.html)。この記事には,次のような説明もある――

「壁一面を平らに削り落とし、表面に格子状に線を引いて溝を彫っていく。溝の深さは約50センチ。それが七輪の高さになる。溝を彫り終わると、背面だけが壁につながった四角い塊が格子状に並ぶ。クサビを打ち込んで、塊をはずしていく。昔ながらの手作業。1段分で、ほぼ1日が終わる。生瀬さんは、もう50年この仕事を続けてきた。「モグラみたいに、よく穴ばかり掘ってきたもんだ!」(引用者註:生瀬さんというのは,珠洲の別の職人さんである)。

ここまで来て,入り口からずっと続いていた天上と壁の規則正しい模様の意味がよく分かった。この模様は,珪藻土を約50センチで粗彫りしていくときにできる,壁一面分の区切りなのである。約50センチの深さにノミを入れるのだが,そのとき,周りを5センチくらい残して入れ,やや外側に(天上の場合はやや上に)終点が来るようにしているのだ。だから,同じ模様がずっと続いているというわけだ。成る程。

ノジュール

ここの珪藻土層にはほとんど混じり気がないそうだが,ときどきノジュールというもの――珪藻土に核ができてその周りに珪藻土がついて他の部分より少しかたくなった塊――が見つかるそうだ。ノジュールといえば,「割ると化石が出てくる岩石を呼ぶときと同じだ」と思って「それを割ったら化石が出るのでは…」と騒いでみたのだのだが,そんなことはないらしい。

トンネルの外へ

帰りも転ばないように注意しながら,どうにか出口にでた。ついでに,コンロの工場へもよることにした。職人さんがノミで彫っているところだった。
好奇心旺盛なメンバー達は,ここでも色々と質問をして,しっかり研修を積んだのであった。

ノミで卓上用コンロを仕上げている

②その他の掘削場

能登燃焼器工業さんの掘削トンネルをあとにした私たちは,市内にある他の珪藻土掘削場の場所の確認をすることにした。わたしは自分の車で行ったのだが,前の車について行っただけなので,だれかに「オレもその場所に連れて行ってくれ」と言われても,案内する自信は全くない。カーナビ掲載も怪しい山道も通ったし,途中で道に迷ってUターンしたり…。
結局,能登燃焼器工業のトンネル以外にも3箇所の掘削場所の見学をした。
能登ダイヤ,丸和工業,そして鍵主工業である。能登ダイヤと丸和工業は,能登燃焼器と同じトンネル方式。鍵主工業さんの所は,露天掘りの場所だった。それでは,写真を紹介しよう。

能登ダイヤの採掘場(坑道)

無断で掘削トンネルの中に入るわけにはいかないので,入口から中の方を撮影した。

丸和工業の採掘場(坑道)

つぎに丸和工業の採掘場に向かった。坑道の前には「危険立入禁止・丸和工業」の文字が。いい子は,これ以上勝手に入ることをしなかった。

鍵主工業の露天掘り掘削場

最後に向かったのが,鍵主工業の掘削場だ。ここは,珪藻土の固まりを掘り出すのではなく,砕かれたものをそのままつかっている。
だから,ユンボでガガガッ~て掘り,トラックに積んで蛸島の工場にまで運んでいるのだ。
そこで珪藻土をよく砕き,しっかり練り合わせ,コンロの形に整える。いわゆる「錬成コンロ」といわれる作り方である。これは「切り出しコンロ」とは違い大量生産に向く方法だ。

さて,この場所のむき出しの壁をよく見ると,切り出しコンロのトンネルにあったのと同じような模様があるのに気がつく。そう,おそらくここも,以前は他の珪藻土工場と同じように手彫りをしながら四角い固まりを掘り出していたのではないか。それが,何かの原因で,露天掘りをするようになったのではないかと推察されるのである。鍵主さんに聞いてみれば分かることだけど…。
てなわけで,鍵主さんにメールで聞いてみた。すると,次の日,すぐに返事が届いた。

ご質問の採石場の地番は引砂になります。
ご想像のとおり、あの穴は坑道掘りの跡です。
商売としては安全管理や採石量に大きく影響する為、あまりありがたい穴ではありませんが、昔どのように掘っていたかを見るには格好の断面かもしれません。
しかし、敷地内は通常の生活では想像すら出来ない危険が潜んでおります。
子供達への紹介には特段の配慮をお願いします。
弊社社員立会いでの見学会は遠慮なくおっしゃってください。

というわけで,わたしたちもちゃんと連絡を取ってから見学すべきだったと反省したのであった。

2 珠洲の珪藻土

珠洲の珪藻土は,珠洲市全域に埋蔵している。埋蔵量は48.5億立米※1と言われ,日本一の埋蔵量を誇っている(珠洲市の面積が約2.5億平米だから,珠洲市全体に20mの厚さに積もっていると考えてよい)。一般に粘土などの不純物が多く精密な吸着剤や濾過助剤には向かないが、成形性に優れ,古くからかまど・七輪等、断熱材として使用されてきた。
珠洲の珪藻土がはじめに歴史文献に登場するのは江戸時代で、あげ浜塩田のかまどとして焼成せずにそのまま使われたとされる。

※1 珠洲市の珪藻土埋蔵量については,珠洲市編纂『珠洲のれきし』では48億5000立法メートルとある。この数字との出会いから始めた〈原本等にあたる調査〉を2本のレポートにまとめた。興味のある方はお読み頂きたい。謎解きの読み物になっているはず。
珠洲の珪藻土の埋蔵量は?

