「フード・マイレージ」で見る日本の食

教科BOX

宇出津小 尾形正宏
2007.10月作成

現代日本の食生活・食環境を,地球規模の視点で見直すための指標が「フード・マイレージ」という考え方です。
その考え方をとらえさせるため,子どもたちにとって身近なコンビニから出発する授業プランを作ってみました。
おつきあい下さい。

はじめに

 能登町近辺のコンビニは「サークルK」(2022年現在はファミリーマート)のみです。北の方から,飯田,上戸,宝立(以上,珠洲市),松波,宇出津,柳田上町,能登空港口(以上,能登町)の7カ所(だと思う)。このサークルKの進出で,最近は田舎の子どもたちにとっても,コンビニは身近な存在になってきたようです。
 そこで,いつかはコンビニに関する授業を組みたいと思っていたのですが,ちょうどいい本と出会うことができたので,今回,プランを作って授業にかけてみました。

「フード・マイレージ」について

「フード・マイレージ」という言葉の定義

 「フード・マイレージ」という言葉をご存じですか?
 知っていらっしゃるなら話は早い。
 もしご存じないのなら,今から説明します。
 最近,私が新しい言葉を調べる時によく利用するのは,インターネット上の百科事典「ウィキペディア」です。これは素人や玄人がよってたかって作っている百科事典で,権威は一般人にあります。今回も,先ずそのサイトの説明を引用しましょう。
フードマイレージ(food mileage)は、「食料の(=food)輸送距離(=mileage)」という意味。重量×距離(たとえばトン・キロメートル)であらわす。食品の生産地と消費地が近ければフードマイレージは小さくなり、遠くから食料を運んでくると大きくなる。1994年にイギリスの消費者運動家のティム・ラング Tim Lang 氏が提唱した概念。フードマイル food mile とも。日本では、農林水産省農林水産政策研究所(所長・篠原孝=当時)によって2001年に初めて導入された。
 これで大体分かったと思いますが,念のために,もう一度書いておきます。
 「フード・マイレージ」とは,

フードマイレージ(t・㎞)=食料の重量(t)×輸送距離(㎞)

という式で表される概念であり,<生産地>と<消費地>とが離れれば離れるほど,その値は大きくなります。逆に「フード・マイレージ」の値が小さいということは,日本でいう「地産地消」に近い状態である事を示しています。

「フード・マイレージ」が意味するもの

 それでは「フード・マイレージ」の値が大きいことは,何を意味するのでしょう。
 それは<大量の食材を生産地から遠くまで運んできてから消費している>ということです。
 生産地から遠くの国まで食材を運ぶためには,それだけ公害の元になる排気ガスや温暖化の元になる二酸化炭素を多く発生します。また,少しの量よりもたくさんの量を運ぶ方が,よりエネルギーを使う(その分,廃棄物も多くなる)でしょう。ですから,この「フード・マイレージ」という考え方を使えば,同じ食材でも近くから移動してきた方が地球環境にとってやさしい方法だという結論が導かれます。
 日本の<自給率>は先進国の中でもとても低い方です。でも,この<自給率>のみで食糧問題を見るだけでは,「もっと我が国でとれたものを食べた方がよい」「我が国の農業を守った方がよい」というような「我が国中心」の考え方しか出てきにくいような気がしていました。「日本の農業を守ろう」みたいな感じです。
 もちろんそれも大切なことです。
 しかし,この「フード・マイレージ」という考え方を使うと,地球環境への負荷を考えた場合に,<できるならば「地産地消」という考え方を各国が持つべきではないか>という結論にたどり着くのです。それは,自分たちの食生活を見直すための新しい視点ではないかと思います。

授業プランの紹介

千葉保監修『コンビニ弁当16万キロの旅』をもとにして

 今回,授業をしようと思ったのは,一冊の本に出会ったからです。それが,
千葉保監修『コンビニ弁当16万キロの旅』(太郎次郎社エディタス,2005年)
という本です。 
 本書の内容を,紀伊国屋BOOKWEBから引用します。

1章 コンビニとコンビニ弁当(コンビニクイズに挑戦!;コンビニ食品は日常の味 ほか)
2章 コンビニ店長バーチャル体験(あなたもコンビニ店長さん;お弁当の注文をしてみよう ほか)
3章 お弁当工場の一日(お弁当工場をたずねる;工場に入るまえの準備 ほか)
4章 幕の内弁当とフード・マイレージ(幕の内弁当は食卓の縮図;食材はどこからやってくる? ほか)
5章 バーチャル・ウォーターとコンビニ弁当(バーチャル・ウォーターって、なに?;水が少ない地域で争いが少ないのは… ほか)

コンビニから世界がみえる! 身近なコンビニとコンビニ弁当を通して、食糧輸入や環境問題、ゴミ問題をよみとく。フードマイレージ、バーチャルウォーターなど最先端の概念でよむ食育。イラスト満載。バーチャル店長で経営体験、お弁当工場の密着ルポも。

 本書での,第2章「コンビニ店著バーチャル体験」,第5章「バーチャル・ウォーター」という考え方も大変興味深く,扱い方次第では子どもたちに喜ばれそうなのですが,今回のプランでは割愛しました。

