ダイオキシンってなに?

分子模型から見える世界

尾形正宏
2009.12.12再編集

1.はじめに

 ダイオキシンという言葉が,まさかこんなに身近なものになるなんて,今まで考えてもみなかった。
 「ダイオキシン」といえば,ベトナム戦争の時の枯葉剤に含まれていて,母胎に非常な影響を与えたらしいこと,今はゴミの焼却場から出ることがあり,注意すべきこと-くらいは知っていたが,まあ,その程度であった。
 1ヶ月ほど前,いきなり
「珠洲の焼却炉で,基準値の7倍のダイオキシン検出」
と報道されたもんだからびっくりである。しかし,それでも「晴天の霹靂」とまでいかなかったのは,どっかに思いあたる節があったからだ。
 以前の教研の「環境・公害と食教育」分科会の見学で,珠洲のゴミ焼却炉は2種類あるが,そのうちの1つは結構古いことを知っていた。で,当然,「その炉が今の基準値を満たすほどなのものなのかどうかを調査をすべきである」という声もあったのである。ただ,それは行政を動かすほどの力のある声ではなかった。ボクたちの「そんなめったなことはないだろう」「いくら珠洲でも,ゴミの焼却くらいはちゃんとやってるだろう」という,何の根拠もない安心感が,結果的に,「調査すべき」という声の足をひっぱていたのである。

2.ちょっとでも知ろう

 そこで,あらためて「ダイオキシンとは何か」ということが気になってきた。これからも珠洲に生きていくつもりの市民の一人として,「ダイオキシン」について,ちょっとばかし知ることは,必要なことであろう。ちょうど,「環境・公害と食教育」分科会で「ダイオキシン」の特集をやると言うことなので,ボクなりに集めた情報をまとめておこうと思う。これから紹介するものは,インターネットの検索で得た情報である。インターネットからの引用部分はゴシック体にしてある(ここでは「別の字体と色」になっているところ)。そのホームページのアドレスも紹介しておくので,興味のある人は,どうぞのぞいてくだされ。
  T.Takeda(Aries)さんのURL…2022年現在,リンクが切れています。

3.ダイオキシンとは

まずは,「ダイオキシンとはなんぞや」ということを見ていこう。

【ダイオキシン類の化学構造】

一般に、ダイオキシンとは、75種類の異性体を持つポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDDs)及び135種類の異性体を持つポリ塩化ジベンゾフラン(PC DFs)の総称をいう。

 これだけ聞いたんじゃ,なんかよけいに訳が分からなくなるけど,ここでは,「ダイオキシン」というのは,1つの物質名ではなく,幾つかのものの総称であるということだけきちんと押さえておけばいいだろう。

【ダイオキシン類の毒性】

これまでの動物実験等により報告されているダイオキシン(2,3,7,8-TCDD)の毒性評価の概要は以下のとおりである。

1.急性毒性

動物実験におけるLD50(動物実験において、被験動物の半数死亡する投与又は暴露量)では、600ng/kg(モルモット:経口)から約5,000,000ng/kg(ハムスター: 経口)までに非常に大きな差がある。(注)600ng/kg:実験動物の体童1kgに対し、600ngの2,3,7,8-TCDDを投与したこと。

2.慢性毒性

動物実験結果によれば、生涯経口投与によるNOAEL(無毒性量:健康影響の観察されなかった最も高い投与量)は、1ng/kg/日(ラット:経口)、LOAEL(最小毒性量:何らかの健康障害が見られた最小の投与量)では数ng/kg/日(マウス:経口)等で、影響としては体重減少、皮膚の変化、肝障害等。

3.遺伝毒性

遺伝毒性を示す証拠は得られていない。

4.発がん性

がん発症率の増加が認められている。ただし、発がん性を起因と促進に分類すると、ダイオキシンは促進物質であるとされる。悪性腫瘍の増加が見られた量は71~100ng/kg/日相当(ラット)、71~286ng/kg/日相当(マウス)等のデータがある。

5.催奇形性

LOAELでは、l,000ng/kg/日(マウス:経口)、NOAELでは100ng/kg/日〈マウス:経口)、125ng/kg/日(ラット:経口)等のデータがある。症状は口蓋裂、腎の形成異常等。

