上級編 『狂歌集』より(其ノ壱)
『万載狂歌集』(1783年)を読む
『万載狂歌集』(まんざいきょうかしゅう)は,天明3年(1783年)正月刊行。故人を含めた232人の748首を集めています。全17巻。編集者は,四方赤良と朱楽菅江。刊行者は須原屋伊八。この書名は『千載和歌集』のもじりです。章立てまで『千載和歌集』にならっています。この狂歌集がそれ以後の江戸狂歌の隆盛をまねきました。
ここでは,宇田敏彦著『万載狂歌集(上下)』(現代教養文庫)を元に狂歌の数々を紹介していきます。今なら,2024年発行の『万載狂歌集 江戸の機知とユーモア 』(角川ソフィア文庫)という本が手に入れやすいでしょう。
なお,下巻末には「万載狂歌集作者名略歴」「万載狂歌集作者索引」「万載狂歌集初句索引」が準備されており,検索にも便利になっています。
*狂歌の作者名は本書表示のとおりです。例:朱楽菅江→あけら菅江
*濁点などはありませんので,補って読んでみて下さい。特に,掛詞の場合には漢字ではなく,ひらがなで書かれていることが多いです。
例:やとかしてくれなゐ里の岩つゝし 火ともし頃の旅そ物うき→宿貸してくれない(「呉れない」と「紅」)里の岩躑躅 火点し頃の旅ぞ物憂き
*仮名の反復記号(ゝ ゞ 々 )は原文のままですが,言葉の反復記号(縦書きで「く」が長くなった形の記号)は「\/」と表しました。
巻第一 春歌(上) 五十五首
- ことしより拍子なほらん天からの めくミをゑたる鍛冶か初夢 (隣鶴)
- はこの子のひとこにふたこ見わたせハ よめ御にいつかならん娘子 (四方赤良)
- けふハまた引手あまたの姫小松 たれとねの日の春ののへ紙 (あけら菅江)
- 紅梅と名によはれぬるおはしたの ほう先にこそかハしられけれ (布留田造)
- 目の前で手つからさくやこのはなに 匂ふうなきの梅かかはやき (あけら菅江)
- 我年も八々六十四方(よも)の春さかり 久しき梅花心易(ばいかしんえき) (杵菴〔しょあん〕)
5 難波津に咲くやこの花冬ごもり今を春べと咲くやこの花(「序」『古今集』)
巻第二 春歌(下) 四十三首
- いく本もさくやうなきのかはさくら 匂ふはなにハたれもこかるゝ (もとのもくあみ)
- 吉原の夜見せをはるの夕くれハ 入相(いりあい)の鐘に花やさくらん (四方赤良)
- 咲花のかへる根付の琥珀にも なりて木かけの塵をすハはや (四方赤良)
- 盃のうかむ趣向にまかせたる 狂歌ハ何の曲水もなし (四方赤良)
- つはくらの軒端につちをくハへ来て うち見るたひに出る子宝 (とめ女)
- やとかしてくれなゐ里の岩つゝし 火ともし頃の旅そ物うき (山手白人〔やまてのしろひと〕)
- 七へ八へへをこき井手の山吹の ミのひとつたに出ぬそきよけれ (四方赤良)
2 山里の春の夕暮れ来てみれば入相の鐘に花ぞ散るらむ(僧能因,『古今集』)
6 世の中をいとうまでこそかたからめかりの宿りを惜む君かな(西行,『新古今集』)
7 七重八重花は咲けども山吹のみのひとつだになきぞ悲しき(兼明親王,『後拾遺集』)
巻第三 夏歌 五十八首
- ほとゝきすなきつる方をなかむれハ たゝあきれたるつらそのこれる (平郡実柿〔へぐりのさねがき〕)
- かまくらの頼朝殿にとこかにて かつほもよほと大あたまなり (卯雲〔ぼううん〕)