①「珪藻」とは何か

「珪藻」というのは何か。ネット上で読めるフリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』の解説を以下に引用する(この「ウィキペディア」は,無料です。けっこう使える百科事典だと思います)。

ケイソウ(珪藻)は、不等毛植物門ケイソウ綱(あるいは原生生物ストラメノパイル)に属する藻類であり、単細胞、または複数の藻体が集まって群体を形成する。細胞がケイ酸質(二酸化ケイ素)でできた殻に入っているのが特徴である。光合成色素として、褐藻などと同じくクロロフィルa、c1、c2。補助色素としてカロテノイドであるフコキサンチン、ジアトキサンチン、ジアジノキサンチンなどを含む。黄褐色にみえる。葉緑体の包膜が4重であることから光合成機能の獲得は二次共生によるものだと考えられている

そして,珪藻土については,

ケイソウが海や湖などで大量に増殖した後、死滅するとその死骸は水底に沈殿する。 そして、死骸の中の有機物の部分は徐々に分解されていき、最終的には、主に二酸化ケイ素からなるその殻の部分だけが残る。 このようにしてできたケイソウの化石からなる岩石がケイソウ土である。 ほとんどは白亜紀以降の地層から産出される。

とあった。二酸化珪素と言えば,石英。ガラスの主成分でもある。結局,小さなフラスコみたいモノがたくさん集まって泥岩に混じっているのが珪藻土のイメージなのかな?

②珪藻土の中の化石-アロデスムス

そんな珪藻土の地層からは,よく化石が産出するらしい。鍵主工業にある私立「珪藻土資料館」にも,珪藻土の地層から産出した様々な化石が展示されている。
そして,10年前,珠洲の珪藻土層から,スゴイ化石が出たのである。それが,アロデスムスという生き物の化石である。
このアロデスムスの化石発見について,珠洲市教育委員会の文化財の解説を見てみよう。

平成8年(1996年)、珠洲市三崎町杉山の珪藻土の採掘坑で、アロデスムスの化石が発見されました。ほとんどの骨が関節でつながった状態で、ほぼ全身にわたる骨片が見つかりました(残存率64%)。左側の肋骨には海綿が付着してあけた穴が多数あり、このアロデスムスの遺骸は、右を下にして泥に埋没したが、上になった左がしばらく海中にさらされていたようです。
ほぼ全身の状態がわかる例は、カリフォルニア州についで2例目となる貴重なものとわかったため、化石を市文化財に指定し、保存処理とFRPで全身の復元骨格標本を製作することになりました。そして平成14年10月26日の珪藻土彫刻大会において、完成した骨格標本の一般公開にこぎつけました。

③アロデスムスとは

アロデスムスなんて,全く聞いたことがない。まあ,珠洲から出てこなければ,どうでもいい生き物だ。でも,珠洲と絡んでしまったからには,珠洲の理科教師として少しは説明できなくてはなるまい。珠洲のことなのに珠洲以外の人が余ほどくわしかったりすることってよくあるのだが,それはちょっとねえ…。珠洲市HPの説明は,下記リンクから。

アロデスムスの復元骨格

珠洲市のサイト:https://www.city.suzu.lg.jp/soshiki/2/1048.html

鰭脚類(ききゃくるい)とは,「海生哺乳動物」の分類名の一つ。ネコ目(食肉目)の下位グループに位置づけられる。 かつては(陸生の食肉類である「裂脚類」=ネコ亜目 に対して)「鰭脚類」と呼ばれたが,この呼称は今でも使われることがある。 現在は「アシカ亜目」と呼ばれている。なお,現生の海生哺乳類としては,アシカ亜目のほかに、クジラ目(鯨目)とジュゴン目(海牛目)の2つのグループがある。

さて,アロデスムスの化石については,珠洲市以外にも産出例がある。例えば島根県の三瓶自然館には,布志名層は新生代第三紀中新世中期~後期(約1450万年~1200万年前)に堆積した地層から出てきたアロデスムスの化石の復元模型が飾られている。また,長野県松本市からは頭骨化石が出ている。

