水彩絵の具を適切に使うことを練習しよう

ものづくり・図工


角 政文
2024/11/16

はじめに

ことのおこりは,ある母親のFacebookの投稿 (2024/9/4の記事) だった。「パレットについて」の投稿があった。4歳のころから絵画教室に通って, 喜んで絵を描いている小学校2年のお子さんのお母さんの投稿だ。
その子の絵画教室では, パレットを洗わない指導があるというか,常識として「パレットは洗わない」ものなのだ。だから,学校の図工の時間にも,その子は,いつものように自分のパレットを開いたわけだが,
「なにそれ。○○子ちゃん, パレット洗ってないのぉ。きったねー」
とクラスメイトたちにわらわれたそうである。そして、 図工の先生に問答無用で洗うように指導されたそうである。投稿者のお母さんは言う。

FacebookへのLINKは,ご自分がFacebookのアカウントを持っていること,さらに,相手が一般公開していることで,ご覧になることができます。

「絵の具, 特に水彩は水を足せば使えます」
「パレットはその子だけの世界。イメージして色をつくり、その時の感性が作り出した色は簡単に流してはもったいない。 余分に出した絵の具もまだまだ使えるよ」
「娘はそれを忠実に守り, 大切に使い続けている」
「このパレットがとても綺麗で娘なりのルールと頑張りが見える世界に感じています」
「大切に使っていたつもりでも, 「汚い」「また!?」 と何度も言われ続け泣きたくなった, と打ち明けてくれました」
「使ったものは綺麗にリセットして元に戻す。 それが学校のルール。ならば、わたしは親として学校用のパレットを用意し、そのパレットだけは綺麗にして持っていこうと子どもと約束しました」
「けれどね。 綺麗,汚いの価値観は人それぞれ。 汚いでしょ! という前に,なぜ話を聞こうとしなかったのか」
「黙っていても処理はできるのですが、 学校にはちゃんと娘の気持ちを代弁しにいこうと思っています」
「知らないが人を傷つけることがある。 だからこそ, 知る努力が必要なんだよ」
「娘にはあなたのパレット, ママはとっても綺麗に見えるよ。頑張った人のパレットだねと伝えました」
「今日のこと忘れないでね。 綺麗も汚いも, 人によって感じ方が違うのがわかったね。 それを「価値観」というんだよ。
価値観は自分のもの。人と違ってあたりまえ。だから伝え方を間違えると, 悲しい気持ちにさせてしまうことがあるね。 一緒に覚えておこうね」

と。
ぼくは,「週に2枚も絵を描く人なら,洗わないのもありかなぁ」とコメントし,自分のFacebookでシェアした。
すると,そのシェアにT.M先生がコメントしてくださった。FacebookへのLINKは,制限があります。

「小学校の時に本格的に美術やってた先生に, 絵の具は全色をパレットに出す, パレットは絶対洗わないと習ったので, 高校で超汚いパレットを出して周囲から笑われました。残しておいた色は、水で溶くだけで, 画用紙に馴染む良い色になり、 新しく色を作る時も,イメージ通りの色が作りやすい。今どきの子は,使う色だけパレットに数本だして, 色をちょっと足して作る程度だから, 水彩画すらベタ塗りポスターみたいな絵が多い」

と。この時は, そうかなーだったのですよ。
で…。 M小5年で彩色の取り組みを始めて、「こ、これは!」と思ったのですよ。「ここの葉っぱは、緑を中心に三原色を混ぜながら塗ってね」と指導すると,4つの色をパレットのお部屋いっぱいに混ぜて一つの色にしちゃう子が数人!  1学期には、自分でも塗って見せて,「混ぜながら塗る」ができていたハズと思い, やったところがである。

ドラえもんの絵を描いた

ポスタカラーと水彩絵の具を使って, ドラえもんの絵を描いた。
アニメ・セル画という,水彩画にとってはアウェイの世界である。
余談だが…。アニメ・セル画に見られる,面(面積)を一定の色で塗る塗り方は,日本人にとって,浮世絵にルーツを持つものではないかと思われる。これはこれで,レジェントにリスペクトな描画彩色技法であると, わたしは思っている。
左のドラちゃんはポスタカラーで描いた。右のドラちゃんは不透明水彩絵の具で描いた。