- またくらやいとゝぬまぬまぬまつかん ふけたの早苗とれる早乙女 (平郡実柿)
- 木ふりよくおひたち花の顔ミれハ さすかの雲井のおとしたねなり (好腹万図伎〔すきはらのまずき〕)
- 五月雨に黴(かび)てなりともところところ 兀(はげ)のひたひに毛かはえよかし (雄長老〔ゆうちょうろう〕)
- さかつきを月よりさきにかたふけて また酔なからあくる一樽 (山手白人)
- 今朝ミれはいつしかよへをひりおきて いとゝねくさき床夏の花 (四方赤良)
- なかれゆく蝋燭の金かほしいなあ 一夜三百両こくの舩 (へつゝ東作)
- たくハへもみな月はてゝ一文も けふハなこしのはらへたにせす(あけら菅江)
1 郭公鳴きつる方をながむればだた有明の月ぞ残れる(後徳大寺実定,『千載集』)
6 夏の夜はまだ宵ながらあけぬるを雲のいずこに月宿るらむ(深養父,『古今集』),やどりぬる盃の影涼しさにまだよひながらあるく酒たる(風水軒白玉,『雅筵酔竹集』)の2首
7 ちりをだにすゑじとぞ思う咲きしより妹とわがぬる床夏の花(凡河内躬恒,『古今集』)
巻第四 秋歌(上) 四十首
- ほとゝきす八千八声(はっせんやこえ)あまりてや けふ文月(ふみつき)にふミかけて鳴 (大根太木〔おおねのふとき〕)
- 年に一度おあひなされてぬる数ハ いくつときかまほしの合(あい)の空 (藤本由己〔ゆうこ〕)
- 箱入りおり姫なれと此ゆふへ 天の川原へ下りそうめん (智恵内子〔ちえのないし〕)
- ぢり\/とこの身につまるひきかへる ぬり盆まへのあふらあせ哉 (峯松風〔みねのまつかぜ〕)
- 塩鮭のからき浮世のせめ太鼓 うつやてん\/舞の一さし (あけら菅江)
- はすはなる軒端の萩(おぎ)の秋風に 碁をうつ蟬の耳やかしまし (山手白人)
- 萩見んとむれつゝ来るに藍さひのかすりの衣着ぬ人ぞなき (四方赤良)
- 露よりも心を置て通るなり このひとむらハ皮はきの花 (山手白人)
- をミなへし口もさか野にたつた今 僧正さんが落(おち)なさんした (四方赤良)
- 秋の夜の長きにはらのさひしさハ たゝくう\/と虫のねそする (四方赤良)
- 見わたせハかねもおあしもなかりけり 米櫃(こめびつ)まてもあきの夕暮 (紀野暮輔〔きのやぼすけ〕)
2 年ごとに逢うとはすれど七夕のぬる夜のかずぞすくなかりける(凡河内躬恒,『古今集』)
6 『源氏物語』「空蝉」の巻,「空蝉が継娘・荻と碁に興じているのを,光源氏が垣間見る場面
7 花見にとむれつゝ人の来るのみぞあらた桜のかがにはありける(西行,『玉葉集』)
8 詞書(狂歌のまえがき)に「穢多村を過侍りしに萩のさかりなれハ」とある。
9 名にめでてをれるばかりぞ女郎花我落ちにきと人に語るな(僧正遍昭,『古今集』)
10 秋の夜の明くるも知らずなく虫はわがごと物や悲しかるらむ(藤原敏行,『古今集』)
11 見渡せば花も紅葉もなかりけり浦のとまやの秋の夕暮(藤原定家,『新古今集』)
巻第五 秋歌(下) 六十六首
- かくはかりめてたく見ゆる世の中を うらやましくやのそく月影 (四方赤良)
- ひとつ過ふたつ過たる生酔ハ 三ツはかりにや月も見るらん (卯雲)
- 月見酒下戸と上戸の顔ミれハ 青山もあり赤坂もあり (から衣橘洲)
- 月しろに雲のくろ石うちはれて 空一めんの盤のさやけさ (峯松風)
- 痔のことしなさけ所のいたミより はしりといへる舩のつきしハ (瑞雲)