6.生殖に及ぼす影響

NOAELとして1ng/kg/日(ラット:経口)等のデータがある。症状は受胎率の低下等。

7.免疫毒性

NOAELとして5ng/kg/日(マウス:経日)等のデータがある。

8.疫学データ

ヒトについて、高濃度の長期暴露があったと想定される群において、死亡リスクの増加が報告されている。データが不足しているが高濃度暴露とがんの発生との関係は軽視できないとされている。「ダイオキシンのリスクアセスメントに関する研究斑の中間報告」(1996.6.28)より 

 ここでも,専門用語が出てきて,すべてを理解することは難しい。用語の解説をしておく。

 

・2,3,7,8-TCDD…ダイオキシンの中でも,もっとも毒性が強いと言われている物質
・ng[ナノグラム] …nは10億分の1を表す記号。ngは10億分の1グラムのこと。

 次に,ダイオキシン問題の歴史を見てみよう。

【ダイオキシン問題の経緯】

1957
米国東部及ぴ中西部に挙いて、ヒヨコの大量死事件が発生。エサに混ぜられた脂肪の中にダイオキシン類が混入していたことが判明した。

1962~1971
米国がペトナム戦争において、枯葉剤として2,4,5-T等を使用。2,4,5-T等製造過程の副生成物として、ダイオキシシ類が発生する。後に肝臓癌、流産、出産欠陥等が多発していることがベトナムの研発者により報告された。

1976
イタリアのセベソにある農薬工場で爆発事故が発生。TCDDが飛散し、事故後、ニワトリ。猫等の動物が死亡。現在も立ち入り禁止となっている区域がある。

1976
ニューヨーク州ラブキャナルの農薬工場の化学系産業廃棄物による汚染事故発生。230世帯以上が移転。

1982
ミズーリ州タイムズビーチで土壌汚染が判明。農薬工場の廃棄物が油に混ぜられて、ほこり止めとして道路等に散布されたことによる。米政府は町全体を買い上げ、全町民及び企業を移転させた。

1983
愛媛大学の立川教授らのグループがごみ焼却場の飛灰からダイオキシンを検出し公表した。調査9施設でTCDDが7~250ng/gの範囲で検出された。

1984
厚生省の専門家会議において、当時の知見に基づく判断が示され、報告書がとりまとめられた。廃棄物に係るダイオキシンの問題を評価考察するための評価指針を100pg-TEQ/kg/dayとする。焼却処理に伴う一般市民及ぴ施設職員への影響については、現段階では健康に影響が見い出せないレベルである。埋立処分については、現行法令を遵守することで対処できる。今後、さらに知見を集積することは必要である。

1990.12
厚生省が「ダイオキシン類発生防止等ガイドライン」を作成し、都道府県に通知。当時において技術的に実施可能な限り、ダイオキシン類の発生防止等を効率的に推進するという観点から、総合的な対策をとりまとめた。ごみ焼却施設については、ガイドラインに示す対策の実施により大幅な排出濃度の低下が期待される。特に、新設の全連続炉については排ガス中のダイオキシン類濃度が0.5ng-TEQ/Nm3程度以下になることが期待される。

1992.2
環境庁が紙パルプ工場に係るダイオキシン類対策の推進について関係団体に要請。塩素漂白等に伴うダイオキシンの発生抑制対策を製紙関連団体に対して要請するとともに、都道府県等に協力要請。

1995.11
厚生省が「ダイオキシンのリスクアセスメントに関する研究斑」を設置。ダイオキシンの人体に対する毒性評価の研究が進められ、1996年6月28日に当面の耐容1日摂取量(TDI)として10pg-TEQ/kg/dayを提案する中間報告がとりまとめられた。

1996.5.29
環境庁がダイオキシン検討会を設置。健康影響の未然防止の観点から、「ダイオキシンリスク評価検討会」「同毒性評価等分科会」「ダイオキシン排出抑制対策検討会」を設置し、1996年12月19日に健康リスク評価指針値として、5pg-TEQ/kg/dayとする中間報告をとりまとめた。

1996.6.3
厚生省が「ダイオキシン削減対策検討会」を設置。1990年のガイドラインを見直し、ダイオキシン対策を推進する。ダイオキシン削減対策技術に関する新たな知見を活用し、緊急対策と恒久対策に分けて検討を行い、1996年10月3日に緊急対策に係る部分を中間報告としてとりまとめた。

