仮説実験授業とは

仮説実験授業への手引き

文責 尾形正宏

はじめに-ボクと仮説実験授業

 仮説実験授業について説明する前に,ボクと仮説実験授業との出会いを簡単に紹介します。
 ボクは,学生時代に物理学科に所属していました。学校の勉強はそんなに熱心ではありませんでしたが,「科学は人類に何をもたらすのか(もたらしたのか)」とか「科学的に考えるということは,どういうことなんだろうか」とかいうことにそれなりに興味があって,いろいろな本を読んでいました。武谷三男さんの本などもよく読んでいました。その頃,ある先輩から教えていただいたのが板倉聖宣(仮説実験授業の創始者)という人の存在です。今から思うえば,先輩に教えてもらわなくても,遅かれ早かれ板倉聖宣という人にはいつかは出会う運命にあったのかも知れません。というのも(後で知ったのですが)武谷さんの本に,「板倉聖宣」という名前や「仮説実験授業」という言葉がでてきていたからです。一人の人が気に入ると,その人の本をとことん集めて読むーというボクのせーかくからすると,いつかは出会っていたと思うのです。
 さて,そのころのボクが一番最初に手に入れた板倉聖宣氏の本は『科学と方法-科学的認識の成立条件』『科学と仮説-仮説実験授業への道』(いずれも季節社刊)でした。2冊とも大変刺激的な本でしたが,特に『科学と方法』の方には「目からウロコ」の論文がたくさんあって,とても影響を受けました。
 それまで漠然と「教師にでもなろうかなあ」と思っていたボクは,「こんなドキドキした面白い授業がしたい」「これだけの理論に裏打ちされている授業なら,是非やってみたい」と思うことにもなりました。そして「教師になって仮説実験授業をし,科学のすばらしさ,優しさを子どもたちに味わってもらいたい」と思うようになったのです。その後,当然,板倉聖宣氏の著作や仮説実験授業に関する本を読みあさりました。
 そして,念願の教師に。ボクが教師になったちょうどその年に,仮説社から『たのしい授業』という月刊誌が創刊されました。いわばボクは『たのしい授業』と共に歩んできたとも言えるかも知れません。
 教師1年目から,ばりばり仮説実験授業をしました。いい先輩といい同僚,そして討論好きな子どもたちと応援してくれる親たちに助けられて,たのしい教師生活のスタートを切ることができたのです。
それでは,その仮説実験授業とはいかなる授業なのかを紹介しましょう。

動画「仮説実験授業を始めよう」(製作:中村 文)

約11分の動画です。仮説実験授業の定番の授業書《ものとその重さ》の最初の授業を想定して説明しています。

仮説実験授業とは何か

 さて,それでは「仮説実験授業」について説明しましょう。「仮説実験授業」について,少しは興味のある人向けに書くことにします(興味のない人が,今この文章を読んでいるとは考えられないが)。
 「仮説実験授業」は,1963年,板倉聖宣氏が「科学史研究」「科学認識論研究」の成果を元にして発表した授業理論です。「仮説実験授業」の説明を,創始者の板倉さんの言葉から引用します。

 科学上のもっとも基礎的一般的な概念・法則を教えて,科学とはどのようなものかということを体験させることを目的とした授業理論。
 この授業法の理論的基礎は主として次の2つの命題におかれている。
●科学的認識は,対象に対して目的意識的に問いかける実践(実験)によってのみ成立し,未知の現象を正しく予言しうるような知識体系の増大確保を意図するものである。
●科学とは,すべての人々が納得せざるを得ないような知識体系の増大確保をはかる1つの社会的機構であって,各人がいちいちその正しさを吟味することなしにでも安心して利用しうるような知識を提供するものである。

                              -板倉聖宣『科学と仮説』(季節社)より-

 上の2つの命題を受けて,仮説実験授業では「熱心な教師ならだれでも授業ができる」ように,教科書兼ノート兼参考書兼実験書を<授業書>という形でまとめてあります(《授業書》という形態を提出したのも元は,仮説実験授業です)。主な《授業書》には,以下のようながあります。