- 菊水をくみし彭祖(ほうそ)か長いきも まことにハあらしうその八百 (平郡実柿)
- 袖垣を横にこえたるしら菊ハ 夜はひ星とそあやまたれぬる (臍穴主〔へそのあなぬし〕)
- おはしたの龍田か尻をもみち葉の うすくこくへにさらす赤八 (四方赤良)
- 秋もはやけふ一日にせんしつめ空も渋茶の色に寒けし (山手白人)
1 かくばかり経がたく見ゆる世の中にうらやましくもすめる月かな(藤原高光,『拾遺集』)
4 秋風にたなびく雲の絶間よりもれいづる月の影のさやけさ(藤原顕輔,『新古今集』『百人一首』)
6 彭祖とは古代中国の仙人。菊水に入れた茶を服して七百余歳の長寿を全うしたと伝えられている。
7 久方の雲の上にて見る菊はあまつ星とぞあやまたれぬる(藤原敏行,『古今集』)
8 いかなれば同じ時雨に紅葉するははその杜のうすくこからむ(藤原頼宗,『後拾遺集』)

この「巻第五 秋歌(下)」には,月に関する狂歌がたくさん出てきます。夜の灯りがなかった当時の人々が,夜の月を心待ちにしていたのでしょう。特に〈月齢〉を詠った狂歌をまとめてみました。
『江戸狂歌と月』――なんと〈月蝕〉についても書かれていますよ。
巻第六 冬歌 五十三首
- いつハりのある世なりけり神無月貧乏神ハ身をもはなれぬ (雄長老)
- 山人ハ冬そひもしさまさりけん あえ物くさもかれぬとおもへは (未得〔みとく〕)
- じやうはりの鏡のやふな氷ミちすへると見るめはちをかくはな (一之〔いっし〕)
- なかめてハかよひくるハの雪の日も よしはら駕籠のよしや世の中 (王子詣〔おうじもうで〕のきつね)
- 鉢の木のその時よりも多からめ佐野の庵(いおり)につもるしら雪 (貸本人和流〔かしもとのひとわる〕)
- 命こそ鵞毛(がもう)に似たれなんのその いさ鰒(ふぐ)くひにゆきのふるまひ (から衣橘洲)
- 借金も今ハつゝむにつゝまれす やふれかふれのふんとしの暮 (あけら菅江)
- まつ春の宵一刻の千金を すこしかりたき年のくれ哉 (蛙面房〔あめんぼう〕)
- 願ひしちくとく御礼ハ申さねと ことしハ安楽こく町の暮 (平秩東作)
1 いつはりのなき世なりけり神無月誰がまことより時雨そめけむ(藤原定家,『続後拾遺集』)
2 山里は冬ぞ淋しさまさりけん人目も草もかれぬと思へば(源宗丁,『古今集』)
3 浄玻璃の鏡…地獄の閻魔庁にある鏡。亡者の生前の所業を映し出すという。
4 流れては妹背の山の中に落つる吉野の川のよしや世の中(よみ人知らず,『古今集』)
5 謡曲「鉢の木」4番目,最明寺物。世阿弥作。
6 雪ハ鵞毛ニ似テ飛ンデ散乱ス。人ハ鶴氅(かくしょう)ヲ被テ立ツテ徘徊ス(白居易,『和漢朗詠集』)
7 諺「褌をしめぬときんが大きくなる」
8 七言絶句「春夜」…春宵一刻直千金 花有清香月有陰
9 浄土(真)宗「帰三宝偈」…願以此功徳 平等施一切 同発菩提心 往生安楽国
巻第七 離別歌 十二首
- しばらくもワかれとなれバかたうでを きらるゝやうに思ふわたなべ (樋口関月〔ひぐちかんげつ〕)
- ふるさとへかへる錦の袖さへも にほふ小春の梅か加賀紋 (軽少〔けいしょう〕ならん)
1 謡曲『羅生門』で名高い渡辺綱(わたなべつのな)が鬼の片腕を切り取ったことの見立て。
2 諺「故郷へ錦を着て帰る」
巻第八 羇旅歌*1 三十首