3 珪藻土の利用方法

珪藻土の利用法は,その性質を利用して,いくつかあるようだ。
これも,ウィキペディアの「珪藻土」の項目を見てみる。

①濾過剤
珪藻土の最大の用途は濾過助剤である。吸着能力が低いため,溶液中に溶解している成分はそのまま通し、不溶物だけを捕捉する性質がある。濾過の際にフィルターに微細粉末が目詰まりしてしてしまうのを防ぐためにフィルターの手前において微細粉末を捕捉するのに用いられる。
②土壌改良材
また,珪藻土は,多くの水分や油分を吸収して保持することができる。このため乾燥土壌を改良する土壌改良剤や流出した油を捕集するのに使用される。
③ダイナマイトの安定剤
アルフレッド・ノーベルはニトログリセリンを珪藻土に吸収させることで安定性を高めたダイナマイトを発明したそうだ。しかしノーベルはその後,はるかに爆発力の強いブラスチングゼラチンスタイルのダイナマイトを開発したため,珪藻土を使ったダイナマイトは科学史のトピック的存在にとどまったという。
④保温剤や絶縁体
珪藻土は,耐火性が高く,空気を多く含む。また,軽くて断熱性にも優れているため,建材や保温材として利用されている。また電気を通さないので絶縁体として,さらには,適度な硬さから研磨剤としても使用されている。七輪は粉砕しない珪藻土層を切削整形し,焼結して制作する。
⑤その他
なんと太平洋戦争中には,ビスケットやキャラメル等,菓子類の増量剤として使われたことがあったそうである。ん~珪藻土を食べていたと言うことか…。
実に様々な使い方をする珪藻土なのであった。

4 珪藻土から珪藻化石を取り出す方法

珪藻土から珪藻を取り出す方法を調べてみた。専門家の説明にはいろいろと厳密に書いてあるけど,単に観察するだけなら,もっと簡単である。
珠洲市理科研究会でも数年前にやってみたことがあった。プレパラートを作るのなら,下のようにやるといいだろう。
①準備するもの
□珪藻土(ケイソウを含んだ泥岩)  □水  □上皿天秤  □駒込ピペット
□乳鉢  □ガラス棒  □スライドガラス  □カバーガラス 
□封入用の薬品  □焼き入れ台(ホットプレートでも可)  □ラベル
②作成の手順
1 試料2gをはかりとり乳鉢で軽く粉砕する。前段階は手でも十分可能。
2 これに水を1ml加える。まあ、厳密な物ではありませんね。
3 ガラス棒で良く撹拌し10秒待ち、上部の白濁液をスポイトで3・4滴とり、焼き入れ台に並べたスライドガラスに載せる。このときの白濁層の濃度が高すぎると、試料中の泥やケイソウが重なり、また低いと、検鏡しても完全なケイソウが見つかりにくくなる。飲むときのカルピスの濃度ぐらいが適当だそうだ。まあ,試行錯誤すればいいだろう。
4 加熱乾燥すると、乾いてガラスに付着する。
5 スライドガラスを焼き入れ台からおろし、しばらく空冷。
6 封入用の液を1・2滴スライドガラスに落とす。
7 封入用の液が白濁液が乾いた上に広がるように、カバーガラスをかける。
8 最後にラベルをはって完成。産地などを書いておく。
9 顕微鏡で見る。
封入用の液など,さらにくわしいことが知りたければ,「珪藻化石の処理方法」(https://apec.aichi-c.ed.jp/kyouka/rika/chigaku/2018/diatom/diatom.html)などネットをご覧あれ。

珪藻・珪藻土について(参考になるサイト)

珠洲市の珪藻土会社
能登燃焼器工業(NOTONEN)
(有)丸和工業
株式会社鍵主工業
■能登ダイヤ…2024年能登半島地震により営業を停止しました。

■珪藻の世界(https://www2.u-gakugei.ac.jp/~mayama/diatoms/Diatom.htm
東京学芸大学真山茂樹先生制作。珪藻の採取・観察の仕方から,学名の語源まで,幅広く書かれています。とっても話題が豊富なサイトです。
■WEB図鑑「珪藻」(https://www.biwahaku.jp/study/atlas/
滋賀県立琵琶湖博物館の大塚泰介氏のサイト。珪藻の学名から顕微鏡写真をみることができます。検索もできます。珪藻の名前を知っていないと使えませんが,きれいだなーといって,順番に見ていてもバチは当たりません(^^;)
■ミクロワールドサービス(https://micro.sakura.ne.jp/mws/
とにかく,きれいに並べられた珪藻の顕微鏡写真がステキです。
今の珪藻もあるし,珪藻土から採取した珪藻写真もあります。珠洲市の珪藻土からのものもあります。珪藻のプレパラートも販売しています。
■珠洲市(https://www.city.suzu.lg.jp/soshiki/2/1048.html
珠洲市で発掘されたアロデスムスが紹介されているHPです。
まだまだいっぱいありましたが,ここでは主なモノだけ紹介しました。ネット上で調べてみると学者じゃなくても珪藻に興味を持って写真を撮っている方々も多いみたいです。なんでも趣味になるんだなあ。

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