珠洲たの通信・2016年2月号

  2020/04/27記

 さてさて,今回紹介するレポートは,4年前にさかのぼります。
 ところで,わたしがリアルタイムで「サークル通信」を書けなかった例会月のレポートは,保存用「レポート集」には,わざと綴じてありません。部屋の床にそのまま積んであるのです。そこには,これまでの全国大会で頂いてきたレポート(残しておこうと思っているやつ)などとまざって,床から40㎝くらいの山が二つあります。ただ,それは誰も触らないわたしの部屋の一角なので,元のレポートが必ずこの片隅に存在していることは確かです。

資料の紹介

1 「T先生の実践に学ぶ」 A4 2p         M.K
 同じ学校に8の字跳びの上手な学年があった。その指導者であるT先生の指導のしかたを観察し,「なぜ,その跳び方をすれば多くの回数を跳べるようになるのか」を分析してみたそうです。得意のイラスト入りで,よく分かる説明でした。
Tは,優れた先行実践に学び,充分な教材研究をして,いくつかの指導技術を持ち,その中から「子ども本位に」考えて,選択して子どもたちにおろしている。満足な教材研究をしないで旧来のままに,「失敗したのは子どものせい」と「もっと前に出ろ!」「縄,見ろ!」と怒鳴り散らしていた私とは,まったく違う。 ~中略~ 要は真摯に誠実に子どもたちに向き合うことにほかならない。
ということを感じたそうです。
 8の字なんて,教材にもないし,回数を増やさなくてもいいし,そもそも取り組む必要なんてないのですが,もし子どもたちに与えようとするのならば,「上手くできない子」に併せた指導法を見つけ出す必要があります。そうしないと,こういうチームプレーの競技は,〈できないものいじめ〉につながりますからね。そういう意味でも,なかなか興味深いレポートでした。

2 「〈キャリアティド〉って何だと思います?」 A4 2p   M.K
 〈キャリアティド〉って,Atokでもカタカナ変換できない言葉でした。当時は「Google検索にも引っかかってこない」ということだったので,今(2020年4月に)もやってみましたが,確かに,わずかに一つだけ,よく分からないものがかかってきただけでした。Kさんが説明するように「女性の立像」のことだとはまったく出てきません。不思議…。
 さてこのキャリアティドの作品としてロダンの「おのが石のもとに倒れたキャリアティド」というものがあるらしいですが,Kさんは,高校生の時に読んだ批評本の紹介してくれました。その本とは,
・ロバート・A・ハインライン著『異星の客』(創元SF文庫,781ページ,1969年)
というものらしいです。こういう本を手に取っていた高校生のころのKさんって,どんな人だったのか興味が沸いてきます。
実作でなくても批評とかそういう仕事もクリエイティブな仕事なのだと,このハインラインの仕事から思うのです。
とKさん。作者がどうであろうが,見た人がどう感じたのか,批評とまでは言えなくても,それはそれで一つの大きな仕事ではないか…ということでしょうね。
 このあたりのことを,われわれたのしい授業学派に引き寄せて考えてみると,授業書を作る板倉先生はもちろん創造的な仕事をする人だけど,その授業書のよさを広めたり,その授業書との出会いで見せた子どもの様子をまとめ,授業書を評価するわたしちも,大きな仕事をしているということなんでしょう。
 ちなみに,このロダンの作品。ネットでは「石を負うカリアティード」という名前がついていました。このカリアティードがキャリアティドのことなんでしょうね。そう思って,再度,検索するとWikipediaにありました。

カリアティード(caryatid、ギリシア語: Καρυάτις)は、頭上のエンタブラチュアを支える柱の役目を果たす女性の立像。 複数形はカリアティデス(Karyatides、ギリシア語: Καρυάτιδες)。 女像柱、女人像柱とも。 ギリシア語のカリュアティデスは本来「カリュアイの乙女たち」を意味する。