*1 羇旅(きりょ)歌…旅に関する感懐を詠んだ和歌。和歌の部立ての一つとしても用いる。(日本国語大辞典より)
- 天龍やしやぢくの雨のふる時ハ せんどらまごらともにめいわく (梅仙〔ばいせん〕法師)
- 塩の山さしたる事もなかりけり からいめをして見るはかりなり (山岡明阿〔みょうあ〕)
- 芋をくひ屁をひるならぬよるの旅 雲間の月をすかしてそみる (もとのもくあミ)
- やすらひて松のしたぢもからさきの そらハつめたくひえの山盛 (秦久呂面〔はたのくろつら〕)
- あさ酒にまたゑひもせす京をいてゝ ふむあし一二(いちに)三条の橋 (知真〔ちしん〕)
- さよ風におなかひえてやうばごぜの 江しりかゝえて浦へこそゆけ (知真)
- 今そしるあこきか浦のさくら鯛 たひかさなれとあかぬ色とハ (へつゝ東作)
2 塩の山さしでの磯にすむ千鳥君が御代をば八千代にとぞ鳴く(よみ人知らず,『古今集』)
5 「いろは歌」の最後の部分の文句,数の最初を用いてまとめた一首。
7 逢うことも阿漕の浦にひく網の度重なれば人も知りなむ(よみ人知らず,『古今和歌六帖』)
巻第九 哀傷歌 二十四首
- はる\/と浜松風にもまれきて 涙にしつむざゝんざの声 (八百屋半兵衛)
- いにしへをすてはや義理も思ふまし くちてもきえぬ名こそおしけれ (おちよ)
- つゐにゆく道とハかねて芝ゑひの はからせ給へ極楽のます (柏筵〔はくえん〕)
- あなきたな今ハみなミのひがしれて 西より外ににげ所なし (来示〔らいじ〕)
- とゝの目ハなきあかせともはゝきゝの きゆるあハゝもしらぬうなゐ子 (もとものくあミ)
- 吹くからに山の神さへしなぬれは 無情の風を嵐といふらん (へつゝ東作)
- 老むれハおなじことこそいハれけれ おぢゝいとしやおばゝいとしや (へつゝ東作)
1と2 紀海音作の浄瑠璃『青梅撰食盛』,大坂油掛町の八百屋半兵衛が妻のお千代と心中した事件。
5 幼児のあやし言葉「ちょちちょちあわわ,かいぐりかいぐり,とっとのめ,ぐるりとまわって,ねこのめ」
6 吹くからに秋の草木のしほるればむべ山風を嵐といふらん(文屋康秀,『古今集』)
7 老いぬれば同じことこそせられけり君は千代ませ君はちよませ(源順,『拾遺集』)
巻第十 賀歌 二十七首
- 活計(かっけい)にはらのふくるゝ世にあへハ 天下たいへをこく土万民 (未得)
- あいた口戸さゝむ御代のめてたさを おほめ申(もうす)もはゝかりの関 (四方赤良)
- 盃をおさむる手にも高砂の まづ寿ふくをそいたゝいてのむ (塩屋から人)
- 床もはやおさまりてよいきミか代ハ もういく千代といハふ枕絵 (あけら菅江)
- 松かねをほりて琥珀の出(いづ)るまで 長きためしの靏(つる)のくちはし (松良〔しょうりょう〕)
2 諺「あいた口には戸はたたぬ」
3 謡曲『高砂』…「をさむる手には寿福を抱き」
巻第十一 恋歌(上) 五十一首
- わが恋ハ袖やたもとをおしあてゝ 忍ふとすれと腹に出にけり (臍穴主)
- たゝみ算おきてまつ夜ハいたつらに あふミ表のうらかたそうき (四方赤良)
- あひみてハ布施ない経にあらなくに 何と涙をけさおとすらん (布留田造〔ふるのたづくり〕)
- 君かふくほうつきなりの挑灯(ちょうちん)に 身をつりかねのかたおもひかな (未得)