1996.7.12
厚生省が「ごみ焼却施設からのダイオキシン排出実態等総点検調査」を通知。市町村の設置するごみ焼却施設を対象に1996年12月までに排ガス中のダイオキシン類濃度等を調査するよう、都道府県を通じて、市町村に指示。

・pg[ピコグラム]…pは1兆分の1を表す記号。pgは1兆分の1グラムのこと。
・TEQ(毒性等量)…ダイオキシン類のそれぞれの異性体の毒性を2,3,7,8-TCDDに換 算して合計したもの

4.プラスチックとダイオキシン

 プラスチックは,人工的に作られた高分子化合物である。
 主な原料は石油から取り出した,ナフサと呼ばれる成分。そのナフサからは,プラスチックになる物質ばかりでなく,合成繊維や合成ゴム・合成洗剤などの原料となる物質もでてくる。そして,そのナフサ(石油)から作られたエチレンやプロピレンというような物質を長~くつなげた(重合)のが,「ポリ~(ぽりほにゃららと読む)」と呼ばれるプラスチックの仲間達になるのだ(ポリマーとは高分子ということ)。たとえば,

 エチレン[C2H4]からできたプラスチックは, ポリエチレン
 塩化ビニル[C2H3Cl]からできたプラスチックは,ポリ塩化ビニル
 塩化ビニリデン[C2H2Cl2]からできたプラスチックは,ポリ塩化ビニリデン
 プロピレン[CH(CH3)CH2]からできたプラスチックは,ポリプロピレン
 テトラフルオロエチレン[C2F4]からできたのは,ポリテトラフルオロエチレン
 スチレン[C8H8]からできたプラスチックは,ポリスチレン

という具合にである。ここで念のために注意をしておくが,「ポリ~」と名前が付いていてもプラスチックであるとは限らないので,そういう一般化はしないように。
 上のようなプラスチックが,どんなところで使われているのかということは,付録の資料2(ネットでは省略)を見て頂きたい。資料2の中の「ポリエチレンテレフタレート」というのは「エチレングリコール」と「テレフタル酸」とが反応してできたポリエステルのこと。ポリエチレンテレフタレート(POLYETHYLENE TEREPHTHALATE)とは,いわゆるPETボトルの原料である。お~,段々頭がいたくなってきた。ここらで話題を変えたいのだが…もうちょっとおつきあいを。
 さて,ここで問題なのは,「プラッスチックを燃やすとダイオキシンが発生するときがあるというが,それは,上にあげたプラスチックすべてに言えることなのか」ということだ。で,「ダイオキシンが出やすいプラスチックというのがあるのか」といえば,それはあるのである。上にあげた物質のうち,「ポリ塩化~」と付くやつが,ダイオキシンを出す元凶である。

 右の写真はダイオキシンの分子模型である。これは,ダイオキシンの中での一番毒性が強いと言われている「2,3,7,8-TCDD(四塩化ダイオキシン)」の模型だが,ベンゼン環の左右に2つずつある大きな原子は塩素原子である。塩素原子がこのようにくっつくとダイオキシンとなるのである(塩素原子がくっつく数や場所によって,何種類かのダイオキシンの仲間がある)。だから<「塩素」あるところ要注意>というわけだ。

 製紙工場などでも,塩素系の薬品を漂白剤として使っているところもあり,そこでもやはりこのダイオキシンの発生が問題になっている。
 じゃあ,その他のプラスチックは燃やしてもいいのか,ということだが,これとて,よほど注意をしないと,別の有害な物質ができることがあるし,燃焼時に高熱になるために焼却炉を傷めやすいということもある。プラスチックの扱いが,自治体によって別々なのは,焼却炉の性能や埋め立て地の確保など,別の要素によることが多いからだ。
 珠洲市では,ダイオキシンの話題の前から「ペットボトル」の回収を始めたが,実は,塩化ビニル系統のプラスチックを不燃物として出すことを徹底する方が大切だったわけである。今からでも遅くない。珠洲では,プラスチックは燃えないゴミとして埋め立てよう。