2つのドラえもんを「どう感じるか」は,子どもたちひとりひとりにまかせようと思う。ただ,一口に絵の具というけれど, ポスタカラーや不透明水彩絵の具,透明水彩絵の具・・・とさまざまな絵の具があり,それぞれに適した使い方がある。
絵の具は不透明水彩絵の具といわれるものだ。そして,今の小学4年生や5年生の君たちが持っている絵は「混ぜながら塗る」ものである。
とくに,5年生はこれから校舎の写生に取り組むわけだが,風景の写生では,水彩絵の具を正しい使い方で塗った方が見栄えのある絵に仕上がるよと, 声掛けしようと思う。
そして,この絵を描きあがるまでは,パレットを洗わず描き上げよう。パレットを洗わないことを含めて,水彩絵の具の正しい使い方である,と。

ポスタカラー
ドラえもんを塗ったパレット

不透明水彩絵の具
ドラえもんを塗ったパレット

小学校校舎を描いた かどの作品

校舎を描き上げたときの パレット

ドラえもんでやったことを,再びナウシカで

宮崎駿監督が原作漫画の表紙に透明水彩で描いたものがあるからである。宮崎監督の水彩で描いたもののコピーと映画のスチール写真のコピー(下の「まとめ」の模造紙を参照のこと)。この対比で話した方が,子どもらに伝わりやすいのでは・・・と思ったからである。
実際の授業は,こちら (ナウシカ)を例としておこなった。
下の絵は,宮崎監督が描いたものを見て,授業者が,ポスターカラーと水彩絵の具で描いてみた作品である。

ポスターカラーで描いたナウシカ

ポスターカラーで描いたあとのパレット

水彩絵の具で描いたナウシカ

水彩絵の具で描いたあとのパレット
まとめのスライド

色をつくってぬる ポスターカラー ペンキ
いくつかの色で見る。 デジタル
 Ex.光が当たっている明るい色。ふつうの色,かげになって暗い色
○その色の範囲内では、色の濃さ一定。 華の塗りあとも残さない。
○パレット上で「その色」を完璧に、必要な分、用意しなくてはいけない。

アニメのセル画・浮世絵,まつりの絵。
学校の図工でもニスを塗って仕上げる工作の彩色・・・・・

色をつくりながら、ぬる。 水彩絵の具
○かわりながら、見る。 アナログ
 面におうじて変わる色を,
 ①すこしずつ混じり具合が変わる絵の具の色
 ②絵の具の濃い薄い(ふくまれる水の量)
 ③筆の塗りあと             で表現する。

学校の図工の時間に,画用紙に絵の具で彩色する絵。
(多くの子どもたちの使っている「絵の具」は、不透明水彩絵の具である)

まとめ

Y小,M小の4年生・5年生に掲示模造紙(上図)をつくって,思い出の絵 (4年),写生 (5年)を実施した。
「全然違った2つの塗り方があるんだ」ということは伝わったと思う。
5年生は,写生という絵の特性もあり,わたしの提示した「水彩絵の具の塗り方」で塗ろうと努力してくれた。
一方,4年生は・・・。
Y小の4年生のほぼ半数は,パレットの窓いっぱいに色をつくる「ポスタカラーの塗り方」をしていた。

子どもたちの作品例

リポート発表を終えて

かどのリポートの検討をしているとき,参加者のひとりが,
「かどサンの今度の取り組みみたいに 指導者がしっかり『ねらい』を持って指導したときに,作品のレベルがそろっちゃって,『子どもの個性が感じられない』『子どもの個性をツブしている』なんていわれちゃうのね」
と発言した。それに対して,別な参加者は
「こういう『ねらい』のもとで指導したんだ。と説明すればいい。割り算のひっ算に『個性』を求めますか?と聞いてみればイイ」
と発言があった。そうかぁ…そうなんだなと思った。

自分に聞いてみた。
自分は,この絵たちに『個性』を感じないのか?
否!と答えが返った。せっかちな子はせっかちに彩色するし,丁寧な子は丁寧に彩色する。それが,それぞれの絵の「あじ」になっているように思う。
自分の作品でも,ひと筆ひと筆というとおおげざだが,パッと,その作品を描いていたときの自分の気持ちのありようが,絵から思い出される作品もある。
並んだ絵に「個性を感じない」と表明する人は,感性に不自由な人ではないか…とも思う。図工教師を名乗るくらいの人ならば,一枚一枚の絵に『個性』を感じ取れる感受性を持ちたいと思った。

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