- いかにせん心のたけを一字ても にじくる事のならぬ無筆ハ (浜辺黒人)
- ほとゝきす鶯よりもきゝたきハ こかるゝ壁に耳よりの声 (峯松風)
- いまさらに雲の下帯ひきしめて 月のさハりの空ことそうき (唐衣橘洲)
- ひとりねにわれハふとんの柏餅 かハひといふてさすりてもなし (臍穴主)
- おいらんにさういひんすよすぎんすよ 酔なんしたらたゝおきんせん (早鞆和布刈)
- 女郎花なまめきたてる前よりも うしろめたしや藤はかま腰 (四方赤良)
- そのはんのかけてあはぬもわりなしや たえす涙の玉ちかひして (あけら菅江)
1 しのぶれど色に出にけり我が恋は物や思ふと人の問うまで(平兼盛,『拾遺集』)
3 あひ見てはいく久(ひさ)さにもあらなくに年月のごと思ほゆるかな(柿本人麿,『古今和歌6帖』)
4 諺「提燈に釣鐘」
7 今更にうしといふこそ愚かなれかかるべき世の末と知らずや(前大僧正道玄,『風雅集』)
10 女郎花うしろめたくも見ゆるかな荒れたる宿にひとり立てれば(兼覧王,『古今集』)
11 ネタはソロバン=算法。
巻第十二 恋歌(下) 六十七首

この「巻第十二 恋歌(下)」の「詞書=前書き」には,「寄○○恋」として多くの歌が紹介されています。
以下に「○○」にあたる言葉を紹介します。
雷・畳・柱・竹子(たけのこ)・茄子(なすび)・大根・芋・柿・柚子・鬼灯・鎧・刀・扇・釣瓶・数珠・碁・鯨尺・米俵・擂鉢・巾着・十露盤(そろばん)・煙草・煙草盆・煙管(きせる)・灰吹・火入・紙入・酒・鮓(すし)・豆腐・菓子・鰹・鰻鱺(まんれい=うなぎ)・飼鳥・虱・百足・蜂・芋虫・蚤・仁王・達磨・幽霊・孟子・山伏・哥人・儒者・鍛冶・節季候(せきぞろ)・舞楽・楽人・大工・土細工・川越・米春(こめつき)・茶摘・汗・花火・松錺(まつかざり)・松誓・煎茶不逢
江戸の狂歌人は,〈身の回りのあらゆること〉を恋歌にして詠み込んで遊んでいたようですね。
どれもこれもおもしろい作品ばかりなので,ぜひ,本文にあたってみて下さい。
ここでは,ガマンして十首だけ紹介します。
- わが恋ハはなれ\/の二はしらに 木に竹つきてそひふしもなし (大井のむさと)
- うきたひに袖しほり汁からうして しのふ心をねりま大根 (から衣橘洲)
- 物思ヘバほそりにけらし鳫首(がんくび)の 長らうへくもなき命とて (へつゝ東作)
- 灰吹の青かりしより見そめこし 心のたけをうちはたかばや (四方赤良)
- あなうなきいつくの山のいもとせを さかれてのちに身をこかすとハ (四方赤良)
- かくとたにしのふ思ひを人しらミ こほるゝものハ涙なりけり (藪本医止成〔やぶもとのいしなり〕)
- 一応できかずにわうの返事まて あともうんともいハぬ君かな (一文字白根〔いちもんじしろね〕)
- かハらじとたがひにきたへあいづちの 末ハふいごのふうふとぞなる (大原久知為〔おおはらのくちい〕)
- われからとはちらう汗ハ下にのミ もゆる思ひのゆけにやあるらん (浜辺黒人)
- 姫松の姥となるまでかわらしな われにふくりのあらんかぎりハ (卯雲)
1 寄柱恋 2 寄大根恋 3 寄煙管恋 4 寄灰吹恋 5 寄鰻鱺恋
6 寄虱恋 本歌「かくとだにえやはいぶきのさしも草さしもしらじなもゆる思いを」(藤原実方,『後拾遺集』『百人一首』)
7 寄仁王恋 8 寄鍛冶恋 9 寄汗恋 10 松誓(卯雲自身のことか)