Wikipediaより

 キャリアティドが見つからないわけだ。訳者が「カタカナ語」にするときに,一般的(ネットで見る限り)じゃなかっただけでした。

3 「夢見る力」 A4   3p   M.K
 今月は3本のレポートを持ってきてくれたKさん。最後に紹介するのは山本弘著『アイの物語』(角川文庫)のこと。7つのお話が連作になっているもので,これもまたSF小説。自己意識を持つAndroidが出てくる話らしいです。
 ここでKさんは,自らを「物語マニア」であるとカミングアウトしています。
 さて,うちのサークルは,もともと「子どもたちとたのしい授業をするにはどうすればいいのか」を追求していきたい…ということで発足したのですが,実際に例会で出てくる話題には,個人の趣味の話もいっぱい出てきます。それも遠慮せずに…です。それはそれでOKだと思っています。教師もヒトとして生きていくためには,自身の生活が豊かでなければなりません。私的な生活の中で育んできたものが,子どもの前に立つとじわ~っと表れるってこともあるでしょう。今までにも,落語,歌舞伎,川柳,都々逸など,さまざまな趣味的な話題が出てきました。パソコンだってそうだしね。
 で,趣味が違う人からすると「なんで,そんなことに夢中になるの?」なんて思うのですが,それを他人に説明しようとしたときに,もしかするとこれまで自分自身を形作ってきた〈何か大きなもの〉に,改めて気づくことになるかもしれません。
自分は物語マニアであると自認します。それを恥ずかしく思う自分もいます。この物語の中にも繰り返されてます。「物語なんて,たかが現実逃避じゃないか」。でも,物語を作ることのみならず,物語を読むこと(支持すること)も,とてもクリエイティブなことだと思います(思いたいです)。よい物語はケチな現実よりも正しく強いのです。ナンテね。(レポより)

4 「風向き・2016年2月号」B5 2p     M.S
 わたしも行けなかった貝田先生の退職記念の会。Sさんも担当していた部活が県選抜大会に出ることになったため,行けなくなったそうです。
 全国教研の参加記を短くまとめてきてくれました。今回は,教文部長(引率責任者)としての参加でした。だから,いろんな分科会を気楽に覗いてみたそうです。教研も若返っているようで,「耳に2つもピアスがついていた」先生もいたとか。全国行くだけで面白いねえ。型にはまっていない人もいるんだよね。
 学校の図書館にもいい本があるって話もしてくれました。中学校なので,けっこう骨のある本もあるのかもしれません。ただ,一度も開かれていないのではないかという本もあるようです。もったいないけど,興味がないんだから仕方ないね。その中でも,倉本智明著『だれか,ふつうを教えてくれ!』(理論社)を紹介してくれました。著者の倉本さんは視覚障害者として生きてきて,現在は全盲になったそうです。そういう立場から書かれた本だそうです。

5 「MY BOOK 2016年2月号」B5 4p          K.H
 以下の4冊の本を紹介してくれました。
○姜尚中著『君に伝えたいこと』(自由国民社)
○伊集院静著『大人の流儀1』(講談社)
○益川敏英著『科学者は戦争で何をしたか』(集英社新書)
○北野武著『新しい道徳』(幻冬舎)

 姜尚中さんの本は,新聞広告を見て読んでみたそうです。わたしも,新聞の書評を見て注文することが年に数回はあります。外れることもありますが,大抵は,「読んでよかった」となります。伊集院さんの本は,Hさんが好きな作家のようです。「たいしたことは書かれていない」といいながらも,良く伊集院さんの本を紹介してくれますので。あとの2冊は,サークルのメンバーで話題になった本。サークルも生きた書評の場ともいえるでしょう。だれかが紹介し,気になった本は読んでみたくなります。なによりも,すぐに借りることもできますからね(といっても,最近はKindleで注文したやつもあるから)。
 北野武の本から,二カ所孫引きしますね。
▼道徳が役に立つのは,むしろ不道徳な人間だ。いい人間のふりをしたければ道徳の教科書を参考にすればいい。
▼今の世の中じゃ,ウサギは途中で昼寝なんかしない。他のウサギと競争中で,カメにかまっている暇はない。

さすが,タケシ。スルドイですね。

6 「カメラレポート」 B5 3p    K.H
 今月の写真は,なんと「石川門~兼六園のライトアップ」です。雪釣り,ことじ灯籠など,定番の景色が,幻想的に浮かびあがっている写真ばかりでした。夜の兼六園,石川県民だけど,行ったことあったっけなあ?

