石川版クリスマスレクチャー小林誠先生講演会 参加記

2015/12/11
尾形正宏

はじめに

 金沢市の文教会館で,ノーベル物理学賞受賞者である小林誠先生の講演会に参加してきた。
 県教委主催の歴とした研修である。会場には,高校生たちもたくさん来ていて,なかなか活気のあるようすだった。若い子がいるだけで,会場の雰囲気がよくなる。

講演内容は専門的

 「物理学のすすめ」と題したこの講演
 「物理学」について,いろいろ語ってくれるのかと思ったが,物理学そのものの話は,題字を含め,スライド4枚で終わり,あとは,ご自分の研究分野である「素粒子論」の話だった。
 もともと小林先生の研究やクォークについて知っている人には,分かっただろうか,この分野について考えたこともない人には,何を言っているのか理解できなかっただろうと思う。
 OECDの「大人になってからも,科学の最新情報などに興味を持って知ろうとしているか」という質問に「イエス」と答える日本人は,先進諸国でも,相当下位らしいので,これは,無理もないことだろう。
 講演の内容は,物理学の紹介から「場の理論とクォーク模型に基づいてCP対称性の乱れを説明した」という小林・益川理論の話へ。そして,仮説が証明されたKEKでの実験結果(新粒子の発見)へと進んでいく。
 総じて,わたしとっては「分からなくても面白い話」だった。こういうタイプの話は,それでいいんだと思う。
 世の中,分からなくても楽しい事はいっぱいあるはずだからね。
 <分かることのみ>に特化した生き方をしている人(教師に多い)たちは,「今回の時間は,無駄な時間だった」と感じたかも知れない。

小林先生の人生訓とは…

 この講演会では,質疑応答の時間がたっぷり確保されていた。そこで,いくつか質問が出て,小林先生もそれに丁寧に答えてくださった。
 ここで,参加者たちは,小林先生の人生訓を引きだそうとするが…。

質問 私たちの町は「町からノーベル賞を」というスローガンでやっているのですが,ノーベル賞をとれるような子どもたちを育てるために必要なことは…

答え ノーベル賞云々は結果であり,目指すようなものではない。「よい研究者を育てる」と言うことであれば,お答えできる。

答え 余り早い時期から「私はこっちの道にする」と決めない方がいいのではないか。中学,高校で学ぶ理科の内容なんて,ほんの一部であり,その内容で,将来のことを決めるのは好みではない。現代は発展のスピードも速いから,ゆっくりと進路を決めればよいのではないか。高校生くらいの知識は,現在の科学のインフォメーションにもならないと思う。

質問 小・中学校での興味の持たせ方は?

答え 一般的な自然現象について興味を持つようになってもらいたい。そのときに,学校の教材で取り上げられているのは僅かなので,その周辺・外部のことも知らせてあげたいと思う。学校の中だけでどうにかするというのはむずかしい。ただ,あまりオタクになる必要もないだろう。

質問 座右の銘はありますあ? なにか人生で大切にしてきたことなど…

答え わたしは,そういうのを持たないようにしている。何かに囚われると,発想が限られてしまい,それ以上進めない。科学的に考えることだけをしている。

質問 高校時代に部活を一生懸命やっていたとお聞きしました(これは,講師紹介者が言っただけで,本人は話していない)が,何か,部活をやっていてよかったことなどありましたら,高校生に聞かせてください…

答え ウ~ン,あまり…。ま,部活をやっていた分,勉強しなかったのだけれども,これくらいにはなった…ってことかな(会場,笑い)。

 以上のようなやりとりは,私にとっては,とてもスリリングで,おもしろかった。
 会場からの質問は,「なんとか,ノーベル賞受賞者から人生訓を引きだしたい」という意識が見え見えなのだが,それに対して,小林先生は,本音でさらりと答えてくれている。そのちぐはぐさがおもしろいのだ。
 世間には,何かの分野で成功したとたん,「人の生き方は○○がよい」だの「私の座右の銘は○○だ」と言う人がいたりして,なんか,押しつけがましくて,しらけてしまうのだが,小林先生の,徹底した,科学観に則った生き方は,気持ちがいい。

 「何者にも囚われない生き方をしてきた」というのは,別の言葉で言うと「科学的に考えることに囚われてきた」ということでもあるだろう。
 一般的な講演会なら「部活動で,忍耐力がつきました」なんてことを言うのかも知れないが,そういうのを拒否する姿勢こそが,科学的に考えるってことなのかも知れない。だって,「部活で忍耐力がついた」なんて科学的に証明できないことだからだ。
 最後に,提出した感想文を紹介する。乱筆乱文なので,ちゃんとタイプしてなおしておく。

提出した感想…デジカメで撮ってきた(^O^)
 大学時代に興味を持って学んでいた話が,実験できるようになってきたんだなあ~と改めて感じた。
 私が学んだのは,湯川・朝永さんぐらいまでだが,あの当時(1980年頃),まだ仮説であったことが着実に証明されていることに,科学の進歩を感じることもできた。
 CPの破れを説明しようとして考えた理論-それが「宇宙が粒子でできていること」の説明にもなっているという〈壮大さ〉が気持ちいい。
 本当の中身を理解することは難しいが,好奇心はいつまでも持ち続けたいと思う。
 小林先生の物理学へのキッカケが,私も読んだことのある本だったのがうれしい。
 子どもの頃の話もお聞きしたかった。
 理論物理学は単なる思弁ではない。提出する必然性がない理論は意味がない…というのも,目から鱗の話だった。

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