「巻第十三」は最初から抜けています。その理由をGeminiに聞いたところ,次のようなことを教えてくれました。
「13という数字は縁起が悪くて野暮だから,江戸の粋な狂歌集にはふさわしくない」という,当時の文化人たちの美意識による意図的な欠番です。落丁やミスではなく,「わざと抜いた」というのが正解です。現代の建物で4階や13階がないのと似ていますが,それを「狂歌」という遊びの文化の中でやってのけるのが、天明期の人々の面白いところですね。(以上,Geminiより)
巻第十四 雑歌(上) 七十四首
- 両国のきしによる波よるひるや 舟のかよひ路一目わからん (靏岡蘆水〔つるいかろすい〕)
- 大雪にゆきゝをふさくしなのちハ 是そ日本のかんこくの関 (平都実柿〔へぐりのさねがき〕)
- 長刀をつきに名高きむさし坊 いくさより出ていくさにそ入 (碩賢〔せきけん〕)
- 義経もとがしある身のあたかにて 勧進帳をつくり山伏 (蛙面房〔あめんぼう〕)
- 百薬の長どうけたる薬酒 のんでゆら\/く玉の緒 (から衣橘洲)
- 酒のミて足もよろ\/まかりかね さす盃のミつ四つめの錐 (三畳たゝ見)
- ありあひのちいさく見えし茶碗より 盃ばかりよきものハなし (青陽〔せいよう〕)
- はつさけに赤ゑひまきれひらめかす 尾ひれやはらをたちの魚うり (酒上ふらち)
- いとまなミ二十五桁の玉ことに ねも高\/とはしく爪おと (竹杖すかる)
- たのしミハ春の桜に秋の月 夫婦中よく三度くふめし (花道つらね=四方赤良か?)
1 すみのえの岸による波よるさへや夢の通ひ路人目よくらむ(藤原敏行,『古今集』『百人一首』)
2 娘が信濃に住んでいるのでピックアップ(^^;)
3 武蔵野は月の入るべき山もなし草より出でて草にこそ入れ(古歌,出展不詳)
4 歌舞伎『勧進帳』の舞台は石川県小松市なのでピックアップ(^^;)
5 初春の初子の今日は玉ははき手にとるからにゆらぐ玉の緒(大伴家持,『万葉集』『新古今集』)
7 有明のつれなく見えし別れよりあかつきばかりうきものはなし(壬生忠岑,『古今集』『百人一首』)
8 魚類を折り込む…はつ鮭に赤鱏まきれ平目かす尾鰭や腹を太刀の魚うり
10 たのしみは夕がほ棚の下涼み男はてゝら妻は二布(ふたの)して(作者・典拠不詳)
巻第十五 雑歌(下) 八十首

巻第十五雑歌(下)には,人生の後半~終末(含:出家)を詠んだ歌が面白かったので,まずはそれから。
- わが年もほととき過ぬさらハとて てつへんかけてそりこほつなり (もとの木あミ)
- 黒髪をおろし大根のりの道仏のそばや近つきぬらん (へつゝ東作)
- むすほれし婆阿のすさみの麻糸も うむの二ツをはなれやハする (婆阿〔ばあ〕)
- 顔による波の音かハ耳もなり 歯もこゆるぎのいそぢすぐれバ (寿角〔じゅかく〕)
- 祖父祖母(じじいばば)すくミかゞんてつふやくハ なこしかたの物語かな (如竹)
- いにしへの酒友たちをかそふれハ 十人のしう八九人ないそん (平郡実柿)
- 祖父ハ山へしはしかほとに 身ハ老てむかし\/のはなし恋しき (油煙斎〔ゆえんさい〕)
1 元木網が出家したのは天明元(1781)年のこと。
2 平秩東作が出家したのは安永八(1779)年秋のこと。
3 婆阿が剃髪したのは文政年間(1818年以降)か?