7 「小原茂巳講演記録・仮説実験授業のABC」 B5 4p    K.H
 この頃のHさんは,毎月のように以前の小原茂巳講演のテープ起こしをして持ってきてくれました。今月は,2014年3月の東日本体験講座での小原さんの講演を起こしてきてくれました。
 「どんな授業書がいい?」という話題。小原さんは「板倉先生は,授業する先生が,〈これならオレできそうだ〉というプランを目標にしていないと言っている」といいます。あれ,そうなの? 仮説実験授業は「熱心な人なら誰でもできる」ってのが目標じゃなかったの? と思って読んでいくと,
▼「へえ,こういうことだったのか。いま,ドキドキして分かった。」「オレも知らなかった。こうか」と感動するプランと出会ってほしい!(レポートより)
とありました。なるほど,そういわれればそりゃそうです。これまでわたしが「やりたい!」と思ってやってきた授業書は,どれもこれも自分が感動して受けた(あるいは読んだ)授業書ですもの。授業者が感動して,子どもたちにもその感動を分けて上げたいと思って,授業をする。それこそ仮説実験授業の醍醐味ではないだろうかと思います。
▼新しいことと出会わせて上げるのが本格的な科学教育なのです。自分を主人公にしながら…それが仮説実験授業です。 ~中略~ 自由と束縛の矛盾論。仮説(実験授業)は束縛を与えます。どういう束縛が許されるのかというと,束縛を与えると自由に考える,頭が自由に考えられる束縛だったら素晴らしいので,だから自由にやりましょうというのではなしにいい問題は出してあげます。仮説実験授業では授業書があって問題があります。
▼自由のたのしさとは最初は間違うたのしさ,「間違ってもいいんだこの授業は。間違えても新しいことを知れるからいいんだ。」 間違えるだけじゃつまらないから,当たるたのしさも大事だね(同上)

 2018年7月号で紹介したKさんのレポートに重なる話題がここでも出てきます。自由になるための束縛こそ,自分を主人公にできる束縛なのです。
▼あることを教えてなんとか分かった授業よりも,科学というのは,自分で仮説が立ってきて,未知の問題にぴたりと当てられる喜びを体験させてあげたい。(同上)
 わたしはこの基本姿勢は,教科書授業でも失いたくないと思ってきました。なるべく,自分たちで仮説を立てられるような進め方をしていきたいと思って教材を研究してきたと思います。創刊以来500冊を超えた『たのしい授業』には,そういう授業プランや考え方がたくさんつまっています。
 小原さんの講演や文章は,とってもいいですよね。大好き~。Hさん,毎月毎月ありがとう。

8 「ブログ的気楽レポ2016年2月号」A5 12p           M.O
 久しぶりに本の紹介をしてみました。
○益川敏英著『科学者は戦争で何をしたか』(集英社新書,2015)
○井上ひさし著『國語元年』(新潮社)
○山口謡司著『日本語を作った男 上田万年とその時代』(集英社,552ぺ,2016)
○DVD3本セット『國語元年』(NHK,1985,1万2000円)
○中室牧子著『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン,2015)