授業プラン<コンビニから見える世界>

 そこで,第1章と第4章をもとにして「日本の食糧自給率とフードマイレージ」を教えるための4時間の授業プランを作ってみました。この資料を見て下さい【授業プランコンビニから見える世界はパスワード設定してあります。著作権の関係がありますから(出版社からのOKが出なかったんです】
 授業は2部構成としました。授業の流し方は,ほとんど本の通りです。

第1部 わが国のコンビニ

 第1部では,子どもたちに身近なコンビニに関するクイズを通して,コンビニのメイン商品は弁当類であることをおさえます。コンビニのイメージを作るための授業です。コンビニの店数や売上高など,本論にはほとんど関係ないのですが,食料自給率のときに「天ぷらそば」に注目するように,「フード・マイレージ」では「和風幕の内弁当」に注目してもらおうというわけです。

第2部 コンビニ弁当から見える世界

 コンビニでの流れから,第2部では「和風幕の内弁当」の食材がどこから来ているのかを予想してもらいます。意外な食材が外国産だと知って,子どもたちはとても驚きます。黒板に貼った世界地図で場所を確認しながら,その国までの距離をすべて足すと何万キロくらいになるのかを考えてもらい,「フード・マイレージ」導入への布石とします。
 輸入に頼ることのプラス面とマイナス面をあげながら,「食糧自給率」について説明し(農林水産省のHPを利用),そのあと,「フード・マイレージ」の説明をして,終わり。

授業後の課題

子ども達の感想を紹介しながら,この授業の成果と課題について考えてみたいと思います。

第1部について


・コンビニと小売店の違いや,売っている物がどれだけあるか知らないことがいろいろ分かってよかったです。
・コンビニは24時間営業なだけで,あんまし目立ってなかったけど,裏でそんなことをしていたとは思わなかった。
・総合でコンビニの話をやって,コンビニに置いてある商品は,2500品目もあると分かった。弁当が売り場に並んでいるのは,消費期限まで2時間以上あってもさげるということやいろいろ分かった。外国から果物や野菜をいろいろ送ってきてるのも分かった。コンビニの話をしていろいろ分かったのがよかった。


 コンビニのことは,知らないことがいっぱいで,とても興味を持って取り組んでくれたようです。店舗数,売上高,一店あたりの品目数など,一つ一つについて驚いていました。予想があった子もビックリしていたくらいです。また,消費期限の話やあまった弁当の話などには,その取り扱いに驚いていました。
 フードマイレージを教える時に,必ずコンビニから入る必要はありませんが,子ども達の興味関心を考えた時には,十分通用する導入だななと思いました。

第2部について

 第2部では,世界地図を用意して,国の場所を確認しながら授業を進めました。食材の絵などが用意できればよかったかなと思います(文字よりも黒板がなごむ)。
 「質問1」で輸入のプラス面・マイナス面を考えてもらった時に,子ども達から両方についての意見は出ました。しかし,その後,こちらが用意したプリントや画像でプラス面よりもマイナス面の方の印象が強くなり,特に「ポストハーベスト」の話にはちょっと敏感になりすぎたのではないかと思います。それについてじっくりと授業をしているわけではないので,あまりにも敏感な反応を持たせる指導は,ちょっと反省。
 心配していたのは,子どものたちの中に「コンビニの勉強をしていたのにいつのまにかむずかしい話になった」という思いが出てこないかということでした。
 でも,実際の子どもたちの感想を読むと,

・コンビニからなんと世界問題までいって,とてもすごいと思った。幕の内弁当ひとつで,こんなにすごいんだなあと思った。食材一つで輸送量やCO2の問題にもなるんだなあと,パソコンを見てあらためてすごいと思った。弁当一つでこんなにすごいんだなあと思った。コンビニ→弁当→せかい。
・おもしろかった。りゆうは,コンビニから輸入までのところへいって,いろいろなことがしれてよかった。
・コンビニを通じて世界の問題になるとは,おもわなかったし,すごいなあとおもいました。


などという文章があり,自分とは遠く感じる地球環境問題がコンビニを媒介にして身近に感じたのではないかと思います。

今後の課題

 今回は時間がなかったので,ここで終わりました。
 もう1時間くらい「フード・マイレージ」について,それぞれの食品で計算したり,考えたりしてみるのもいいかも知れません。
 幸い「フードマイレージ・キャンペーン」というHPには70種類もの食材の「フード・マイレージ」が地図の矢印の移動と共に自動的に計算されます。また同時に「同じ食材を国内でまかなった場合」の数値との差も計算されて,それがどれくらいの二酸化炭素の排出量の差となるのかも分かります(2022/03/28現在,ネットではこのページが見つかりませんでした。どこいった?)
 今回の実践ではこのHPをくわしく取り上げませんでしたが,休み時間にパソコンの周りに来て競って見ていました。ですから,このHPを使った授業なども可能のように思います。何せ突然の授業。荒削りでした。
 もう少し研究してみたいと思います。

引用・参考にした文献やサイト

○ウィキペディア
○農林水産省HP
○フード・マイレージ・キャンペーンHP(大地を守る会)
「フード・マイレージ」の試算について(PDF,中田哲也)
○千葉保監修『コンビニ弁当16万キロの旅』(太郎次郎社エディタス,2005)
○中田哲也著『フード・マイレージ』(日本評論社,2007)

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