《ものとその重さ》《ばねと力》《溶解》《結晶》《三態変化》《燃焼》《もしも原子が見えたなら》《電池と回路》《光とむしめがね》《力と運動》《浮力と密度》《滑車と仕事量》
《花と実》《生物と細胞》《生物と種》《背骨のある動物たち》《足は何本?》《にている親子,にてない親子》《ゴミと環境》《たべものとウンコ》
《生類憐みの令》《禁酒法と民主主義》《日本歴史入門》《お金と社会》《世界の国旗》《ハングルを読もう》
《つるかめ算》《広さと面積》《2倍3倍の世界》《1と0》

など,まだまだたくさんあります。詳しくは仮説実験授業研究会の準公式サイトへ。

仮説実験授業の授業書とは

仮説実験授業の一般的な《授業書》は,次のような内容となっています。

【質問】…経験をたずねたり,知っていることをだしあったりする。気軽に考える問題。
【問題】…ここではしっかりと自分の予想を立ててもらう。「対象に対して目的意識的に問いかける」ためである。選択肢は,[問題]の意味をはっきりさせ,論点をしぼる。また,予想分布表を黒板に書き自分のクラス内での社会的位置を知る。
[理由]…各選択肢ごとに理由を言ってもらう。一通り理由がでたら,討論に移る。理由の発表だけで済ませる問題もあり得る。
[討論]…他の意見とのたたかいである。発表の強要は絶対しない。つまり,発言しない自由を認める。討論の後,予想変更を聞く。ただし,論点のはっきりした討論があった方が実験に対する意気込みも違ってくる。
[実験・観察]…どの予想が正しかったかを決めるためにするのが[実験]である。[観察]も,予想を立てて見ることで実験的なものとなる。このように考えると,「社会の科学」でも,予想を立てて主体的に調べることで仮説実験授業が可能となる。器具をさわる,器具になれるのは[作業]ととらえる(だから教科書の「実験」の中には作業がたくさんある)。実験結果についての解釈はいっさいしない。これは,押し付けの排除である。疑問があれば,次の問題で自分の仮説を確かめればよい。
【お話】…視野を広げたりする。読んで説明する。子どもたちは,問題や実験ばかりでなく,こういう視野を拡げてくれる「読み物」も好きである。
【研究問題】…興味のある人がやる問題。学級の雰囲気によっては,取り上げてもよい。
【練習問題】…今での法則を使って解く問題。90~100%近くの正答を期待する問題。
 《授業書》は,子どもたちが科学的な法則をつかむまで,「問題-予想(仮説)-討論-実験」を積み重ねるようにできています。
 中には,時々,仮説実験授業の授業書を手に入れて,適当に面白い問題(予想が大きく外れる問題)だけを授業に取り上げる「つまみ食い」をしている人も見かけますが,それは仮説実験授業とは呼べません。自分の予想がはずれる意外性のある実験も面白いのですが,予想が当たるようになる楽しみもあります。そういうことを考えて,多くの人たちの実験授業で作られたのが仮説実験授業の《授業書》です。勿論,研究的立場から,授業書そのもの(の改訂や対案)について考えることは必要です。しかし,その場合でも,その研究を社会的なものとするために,研究会等で「発表する」ことが必要でしょう。
【感想をとる】…仮説実験授業では,授業の善し悪しは「子どもが決める」ことに徹底しています。ですから,授業後の子どもたちの感想文を大変大切にします。1時間の授業や1授業書が終わったときなどに感想を書いてもらって下さい。きっといい感想が返ってきますよ。

 仮説実験授業の具体的な授業運営法は『仮説実験授業のABC』(仮説社,最新版を)に詳しく載っていますので,初めて授業される方は,最低限,この本を読んで下さい。

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