5.珠洲のダイオキシン問題から見えること

 珠洲のダイオキシン問題は,またまた,ボクたちにいろいろなことを教えてくれる。今までの珠洲の原発問題は,とても見えやすい話題だったんだなあとあらためて思う。7,8年前,反原発運動が高まってからというもの,それまでの珠洲の膿が一気に吹き出した感じである。

 ・市民の半数を一方的に無視する今までの原発積極政策
 ・中学生の意見表明権を無視した私の主張大会の中止
 ・たくさんの人々の署名を受け取るどころか,その場にばらまいた珠洲の婦人会長
 ・買収で捕まった元市議会議長。今も,何かの役を引き受けているそうな
 ・選挙そのものが,いいかげんだったことが最高裁でも証明され
 ・やり直し選挙でも,現役の助役が逮捕され,刑も確定
 ・いまだに正体不明の嫌がらせの怪文書が来る←鬼だか薔薇だとかと変わらないよな

 簡単に言うと,今までの珠洲市の市政は,珠洲市民一人ひとりを大切にするという発想が全くないのである。そして,残念ながら,これからもそういう市政が続いていくのではないかと,大いに危惧されるのだ。
 重油の時にボクも何度か回収に参加した。みんな,珠洲の海を守るために行動したのである。しかし,行政がどれくらいそれを理解しているのだろうか。はなはだ疑問である。
 海作り大会や重油の回収で,1つにまとまりかけた珠洲市民を,行政は,今秋,またもや引き裂こうと計画している。「原発建設を前提にした町づくり市民フォーラム」の開催計画がそれだ。なぜに「原発建設」が前提なのか。市民一人ひとりを大切にしていれば出てこない発想だ。21000人と対話しようとする姿勢からは,本来なら,出てこない発想である。
 ダイオキシンの問題は,他から言われないと何も行動できない<珠洲の行政の遅れ>が露呈した出来事だった。
 今までもそうだった。
 最高裁まで行っても「俺達は運が悪かっただけだ。みんなやっている」と言っていたし,助役の逮捕の時にも「それが法律違反だとは,知らなかった」というのだからお粗末である。こんな人たちが行政や議会を担っているのだから,子どもに自動車の運転を任すようなものである(そして,このように批判されると怪文書や個人攻撃で憂さを晴らして喜んでいる姿も,子ども世界の仕返し-靴を隠したり,イヤミな文章を渡したり-に限りなく近い)。ダイオキシンの問題にしても,昨年の6月議会ですでに警鐘を鳴らしていた議員もいたのだ。それなのに,他から調査を言われるまで,珠洲市は何もしなかった。市は「市民を守ることが仕事だ」なんて,思っていないのだろうか。
 他ではもうだめになった原発を受け入れることばかりを考え,これから考えて行くべきゴミ処理や環境の問題には積極的に関わろうとしない-私達の珠洲市。
 「環境!」と叫ばれている昨今,発想の転換をしていかないと,ますます珠洲市は生き残れないだろう。このままでは,本当に<日本のゴミ溜>になっていくのではないだろうか? 金もうけのみを基準とした前時代的な方法しか持ち合わせていない行政をもった市民は不幸である。いやなもの,危険なものを押しつけられた子ども達は不幸である。環境保護の町・ふるさとを感じる町として名乗りを上げ,ゴミの減量化・リサイクル,自然環境の保護,老人のくつろげる町,一人ひとりが安心して暮らせる町づくりはできないものだろうか。
 それでも,時代の大きな流れは無視できないであろう。
 あとは,巻町や御嵩町のように,市民自らがしっかりと時代の流れを見,お金と自然とを取り引きすることのないように見張っていなければならない。
 「自然で飯が食えるか!」-という人もいるが,自然がないと飯はできないのだから。「人ひとりが楽しく働けば,それなりに食えるように世の中はできている」というのが,ボクの楽観主義的社会観である。一攫千金など狙わなければ,ですが…。

6.本の紹介

 今回のレポートを作成するにあたり参考・引用した文献をあげておく。
 ・『環境とリサイクル1 ペットボトル』(監修・半谷高久,小峰書店,1994,2600円)
 ・『環境とリサイクル8 プラスチック』(監修・半谷高久,小峰書店,1994,2600円)
 ・『アトキンス分子と人間』(P.W.ATKINS著,東京化学同人,1990,4200円)
 ・『週刊金曜日1997.1.10号と6.6号』(㈱金曜日,500円)

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