 これらのことについて5ページも書いてしまった。あははは…。
 中室さんの本からの一節。
▼学力をわずかに上げるために,長い目でみて子どもたちを助けてくれるであろう「非認知能力」を培う貴重な機会を奪ってしまうことになりかねない。
 コロナ騒ぎで学力調査もなくなった。この際,本当にたいせつなものを育んでいくためにも,全国一斉調査なんてやめてしまえ。
 2つ目の話題は「スマホ顕微鏡」です。3つの器具を紹介しました。いずれも,使い方によってはとても便利な道具です。特に学研の「スマホde顕微鏡」は,2000円という手頃な値段で,小中学校で顕微鏡観察するようなものを手軽に写真にできるのでオススメ。学教研の理科部会でも実際にみてもらい,コマーシャルしました。この頃,まだAppleTVを買うかどうか迷っていたようです。買っちゃいましたがね。
 3つ目の話題は,「水溶液の性質とはたらき」の授業備忘録です。小中連絡会というのがあって,わたしは,本校に残り,他校から来た先生方に6年生理科の授業を見せることになりました。で,折角の機会なので,参加者の先生方に「知識構成型ジグソー法」を紹介しようと思って,急遽,ジグソー法用のプリントを用意してやってみました。このときに使ったプリントや,授業整理会での話題を「水溶液の性質とはたらき・授業振り返り(第8時)」(後掲)にまとめました。本校に来て2年。理科専科としても2年。そんなときの公開授業でした。
 4つ目の話題は,授業プラン〈割合〉についてです。出口さんが中心になって作成したプランなのですが,わたし自身,これが一番わかりやすく,楽しいかも…と思ったプランで,この年,はじめて授業をしてみました。レポートの反省にも書いたとおり,今では,前半部分を「小数の乗除」の単元のときにやり,後半部分を「百分率」の単元でやっています。それがとてもスムーズでいいです。教科書では,小4くらいから,「○倍でしょう」という問題が出てきて,算数の苦手な子どもたちを,さらに混乱させています。

9 水溶液の性質とはたらき・授業振り返り(第8時) B5 6ぺ  M.O
 このレポートは,小中連絡会後,本校職員に配布したものです。わたしはときどき,理科専科として,こういうレポートを書き,配付してきました。
 では,レポートから,まえがきとあとがきを紹介しておきます。まずはまえがき。〈なぜこれを書くのかという問題意識をしっかりさせてから書く〉というのは,たぶん仮説実験授業研究会(あるいは板倉先生の本)から学んだことです。自分でも気づかないうちにそんな姿勢が身に付いているようです。
小中連絡会で公開した授業について,まとめておきます。今回の授業にも当然ながら反省すべき点がたくさんあります。授業やりっ放しで放っておくと,忘れてしまって,また同じことをしでかしそうなので,自分のためにまとめておきます。まあ,どなたか一人でもこの振り返りがお役に立てれば幸いです。
 そう,ホント忘れちゃうんですよ,自分の実践なんて。失敗したことも成功したこともね。あとがきには「今後の課題(やりたいこと)」を4点書いた後で,次のように結んでいます。
ちなみに,上のことは,わたしの〈やりたいこと〉であり,決して〈やらなければいけないこと〉ではありません。強制からは,何も生まれません。
 こんな風に,研究姿勢というものをちょっと見せるということもやってきました。上からの押しつけが強くならないように…です。

10 楽しい算数を目指して  A5  4ぺ    K.T
 ふつうは習熟度別少人数で行っている算数の授業を一斉にやる時間があった。そのときに注意したことをまとめてきました。習熟度別に行うこと自体にも問題はあるのですが,実際に導入されている以上,ここではその話はしません。結果的に,一つになったときには,これまで以上に「格差」を解消する必要があります。そのため,さまざまな工夫をしています。実際,これらのことは,今後,いろんな学校で一斉授業をするときにも役立つのではないかと思います。
・早くできた子は板書にくる。先着3名様
・板書してある3名の考えを,他の人が発表する(他者紹介,他者理解)
・ある程度時間が経ったら自由に回って友達のノートを見る
 いろいろと成果や課題を考えながら進めるTさんの姿勢,なかなかマネできないなあ。

 以上見たように,2016年2月の例会は,今までにないレポート数だったようです。おそらく話し足りなかったなかった人もいたんじゃないでしょうか。
 今回,4年前の記録をまとめながら,新たに3冊の本を読んでみようかなと思いました。
 Kさんが紹介してくれた『アイの物語』(これはAmazonで注文済),Sさんが紹介してくれた『だれか,ふつうを教えてくれ!』,わたしが紹介したのにまだ読んでいなかった『日本語を作った男 上田万年とその時代』(この2冊は県立図書館:コロナのため閉鎖中)です。こうしてまとめていると知的好奇心が刺激されてきます。ありがとう,みんな。

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