- あふミにも鞍にもならず焼すてよ ようなき人のまがりこんじやう (よミ人しらす)
- 借銭の山にすむ身のしつかさハ 二季より外にとふ人もなし (大根太木)
- から猫のミすぢの糸につなかれて 何の因果にばちあたる身を (きねや仙女)
- いたつらに過る月日もおもしろし 花見てばかりくらされぬ世ハ (四方赤良)
- 弓断(ゆだん)なくやりてみるほと奥ふかし いつあきらむる事やあり劍 (吉田氏)
- 直(すぐ)になき国の奉行と蠅のミ蚊 佞人(ねいじん)とれもいやなり (よミ人しらす)
- とらにのりかたハれ舟にのれるとも 人の口はにのるな世の中 (荒木田守武〔あらきだもりたけ〕)
- 金に花さかす相撲の土俵入 勝負ハ火水見てハ木になる (冨士鷹〔ふじのたか〕なす)
8 八重葎しげき宿には夏虫の声より外に訪ふ人もなし(よみ人しらず,『後撰集』)
10 掛詞…三味線
11 いたづらに過ぐる月日は思ほえで花見てくらす春ぞ少き(藤原興風,『古今集』)
12 掛詞…武具〔弓・槍・剣〕
13 掛詞…蠅・蚤・蚊・癩病(らいびょう)・瘡(そう:梅毒の俗称でもある)
15 掛詞…五行説〔万物は,木・火・土・金・水からできているという説〕
雑体 十六首

「雑体」には,
「短歌」「旋頭(せどう)哥」「折句哥」「物名」「廻文哥」
という小項目があります。
- かさもなしぼくりももたぬひとり身の つらさよ時雨とくはれねかし (へつゝ東作)
- むらしはでみつつゝみ草名ハしらし 花さくミつゝつミてはしらん (もとの木あミ)
1 物名。梨・栗・桃・桑・樫が隠れているよ。
2 廻文。上から読んでも下から読んでも…というやつです。
巻第十六 釈教歌 二十七首

釈狂歌(しゃっきょうか)は仏教に関する和歌。また,仏教思想に基づいて詠まれた歌。「勅撰集」の部立てとしては,『後拾遺集』に「釈教」としてみえるのが最初で,『千載集』以後は1巻として独立する。(『』「」や下線は引用者,『デジタル大辞泉』より)
- その中ハ有無をはなれし布ふくろ 子煩悩こそ即菩薩なれ (から衣橘洲)
- 日を背負(しょい)て重きあし間をゆく沼田 くたひれし身に南無あミた笠 (沢辺帆足〔さわべのほたる〕)
- 観音に魚藍(ぎょらん)もあれハなまくさき 栄螺堂とハいはしにた鍋 (四方赤良)
- すくなしとミよの仏やミますらん 後生のためににしやうつむれバ (大根太木)
- おろかなる人ハぶつとも放屁とも しらてはかなき世をやへひらん (四方赤良)
- 南無阿弥陀ふつとさとりし発心に 鬼もさつそく滅無量罪 (あけら菅江)
巻第十七 神祇歌 二十五首

神祇歌(じんぎか)は,「勅撰和歌集」の部立ての一。神事・祭礼などや神社参拝の際に詠んだ歌。『後拾遺集』に初めて設けられ,『千載集』以後は1巻として独立。(『』「」や下線は引用者,『デジタル大辞泉』より)
- 世の中にふとかるへきハ宮柱 ほそかるべきハ心なりけり (荒木田守武)
- 当世ハ神もいつハる世なりけり かんだといへとひや酒もなし (地黄坊樽次〔じおうぼうたるじ〕)
- 神もさそきゝて心地やよかるらん みこときねとかよくらの音 (平郡実柿)
- 今ハとて汗をミたらし加茂の宮 あぶミあやふミのりくらへ馬 (くさやのもろあぢ)
- いなり山きかぬいのりにうつ釘も むかにゆかりのわらの人かた (もとの木あミ)
- 心をハまことの道にいれおきて いのらハ猶も神や守らん (星直(ほしなお)つぐ)
6 心だにまことの道にかなひなば祈らずとても神やまもらむ(菅原道真,『金玉抄』)




コメント